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閑話

クリストフ・レポート 15(書籍九巻前半ダイジェスト)

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  これはクリストフの回顧録である。

 ※これはクリストフから見た物語のダイジェストになります。クリストフ視点のため、メインストーリーでない部分が中心であったり、物語中に無いシーンが含まれていたりします。また、クリストフがその時点で知りえない情報は含まれていません。
 ※文中の『バカ』『バカリーダー』『リーダー』『ディーさん』などは全てディートリヒのことです。また『陰険グリフォン』『残虐グリフォン』『害獣』などは全てグリおじさんのことです。



●月●日
 アダド帝国との揉め事は、決着した。
 指揮していた第三皇子は死亡。全て第三皇子の仕業ということになった。

 まあ、あれだけの大事件だ。
 軍の艦隊も動いていたわけだし、第三皇子の権限だけでやれたはずがない。アダドの皇帝の指示もあったはずだ。
 トカゲのシッポ切り。
 死人に口なし。
 丸く収めるために、第三皇子に全部押し付けたと考えるのが妥当だろう。
 
 それは誰もが分かっているが、文句を言う者はいない。言ったところでアダドが認めない限りは何も変わらないし、アダドが認めることはないのは分かり切っているからだ。

 ネレウスとアダドの関係は今まで通り。ネレウスはアダドと仲良くケンカする平和な状態に戻った。
 もう懸念はない。ロアには滞在できる間はネレウス王国を楽しんでもらおう。そう考えていた。

 後になって思えば、オレたちは、完全に気が緩んでいた。
 オレたちにとってネレウスは自国。安心できる場所だ。
 それでも、もうちょっと注意しておくべきだった。

 ロアがまた誘拐された。
 行方どころか犯人も分からないままロアは消えた。残虐グリフォンはパニックを起こして周囲を破壊しまくった。

 残虐グリフォンは本気で怖かった。
 恐怖で身体がすくんで、震えが止まらなかった。
 
 オレだって、冒険者として何度も凶悪な魔獣と戦っている。咄嗟の時に動けなくならないように、訓練も重ねている。
 なのに、動けなかった。

 戦えば、死ぬ。逃げ出しても、死ぬ。指一本動かしても、瞬きをするだけでも、死ぬ。死の象徴が、目の前にいた。
 
 オレ、こんな相手に「性悪グリフォン」だなんて軽口を叩いてたのか?虫に怯える姿を見て笑ってたのか?今更ながら、後悔した。
 グリフォンは凶悪な魔獣。そんなことは分かっていたはずだ。オレだって、怖いと思って怒らせないように気を付けていた。
 けど、甘かった。今まで感じていた恐怖なんか、子供騙しだった。

 死を覚悟することさえ許されない、理不尽な恐怖の権化。
 グリフォンは、そういう存在だった。

 だけど。それなのに、リーダーは凶悪グリフォンを殴りつけて説教を始めた。

 ディーさん怖ぇぇえええええええええ!!!
 凶悪グリフォンへの恐怖が、一気にディーさんへの恐怖に塗り替えられる。本気のディーさんを見て頭の中が痺てれくる。

 鈍る思考の中、オレは昔のディーさんが戻ってきたと感じていた。
 そうそう。オレにとってのディーさんはこういう人なんだよ!バカで子供みたいなリーダーとは違うんだよ!!
 誰もよりも怖くて、それなのに魅力的で人を引き付ける。強くて、カッコ良くて、女にもモテてる!!
 
 オレがディーさんの姿に酔っていたら、いつの間にか女王が目の前にいて空気が変わっていた。緊張感の欠片も無い、ほのぼのとした空気に。
 死を意識させるほどの殺気をばら撒いていた性悪グリフォンも、いつも通りに戻っていた。

 オレたちは正気を取り戻すと同時に、ケガをしているリーダーの治療に走った。
 治療しながら、リーダーと女王と性悪グリフォンの会話を聞く。

 どうやら、誘拐犯はアダドの妖精王と呼ばれる魔獣らしい。
 妖精?
 妖精自体あまりいい話を聞かない魔獣だが、その王?
 女王と害獣すら出し抜ける能力を持っていると聞いて、オレは混乱する。そんなことができるやつがいるのか!?

 とりあえず、妖精王の目的はロアの能力なので、ロアの無事は保障されているらしい。アダドの第三皇子に誘拐された時と状況は同じだな。

 特異な才能は、様々な面倒事を引き寄せてくる。
 それは避けようのない運命だろう。
 ロアの場合は面倒事だけじゃなくて、面倒な魔獣も引き寄せてるけどな。

 とにかく、早く救い出してやらないといけない。




●月●日
 オレたちはアダドに向けてロア救出の旅に出た。
 姿と身分を偽装して。

 偽装については納得できる。むしろ、多少の変装ではバカリーダーがネレウスの王子だとバレるからどうしようかと考えてたくらいだ。

 警戒すらされてなかったペルデュ王国の商人……コラルドさんにも気付かれてたんだから、アダド相手じゃまず隠しきれない。

 バカリーダーは、ネレウス国内だと色々やらかして悪名が知られている。庶民にも顔と名前と地位が知られていて、避けられてるくらいだ。ネレウスに密偵を忍び込ませているアダドの軍部が知らないはずがない。

 オレたちの事も、バカリーダーの仲間として知られているだろう。
 もうちょっと目立たない生き方はできないのかよ、非モテ暴力バカリーダーめ。こういう時に面倒なことになるんだよ。

 そういうわけで、偽装すること自体は大賛成だった。
 だが、偽装の内容が納得できなかった。
 女王と性悪グリフォンの悪ふざけと嫌がらせの集大成みたいな偽装だったからだ。

 望郷の仲間全員が不満に感じたが、変更は不可能だった。
 女王と性悪グリフォンに押し切られた。誰も逆らえない。

 幸いなことに、オレは女王と害獣の悪ふざけにはあわなかった。オレの事は眼中になかったみたいだ。
 助かったと思う反面、それはそれで不満に感じる。

 まあ、オレなんて、女王とグリフォンに比べれば取るに足らない、気に掛けさえしない小さな虫みたいな存在なんだろうけど。適当な扱いをされて、気分が良い訳が無い。
 
 とにかく、オレたちは不満を抱えながらも、まずはヴィルドシュヴァイン領に向かったのだった。

 
 
 



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