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四章 新しい仲間たちの始まり
ロアへの、祈り
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「……なるほど、我らが眠っている間に襲撃されたのだな」
床の上に胡坐をかき、グリおじさんの精神が入ったディートリヒの身体……グリーダーは呟いた。
暗殺者の襲撃を受けてから数時間後。
使われた睡眠薬の効果が切れ、全員が目を覚ました。
そこで、双子の魔狼から状況の説明がされたのだった。
<横取りされた!>
<えものの横取りはげんきん!冒険者のルール!!>
双子は何やら膨れっ面で不満を漏らしていたが、要するに、睡眠薬を使われて眠らされている間に暗殺者に殺されかけたらしい。
普段であれば自分たちの命を狙う不届き者に激怒しているところだろうが、グリーダーの表情は穏やかだ。
まるで自分とは無関係な話を聞いたかのようだった。
むしろ、双子の様子を見て、元気を取り戻したと喜んでいるくらいだ。
「……そんな、他人事みたいに……」
グリーダーの呟きを聞いたコルネリアが、不満げに言葉を漏らす。彼女は薬の影響がまだ残っているのか、気怠げだ。
それに顔色も悪い。一歩間違えれば全滅していたかもしれない状況を想像してしまったのだろうか。
「他人事であろう?我は眠っていようが人間ごときに易々と殺されるような弱者ではないぞ?」
「そんな……」
コルネリアは口籠る。
最近はそれなりに仲良くなってきた気がしていたが、それは勘違いだったらしい。グリおじさんは望郷のメンバーたちを気に掛ける様子はない。望郷が殺されてもどうでも良いという態度だ。
発言からもその事を悟って、コルネリアは寂しい物を感じた。
人間臭い性格をしていても、所詮は魔獣でしかないのだろう。
「あんただって、リーダーの身体だと死んじゃうだろうが?」
クリストフも不満げに顔を歪める。
彼の方は密偵の訓練も受けていたこともあるせいか、薬物には耐性があるようで目覚めてからは平然としていた。
「寝坊助の身体が死んでも、我は元の身体に戻るだけだからな。問題はあるまい」
「問題あるだろうが!」
実のところ、グリおじさんが平然としていられるのは、双子の存在のおかげである。
例えグリおじさんがディートリヒの身体ごと殺されかけたとしても、双子が守ってくれるという確信があった。
例えグリおじさんと同じく双子が望郷のメンバーに執着していないにしても、望郷のメンバーたちが殺されたとロアが聞けば悲しむだろう。
そして、一緒にいたのに何故守らなかったのかと叱られるのは間違いない。
ロアの事が最優先の双子が、そんな状況を許すはずが無かった。
だからこそ余裕があった。
「まあ……今回は何事も無かったようだから良いけどな……」
悪びれることもないグリーダーに対して、クリストフは大きくため息をついた。
「だけど、その襲って来た奴は、また来るんじゃないか?」
「来るであろうな。逃がしたディートリヒが悪いな。我の身体を正しく動かせていれば、簡単にその場で始末できたのであろうに。鍛錬不足だな!」
全員の視線が、安全地帯の隅で背を向けて寝ているグリフォンに向いた。
今回の襲撃者を撃退したのは、そのグリフォンの身体に入ったディートリヒである。
不慣れな身体で無理に動いたために疲れたのか、望郷のメンバーたちが目を覚ました時にはもう眠っていた。
「また来ると思うか?」
クリストフは微動だにしないグリフォンを見つめながら、誰に向けるでもなく問いかけた。
「来るであろうな。一度退けられたのだ、次は確実に仕留められる瞬間を狙うであろう」
答えたグリーダーは胡坐の膝に頬杖を突き、少し思案する。
確実に仕留められる瞬間。
それを狙うのであれば、襲撃者はどういった状況を選ぶだろうか?
寝ている時は隙ができやすいが、一度襲撃されたら警戒するので同じことを繰り返すことは無いだろう。
移動時などは、ただでさえ襲ってくる魔獣を警戒して探知魔法を使っている。そこを襲うのは問題外だ。
ならば。
「戦闘中。それも、強い敵と戦っている時に背後から仕掛けて来るであろうな」
「ボス部屋ね」
グリーダーの呟きに、コルネリアが重ねた。
襲われる隙が無いように警戒していたとしても、戦闘中は目の前の敵に集中する。どうしても背後に隙ができる。
強い魔獣を相手しているほど、その隙は大きくなる。
十層毎に強い敵が現れるボス部屋は、襲撃するのに最適だった。
それに、ボスとの戦闘中なら直接襲うことをしなくても、邪魔をするだけで戦況が悪くなり手間をかけることなく殺されるかもしれない。襲撃を予測していても、防ぐのは困難だろう。
「次のボス部屋だな」
クリストフも頷いて同意した。
「それにしても、襲ってきたのは何者なんだろうな?」
「分からぬ。この国は貴様らの国と敵対しておるのであろう?我らが何者か知らずとも、どこの国から来た冒険者であるかは知られておるからな。いつ誰にどのような目的で襲われてもおかしくないのではないか?」
「……そうなんだよなぁ……」
望郷のメンバーも従魔たちも、迷宮に入るまでは見た目も身分も偽装していた。
しかし、唯一、どこの国から来たのかは偽ることはできなかった。偽造ながらも一応は正式なギルド証を使ったのだから、所属国までは偽り切れなかったのだ。
母国であるネレウス王国全体に恨みがある者なら、ちょっとした切っ掛けで殺したいと思うかもしれない。
冒険者は気性が荒い。
気に食わないからという理由でも殺されかねないのだ。
特に、ダンジョンの中という何が起ころうが隠蔽できてしまう環境では。
周りの人間が全て的だと言っても過言ではない。
理由すら特定不可能なのだから、襲ってきた者の特定などできるはずがない。
<はーれむぱーてぃー!>
<オジちゃんが、ディートリヒをけしかけたパーティーの女!!>
……だが、予想外にも簡単に犯人は特定された。
「なに!?」
グリーダーは声を上げた双子へと、身体ごと目を向けた。
<見た目はおぼえてないけど、臭いはおんなじ>
<すぐわかるよね>
双子はたいしたことではない様に語る。
優秀過ぎて、当然のことになっているのだ。
「なるほど…………これは、少し面白いかもしれぬな」
グリーダーは口元を歪め、笑った。
「この国の勇者パーティーのメンバーか。ふふふふふふ……」
凶悪な笑みを浮かべ、耐え切れずに笑い声を漏らす。
「……そうだ、バカ娘のことを思い出したついでだ。我の古の忌まわしき記憶の扉を開き、最悪の責め苦を与えてやろう。我が恐れおののき、眠ることすら許されなかった悪夢の日々。その一端を、我らを襲った不届き者に知らしめてやろうぞ!」
「ちょっと!あまり惨いのは止めてよね」
グリーダーの瞳が暗く沈み、凶悪な笑みを強めるのを見て、思わずコルネリアが声を掛けた。
コルネリアとて、命を狙って来た相手に手加減をするつもりはない。
殺さなければ殺される状況だ。襲ってきた連中に反撃するのは賛成だ。
ただ、あまりに陰惨な現場は見たくないのだ。主に、自分の寝覚めが悪くならないために。
「なに、少し自ら死にたいと言いたくなるような気分にさせてやるだけだ。バカ娘が書物で仕入れた知識の応用に過ぎぬ。我の元の精悍で美しい身体では再現不可能な知識であったが、この寝坊助の身体なら実現可能だ!」
バカ娘というのは、姫騎士アイリーンのことである。
数百年前の偉人の知識……。
しかも陰険で残虐なグリフォンが悪夢とまで言い、最悪の責め苦と語るほどのこと。
聞くからに恐ろし気な雰囲気に息を呑み、望郷のメンバーは誰も詳しい内容を尋ねる勇気を出せなかった。
「ふふふふふ……このような機会に恵まれるとはな!流石は我だ!我の日頃の行いの良さが現れておるな!!ははははは!!」
実に楽しそうに笑うグリーダーに、望郷のメンバーたちは顔を青くした。
一体どんな酷い報復が行われるのだろうかと、息を呑む。
双子は馬鹿笑いをしているグリーダーに軽蔑の視線を向けると身体を丸めて寝てしまったし、ここにいる他の者たちではもう止められそうにない。
望郷のメンバーたちは、助けてロア!と心の中で祈ったのだった。
床の上に胡坐をかき、グリおじさんの精神が入ったディートリヒの身体……グリーダーは呟いた。
暗殺者の襲撃を受けてから数時間後。
使われた睡眠薬の効果が切れ、全員が目を覚ました。
そこで、双子の魔狼から状況の説明がされたのだった。
<横取りされた!>
<えものの横取りはげんきん!冒険者のルール!!>
双子は何やら膨れっ面で不満を漏らしていたが、要するに、睡眠薬を使われて眠らされている間に暗殺者に殺されかけたらしい。
普段であれば自分たちの命を狙う不届き者に激怒しているところだろうが、グリーダーの表情は穏やかだ。
まるで自分とは無関係な話を聞いたかのようだった。
むしろ、双子の様子を見て、元気を取り戻したと喜んでいるくらいだ。
「……そんな、他人事みたいに……」
グリーダーの呟きを聞いたコルネリアが、不満げに言葉を漏らす。彼女は薬の影響がまだ残っているのか、気怠げだ。
それに顔色も悪い。一歩間違えれば全滅していたかもしれない状況を想像してしまったのだろうか。
「他人事であろう?我は眠っていようが人間ごときに易々と殺されるような弱者ではないぞ?」
「そんな……」
コルネリアは口籠る。
最近はそれなりに仲良くなってきた気がしていたが、それは勘違いだったらしい。グリおじさんは望郷のメンバーたちを気に掛ける様子はない。望郷が殺されてもどうでも良いという態度だ。
発言からもその事を悟って、コルネリアは寂しい物を感じた。
人間臭い性格をしていても、所詮は魔獣でしかないのだろう。
「あんただって、リーダーの身体だと死んじゃうだろうが?」
クリストフも不満げに顔を歪める。
彼の方は密偵の訓練も受けていたこともあるせいか、薬物には耐性があるようで目覚めてからは平然としていた。
「寝坊助の身体が死んでも、我は元の身体に戻るだけだからな。問題はあるまい」
「問題あるだろうが!」
実のところ、グリおじさんが平然としていられるのは、双子の存在のおかげである。
例えグリおじさんがディートリヒの身体ごと殺されかけたとしても、双子が守ってくれるという確信があった。
例えグリおじさんと同じく双子が望郷のメンバーに執着していないにしても、望郷のメンバーたちが殺されたとロアが聞けば悲しむだろう。
そして、一緒にいたのに何故守らなかったのかと叱られるのは間違いない。
ロアの事が最優先の双子が、そんな状況を許すはずが無かった。
だからこそ余裕があった。
「まあ……今回は何事も無かったようだから良いけどな……」
悪びれることもないグリーダーに対して、クリストフは大きくため息をついた。
「だけど、その襲って来た奴は、また来るんじゃないか?」
「来るであろうな。逃がしたディートリヒが悪いな。我の身体を正しく動かせていれば、簡単にその場で始末できたのであろうに。鍛錬不足だな!」
全員の視線が、安全地帯の隅で背を向けて寝ているグリフォンに向いた。
今回の襲撃者を撃退したのは、そのグリフォンの身体に入ったディートリヒである。
不慣れな身体で無理に動いたために疲れたのか、望郷のメンバーたちが目を覚ました時にはもう眠っていた。
「また来ると思うか?」
クリストフは微動だにしないグリフォンを見つめながら、誰に向けるでもなく問いかけた。
「来るであろうな。一度退けられたのだ、次は確実に仕留められる瞬間を狙うであろう」
答えたグリーダーは胡坐の膝に頬杖を突き、少し思案する。
確実に仕留められる瞬間。
それを狙うのであれば、襲撃者はどういった状況を選ぶだろうか?
寝ている時は隙ができやすいが、一度襲撃されたら警戒するので同じことを繰り返すことは無いだろう。
移動時などは、ただでさえ襲ってくる魔獣を警戒して探知魔法を使っている。そこを襲うのは問題外だ。
ならば。
「戦闘中。それも、強い敵と戦っている時に背後から仕掛けて来るであろうな」
「ボス部屋ね」
グリーダーの呟きに、コルネリアが重ねた。
襲われる隙が無いように警戒していたとしても、戦闘中は目の前の敵に集中する。どうしても背後に隙ができる。
強い魔獣を相手しているほど、その隙は大きくなる。
十層毎に強い敵が現れるボス部屋は、襲撃するのに最適だった。
それに、ボスとの戦闘中なら直接襲うことをしなくても、邪魔をするだけで戦況が悪くなり手間をかけることなく殺されるかもしれない。襲撃を予測していても、防ぐのは困難だろう。
「次のボス部屋だな」
クリストフも頷いて同意した。
「それにしても、襲ってきたのは何者なんだろうな?」
「分からぬ。この国は貴様らの国と敵対しておるのであろう?我らが何者か知らずとも、どこの国から来た冒険者であるかは知られておるからな。いつ誰にどのような目的で襲われてもおかしくないのではないか?」
「……そうなんだよなぁ……」
望郷のメンバーも従魔たちも、迷宮に入るまでは見た目も身分も偽装していた。
しかし、唯一、どこの国から来たのかは偽ることはできなかった。偽造ながらも一応は正式なギルド証を使ったのだから、所属国までは偽り切れなかったのだ。
母国であるネレウス王国全体に恨みがある者なら、ちょっとした切っ掛けで殺したいと思うかもしれない。
冒険者は気性が荒い。
気に食わないからという理由でも殺されかねないのだ。
特に、ダンジョンの中という何が起ころうが隠蔽できてしまう環境では。
周りの人間が全て的だと言っても過言ではない。
理由すら特定不可能なのだから、襲ってきた者の特定などできるはずがない。
<はーれむぱーてぃー!>
<オジちゃんが、ディートリヒをけしかけたパーティーの女!!>
……だが、予想外にも簡単に犯人は特定された。
「なに!?」
グリーダーは声を上げた双子へと、身体ごと目を向けた。
<見た目はおぼえてないけど、臭いはおんなじ>
<すぐわかるよね>
双子はたいしたことではない様に語る。
優秀過ぎて、当然のことになっているのだ。
「なるほど…………これは、少し面白いかもしれぬな」
グリーダーは口元を歪め、笑った。
「この国の勇者パーティーのメンバーか。ふふふふふふ……」
凶悪な笑みを浮かべ、耐え切れずに笑い声を漏らす。
「……そうだ、バカ娘のことを思い出したついでだ。我の古の忌まわしき記憶の扉を開き、最悪の責め苦を与えてやろう。我が恐れおののき、眠ることすら許されなかった悪夢の日々。その一端を、我らを襲った不届き者に知らしめてやろうぞ!」
「ちょっと!あまり惨いのは止めてよね」
グリーダーの瞳が暗く沈み、凶悪な笑みを強めるのを見て、思わずコルネリアが声を掛けた。
コルネリアとて、命を狙って来た相手に手加減をするつもりはない。
殺さなければ殺される状況だ。襲ってきた連中に反撃するのは賛成だ。
ただ、あまりに陰惨な現場は見たくないのだ。主に、自分の寝覚めが悪くならないために。
「なに、少し自ら死にたいと言いたくなるような気分にさせてやるだけだ。バカ娘が書物で仕入れた知識の応用に過ぎぬ。我の元の精悍で美しい身体では再現不可能な知識であったが、この寝坊助の身体なら実現可能だ!」
バカ娘というのは、姫騎士アイリーンのことである。
数百年前の偉人の知識……。
しかも陰険で残虐なグリフォンが悪夢とまで言い、最悪の責め苦と語るほどのこと。
聞くからに恐ろし気な雰囲気に息を呑み、望郷のメンバーは誰も詳しい内容を尋ねる勇気を出せなかった。
「ふふふふふ……このような機会に恵まれるとはな!流石は我だ!我の日頃の行いの良さが現れておるな!!ははははは!!」
実に楽しそうに笑うグリーダーに、望郷のメンバーたちは顔を青くした。
一体どんな酷い報復が行われるのだろうかと、息を呑む。
双子は馬鹿笑いをしているグリーダーに軽蔑の視線を向けると身体を丸めて寝てしまったし、ここにいる他の者たちではもう止められそうにない。
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