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2巻
2-6
しおりを挟む〈ふふふふふふ……ははははははっ!! 見ろ小僧っ! これが我の力に対しての正しい評価だ! 貴様のように虫を投げつけたり、つまらぬ名前を付けたりするようなものではないのだ! さあ、小僧! こやつのように我を崇めよ! 畏怖の念を持ってブラッシングせよ! 敬いの心で食事を準備するのだ!!〉
自慢げな態度で高笑いする。
居丈高ながらも、言っている内容はみみっちいのが実に彼らしい。
……実のところ、グリおじさんは本当に望郷のメンバーをミスリルゴーレムにけしかける気はなかった。ちょっとしたイタズラ心が出て、からかってしまっただけだ。
ディートリヒが下手に出て謝って来たらそれで良かった。先ほどの、まるでロアを自分たちの物だとでも言いたげな「仲間だ」という言葉に対しての溜飲を下げられる。そうならなくても、望郷を危険に晒す提案は、絶対にロアが止めると思っていた。
グリおじさんから見ても、ロアが望郷を気に入っているのは分かっていたし、ロアが命を懸けて望郷を守ったことを双子から聞いていたからだ。ロアが間に入って、この話は終わるはずだった。
それがなぜかベルンハルトが話に入ってきたせいで、自分を崇拝するかどうかという話の流れになっている。
切っ掛けはともかく、自尊心が高いグリおじさんがそれに気を良くしないわけがない。
当初の目的を忘れ、気持ち良さそうにグリおじさんは笑っている。
それを見ながら、ロアは頭が冷めていくのを感じていた。
何というか、もう、好きにしてくれという気分になっていた。
グリおじさんは面倒見がいいから大丈夫だよね……。
ロアは大きくため息を吐く。
なんだかんだ言って、グリおじさんは下の立場の存在に対して面倒見がいいのだ。ベルンハルトのように、完全に下手に出ている人間を悪いようにはしない。
双子の魔狼が良い例だろう。保護下に入ってしまえば、安全は確保される。
望郷のメンバーに多少の無茶はさせるかもしれないが、酷くてケガ程度だろう。ケガなら、ロアの魔法薬で治療可能だ。
暴走状態のベルンハルトと機嫌が良くなっているグリおじさんは、止めようと思っても簡単には止められないだろう。安全が保証されているなら、いっそのこと好き勝手やってもらった方が、被害も少ないはずだ。
「オレも好きなようにするかな……」
高らかに笑うグリおじさんと、もつれ合うようになりながら言い合いをしているベルンハルト、コルネリア、クリストフ。呆然としているディートリヒ。
もうすぐミスリルゴーレムが現れるかもしれないのに、喜劇の一場面を演じているとしか思えない四人と一匹を見ながら、ロアは静かにその場から離れた。
そして、まだディートリヒを蹴っていた魔狼の双子に視線を向ける。双子はすぐにその視線の意図を感じたのか、駆け寄って来た。
ロアは双子の魔狼を優しく撫でる。
「ちょっと手伝ってくれるかな? 指先くらいの大きさのミスリルの欠片を集めて欲しいんだ」
双子の魔狼は嬉しそうにシッポを振ると、ミスリルの山となったゴーレムの死体に向かって駆け出した。
「さて、上手くいくかな?」
楽しげなその呟きを聞いていた者はいなかった。
「ミスリルゴーレムを倒す! オレたちにミスリルゴーレムを倒せる技術を教えてくれ! その上でお願いする。お願いだ! オレはどうなってもいい! 仲間の命だけは助けてくれ! 仲間に危険がある場合は手助けしてくれ!」
しばらくして、そんな声が聞こえてきたためロアがそちらに目をやると、土下座しているディートリヒの姿があった。それは見事な土下座だった。
暴走するグリおじさんとベルンハルトを止めることは不可能だと考えた上で、ディートリヒが出した答えがこれだった。
自分の失言が原因なので自分の命を懸けるのは仕方がないが、仲間にまで危険を冒させる気はなかった。
〈うむ! 良い心がけだ! お前の願いを叶えてやろう! 我は寛容だからな。ケチなことは言わぬ。お前の命も保証してやろう! 小僧が悲しむしなっ!〉
そのグリおじさんの言葉でベルンハルトは目を輝かせ、他の三人は安堵のため息をついた。口々に礼を述べている。
やっと話が付いたみたいだな……。
その姿を横目で見ていたロアも、決着した内容に納得する。落としどころとしては悪くないだろう。
ロアはゴーレムたちに踏み均されて平らになった場所に座っていた。
魔法の鞄から折り畳みの小さな作業机を出して、その上に錬金用の道具を広げている。机の上には道具以外に、淡く光を放っているミスリルの欠片も載っていた。
ロアが双子の魔狼に頼んで集めてもらった物で、どれも指先程度の大きさしかない。それを注意深くハサミのような道具で摘まみ、小瓶に詰め込んでいく。
双子の魔狼はロアの両隣に行儀良く座り、その作業を興味深く見つめていた。
彼がわざわざ道具を使っているのは、ミスリルの聖光に直接触れ続けると魔力酔いになる可能性があるからだ。この程度なら気にするほどではないと思うが、安全を優先して作業していた。
魔狼に集めさせたのも、魔獣であれば聖光を発しているミスリルの山に近づいても、魔力酔いの危険がないからだった。
そんなロアをよそに、グリおじさんが声を上げた。
〈では早速、扱える魔力量を増やしてやろう!〉
「「「「え?」」」」
望郷のメンバーたちは驚きの声を上げる。まさか、そんなことを言い出すとは思っていなかったからだ。
「……その、グリおじさん様。人間はそう簡単には魔力量が増えることはないのですがどう……」
ベルンハルトの言葉が急に途切れる。
そのまま、彼は倒れた。
彼だけではない。
望郷のメンバー全員が同時に意識を失っていた。グリおじさんは翼を広げ、掬い上げるように全員の身体を支えると、地面に優しく寝かせていく。
「ちょっと! グリおじさん!!」
突然気絶した望郷のメンバーを見て、ロアが慌てて駆け寄るが、グリおじさんは平然としている。
〈説明が面倒だったのでな。手っ取り早く実演しただけだ。なに、危険はない。大魔術師や賢者などと良い気になって名乗っている連中が、魔力増大の秘術と呼んでやっていることだぞ。双子にも何度かやったが元気なものだろう〉
その言葉に促されるようにロアが双子の魔狼を見ると、地獄でも見たかのような、ものすごく嫌そうな顔をしていた。その顔だけで、かなり不愉快な行為だということが分かる。双子は同情しているのか、寝かされた四人に近寄って顔をペロペロと舐め始める。
なるほど、これがまだ子供の双子が魔法を使える秘密なのか……。
そう納得しながらも、疑問が消えたわけではない。
「具体的には、何やったの?」
悲鳴すら上げず、いきなり気絶するような秘術とやらが、まともな手段とはとても思えない。
〈大気から人間の体内に入る魔力の量を増やすために、入る経路を我の魔力で広げただけだ。まあ、呼吸をするための穴を、力ずくで広げたようなものだと思えばいい〉
呼吸するための穴と言えば、鼻の穴と口だ。それらを無理やり力ずくで広げるのを想像する。その想像上の痛みにロアは寒気を感じた。
人間や魔獣が魔法を使う時は、体内に蓄積された魔力を使う。グリおじさんのように大気中の魔力を利用することのできる魔獣や魔術師もたまにいるが、例外と言っても良い。
その蓄積された魔力を全て使い切れば『魔力切れ』ということになる。
再び魔法が使えるようになるには、通常は大気から魔力を吸収して回復するのを待つしかない。
体内に蓄積される魔力量の上限は訓練で増やすことはできるが、それは筋力などと同じで急激に増えるものではない。長い時間をかけて地道に成長させるものだ。
過去に急激に上限を増やす実験は行われたが、肉体が崩壊して不死者と化したり、生き霊となったりした。
そこで開発された『秘術』が、魔力を取り込む経路を広げるものだった。
魔力量の上限が少なくても、入り込んでくる量が多ければ、それだけ回復が早くなり、使える魔法が増えるという理屈だ。そして、その状態で訓練をすれば、入り込み続ける魔力の負荷で鍛えられ、通常よりも魔力量の上限が増えやすくなるのだった。
「……何も不意打ちでやらなくても……」
〈こういうものは身構えた方が辛く感じるものだぞ? 事前の恐怖を感じることなく一瞬で終わったのだ。我の優しさだな〉
グリおじさんは悪びれすらしない。さも当然のように言い放つ。
ロアは、大きくため息をついた。
事前に痛みで気絶すると説明されていても、本当に魔力の回復が早くなり、使える量が増えるなら、望郷のメンバーは拒否しなかっただろう。それならわけが分からないうちに不意打ちでやられた方が、確かに恐怖を感じないだけ良いのかもしれない。
骨折の治療で骨の位置を直す時も、あえてタイミングをずらして痛みの恐怖を逸らしたりする。それと同じようなものなのだろう……。
……何だか上手く誤魔化された気がするなぁ……。
グリおじさんの詭弁に騙された気がして、もやもやするものを胸に抱えながらも、今更どうなるものでもないのでロアは無理やり納得した。
「グリおじさん。それって、オレにもしてもらえるかな?」
もやもやを抱えながらも、自分が同じ立場だったら拒否しなかっただろうと考え、そして、自分でもやりたくなってしまった。
〈む。小僧にはできぬぞ。まだ身体も精神も未熟な部分があって、やれば今後の成長に支障が出かねないからな。こやつらは成長し切っているし、双子は魔獣だから可能だったのだ〉
グリおじさんの答えは、ロアの希望に沿うものではなかった。
〈……そもそも、小僧にそのような必要はない。小僧は我と従魔契約をしたからな、我と魔力の回廊ができており、我の魔力を利用できる。秘術モドキなぞなくとも成長が早まるぞ! 今は身体に馴染んでおらぬから実感はできぬだろうが、そのうちに分かる!〉
「そう、なの?」
よく理解できないが、必要ないとまで言われてしまえばそれ以上強くは言えない。
しかし、グリおじさんの言葉で、また疑問が持ち上がってきた。
「……その、グリおじさんが言ってる従魔契約って結局、何? 普通に従魔にするのとかなり違うみたいだけど?」
ロアにとって従魔にするということは、従属の首輪を使って魔獣を従えることだった。
魔獣の力に負けず、首輪を付けることができれば従属させられ、従魔にできる。
従属に失敗すれば、首輪は弾かれ従魔にできない。
首輪が付けられるかどうかで成否が判断できるもの。
ほとんどの人間が、従魔とはそういうものだと認識しているだろう。
しかし、従魔というのは、実のところ謎が多い存在だった。
従魔を従える明確な法則が見つからなかったことがその原因だった。何せ、従魔師たちが言う従魔にする条件に統一性がないのだ。
魔獣を倒して強い力を持っていることを示せば従魔にできると言う者もいれば、心を通じ合わせれば互いの感情が分かり従魔にできると言う者もいる。名前を付ければ魔獣の存在を縛ることができ、従魔にできると言う者もいた。
しかし、グリおじさんが言う『従魔契約』は、何から何までロアの知っている従魔との関係と違っていた。
〈小僧が言う従魔とは、あの首輪で従えさせたものであろう? あれのせいで本来の従魔の存在が歪められておる。あれはただの奴隷だ〉
グリおじさんが腹立たしげに言い放つ。
嫌なことを思い出したように、イラついて前足で地面を軽く掻いた。
〈あんなもの、本来の従魔ではない! 人間側だけが有利な、手抜きの方法に過ぎぬわ。本来の従魔とは対等の関係で、人間と魔獣双方に利益のあるものだ〉
グリおじさんはロアの鼻先にその嘴をくっ付け、脅すように両の目を覗き込んだ。
〈人間の都合か知らぬが、人間には歪めて伝えられておるのだ。双方がお互いを認め、主が従魔に名を付けることによって魔力回廊を結び、魔力を共有し意思疎通する。ただそれだけの術式だ。奴隷契約とは違うのだ! 腹立たしい!〉
「うーん……」
吠えるように言うが、ロアはそれに対して特に反応を示さない。グリおじさんが不機嫌になっているのは分かるが、それが自分に向けられていないのを理解しているため、気にもかけていなかった。
豪胆とも思えるが、長年の信頼関係のおかげだろう。
〈従魔契約は人間、魔獣のどちらからでもできるし、解約も可能だ。再契約はできぬがな。我々魔獣の間では神々の残滓とか大魔術師の呪いだとか言われておって、誰が作ったのかも分からぬ不思議な魔法だ。なぜか、どのような魔獣でも使える〉
「へぇ……」
……それって、従魔という名前が悪いんじゃないかな?
誰が作ったのか分からないのならば、今更文句を付けても仕方ないのかもしれないが、ロアはそんなことを考えてしまう。「従える獣」などと言われれば、人間が一方的に従えるものと考えてしまうのも仕方ないだろう。どう考えても、誤解を生みやすい名前をつけた人間が悪いのではないだろうか?
〈……そんなことよりもだな、小僧〉
「なに?」
帰ったら図書館で従魔の歴史を調べてみようと、思考に没頭していたロアに、グリおじさんが声をかけた。
今まで鼻先を突き付けてロアを睨みつけ怒っていた癖に、急に目を逸らしてあらぬ方向を向いた。
〈我は案を募集しておる〉
「案?」
その声は、先ほどまでと比べて、あきらかに弱い。何かして欲しいことがあるのに、目を一切合わせようとしない。何かをやらかして、ロアにフォローを求める時の態度だ。
言葉が通じなくても従魔たちの望みを察してきたロアには、一瞬でそれが分かってしまう。
今までの状況から、グリおじさんが言おうとしていることまで理解できてしまった。
「グリおじさん、ちゃんとオレの目を見て言おうか?」
ロアはグリおじさんの頭を両手で掴むと自分の方に向け、真っ直ぐに見つめた。
いつの間にか、双子の魔狼もロアの両隣に並んでおり、ロアを真似してグリおじさんを真っ直ぐに見つめる。
〈……うぅ……その……だな……〉
「何の案なのかな?」
「ばう?」
「ばうぅ?」
六つの目に見つめられ、グリおじさんは目だけを必死に逸らそうとする。
「まさか、望郷の人たちがミスリルゴーレムを倒すための案だとか言わないよね?」
〈む……〉
「まさか、何も考えてなかったのに、あんなことを言ったとか言わないよね?」
〈いや、ちょっと、からかうだけのつもりだったのだが……何を言っても必死に断ると思っていたのだ……率先して引き受ける者がいるとはな……〉
「まさか、その案をオレに考えろとか言わないよね?」
「ばうう??」
〈…………〉
グリおじさんの顔に羽毛がなかったら、汗だくになっているところだろう。
「まさか、時間稼ぎに気絶させたわけじゃないよね?」
ロアは押さえつけたグリおじさんの頭に顔を近づけ、その目を覗き込む。
目を逸らした方が負け。それはどんな生き物でも適応されるルールだが、グリおじさんは最初から負けていた。
〈……従魔の行いは主の責任であろう……〉
「さっきは対等だって言ってたくせに、何その都合のいい理屈は?」
〈……〉
「グリおじさん、ごめんなさいは?」
「がう」
「がうう」
〈……その……双子よ、確かに素直に謝るのは大切だが……〉
一人と二匹は往生際が悪いグリおじさんをジッと見つめる。
〈…………すまぬ……〉
ついに、逃げ場のないグリおじさんが折れて頭を下げた。
一人と二匹はその姿を見て、笑みを浮かべる。
「よし! それじゃ、皆で考えようか! でも、考えても無理だと思ったら素直に望郷の皆さんに謝るからね? 一緒に頭を下げてあげるから」
〈たのむ……〉
こうして、一人と三匹の、抑止力なしの非常識な相談が始まるのだった……。
第六話 森の中の決着
ノーファ渓谷の奥。そこは月明かりと静けさが支配していた。
身体が熱い……。
でも、寒い。
女神官は目を覚ました。
焼けるような感覚が全身を支配している。しかし、その身体の芯は凍るような寒さを感じていた。
ゆっくりと目を開けると、視界は霞み、歪んでいた。
目の前に瓦礫の山が見え、それで今の状況を思い出す。
自分たちのパーティー、暁の光の従魔だったグリフォンに反逆され、準備ができていない状態で無理やりシルバーゴーレムと戦わされたのだ。
ゴーレムに殴られ、蹴られ、死にかけたのだ。
そんな自分たちを見捨てて、グリフォンは逃げて行った……。
目の前の瓦礫の山は、ゴーレムによって壊された魔法の鞄が吐き出し、ゴーレムが踏み潰した自分たちの大切な食料、魔法薬、防具の予備などの成れの果てだった。
彼女はその瓦礫の山の近くに、死体のように横たわっていた。
全てを思い出して脳が正しく状況を認識できたのか、全身の焼けるような感覚が痛みに変わってくる。
その時になって、自分が全身にケガを負っていることに気が付いた。
「ひ……ごふっ」
喉の奥に突き刺すような痛みが走る。
治癒魔法を唱えようとしたが、喉の奥から血の塊が吐き出され、唱えられずに終わった。詠唱の失敗により魔法は発動しなかったが、治癒に使われるはずだった魔力は彼女自身の身体に注がれる。
同時に、脳が揺さぶられるような気持ち悪さを覚え、寒さが増した。
魔力酔い。
直感的に理解した。
彼女は魔力酔いの状態になっていた。身体が受け入れられる魔力の限界を超えてしまっていた。
ポーナは傷ついた自らに治癒魔法をかけ続けた。
混乱した状態で略式詠唱を使ったために効果はほとんどなく、痛みすら収まらなかったが、それでもかけ続けた。
そのため、効果が現れていないのに、魔法の悪影響だけは蓄積することになってしまった。
痛い……嫌だ……。
「……わぐぁぎ……ごぐぇ……」
必死に詠唱をしようとするものの、声が出ない。言葉にならない……。
無詠唱魔法を覚えておけば良かった……。
今更無意味な後悔が押し寄せる。
魔法は長い呪文の詠唱によって発動させるのが一番簡単だ。
次に略式詠唱という、魔法発動の鍵となる言葉だけで発動させる方法がある。
そして、一番難しいのが、声を出さずに発動させる無詠唱という方法だった。
ポーナは略式詠唱までは修めていたが、無詠唱はできなかった。教えを受けられる環境にあったが、修めるための苦労を嫌ったのだ。
自分の役目は回復と遠距離からの攻撃であり、身を危険に晒すことはない。そのため略式詠唱すらできない状況が思いつかず、必要はないと思い込んでいた。
痛い……。
せめて喉の奥にまとわりついている何かを洗い流せれば詠唱できるかと思い、水を探すために身体を起こそうとした。
激痛が走る。
両足から背骨へ電撃が走ったような痛みだった。叫びすら上げられない。奥歯を噛みしめ、耐えることしかできなかった。
涙がにじむ目を再び開けると、視界が明瞭になった。
涙が、目の中の汚れを洗い流してくれたのだろう。周りには多数の銀色に輝くゴーレムの死体が見えた。月明かりを反射し、鈍く光っている。
誰か、私の役に立つ者は……。
痛みに耐え、周囲を見渡す。動いているゴーレムはいないが、しかし、動いている人影もなかった。
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