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終幕
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アリシアは粗末な服を着て、断頭台を見上げる。
広場に集まる民衆は、高位貴族の悪女の頸が飛ぶ瞬間を待ちわび、王太子達は己の正義に酔って、高揚している。
アリシアは、冷静に、けれど何処か麻痺した思考で考える。
きっと、もう、誰も彼もが手遅れだ、と。
「嗚呼、可哀そうに……」
アリシアの呟きと共に、刃が振り下ろされた。
***
己の無力を嘆き、窶れたリリアに愛する男から告げられた言葉は、恐ろしく残酷な事実だった。
「もう大丈夫だよ、リリア。あの女は死んだ。君を害する者は、もう、誰も居ない」
何を言っているのだ。
何を言っているのだ、この男は!
「なんで……、なにを……、なにをしたの? アリシア様に、何をしたの!?」
取り乱し、クリストファーに掴みかかるリリアに、クリストファーは宥めるように優しく言う。
「リリア、信じたくない気持ちもわかるが、あの女は多くの罪を犯していたんだ。だから、処刑されても仕方ないんだよ」
「処刑……? 処刑ですって!?」
リリアはその言葉に目を剥き、力が抜けたかのように座り込んだ。
「なんて事……。何て事を……」
さめざめと泣き出したリリアに、クリストファーは慌て、慰めるが、それが功を奏ずるはずも無く、結局は部屋を追い出された。
しばらくすれば落ち着くだろうとクリストファーはその場を離れた。そして、それがリリアが生きている姿を見る最後になった。
リリアは翌日、首を吊って死んでいるのを発見された。
残された遺書には、アリシアの無実を訴える言葉が切々と綴られ、最後にアリシアへの謝罪で締めくくられていた。その手紙には、王太子や令息達へ対する言葉は一切綴られていなかった。
「リリア、何故……」
嘆く王太子や令息達を、何か恐ろしいものを見るかのように、学園の生徒達は遠巻きにした。
そして、時が過ぎ、アリシアの罪が冤罪である可能性が浮上し、再調査が成され、その事実が明らかになった。
そうしてようやく、リリアの言葉が真実であったのだと、王太子達は知った。
幼い頃から切磋琢磨し合った婚約者の少女を殺し、愛した筈の少女を死に追いやった王太子は信用を失い、その地位を追われた。
そして、彼の取り巻きの令息達もまた、その能力に疑いありとされ、ある者は家から放逐され、またある者は家に蟄居の身となった。
二人の少女は死に、男達は表舞台から消えた。
きっと幸せになれただろうシンデレラストーリーは失敗に終わり、舞台の上には誰も残らなかった。
そして、誰も残らなかった舞台は、幕を閉じた。
広場に集まる民衆は、高位貴族の悪女の頸が飛ぶ瞬間を待ちわび、王太子達は己の正義に酔って、高揚している。
アリシアは、冷静に、けれど何処か麻痺した思考で考える。
きっと、もう、誰も彼もが手遅れだ、と。
「嗚呼、可哀そうに……」
アリシアの呟きと共に、刃が振り下ろされた。
***
己の無力を嘆き、窶れたリリアに愛する男から告げられた言葉は、恐ろしく残酷な事実だった。
「もう大丈夫だよ、リリア。あの女は死んだ。君を害する者は、もう、誰も居ない」
何を言っているのだ。
何を言っているのだ、この男は!
「なんで……、なにを……、なにをしたの? アリシア様に、何をしたの!?」
取り乱し、クリストファーに掴みかかるリリアに、クリストファーは宥めるように優しく言う。
「リリア、信じたくない気持ちもわかるが、あの女は多くの罪を犯していたんだ。だから、処刑されても仕方ないんだよ」
「処刑……? 処刑ですって!?」
リリアはその言葉に目を剥き、力が抜けたかのように座り込んだ。
「なんて事……。何て事を……」
さめざめと泣き出したリリアに、クリストファーは慌て、慰めるが、それが功を奏ずるはずも無く、結局は部屋を追い出された。
しばらくすれば落ち着くだろうとクリストファーはその場を離れた。そして、それがリリアが生きている姿を見る最後になった。
リリアは翌日、首を吊って死んでいるのを発見された。
残された遺書には、アリシアの無実を訴える言葉が切々と綴られ、最後にアリシアへの謝罪で締めくくられていた。その手紙には、王太子や令息達へ対する言葉は一切綴られていなかった。
「リリア、何故……」
嘆く王太子や令息達を、何か恐ろしいものを見るかのように、学園の生徒達は遠巻きにした。
そして、時が過ぎ、アリシアの罪が冤罪である可能性が浮上し、再調査が成され、その事実が明らかになった。
そうしてようやく、リリアの言葉が真実であったのだと、王太子達は知った。
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そして、彼の取り巻きの令息達もまた、その能力に疑いありとされ、ある者は家から放逐され、またある者は家に蟄居の身となった。
二人の少女は死に、男達は表舞台から消えた。
きっと幸せになれただろうシンデレラストーリーは失敗に終わり、舞台の上には誰も残らなかった。
そして、誰も残らなかった舞台は、幕を閉じた。
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