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閑話
閑話 報い (再録)
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WEB公開時に一章のラストになっていた暁の光の女神官ポーナのその後です。
書籍化の際に削った文章ですが、閑話として再編集して公開します。
※ ※ ※ ※
彼女が目覚めたのは、アルドンの森とノーファ渓谷の異変から数日過ぎた深夜だった。
寝起きのぼやけた視界に映ったものは、月明かりで薄っすらと見える、いつもの見慣れた自室の天井だった。
ノーファ渓谷に居たはずなのに……?
彼女の頭の中は疑問で満ちる。
……夢だったの?
そう考え、額にかかる金色の髪を掻き上げようとする。
「痛っ……」
動かした腕に激痛が走った。
腕を見ると、白い包帯が巻かれていた。
「どうして……?」
どうして、包帯など巻かれているのだろう?
ケガをしたなら治癒魔法か治癒魔法薬で治せばいい。
包帯など、治癒魔法を使える魔術師に報酬も払えず、治癒魔法薬も買えない、貧乏な庶民が使うものだ。
私には似つかわしくない。
こんなものを使っていては傷跡が残ってしまう……。
彼女はそう考え、治癒魔法を自らに使う。
「治癒」
略式詠唱で発動させる。
「ぐぅ……ごふっ……」
脳が揺さぶられる。
気持ち悪さが押し寄せる。
腹部に内臓が押しつぶされるような不快感を感じ、強烈な吐きを感じた。
「がっ!」
吐き気に思わずベッドから身を起こした途端、背骨に沿って痛みが駆け上がる。
息をする事さえできないほどの痛みに、悲鳴は声にならず醜い音が喉から押し出された。
魔力酔い?
ケガがまったく治ってない?
どうして?
彼女が感じたのは酷い魔力酔いの症状だ。
そして、先ほどの痛みで全身が傷ついていることに気付いた。
あの時のケガ?
やっぱり夢じゃなかった!!
でも、どうしてケガがそのままなの!?
自宅に戻っているなら、お父様がそのままにしておくわけがないのに……。
コンコン。
彼女が混乱していると、ドアがノックされる。
「お目覚めになられましたか?お嬢様」
開いたドアから部屋に入ってきたのは、メイドだった。
「ケガに障りますので無理はなさらないでくださいね」
「どうして……」
まだ痛む身体で、彼女は声を絞り出す。
メイドはそれに笑みを浮かべて答えた。
今まで彼女には見せたことのない、柔らかな笑みだった。
「どうして、ケガをしたままなのか?ですか?それとも、どうして、ここにいるの?ですか?そうですね、順を追って話しますと、お嬢様はノーファ渓谷で意識を失っているところを救出されました」
メイドは順を追って何が起こったか話始める。
彼女がどういった状況で発見されたか。
それがどういう問題を引き起こしたか。
彼女は様々な魔法薬が入り混じった液体にまみれて発見された。
それは入り混じったために魔法薬としての効果は無かったが、悪影響だけを彼女の身体に与えた。
魔力酔いのさらに症状が悪化したもの、『魔力中毒』と言う症状だ。
魔力中毒になると、中毒状態が治らない限り彼女の身体は治癒魔法を受け付けない。
いや、治癒魔法だけでなく、ありとあらゆる魔法の効果を受け付けず、魔力酔いの苦痛だけを与えるのだった。
そのため彼女の身体を魔法で治すことはできず、魔法薬も使えないため自然治癒に任せるしかできなかった。
空気を浄化する清浄結界の魔道具すら今の彼女の身体には悪影響を与えるために使えず、感染症が心配されたが、魔法薬ではない庶民が使うような薬でなんとか快方に向かっているらしい。
魔力中毒が治れば一気に治療できるだろうが、それも時間に任せるしかないため、いつになるか誰にも予測が付かないとのことだった。
そして、最後に足が動かないままになる可能性と、傷が残り続ける可能性を告げれらる。
彼女は絶望した。
話すメイドの笑みが、さも興味深げで楽しそうな笑みだったことすら気付かないほどに絶望していた。
「……あのグリフォン……絶対に許さない……」
彼女は呪いの言葉を吐く。
それは淀んだ水のような夜の闇に溶け込んでいく。
しかし、その呪いを果たす手段を失っていることを彼女は知らない。
彼女はもう聖女候補ではなく、あれほど溺愛してくれていた父親にすら見捨てられていることを知らない。
そして、暁の光がすでに存在しないことも……。
書籍化の際に削った文章ですが、閑話として再編集して公開します。
※ ※ ※ ※
彼女が目覚めたのは、アルドンの森とノーファ渓谷の異変から数日過ぎた深夜だった。
寝起きのぼやけた視界に映ったものは、月明かりで薄っすらと見える、いつもの見慣れた自室の天井だった。
ノーファ渓谷に居たはずなのに……?
彼女の頭の中は疑問で満ちる。
……夢だったの?
そう考え、額にかかる金色の髪を掻き上げようとする。
「痛っ……」
動かした腕に激痛が走った。
腕を見ると、白い包帯が巻かれていた。
「どうして……?」
どうして、包帯など巻かれているのだろう?
ケガをしたなら治癒魔法か治癒魔法薬で治せばいい。
包帯など、治癒魔法を使える魔術師に報酬も払えず、治癒魔法薬も買えない、貧乏な庶民が使うものだ。
私には似つかわしくない。
こんなものを使っていては傷跡が残ってしまう……。
彼女はそう考え、治癒魔法を自らに使う。
「治癒」
略式詠唱で発動させる。
「ぐぅ……ごふっ……」
脳が揺さぶられる。
気持ち悪さが押し寄せる。
腹部に内臓が押しつぶされるような不快感を感じ、強烈な吐きを感じた。
「がっ!」
吐き気に思わずベッドから身を起こした途端、背骨に沿って痛みが駆け上がる。
息をする事さえできないほどの痛みに、悲鳴は声にならず醜い音が喉から押し出された。
魔力酔い?
ケガがまったく治ってない?
どうして?
彼女が感じたのは酷い魔力酔いの症状だ。
そして、先ほどの痛みで全身が傷ついていることに気付いた。
あの時のケガ?
やっぱり夢じゃなかった!!
でも、どうしてケガがそのままなの!?
自宅に戻っているなら、お父様がそのままにしておくわけがないのに……。
コンコン。
彼女が混乱していると、ドアがノックされる。
「お目覚めになられましたか?お嬢様」
開いたドアから部屋に入ってきたのは、メイドだった。
「ケガに障りますので無理はなさらないでくださいね」
「どうして……」
まだ痛む身体で、彼女は声を絞り出す。
メイドはそれに笑みを浮かべて答えた。
今まで彼女には見せたことのない、柔らかな笑みだった。
「どうして、ケガをしたままなのか?ですか?それとも、どうして、ここにいるの?ですか?そうですね、順を追って話しますと、お嬢様はノーファ渓谷で意識を失っているところを救出されました」
メイドは順を追って何が起こったか話始める。
彼女がどういった状況で発見されたか。
それがどういう問題を引き起こしたか。
彼女は様々な魔法薬が入り混じった液体にまみれて発見された。
それは入り混じったために魔法薬としての効果は無かったが、悪影響だけを彼女の身体に与えた。
魔力酔いのさらに症状が悪化したもの、『魔力中毒』と言う症状だ。
魔力中毒になると、中毒状態が治らない限り彼女の身体は治癒魔法を受け付けない。
いや、治癒魔法だけでなく、ありとあらゆる魔法の効果を受け付けず、魔力酔いの苦痛だけを与えるのだった。
そのため彼女の身体を魔法で治すことはできず、魔法薬も使えないため自然治癒に任せるしかできなかった。
空気を浄化する清浄結界の魔道具すら今の彼女の身体には悪影響を与えるために使えず、感染症が心配されたが、魔法薬ではない庶民が使うような薬でなんとか快方に向かっているらしい。
魔力中毒が治れば一気に治療できるだろうが、それも時間に任せるしかないため、いつになるか誰にも予測が付かないとのことだった。
そして、最後に足が動かないままになる可能性と、傷が残り続ける可能性を告げれらる。
彼女は絶望した。
話すメイドの笑みが、さも興味深げで楽しそうな笑みだったことすら気付かないほどに絶望していた。
「……あのグリフォン……絶対に許さない……」
彼女は呪いの言葉を吐く。
それは淀んだ水のような夜の闇に溶け込んでいく。
しかし、その呪いを果たす手段を失っていることを彼女は知らない。
彼女はもう聖女候補ではなく、あれほど溺愛してくれていた父親にすら見捨てられていることを知らない。
そして、暁の光がすでに存在しないことも……。
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