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1巻
1-1
しおりを挟むプロローグ
「お前、クビな」
ロアはその言葉を聞いて、とうとうこの時が来たかと肩を落とした。
剣士でありパーティーリーダーのステファンの部屋に呼び出された時点で、彼はその言葉を半ば予測していた。
彼が所属しているパーティー『暁の光』はロアが仲間に加わった七年前から大躍進を続け、ついに昨日『勇者パーティー』と呼ばれる存在になった。
勇者パーティーとは、王国最上位の冒険者パーティーに与えられる称号である。
このペルデュ王国では、Aランクパーティーになると冒険者ランキングに参加できる権利が発生する。
冒険者ランキングは一年の依頼の達成件数、達成した依頼の難易度、達成速度、討伐した魔物の種類などあらゆる要素を点数化して、冒険者ギルドへの貢献度を総合評価し、順位を付ける制度だ。
そこで一度でも一位を取ると、そのパーティーはそれ以降、勇者パーティーの称号付きで呼ばれるのだった。
「なんでか分かってるだろ? オレたちゃ勇者パーティーになったんだ。勇者様だぞ? 何もしてねーお前まで同じように扱われるのがオレたちは許せねーんだよ」
ステファンは机の上に投げ出した足を組み替えると、吐き捨てるように言った。
片手にはワインの入った酒杯を持っており、酔った赤い顔はだらしなく緩んでいる。
朝食と昼食にロア以外は誰一人現れなかったので、ロアは夜中まで祝宴を行っていた皆はまだ寝ているものだと思っていた。
しかしステファンは夜通し自室で飲み続けていたらしい。
大金を稼ぐ高ランク冒険者であれば、身体に負担をかけずに酔いを醒ませる魔法薬を手に入れられるため、長時間、大量の飲酒をしても何も問題ない。
むしろ、自分がそういった立場であると示すためにバカげた飲み方をする者も多かった。
「はい」
ロアは泣きそうになるのを堪え、できるだけ大きな声で言った。それはロアのわずかな男の意地である。
覚悟はしていた。
ロアは自分がこのパーティーに貢献できていないと常々思っていたのだ。
ロアの職業は『万能職』。
冒険者ギルドの区分ではそう呼ばれているが、滅多にそんな耳触りのいい呼び方はしてもらえない。
「雑用係」「運び屋」「なんでも屋」「小間使い」などと呼ばれることが多い。
口汚い者は「寄生虫」と呼んだり、あえて「万能様」と皮肉を利かせたりする始末だ。
要するに戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
この万能職に就く者は、他の専門職になる前の見習い冒険者がほとんどだ。
ペルデュ王国では師弟制度を採用している職業が多く、冒険者も例外ではない。専門職に就くためにはまず誰かに弟子入りし、師匠の許可を得て一人前になるのが通例だ。
ロア自身も十歳で万能職になった当初は、暁の光の見習いとして活動しながら、いずれはメンバーの誰かに師事して教えを受けて、別の職業になるつもりだった。
しかし、魔力はあるものの戦闘に使えるほどではなく、かといって剣士や闘士になれるだけの体力もない。
手先は器用だが素早い動きができないので盗賊にもなれず、もちろん聖職者にはなれない。どう逆立ちしてもロアに戦闘に参加できるだけの才能はなかった。
それでもあきらめ切れなかったため、彼は十七歳になった今も万能職を続けていた。
万能職に年齢制限はないが、成人前なら数年でどの職業になるかの方向性が決まり、十五歳で成人すると同時に一人前として認められるのが普通だ。
成人後に万能職になった者の中には、数カ月で専門職になった者もいる。それを七年かけてまだ目途すら立たないというのは異常だった。
足を引っ張らないために色々やってきたつもりだったが、他のメンバーには日々役立たずと罵られ、殴られる時もあった。それでも一人前の冒険者になるためには、我慢して暁の光に所属し続けるしかなかったのだ。
この国の人間は恩知らずや根性なしを極端に嫌う。
一人前になっていないのに所属している集団を抜けるというのは「恩知らず」なことであり、仕事を続けられない「根性なし」だと見なされる。そんな人間を雇おうとする者は少ない。
特に実力主義の冒険者の場合はさらに極端で、万能職が所属パーティーを抜けることは、冒険者の道をあきらめるということだった。
もちろん、追い出された者の扱いも同じで、自分で決めるか他者が決めるかの違いでしかない。
「それじゃ、今日中に部屋を片付けてくれよな。パーティーの物を持ち逃げするんじゃねーぞ? パーティーの金で作った武具や薬もちゃんと置いて行けよ」
「分かりました」
深く一礼すると、ロアは退出する。
ドアを閉めた瞬間、涙がこぼれ落ちそうになり、ロアは必死にそれを抑えこんで足早に廊下を進んだ。
そのまま自室に戻り自分の荷物をまとめる。
彼の部屋は、この屋敷を建てた時には物置として設計された小部屋だ。明かり取りの窓が高い位置にあるが、いつも薄暗い。
五年ほど前にパーティーがこの屋敷を買い取って以来、ここが彼の居場所だった。
部屋には小さなベッドと椅子と机があるだけで、他に家具はない。それ以外に置かれている物も、ベッド脇にある小さなバッグと、机の上の数冊の本や筆記用具、あとは小さなランプぐらいだろうか。
ロアの部屋は物が極端に少なかった。
万能職は見習い職だからと、寝る所と食事だけを与えられ、報酬の分配すらないのはよくある話だ。
良心的なパーティーであっても、他の者たちの二十分の一を与えられれば良い方だろう。
彼も報酬は一切もらえず、仕事を終わらせた後の空き時間でなんとか小遣い稼ぎをして金を得ていた。
そうして得た金で何かを買っても、良い物であれば他のパーティーメンバーに奪われてしまうため、いつしか鞄の中に全て隠してしまう癖がついていた。
今まで世話になった部屋にお礼をする気持ちで、ロアは部屋を掃除していく。
物がほとんどないためあっさり終わった。
部屋の掃除が終われば薬品室へ向かう。
魔法薬や薬草や薬品、鉱物などが収められた棚が並んでおり、机の上には調合や錬金用の器具が置かれている。
ここはロアが自室より長時間を過ごした場所だった。
このパーティーに参加した頃は市販の魔法薬や薬を使っていたが、ロアが徐々に魔法薬や薬の製作方法を覚え、今ではこのパーティーで使われるものは全てロアの手作りだった。
パーティーが力を付けていくにつれて、普通の冒険者では行けない場所に魔獣退治に行くようになり、そういう場所では強い効き目のある魔法薬や薬の材料が採取可能だった。
倒した魔獣の素材が材料になることもある。
ロアなりに、パーティーのためを思ってやってきたことだ。
時間があまりないため、軽く掃除だけしてロアが部屋を出ようとすると、ドアの所に盗賊のセルジュが立っていた。
盗賊と言っても斥候や罠を解除する専門職のことで、窃盗などの犯罪を行う職業ではない。
「盗んでないだろうな?」
セルジュはロアに鋭い目を向ける。
ロアは一瞬質問の意味が分からなかったが、すぐにステファンが言っていたことに思い当たった。
ロアがパーティーの薬品を持ち逃げするのを警戒しているのだろう。
「そんなことしません!」
「口答えすんなっ!」
ロアが言い返すのと同時に、セルジュは彼の腹を蹴りつけ、小柄なロアはあっさりと吹っ飛んだ。
セルジュは倒れたロアに近付くと、身体を探って掃除用具以外何も持っていないことを確認する。
「あら。はしたない。喧嘩はいけませんわ」
声をかけてきたのは、女神官のポーナだった。
「喧嘩じゃねぇ。コイツを追い出すことに決まったからな。持ち逃げされないように調べてただけだ」
「まあ可哀想。でも勇者のパーティーに不浄の者がいると世間体が悪いですものね」
「そういうこった」
ポーナの価値観では、才能がないというのは神々に祝福されていないのと同義になる。いつも優しい笑みを絶やさず口調も穏やかだったが、ロアのことを一番嫌っていたのは彼女だった。
ケガを治さないなどの嫌がらせを何度も繰り返され、時には魔法薬がなければ死んでいたかもしれない大ケガを放置されたこともある。
直接的な手段こそとらないものの、何をしてくるか分からない相手であり、ロアは彼女のことを最も警戒していた。
「お前、未練たらしく掃除して回ってないで、さっさと出て行けよ!」
「……せめて、従魔たちに挨拶を……」
「あいつらは従魔師のでお前は関係ねぇだろ!! さっさと出て行けよ! 追い出されたのにウロウロされたら目障りなんだよ!」
セルジュは倒れているロアの脇腹を再び蹴りあげた。
蹴られた痛みでロアがうめく。
「暴力はあまり目にしたくないわ。ロアさん、さっさと出て行かれた方が良さそうですわよ?」
ポーナの表情は、柔らかな笑みを湛えたままだ。
目の前で暴力を振るわれている人間がいても、仮面のようにそれは変わることはなかった。
「出てけよ!」
セルジュはさらにもう一発蹴りあげると、ポーナと共にその場から立ち去った。
薬品室からはいなくなったが、盗賊の彼は遠距離から人や魔獣の気配を察知できる。油断させておいて、どこかでロアの動向を探っているはずだ。
「……っ痛てて……急いで出てかないとダメみたいだ……」
呟きながら、ヨロヨロと立ち上がり、ロアは歩き始める。
長年世話をしてきた三匹の従魔たちに挨拶すらできずに別れるのは辛かったが、彼はあきらめることに決めた。
部屋に戻るとベッド脇に置いた小さなバッグから傷薬を取り出し、痛みが消える程度に治療する。
低位治癒魔法薬を使えば消える程度の傷だったが、完治してしまうと魔法薬を持っているのを知られる可能性があるため、彼は痛みを消すだけにとどめた。
小さなバッグ一つを肩に掛け、屋敷から出て行く。
もちろん、見送りに出てくる者など誰もいない。
「ここから、新しい人生だな……」
いつまでも落ち込んでいても仕方ない。
やけにスッキリした笑みを浮かべて小さく呟くと、ロアは屋敷を後にした。
第一話 新しい人生の始まり
ロアはパーティーの屋敷から、街の中心部にある冒険者ギルドに向かって歩いていた。
暁の光を抜けたことを報告するためだ。
パーティーメンバーの増減は速やかに報告する義務がある。
「さて、どんな仕事をしようかな」
傷はすでに治してあり、ロアは吹っ切れた笑顔で、軽い足取りで歩いていた。
もう冒険者を続けられないと確定したことによって、逆に今までの悩みや不安が吹っ飛んでしまったらしい。
冒険者にこだわり続けていた今までの自分はなんだったんだろう?
そう思えるほど、今の彼の心の中は晴れやかだった。
「ロアさん! ロアさん!!」
「?」
街の中心部に差し掛かったところで、ロアを後ろから呼びとめる声があった。
振り返ろうとすると、肩にポンと手が置かれる。
「!? コラルドさん?」
ロアの視界に、見事なハゲ頭が映った。
それだけでロアは声の主を特定する。
「いやー、こんな所でお会いできるとは! 買い出しですかな?」
「いえ、冒険者ギルドに向かっていまして」
「ほう! では、そこまではご一緒できますね!」
見事なハゲ頭の男、コラルドは商人だった。
このアマダン伯領の中でも一、二を争う大商会の主人で、フットワークの軽さに定評がある男だ。
四十代半ばながら、自身で始めた小さな商店を十年ほどで大商会にした凄腕の商人であり、その商才は領内に知れ渡っている。
ロアが小遣い稼ぎの際に何度となく取引をしており、なぜか万能職のロアにも気を使って話しかけてくれる不思議な人物だった。
「コラルド様! 急に走り出されては困ります!」
「ああ、すまない。ロアさんを見かけたものだから、つい、ね」
追いかけてきたらしい護衛の男に謝るも、まったく悪びれる様子はない。笑いながらテカテカと光るハゲ頭をさすっている。
護衛を振り切る脚力の商人って……とロアは思いながらも、口には出さなかった。
金の匂いのする所には必ず現れる『神出鬼没のコラルド』という彼の異名を知っているからだ。
すこしポッチャリした中年体形にもかかわらず、走ったにしては彼の息はまったく乱れていなかった。
「そうそう! この度はおめでとうございました!」
「あ……はあ、その、いえ……」
この「おめでとう」は間違いなく、暁の光が勇者パーティーになったことに対してだろう。普通はパーティーにめでたいことがあったとしても、貢献度が低い万能職にまで祝いの言葉をかける人間はいない。
こういうことが当然のようにできるのも、コラルドの特殊性といえる。
「やけに歯切れが悪いですな。何かありましたか?」
ロアの反応はただ戸惑っているだけともとられかねないが、コラルドはその微妙な違いに気付いた。
ロアは言うべきか少し悩んだが、どうせいずれは知られることであるし、万能職であっても親しくしてくれるコラルドになら言っても幻滅されないだろうと思い、心を決める。
「……実は……パーティーを追い出されまして……」
「ほう!」
コラルドは一瞬、驚いて息を呑んだが、視線を外して少し思案すると口元を笑みの形に歪めた。
「それはめで……失礼いたしました。それは大変でしたな。ただ、私にとってはこれほどの福音はなかったため、つい喜んでしまいました。申し訳ありません」
コラルドは極自然な感じで頭を下げた。
「福音、ですか? ……いえ、気にしないでください。自分でも不思議なくらい晴々とした気分になってるんです。憑き物が落ちた気分ですよ。オレはたぶん、今まで冒険者にこだわり過ぎていて、それで視野が極端に狭くなってたんでしょうね。冒険者が続けられないと分かった時は絶望しましたが、あの屋敷を出てから解放されたみたいで、今はかなりいい気分なんですよ」
吹っ切れた雰囲気のロアを、コラルドは愛おしいもののように見つめていた。
先ほどの「福音」は口が滑って出てしまった言葉だが、それは彼の本心だった。彼の頭の中ではすでに、これからのことが思案され始めていた。
「良いお顔になられましたね」
「そう、ですか?」
「そうですよ。実に良いお顔になられました。それで、これからどうされるのですか?」
「……実はクビだって言われたのが今日の昼過ぎでして、急に追い出されたのでまだ何も考えてないんですよ。ただ、手持ちのお金がほとんどないので、すぐに何か仕事をしないといけな……ああ、そうだ。コラルドさん、中途半端な数量しかないんですが、魔法薬を買ってもらえませんか?」
「もちろんです! このままうちの商会に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい!」
「では、まいりましょう」
やっと二人は歩き始めた。
コラルドの護衛はやけに機嫌の良い主人に不気味なものを感じていたが、それを顔に出さずに後に続く。
しばらく歩き、コラルドの商会に到着するところで、ロアはいつも通り裏口に回ろうとした。
しかし、コラルドに引きとめられる。
「もうパーティーメンバーではないのですから、堂々と正面から入りましょう」
コラルドにそう言われると、断る理由はない。
そもそも今まで裏口から隠れて入るようにしていたのは、暁の光のメンバーに小遣い稼ぎをしていることを知られたくなかったからだった。
パーティーに所属した冒険者でも、パーティーの仕事さえしっかりこなしていれば空き時間に個人で別の仕事をしても問題ない。
特に報酬の分配がない、もしくは少ない万能職となると、小遣い稼ぎでもしないと自由になるお金が手に入らないため、副業を持っているのが普通だった。
しかし、ロアが所属していた暁の光のメンバーたちは、ロアが小遣い稼ぎをしているのを知ると不機嫌になり、「そんなことをしている時間があるならパーティーの仕事をしっかりしろ」と責めたてた。
彼らにとってロアに空き時間があるということは手を抜いているということであり、他の仕事をする余裕がない状態こそが当然だと思っていたからだ。
「うわー」
初めて入った商会の正面玄関の豪華さにロアは声を上げる。
まるで宮殿みたいな石造りの玄関で、柱の隅々まで細かな装飾が施されていた。場所によっては金箔が貼りつけられ黄金色に輝いている。
至る所に美術品が飾られ、それらを引き立てるように生花が飾られている。その生花もちゃんと管理されているらしく、萎れた葉一枚ない美しい状態を保っていた。
「私はあまり華美なのは好みではないのですがね。こういう『こけおどし』も商売の役に立ちますので、仕方なくお客様方の好みに合わせております。見栄えや肩書よりも、私は質の方が大事だと思うのですがねぇ」
「はぁ……」
コラルドの案内で奥に進み、ロアはいつもの応接間へと通された。
そこは木が多用された、実に落ち着く質素な雰囲気の部屋で、家具もシンプルなものばかり置かれている。美術品は小さな農村が描かれた絵画が一枚壁にかけられているだけで、花も飾られていない。大きく開いた窓からは手入れされた庭が見えた。
ロアは知らなかったが、この庭は人工的に作られたものだ。上部から降り注いでいる光も自然光のように見えるが、魔道具によって作り出されている。その維持費は莫大だろう。
自然を感じられる簡素な庭だが、大商人や大貴族でもないと作り出せない空間だった。
この庭に面している部屋は二つだけ。
ロアが今いる応接間と、商会主の部屋だ。
それはこの部屋が、重要な取引相手を通すために作られた場所であることを示していた。
ロアの目には質素に見えるが、壁も床も熟練の職人が選び抜いた材料で作られている。家具も金を積んだだけでは手に入れられない一流の物で、絵画は宮廷画家が若い時に自由に描いた作品だった。
ロアは椅子を勧められ、いつものように座る。
ロアが数年前に初めてこの椅子に座った時の感想は「さすが大商会だな。普通の部屋にも座り心地のいい椅子を置いてる」というものだったが、商会長の部屋のものを除けば、実はこの椅子が商会で最も高価だった。
だが、椅子の良し悪しなどほとんど知らないロアが、そのことに気付くわけがない。
「それでは見せていただけますかな?」
「はい」
ロアは小さなバッグを開くと、テーブルの上に小瓶を並べ始める。
「低位治癒魔法薬が十二本、中位治癒魔法薬が三本です」
ロアは正式には名乗っていないが副業で錬金術師をしていた。錬金術師は才能が全てで、師弟制度が関係ない数少ない職業だ。魔法薬を作れさえすれば、師匠に認められなくてもなれる。
「今回、高位治癒魔法薬以上は作れませんでした。その代わり、面白い素材が手に入ったので、こんなものを作ってみました」
ロアはさらに小瓶を取り出した。
それは他の瓶より一回り大きく、薄い水色の液体が入っている。
「即死回避の魔法薬です」
「ほう!」
コラルドはその瓶を手に取ると興味深げに眺めた。
「それで、効果は?」
「オレの持っている低レベルの鑑定の魔道具ではハッキリしないんですが、不死者系の即死攻撃に抵抗できるようです。コラルドさんに調べてもらえれば、もっと色々分かるかと思ったんですが……」
「そうですな。ジャコモ、鑑定の準備を」
「はい」
傍らに控えていた護衛が、部屋の奥にある棚から小箱を取り出し持ってきた。
コラルドはそれを受け取ると、親指ほどの筒状のものを取り出す。その両端にはレンズがはまっていた。
これは鑑定用の魔道具で、対象物を全知の木の記憶と照らし合わせ、情報を視覚的に表示することができる。
魔道具の質によって知ることができる結果は様々だが、コラルドが持っているのは最高レベルのものだった。
コラルドは鑑定具を目に当てると、それを通して小瓶を見つめた。
「ほう、ほう。なるほど。確かにアンデッド系の即死攻撃に効果がありますな。ただ、回避できる確率は攻撃したアンデッドと、これを使った人間の能力差で決まるため安定はしていないようですね。効果は飲んでから八時間で表れ、攻撃される前に飲まないと意味がない。まあ、当たり前ですな。使う場面は限られていますが、面白いものですな」
コラルドは浮かべた笑みはそのままに、思考を巡らせる。
……やはりロアさんは面白い。万能職であることに構わず、彼と友好的な関係を続けた自分は間違っていなかった。
ロアとの出会いは偶然だったが、コラルドはその時に直感で金の匂いを嗅ぎ取っていた。
しかし冒険者の夢を捨てられず、未だにパーティーに所属し続ける彼を無理やり引き抜いても、未練を残したままでは才能を発揮しきれずに、潰れてしまうだろうと予測した。
だから、機会を待った。
そして友好な関係を維持しつづけ、今日この日、やっとその機会が訪れた。
今を逃してはいけない。
コラルドは真っ直ぐにロアの目を見た。
「ロアさん。提案があるのですが」
「はい?」
「次の仕事が見つかるまでの間、私に雇われませんか?」
コラルドのハゲ頭はいつになく艶やかに輝いていた。
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