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棺の中の乙女
第十九話 墓
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レナ達がユーダムの件や違法薬物についての顛末を聞いたのは、三日後のことだった。
その頃、丁度祖国の魔窟から早々に脱出して来たチアンが部室に顔を見せ、ネモとヘンリーにどうせ早く帰って来るなら三日前に帰ってこい、と理不尽なブーイングをくらっていた。
取り調べの結果、ユーダムはエリーゼをはじめ、六人の女性を己の欲のために殺していた。
「取り調べの官が不気味がっていたな。何故女性を殺してはいけないのか理解できてないようだったそうだ」
ただ、殺したのがバレれば自身に損があるのは分かっていたため、言い逃れをしようとしたそうだが、それも無駄で、罪は確定したそうだ。刑罰の内容はまだ決定していないが、極刑は免れないだろう。
「ブレナン家はやっぱり違法薬物を売ってましたの?」
「ああ。家を調べたらゴロゴロ出て来たらしい」
イザベラの問いに、ヘンリーは馬鹿なことをしたもんだよな、と肩を竦めた。
ブレナン家だが、やはり『合わせ香』の効果目的での商品の販売をしていたことは間違いなく、ブレナン子爵は極刑。連座で夫人も毒杯を賜ることになり、家はお取り潰しが決定している。
「どうしてそんなことをしたんでしょうか?」
「単純に、金が欲しかったんだと。裕福に見せかけてたが、実際は祖先から受け継いだ財産を食いつぶしそうだったらしい」
「呆れますね」
イヴァンのうんざりした様な顔に、ヘンリーもそれな、と頷いた。
「そういえばエラはどうしたのだ」
「エラはその……、お墓に……」
チアンの質問にそう答えれば、彼は察したのか、そうか、と言ってそれ以上は聞かれなかった。
エラは今日、エリーゼ・ラングトン伯爵令嬢の墓へ参っている。色々と思うところがあるだろうことは察してあまりある。
「……彼女の眠りが、安らかなものであれば良いね」
ポツリと零されたイヴァンの言葉に、レナは頷く。
ざあ、と強い風が吹いてカーテンを大きく揺らす。レナは窓の外に視線をやり、揺れる木々を見つめる。駆け抜けた風はこずえを大きく揺らし、青葉を一枚空に攫って行った。
***
強い風が吹き、エラは思わず目をつぶる。風に攫われないように手に持つ花束をしっかりとかかえて、風が弱まってから目を開けた。
目を開いた先に見えるのは、一つの真新しい墓だった。墓に刻まれた名は、エリーゼ・ラングトン。たった十七歳でこの世を去った少女の名だ。
「エリーゼ、色々ととんでもなかったけど、終わったわよ……」
病で死んだと思っていた友人。彼女自身も、病で身を損なったと思っていただろう。最後まで婚約者を愛し、信じて、死んでいった。天国に居るだろう彼女は今、何を思っているだろうか。
大切な友人へ持って来た花を手向け、エラは目を伏せる。
「結局、あの人、貴女が一番好きだった花を最後まで知らないままだったわね」
供えた花を見ながら寂しそうに呟いた。
エリーゼは彼の人に、よく白いバラを貰っていた。もちろん、彼女は白いバラも好きで、喜んでそれを貰っていた。それで勘違いしたのか、それとも記憶違いしたのか、彼はエリーゼの一番好きな花は、白いバラだとずっと思っていた。エリーゼも白バラも好んでいたので、それをわざわざ訂正するような野暮なことはしなかった。
「白バラの妖精のような人だった、だなんて、あの人は何を見てたのかしらね。それとも、貴女の猫被りが上手すぎただけかしら? そうしたら、随分な女優だわ。来世は社交界を渡り歩く悪女か、舞台のトップスターね」
愛しい婚約者の前では愛らしい微笑みを絶やさなかったエリーゼ。恋をする彼女は、きっとこの世の誰よりも可憐だっただろう。
「けど、いい気味だわ。貴女の本当に素敵な姿を、あの人は最後まで見れなかったんだから」
その彼女の墓に供えられたのは、エラがよく知る明るく快活な笑顔が素敵な彼女にぴったりの、太陽の花だった。
その頃、丁度祖国の魔窟から早々に脱出して来たチアンが部室に顔を見せ、ネモとヘンリーにどうせ早く帰って来るなら三日前に帰ってこい、と理不尽なブーイングをくらっていた。
取り調べの結果、ユーダムはエリーゼをはじめ、六人の女性を己の欲のために殺していた。
「取り調べの官が不気味がっていたな。何故女性を殺してはいけないのか理解できてないようだったそうだ」
ただ、殺したのがバレれば自身に損があるのは分かっていたため、言い逃れをしようとしたそうだが、それも無駄で、罪は確定したそうだ。刑罰の内容はまだ決定していないが、極刑は免れないだろう。
「ブレナン家はやっぱり違法薬物を売ってましたの?」
「ああ。家を調べたらゴロゴロ出て来たらしい」
イザベラの問いに、ヘンリーは馬鹿なことをしたもんだよな、と肩を竦めた。
ブレナン家だが、やはり『合わせ香』の効果目的での商品の販売をしていたことは間違いなく、ブレナン子爵は極刑。連座で夫人も毒杯を賜ることになり、家はお取り潰しが決定している。
「どうしてそんなことをしたんでしょうか?」
「単純に、金が欲しかったんだと。裕福に見せかけてたが、実際は祖先から受け継いだ財産を食いつぶしそうだったらしい」
「呆れますね」
イヴァンのうんざりした様な顔に、ヘンリーもそれな、と頷いた。
「そういえばエラはどうしたのだ」
「エラはその……、お墓に……」
チアンの質問にそう答えれば、彼は察したのか、そうか、と言ってそれ以上は聞かれなかった。
エラは今日、エリーゼ・ラングトン伯爵令嬢の墓へ参っている。色々と思うところがあるだろうことは察してあまりある。
「……彼女の眠りが、安らかなものであれば良いね」
ポツリと零されたイヴァンの言葉に、レナは頷く。
ざあ、と強い風が吹いてカーテンを大きく揺らす。レナは窓の外に視線をやり、揺れる木々を見つめる。駆け抜けた風はこずえを大きく揺らし、青葉を一枚空に攫って行った。
***
強い風が吹き、エラは思わず目をつぶる。風に攫われないように手に持つ花束をしっかりとかかえて、風が弱まってから目を開けた。
目を開いた先に見えるのは、一つの真新しい墓だった。墓に刻まれた名は、エリーゼ・ラングトン。たった十七歳でこの世を去った少女の名だ。
「エリーゼ、色々ととんでもなかったけど、終わったわよ……」
病で死んだと思っていた友人。彼女自身も、病で身を損なったと思っていただろう。最後まで婚約者を愛し、信じて、死んでいった。天国に居るだろう彼女は今、何を思っているだろうか。
大切な友人へ持って来た花を手向け、エラは目を伏せる。
「結局、あの人、貴女が一番好きだった花を最後まで知らないままだったわね」
供えた花を見ながら寂しそうに呟いた。
エリーゼは彼の人に、よく白いバラを貰っていた。もちろん、彼女は白いバラも好きで、喜んでそれを貰っていた。それで勘違いしたのか、それとも記憶違いしたのか、彼はエリーゼの一番好きな花は、白いバラだとずっと思っていた。エリーゼも白バラも好んでいたので、それをわざわざ訂正するような野暮なことはしなかった。
「白バラの妖精のような人だった、だなんて、あの人は何を見てたのかしらね。それとも、貴女の猫被りが上手すぎただけかしら? そうしたら、随分な女優だわ。来世は社交界を渡り歩く悪女か、舞台のトップスターね」
愛しい婚約者の前では愛らしい微笑みを絶やさなかったエリーゼ。恋をする彼女は、きっとこの世の誰よりも可憐だっただろう。
「けど、いい気味だわ。貴女の本当に素敵な姿を、あの人は最後まで見れなかったんだから」
その彼女の墓に供えられたのは、エラがよく知る明るく快活な笑顔が素敵な彼女にぴったりの、太陽の花だった。
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