追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)

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閑話

クリストフ・レポート 2(書籍一巻後半ダイジェスト)

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 これはクリストフの回顧録である。

 ※これはクリストフから見た物語のダイジェストになります。クリストフ視点のため、メインストーリーでない部分が中心であったり、物語中に無いシーンが含まれていたりします。また、クリストフがその時点で知りえない情報は含まれていません。
 ※文中の『バカ』『バカリーダー』『リーダー』は全てディートリヒのことです。


●月●日

 朝からオレたちはアルドンの森に入った。
 魔獣の森に入ってすぐに、ワイルドボアが狩れた。森の浅い場所にいるのは珍しい。

 狩り終わった後に、コルネリアが不思議な事を言い始めた。
 コルネリア愛用の全身鎧フルプレートアーマーが軽くなってるとか言い出したのだ。
 それに対して、ロアはあっさりと「鎧のバランス調整をした」と言って、オレたちをさらに混乱させた。

 オレたちの防具は森に入る前にロアが手入れをしてくれたのだが、その時にできる限りの調整もしてくれたらしい。それも専門の職人がやるような、しっかりとした調整だった。
 それをロアはさも簡単にやったかのように語っていた。
 オレは驚いて思わずロアに鎧職人に弟子入りしてたのかと聞いてしまった。

 もちろん、そんな事実は無く、教えてもらったとか言っていた。
 ちょっとでそんな作業が覚えられるなら、弟子入りなんて無意味という事になる。ロアは自分の言ってることがどれだけ非常識なのか、まったく気付いていないようだ。

 さらに、狩ったワイルドボアの解体を始めようと思ったら、『回復薬の飴』という、聞いたことも無い物を渡された。
 なんでも身体に負担をかけず、疲労や小さな傷くらいなら治してくれるらしい。

 いや、それは色々おかしい。オレの常識ではそんな物が存在するはずがない。
 そう言うべきだったんだろうが、ロアが当然の様に渡してきたため、オレたちもあまり疑問に思わず受け取ってしまった。
 この時すでに、オレたちはロアの非常識に毒され始めていたのかもしれない。
 
 そういえば、前日に見せられたグリフォンの体液を使った魔獣除けの匂い袋。
 あれも考えてみれば非常識のかたまりだ。
 体液を採取させてもらえるほどグリフォンと仲良くなると言うのが、まず想像できない。そして、どうやったらそれを魔獣除けに使おうという発想になるのかが分からない。
 職人気質のやつはどこか変わっているやつばかりだが、ロアは飛び抜けていると思う。

 ガチガチの師弟制度でしばられた過去の踏襲ばかりの国で、どうしてこんな発想ができる人間が育ったんだろう?



 ロアはとにかく森の中に詳しかった。
 まるで自分の庭の様に、色々な素材の採取場所を知っていた。
 オレたちも事前に情報を仕入れて森の中で迷わない程度の知識はあったが、そんなレベルを完全に超越していた。

 どうも、その原因は、『暁の光』にいた時に一緒に行動していた従魔のグリフォンにあるらしい。
 確かに、グリフォンが一緒なら、森の中を好き勝手に歩き回っても魔獣に襲われることも無いし、自由に行動できる。
 その利点を生かして、色々調べていたようだ。

 ロアは、色々な物を採取し、色々な物を作り出すこと自体が大好きらしい。
 森の中でのロアは水を得た魚の様で、オレたちを振り回す勢いで色々な物を採取して回った。
 
 掛けだし冒険者が小遣い稼ぎによく集める魔晶石に始まって、高級品の赤茸レッドマッシュルーム、どうして集めるのかも分からない様な気持ちの悪い虫など、色々な物を嬉々として集めていた。
 オレも初めて見る物も多くて質問したりしていた。

 そうすると、ロアは目をキラキラさせながら、説明してくれる。
 本当に楽しそうに説明してくれるので、オレもなんだか嬉しくなって笑顔で話を聞いていたが……。
 ……すまない。死肉を食う虫がすごいと言われても共感できない。すごいことなのかもしれないが、虫だろ?
 本当にロアは面白い奴だ。



 そうこうしている内に、バカリーダーが完全にバカになっていた。

 バカリーダーは初めて会う人間や警戒してる相手には、別人のように大人な態度を取る。
 そのおかげで、バカの癖に意外と常識ある人間だと思われている時がある。
 要するに、外面だけは良いのだ。

 ロアに対しても最初は大人な態度を取っていたが、それが段々と崩れていき、この日の午後にはもう完全にダメ大人の様になっていた。
 ロアもその馴れ馴れしい態度に本気で困っていた。

 普段ならどんなに相性のいい人間でも崩れるまで数日は持つが、ロアとは相性が良過ぎたらしい。
 完全にダメ大人になる前にロアが採取した、赤茸レッドマッシュルームを見て浮かれていたのもあったんだろう。

 赤茸レッドマッシュルームは媚薬や惚れ薬の原料になるらしく、それを聞いて良からぬ妄想をしてしまくっていた。
 ロアのような健全な青少年には見せたくない姿だ。悪い大人の見本だろう。
 コルネリアが怒ってバカを蹴りまくっていたが、コルネリアも赤茸レッドマッシュルームが高級化粧品の材料になると聞いて浮かれていたから同罪だ。



 森に異変が起こった。
 予兆はあったのに、見逃してしまっていた。
 ロアの安全を最優先に考えるべきだったのに、完全に失態を演じてしまった。

 オレも弟のようなロアと一緒に行動して、浮かれてしまっていたのだろうか?

 本来、魔獣の森にいるはずのないロックリザードが複数現れたのだ。
 このアルドンの森の最奥の向こうにはノーファ渓谷という大きな谷が有る。ロックリザードはそこにいるはずの魔獣だった。

 オレたちはノーファ渓谷で何か異変があり、その影響でロックリザードが森へと逃げ込んだと判断した。
 そして、即座にオレたちは撤退を決めた。

 この時点では渓谷で何が起こっているのか予測すら付かなかったが、すぐに原因に気付ける出来事があった。
 シルバーゴーレムが三体、現れたのだ。

 シルバーゴーレムはノーファ渓谷で出現が確認されていて、討伐依頼がでていた。勇者パーティーである暁の光が受けた依頼で、二体いたはずだ。
 それが増えていた。
 シルバーゴーレムを見た途端に、リーダーが勇者パーティーに対して怒りの叫びを上げた。
 その叫びを聞いて、オレも察した。

 ゴーレムは生存本能から、生命の危機を感じると増える性質がある。
 暁の光が不用意にシルバーゴーレムを刺激して、しかも逃がしてしまったのだろう。
 逃げたゴーレムは数を増やし、それに追い立てられてロックリザードも森へと入り込んで来たに違いない。

 そこから、オレたちと大量のゴーレムの長い戦いが始まった。



 オレたちはシルバーゴーレムの大群に追われ撃退しながらも逃げ続けたが、最後は囲まれてしまった。
 倒した数は五十体くらいまでは数えていたが、途中で数える余裕すらなくなっていた。

 これは間違いなく、オレたちのパーティーが一日に討伐した魔獣の新記録だ。
 普通なら、もっと早い段階で息は切れ、身体も動かなくなっていただろう。ロアがくれた回復薬の飴がオレたちを生き長らえさせてくれていた。

 ロアはオレたちに守られながら、心配そうな顔でオレたちが戦う姿を見ていた。
 だから、オレたちは大量のゴーレムに囲まれても冗談を言いながら、笑顔で戦い続けた。
 護衛対象に苦しそうな顔を見せて心配させるなんて、一人前の男がやることじゃない。コルネリアは女だが、あいつはたぶん中身は男だから問題ない。
 リーダーも良い笑顔を浮かべていた。頼れる大人の笑顔だ。普段もこういう顔をしとけっての。

 突然、清涼感のある匂いが鼻を突いた。
 それとほぼ同時に、魔法が放たれた。ベルンハルトの雷撃の魔法だった。

 驚いて振り向くと、なぜかロアが走り出す姿が見えた。
 パニックになって逃げだしたのかと思い、オレたちは必死に声をかけたが、ロアは走る速度を緩めない。
 ベルンハルトもロアの行動に驚いていたが、魔法の発動直後で咄嗟に止められなかったらしい。

 不思議なことが起こった。
 オレたちを攻撃していたシルバーゴーレムが手を止め、ロアを追い始めたのだ。
 オレたちなど目もくれず、大量のゴーレムがロアを追いかける。

 呆然とその姿を見ながら、オレたちは悟った。
 ロアはなぜオレたちが執拗にゴーレムに襲われ続けるかを考え、その原因に気付いたのだろう。
 そして、自ら囮になって、オレたちを助けようとしたのだ。

 オレたちはその場で膝から崩れ落ち、絶望した。

 だが、また不思議なことが起こった。
 ロアを追いかけているゴーレムたちが、次々と動きを止め、倒れていった。
 駆け抜けていく青い毛並と、赤い毛並の魔狼の子供……。
 オレはそいつらを見たことがあった。暁の光の従魔だ。ロアの仲間だった魔狼たちだ。
 それがとんでもない速さで次々とゴーレムたちを倒しながら、ロアが走って行った方向に向かって行く。
 
 まだ希望がある。
 そう思ったオレたちは、無数のゴーレムの死骸の隙間を縫うように、ロアを探し始めた。

 ロアは無事だった。
 リーダーはロアに無謀なことをするなと説教がしたかったようだが、途中で泣き崩れてしまった。
 結局、ロアへの説教はオレがする羽目になった。
 こういう時くらいビシッと決めてくれよな、バカリーダー。

 まあ、オレもリーダーが先に泣いていなかったら、泣いていたかもしれないけど。
 それくらいロアが生きていてくれて嬉しかった。

 オレたちはこれで無事帰ることができると安心したが、森の異変はまだ終わっていなかった……。
 
 

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