錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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棺の中の乙女

第十五話 薬

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 それは、メイが国立病院へ入院する前日のことだった。
 帰省中のチアンを除いた台所錬金術部のメンバーはヘンリーによって部室に召集をかけられ、何事かという面持ちで集まっていた。
 不安そうな面持ちの部員たちを代表して、部長のネモがまず口を開いた。
「それで、何があったわけ?」
 それにヘンリーはちょっと待てと手を上げ、懐から取り出した盗聴防止用の魔道具を起動させた。
 それを見てイヴァンは緊張した面持ちで尋ねる。
「もしかして、薬物関連で進展があったんですか?」
「ああ。そっちもあった」
 そう言って、ヘンリーは疲れたように背もたれに寄りかかって言う。
「まず、チアンから連絡があった。ブレナン子爵なんだが、彼はどうやらカンラ帝国で大分派手に遊んでいたらしいな」
 どうやら奥方を国に残していったことでタガが外れたのか、随分と娼館に通いつめいていたらしい。
「息子を連れて行ってたんでしょ? 奥方が知ったら去勢しそうね」
「随分と上手く隠していたらしいな。今でも奥方は知らないみたいだ」
 女性陣の顔が嫌悪で染まり、イヴァンも微妙な顔をしている。
「それで、だ。一応仕事もしていたらしくてな、ある娼館が懇意にしている薬師と繋ぎを取って、お香や茶葉の輸入を始めた」
「あ、待って。ちょっと頭に引っかかったものが……」
 ネモは、娼館、お香、お茶、と呟いていき、思い出したのかカッと目を見開いて立ち上がり、叫んだ。
「『合わせ香』!」
「正解」
 それに、ネモは信じられないとばかりにヘンリーを見る。
「ちょっと待ってよ、嘘でしょ!? あれ、何百年前のものだと思ってるの!? 軽い催淫剤として使用されてたけど、依存性があって次々に廃人を作ったものよ? 国が禁止薬物指定する共に、忌まわしい負の産物としてレシピもろとも製作者まで焼き払って消失したレシピなのに!」 
 私ですら噂にちらっとしか聞いてないのに! とネモが叫ぶ。
 合わせ香とは、お香やお茶など、単体ではちょっと体の調子がよくなる程度の効果がある品なのだが、それを合わせて使用すると、たちまち効果が催淫作用のあるものへと変わるもののことだ。ネモが言う数百年前に作られたそれは、麻薬を使用した時に得る薬効まで発現したため、禁止薬物として取り締まられることとなったのだ。
「どうも、今回の薬物騒動はその『合わせ』で効果が出るらしい。薬師がカンラ帝国の錬金術で作ったらしいが、まったく厄介なもん作ってくれたもんだぜ」
 うちで雇ってる錬金術師はあっちの知識がないからな。分からなかったようだ、とヘンリーはうんざりした様子を隠さず告げる。
「麻薬と同じ依存性のあるそれは、ブレナン子爵の商会で扱ってるカンラ帝国産を謳った茶葉とお香、のど飴。そして、カンラ帝国から取り寄せた香水に使う香料。この全てを同時に使用すると効果が発現するらしい」
「随分と手の込んだことするわね」
 それだけ細分化され、しかも呪術知識を必要とする錬金術を使われれば、そういう知識のない錬金術師では気付けないだろう。
「というか、チアンからの報告と言うからには、あいつが気づいたの?」
「いや、宮廷薬師が気付いたらしい。あっちはあっちで大騒ぎになってるらしいな」
 そりゃそうだろう、と一同は思うと同時に、もしかしなくとも国際問題なのでは、とヘンリーを見れば、彼はその通りだと言わんばかりに大きな溜息をついた。
「今回のこれは俺の手を離れて国王陛下の所まで上げられることになった。今はブレナン子爵を見張りつつ、証拠固めの最中だな。それはまあ、いいんだ。兄上達に任せておけば間違いはない。ただ、今回の問題は子爵だけじゃないだろ?」
 思い浮かべるのは、如何にも人畜無害そうなユーダムの顔だ。
「ああいう『合わせ』で薬害出してるんだ。奴がそういう知識を持っていてもおかしくはない。ネモ、イヴァン、そういう方面から見て、何か心当たりはないか?」
 ヘンリーのその質問に、ネモとイヴァンは難しい顔をする。
「ちょっとそれは難しいわね。カンラ帝国仕込みの錬金術でしょ? 私もあそこの錬金術となるとちょっと自信ないのよね。呪術は出来ないことはないけど、適性が低いから……。それにエラちゃんから回収したあれらは確かに引っ掛かりを感じるけど、そういう効果が出るような物じゃ無かったわ。もし何かあるんなら、効果が発現するには足りない物があると思う」
「どちらにせよ、そういう効果が出るという証拠にはならないんですから、ユーダム・ブレナンの疑惑は疑惑のままでしょう」
 ブレナン子爵家はもうお終いだろうし、ユーダムもほぼ確実に首を斬られるだろう。だが、罪は罪として裁かれるべきである。
 どうしたものか、と考え込む先輩達に、その様子を見守っていたレナは恐る恐る手を上げた。
「あの……」
 その声に視線が集まる。
「ユーダム・ブレナンと今関係がある女性の持ち物を調べればいいんじゃないでしょうか?」
 それこそ、以前ネモ達と話したように強制入院させて、ユーダムから物理的に離しつつ、その間に持ち物を調べればいいのだ。
 その提案にヘンリーは何か考えるそぶりを見せ、よし、と膝を叩いた。
「それじゃあ俺も、入院するか!」
「は?」
 トンチキなその台詞に、レナ達は目を丸くしたのだった。
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