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2巻

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 第五話 全員集結!


 アルドンの森の中。
 ゴーレムに追いかけ回され、疲れ切っていたロアたちに、やっと一息つける時間が訪れていた。
 ロアも、護衛ごえいの冒険者パーティー・『望郷ぼうきょう』のメンバーたちも魔法の鞄マジックバッグから水筒すいとうを取り出し、カラカラになったのどうるおしている。
 ただ一人、双子ふたご魔狼まろう火傷やけど凍傷とうしょう肉球にくきゅうスタンプをされた望郷のリーダー、ディートリヒだけは、無言で痛みにえていた。
 ロアは、この数日に起こった出来事を思い返していた。たった数日の間なのに、様々なことが起こり、その全てが忘れられない出来事ばかりだ。
 所属していた冒険者パーティー・『あかつきの光』の活躍が認められ、最高の冒険者パーティーの称号『勇者』を与えられた。暁の光は勇者パーティーとなったのだ。
 それは素晴らしい夢のような出来事だったが、その次の日にはロアはどん底に突き落とされることになる。
 暁の光のリーダーのステファンからクビを言い渡されてしまったのだ。戦闘に貢献こうけんしない雑用専門の最下級職『万能職ばんのうしょく』のロアが、同じ勇者パーティーの一員として扱われるのが耐えられないというのが、その理由だった。
 そしてロアは、長年食事などの面倒を見てきた暁の光の従魔じゅうまたちに、別れの挨拶あいさつをする時間さえ与えられずに、追い出されてしまった。
 行く先もなく街を歩くロアに、再び大きな変化が訪れる。
 小遣こづかかせぎに作っていた魔法薬の売買で世話になっていた商人、コラルドに拾われ、一時的だが彼の商会に所属することになった。
 コラルドの商会は国でも有数の商会で、そこに所属するということは大出世を意味する。
 頂点から一度どん底に落とされ、そしてすぐに頂点に引き上げられた経験は幸運といっていいのだろうか?
 平凡な自分には似合わない波乱万丈はらんばんじょうぶりだよね……。
 と、自分は平凡へいぼんでつまらない人間だと思い込んでいるロアは考える。
 この考えをもし、周りにいる望郷のメンバーたちが知ったら、またロアが自己評価の低さを発揮はっきしているな、と思うことだろう。
 ロアは望郷と出会ってからのこの数日ですら、ありえない有能さを見せつけていたのだから。
 錬金術師れんきんじゅつしとしての卓越たくえつした腕に始まり、並みの職人を超える防具の調整、森で採取できる様々な素材の知識、そして咄嗟とっさの判断力にひらめき。
 戦闘力以外で、ロアは常識を外れていた。
 冒険者は魔獣と戦う者たちだ。だからこそ、戦闘力が評価される。
 そのためロアの評価は低く、最下級職の万能職を抜け出せなかったのだが、戦闘以外であれば、本当に万能だった。

「はいはい、落ち着いてね」

 ロアは久しぶりに自分に出会えて興奮している双子の魔狼にも、水を飲ませて落ち着かせる。
 そして、しゃがみ込むと、二匹を優しく両手で撫でた。双子はロアの左右にい、そのひざの上にあごを乗せて、撫でられやすい体勢を取って目を細めた。
 従魔は従属の首輪という魔道具で精神を操作し、従えるのが普通だ。しかし、今、この二匹には何も着いていない。ロアはそんな物がなくても慕われていた。これもまた、ロアが常識外れなことの証明だろう。

「弱いものイジメはダメだって教えただろ?」

 ロアがたしなめると、双子は少し納得していなさそうだったが、「くーん」と謝罪するように一鳴ひとなきした。
 二匹がディートリヒに肉球スタンプをしたのは嫉妬しっとからだ。ロアを大切に思っているからこその行動であって、悪いことをしたという自覚は薄い。
 元々ロアたちがいた暁の光の方針で、双子の魔狼は他人とあまり接触せっしょくしていなかった。そのため、他人との距離感に怪しい部分があるのだ。
 他人にもなつきやすく、優しい性格をしているのだが、行動の善悪に対する感覚が微妙にずれている。
 魔獣だから仕方がないのかもしれないが、ロアは双子の親代わりの、性格の悪い鷲頭獅子グリフォンのせいのような気がしてならないのだった。

「ぐ……」

 ロアの何気ない「弱いものイジメ」という一言に、ディートリヒが肩を落とす。
 ロアは双子のしつけの都合上、幼い二匹でも理解しやすい言葉を選んだだけで他意はない。しかし、ディートリヒにとっては心をえぐる、ダメ押しの一言となってしまっていた。
 自己弁護をしたいところだが、それもできない。どう考えても、双子と自分たちとでは圧倒的な力の差があった。
 素材採取に入った森で、原因が分からないまま多数のシルバーゴーレムに追いかけ回され、ロアが自らを犠牲にして逃がそうとしてくれなければ全員死んでいただろう。そして、その時はロアの死を覚悟した。自分たちはロアの護衛だったにもかかわらず、助けられる結果になったことを後悔した。
 その最悪の事態を解決してくれたのが、この双子の魔狼だったのだ。
 数十体のゴーレムを一瞬で倒していく魔狼にとって、望郷は弱者でしかないだろう。認めるしかない。Aランク冒険者としてそれなりのプライドがあったが、双子の魔狼の前では何の価値もない。

「あ、黄蓮おうれんがある……」

 双子を撫でながらあたりを見回していたロアの目に、見知った植物の葉がうつった。黄連と言われる薬草の一種だった。魔法薬の材料にはならないが、根が胃痛いつうの薬になる。愛用している知り合いの職人も多い。

「わふ!」

 ロアの呟きを聞いた双子はピンと耳を立て、撫でられていた頭を上げて駆け出す。
 指示したわけではないが、双子はいつもロアの希望を叶えようとする。小さな呟きでも聞き逃さない。
 色々あったにもかかわらず、いつも通りの双子を見つめ、ロアは優しく笑みを浮かべるのだった。


〈わふふふふぅぅぅ~ん♪〉

 双子の魔狼はご機嫌きげんだった。適当に思いついたメロディで歌っているが、二匹の声は見事にユニゾンしている。

〈わふーーーわふーーーん♪〉

 その歌声は人間には聞こえない。しかし、踊るように駆け回っている姿から、誰の目にもご機嫌なのは明らかだろう。
 ロアと離れて数日。
 グリフォンのようにロアがいないことで大騒ぎはしなかったが、それでもさびしかったし、不安に感じていた。
 今までずっとロアと一緒にいたのだ。離れれば寂しく感じないわけがない。
 ただ、グリフォンよりちょっと対応が大人だっただけだ。
 やっと会えて、しかも一緒にいられるようになったのだから、感情が高ぶってしまうのは仕方ない。

〈さいしゅっーーー!〉

 他の人間たちが来てロアの安全は保証ほしょうされた。
 双子から見て、彼らは今まで近くにいた暁の光の人間たちよりロアと仲が良く、ロアに危害を加える気配けはいはない。仲が良過ぎるのが気になったが、おしおきもしたので大丈夫だろう。
 今は周囲に他の魔獣の気配もなく安全だ。
 それならば、双子の魔狼のやるべきことは決まっている。

〈素材っ!〉

 森でやることと言ったら、役に立つ素材の採取だ。当然のことだ。
 植物や鉱物のことは知っている。
 その匂いも見た目も知っている。
 虫やけもの、魔獣の特徴も理解している。
 今後のことを考えて採り過ぎないようにしたり、素材をダメにしないように採ったりなどのルールも知っている。ロアと一緒に行動していたおかげで、その知識は一般的な冒険者どころか学者にすらまさっているのだが、双子にはそんなことは関係なかった。
 集めればロアが喜んでくれる。
 それだけが大事だ。
 本当ならロアと一緒に集めに行きたいのだが、双子の目にもロアは疲れて見えた。体力的な問題だけでなく、精神的にも疲れているように感じる。
 ゆっくり休んでいて欲しかった。

〈ふふふわふ~♪〉

 双子は二手に分かれて駆け出した。
 周囲への警戒けいかいは緩めず、ロアに何かあればすぐに駆けつけられる距離を保ちながら駆け回る。
 見つけた薬草の葉を、くきいためないように丁寧ていねいくわえて千切ちぎり、集めていく。
 木の皮を、幹本体を傷つけないようにがしていく。地中のキノコを匂いで探して、菌糸きんしに注意して掘り出す。
 咥え切れなくなったら、ロアの元に一度戻る。
 そのタイミングも、二匹同時だ。
 双子に話し合いや意思疎通いしそつうなど必要ない。お互いに考えていることが分かり、お互いを自分自身そのものだと認識していた。
 それぞれ別の意識を持っているものの、まさに分身ぶんしん同士と言っていいだろう。
 ロアの足元に集めてきた物を置くと、頭をロアに向かって突き出す。それだけでロアは満面の笑みを浮かべ、丁寧に優しく撫でてくれるのだ。

「くーーん」

 二匹同時に甘えた声を上げ、ロアに撫でられる心地好さに身を任せた。

〈よし、もう一度!〉

 ロアにもっと喜んでもらうため、双子の魔狼は駆け出して行くのだった。


 森の中での騒動がひとまず落ち着き、ロアたちがやっと気を休めた頃。
 今度は街で騒動のきざしが見え始めていた。
 アルドンの森から街までは、馬車で一日の距離と言われている。これは馬と人が休む時間も考えた場合の移動時間だ。
 単独で駆ける早馬はやうまであれば約二時間で走り切る。
 街中にあるコラルド商会に、一頭の早馬が駆け込んだ。
 早馬が運んできたのは、御者頭のチャックが書いた手紙である。森の外縁部でロアたちの帰りを待っていた彼は、魔獣たちが森から逃げ出してきたことで異変を察知し、商会長であるコラルドの指示を仰ぐことにしたのだ。
 早馬が到着し、チャックからの手紙を受け取ったコラルドは、すでに夜になっていたにもかかわらず、すぐに対応を始めた。
 真っ先におこなったのは魔獣の森を管理する冒険者ギルドと、このアマダンの街の領主への連絡だった。
 コラルド商会がいかに大きく有力な商会であったとしても、単独で魔獣の森に手を出すことはできない。特に魔獣の森の内部へは、領主命令でもない限り、冒険者以外は入れないという規則があるため、何もできない。
 例外はあるが、それでも冒険者に護衛依頼を出し同行してもらう必要がある。
 だが、それでは数日の無駄が発生してしまうので、大人しく正規の手順を踏むことにした。
 抜け道的な手段を採るとしても、規則を守ろうとすると、冒険者ギルドへの連絡は必須だった。
 そして、コラルド商会からの連絡を受けた冒険者ギルドのギルドマスターは頭を抱えていた。
 こんなことなら残業などせず、夜になる前に家に帰っていればと後悔した。しかし、もし家に帰っていたとしても、対応のために呼び出されていただろうと思い、滅入めいる気分を何とか立ち直らせて指示を出す。

「……斥候せっこう隊を派遣はけんしてノーファ渓谷けいこくとアルドンの森を調査させろ。中まで入らなくていい。馬を使っての外周がいしゅう調査で十分だ。それからBランク……いやAランク冒険者への依頼の準備をしておけ。五パーティーぐらいは必要だ。救助任務に相応ふさわしいやつらを選べよ。斥候隊が戻り次第しだい、その後の対応を決める」

 対応は慣例かんれいに従って決めたが、納得はいかない。

「気に食わねぇ……」

 事務員たちに指示をし、全員が部屋を出て行った後、ギルドマスターは一人うなるように呟いた。
 まず、コラルド商会から連絡があったのに、ほぼ同じ場所にいるはずの冒険者ギルドの御者たちから未だに連絡が来ていないことが気に食わなかった。
 商会の御者などというド素人しろうとが気付いているのに、どうして本職の冒険者ギルドの人間が気付いていないのか?
 そしてまた、巡回監視員じゅんかいかんしいんからも報告がないことが気に食わない。
 冒険者ギルドには巡回監視員という、アルドンの森などの魔獣が生息せいそくしている場所を監視している専門職がいる。各場所の周囲を順番に巡回し、異変がないことを報告するのが業務だった。
 魔獣の森に異変があっても街にまで影響が出ることはまずない。
 そのため巡回監視員の人数は少なく、各所を順番に回っているため巡回の頻度ひんどは少ないが、それでも「もしも」のために給料を払っているのだから、こういう時に役に立ってもらわないと意味がない。
 役立たずばっかりだな……。
 椅子の背もたれに大柄おおがらな身体を預け、深く息を吐く。静かになった部屋に、椅子のきしむ音が響いた。
 コラルド商会からの第一報をにぎつぶしてやろうか……?
 思わず、先に冒険者ギルドの職員から連絡があったことにしようかとも思ったが、大きく頭を振ってその考えを振り払う。すでに、領主へも連絡をすることで先手せんてを打たれている。
 先に気が付いてましたと言ってごまかしたところで、それならなぜ連絡を寄こさなかったのかと言われるのは目に見えている。
 今更どう動こうが面目めんぼくを潰されるのだから、素直に流れに身を任せるしかないだろう。
 悪あがきをしても無駄でしかない。

「……いや……ビビアナが言っていたな……」

 ギルドマスターはギルドの受付主任・ビビアナとの数日前の会話を思い出していた。
 その会話は、実力に見合わない従魔のおかげで勇者パーティーになれた暁の光と、そこから追い出され、なぜか大商会に拾われた万能職についてのものだった。
 ギルドマスターは、暁の光が法に触れる手段で従魔を操り、万能職がそれに関与していたのではないかと疑っていた。もしそうだとしたら、ギルドごと潰れる不祥事に発展しかねない。
 その不安を打ち明けると、ビビアナは恐ろしい答えを返してきたのである。

「……醜聞スキャンダルが出てくる前に消えてもらった方が安心、か……」

 ビビアナが本気でそう言っていたのかは分からない。しかし、ギルドマスターはその言葉を思い出して笑みを浮かべた。
 今の状況では、魅力的な案に思えた。
 醜聞スキャンダルが発生しそうな『勇者パーティー・暁の光』と『万能職』が問題の場所にいる。
 しかも、他国からやって来た目障めざわりな冒険者パーティーまで一緒だ。
 あの他国の連中は、少し前に冒険者ギルドで、この街の冒険者たちの評価を下げる大きな騒動を起こしたため、できればどこかへ消えて欲しかった。
 ギルドマスターは少し考える。
 仮に異変が起こっていなければ、誤りの報告をしたことで面目が潰れるのはコラルド商会だ。
 異変が起こっていれば、自分が面目を潰され、領主や冒険者ギルド本部から叱られるのは確定だろう。だが、その代わりに不安材料や気に食わない連中が一掃いっそうされるなら、少しは溜飲りゅういんが下がるというものだ。
 せっかく雇い入れた『万能職』のガキが死んだなら、ガッカリするコラルドの顔も見られるだろうしな……。
 ギルドマスターはさらに深く、今後のノーファ渓谷とアルドンの森の異変への対応を考え始める。
 魔獣の森の異変だから、慎重しんちょうに調査してから対応を決めても文句を言われることはないだろう。時間をかけて考えていたために救助が遅れてしまい、森の中の連中が全滅しても仕方ないことだ。
 街の安全と十人にも満たない冒険者の命を比べれば、前者の方が断然重要なのだから。
 ギルドマスターは牙のような犬歯けんしを剥き出しにして、静かに笑う。
 彼は救助を引き延ばす方法と、それによって起こりうるについて、一人で検討を続けた。


 コラルド商会の商会長の部屋では、コラルドが一人の男から報告を受けていた。
 その男がやって来たのは、御者頭チャックからの連絡を受け、コラルドが冒険者ギルドと領主への対応を済ませた直後だった。

「それで、ノーファ渓谷の異常は?」
「はい。魔獣が外へ逃げ出しているのは、チャックさんの報告通りで間違いありません。ご指示通り遠方より監視していましたが、森だけではなく谷の方でも、岩蜥蜴ロックリザードなど渓谷を登ることができる魔獣が逃げ出しています」

 男はコラルド個人に雇われている密偵みっていだ。
 傭兵ようへいギルドに所属しており、コラルドとは長期契約を結んでいる。
 彼……いや、彼を含めた密偵たちはコラルドに雇われているが、コラルド商会には所属していない。ギルド規約によって非合法活動はしないが、それ以外であれば何でもする、コラルド個人の手足とも言って良い集団だった。
 コラルドは冒険者ギルドの動きに不穏ふおんなものを感じたため、密偵たちにロアと望郷がいるアルドンの森、そしてノーファ渓谷の動きを遠方からずっと監視させていたのだった。

岩蜥蜴ロックリザードが谷から逃げ出しているのを発見した時点で、もう少し近づいて谷の中を確認しようとしたのですが、発見されてしまい断念だんねんしました」
「ほう?」

 ノーファ渓谷の入り口には、冒険者ギルドの御者たちが馬車と共に野営やえいしていた。
 彼らにも、中を進む勇者パーティー・暁の光にも見つからないように谷の中を確認しようとすると、遠方の丘の上から谷を見下ろして監視するしかない。

「発見されたというとギルドの御者に?」

 コラルドは、冒険者ギルドの御者に、丘の上の密偵たちを発見できるだけの技量がある者がいたのかと感心する。
 密偵たちは一流の技術を持ち、さらに気配を消すたぐいの魔法を使っていたはずだ。そんな彼らを、遠方から発見するなど不可能に近い。

「いえ、違います」
「では、暁の光に?」
「いえ」
「では、冒険者ギルドもひそかに監視していたのか?」
「いえ、そうではなく」

 否定してもすぐにコラルドが被せ気味で聞き返すため、密偵の男は言葉を続けられず否定することしかできない。
 可能性のある存在が思いつかなくなったのか、コラルドの言葉が途切れる。密偵の男はそれを確認してから、やけに焦っている主人に少し呆れつつ口を開いた。

「従魔です。暁の光の魔狼たちです。谷の上部にいました。私が魔狼を発見すると同時に、私の視線を感じて気付いたようです。それで……私に向かって手を振ってきました……」
「手を?」
「ああ……前足と言うべきでしたね」
「そうではなくてだね……」

 従魔といっても人に従っているだけで、本質は魔獣である。それが「手を振っていた」と聞いてコラルドは驚いたのだ。

「従魔というのは、その、手を振ったりするものなのかな?」

 率直そっちょくな疑問をぶつけると、密偵の男は困ったような微妙な表情を浮かべた。彼も傭兵ギルドで様々な従魔を見ていたのだが、今日の経験はまったく予想外のものだった。

「私もそれには驚きました。まるで街中で親しい人に会ったように、楽しげに手を振ってきましたよ……しかも二匹ともですよ? 何なのでしょうあの従魔は? 私は今まであんなに人間臭にんげんくさい動きをする従魔を見たことがありません」
「……ロアさんが赤子の頃から育てていたそうですから……普通とは違う育ち方をしていたのでしょうね……」

 珍しく密偵の男が困惑こんわくした表情を浮かべているのを見て、コラルドが苦笑を漏らす。
 ロアに育てられたのなら、多少妙な魔獣であっても納得がいく。コラルドの中では、ロアは常識はずれの存在の代表格なのだから。

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