錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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芽ぐむ日

第三十五話 旅立ち

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 魔石屋へ行った数日後の休養日、アロイスが王都を出る日になった。
 アロイスと関わりのある台所錬金術部の面々は、ヘンリーとエラを除いて彼の見送りに来ていた。
 そして、アロイスは自然と寄り添うように立っているレナとイヴァンを見て、少しばかり情けない顔をした。そんなアロイスを見て、イザベラは呆れた顔をしていたが、チアンにそんな顔をするものではない、と窘められていた。
 しかし、アロイスは一呼吸おいて、覚悟の決まった顔をした。
「レナさん、すまない、聞いてほしいことがあるんだ」
「はい?」
 首を傾げるレナに、アロイスは真剣な顔をして告げた。
「俺は、君を愛している。どうか、王都に戻ってくる時まで、待っていてくれないか」
 ここにきて、まさかの愛の告白だった。
 ネモとチアンは面々はぎょっとして目を見開き、イザベラはよくぞ言った、と何故か後方保護者顔で目を輝かせた。
 そして、レナに思いを寄せるイヴァンだが、先を越されたことで衝撃を受け、もしレナがアロイスを受け入れたらと不安でいっぱいになり、ついうっかり呪術の呪文を唱えようとしたところをネモとチアンによって鎮圧されていた。
 そんなドタバタ劇を繰り広げる台所錬金術部の面々をバックに、レナはポカン、と呆け、驚いていた。そして、意識を取り戻したのは、その耳に、キャー! と歓声が聞こえてからだった。
 その歓声に驚き、辺りを見回せば、周囲の人々の好奇心に満ちた視線が自分たちに向けられていた。
 現在地は、人通りが多い関所前の広場だ。
 そりゃあ、こんな場所で愛の告白なんて始めれば、注目も集めるだろう。
 レナは人々の視線に慌てるも、アロイスに返事を催促するように名を呼ばれ、彼に向き直る。
 アロイスは、優しく、それでいて少し寂しそうな顔をしていた。
 その顔を見て、ああ、彼は分かっているのだと、察した。
 レナもまた真剣な顔をし、アロイスを真っ直ぐ見つめて告げた。
「ごめんなさい、アロイスさん。私、好きな人が居るんです。だから、貴方を待つことはできません」
「そうか……」
 レナの言葉を、彼は淡く笑んで受け取った。
 やはり、彼はレナの答えを分かっていたのだろう。
「聞いてくれて、ありがとう」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
 和やかな終わりだった。
 しかし、そんなしめやかな終わりの余韻は、すぐにぶった切られた。
 まずイヴァンがすぐにレナを己の背後に回収し、アロイスを威嚇した。
 そんなイヴァンを先輩二人が呆れた顔で見て、残るイザベラは溌溂とした笑顔でアロイスのヘタレ返上を褒め、生きていれば次があると慰めの言葉をかけはじめた。
 更に見物人から、イケメンざまぁ! だの、落ち込むなよ、一杯奢るぜ! だのとヤジが飛んできている。もてない男どもにより、一瞬でお祭り騒ぎだ。
 そんな盛り上がるむくつけき男たちをサラッと無視し、イザベラが小首を傾げた。
「それで、アロイスさんは故郷に戻った後はどうしますの? 王都にまたいらっしゃいますの?」
 イザベラの質問に、アロイスは暫し考え、口を開いた。
「いや、昔所属していた冒険者パーティーのメンバーに会いに行ってみようと思う。彼らから餞別に貰ったアミュレットのお陰で、俺はあのダンジョンで生き残れたようなものだから」
 礼が言いたいんだ、と告げるアロイスに、なるほど、と頷く。
「それが終わりましたら、また王都にいらして下さいませ。その頃にはきっと、私は立派な錬金術師になっていますわ!」
 沢山ポーションを作って差し上げましてよ! と言って、イザベラは人懐っこい笑みを浮かべた。
 それに微笑ましそうな顔をして頷くアロイスは、まるで兄のような顔をしていた。
 どうやら、二人はいつの間にか兄妹のような関係を築いていたらしい。
「錬金術師として追いかける目標も決まってますのよ!」
「そうなのかい?」
「あら、初耳ね。どんな目標?」
 二人の会話に、ネモが錬金術師としての目標と聞いて、首を突っ込んだ。
 イザベラは胸を張って告げた。
「私、『不老の秘薬』の中和剤を作ろうと思ってますの!」
 イザベラのまさかの言葉に、一同は目を瞠った。
「私はいずれ必ず素敵な旦那様をゲットしますわ。けど、その旦那様が『不老の秘薬』を飲みたくない、と言えば、無理に飲んでもらうつもりはありません。けど、置いていかれるのも嫌ですの。ですから私、『不老の秘薬』の中和剤を作りますわ!」
 溌溂と宣言するイザベラに、二つ名持ちの錬金術師が爆笑した。
「あっはっはっはっは! 何それ! 良いわ! すっごく、良い! 良い目標だわ!」
 実の所、驚くことに未だかつて錬金術師は誰一人として『不老の秘薬』の中和剤を作ろうとした者はいない。何故なら、不老となって永遠に研究をしたいと望んでそれを飲む者ばかりだからだ。外部の人間が中和剤を望んで依頼をしてきたことはありそうだが、興味のない研究を引き受ける熟練の問題児はいなかったのだ。
 爆笑するネモの隣で、チアンがにんまり笑う。
「確かに、面白い目標だ。それに、その薬を欲しがりそうな人間が隣国に居るな。上手くいけば、良いパトロンになってくれそうだ」
 その言葉に思い浮かべるのは、とある魔性の令嬢だ。イザベラも彼女の被害を受けたのだから、搾り取ってやれば良い、とチアンは麗しい顔で告げる。
 そして、レナとイヴァンは顔を見合わせ、微笑み合った。
「良い目標ですよね」
「うん、前向きな目標だ」
 ほわほわと無自覚にいちゃつきはじめ、アロイスが困ったような顔をしてそれから視線を外す。
 そして、イザベラに向き直り、告げた。
「じゃあ、君が立派な錬金術師になっているか確かめに、また王都に来るよ」
「約束ですわよ!」
「ああ、約束だ」
 そうして、アロイスは笑顔を浮かべて旅立って行った。
 きっと、彼は大丈夫だろう。
 イザベラと、あんな穏やかな顔をして約束を交わしたのだから。

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