錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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芽ぐむ日

第三十一話 襲撃1

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 可哀想な魔物狩りを終え、錬金術の素材を十分に手に入れて、一行は帰路に着こうとしていた。
 そして、森から出ようとしたその時、イヴァンとアロイスが何かにづいた様子で、警告の声を上げた。
「何か来る……!」
「全員、頭を下げろ!」
 その声に、全員が即座にしゃがんだ――その一瞬後に、頭上を大きな風刃が走り、太い樹木にあり得ない程の深く大きな傷をつけた。
 大きな音を立てて樹木が倒れていき、レナたちは慌ててその場から避難した。
 いったい、何が起きというのか。
 青ざめながら周囲の気配を探れば、三つの見知らぬ気配に辿り着いた――次の瞬間。
「あはははははははははは!」
 狂ったような女の哄笑が、辺りに響き渡った。
 驚き、その声がする方へ視線を向ければ、そこには一人の女と、二人の男が居た。先程の三つの気配の正体だ。
 彼等はニヤニヤと愉しげに嗤っており、その顔は非常に不快な印象をもたらすものだった。
 それに眉をひそめた時、アロイスが動いた。
「リンジー……」
 その顔には、驚きと、嫌悪と、悲しみとがないまぜになった、複雑な感情が現れていた。
 そんなアロイスに、リンジーと呼ばれた女が微笑みかける。
「ああ、会いたかったわぁ、アロイス。あの日、アンタが生きて帰ってきてから、散々だった。アンタを下層に置いてったのはわざとじゃないって言ってるのに、みぃんな、信じてくれない。仕事だって、出来るのはショボイものばっかり」
 どうやら、このリンジーは、アロイスを下層で殺そうとした元パーティーメンバーのようだ。そうすると、残りの二人もまた、そうなのだろう。
「いい仕事は回ってこないし、周りは嫌な目を向けてくる。裏の奴まで寄って来て、寄越した仕事の報酬も馬鹿みたいにショボイ。アンタさえ、あの時死んでたら……! 本当なら、アタシは今頃、大店の若奥様になってたはずなのに……!」
 憎しみを籠めてアロイスを睨み付けるリンジーに、レナたちは眉をひそめる。
 どこをどう聞いても、ただの逆恨みだった。
 アロイスの顔からはごっそりと感情が抜け去り、ただただじっとリンジーを見つめていた。
「全部、アンタのせいよ! アンタさえ死んでれば、全部うまくいったのに! なのに、なんでアンタだけ、光のあたるところに居るわけ? そんなの、不公平じゃない! アンタは死んでなきゃいけないのに! アンタなんて、死んで当然なのに! ねえ、死んでよ! 死んで! 死ね!」
 喚く女に、吐き気がする。
 狂っている。あり得ない程に自分勝手。自業自得の結末を受け入れられないリンジーたちは、アロイスに八つ当たりに来たのだ。
 そしてリンジーは魔法使いがよく持っている、補助道具の杖をこちらに向け、呪文を唱えた。
「《風の刃ウィンド・カッタ-》!」
 あり得ない程強烈な風の刃が、レナたちに迫った。
 それを間一髪でよけると、その風の刃は地面を深く抉り、大地に大きな傷跡を残した。
まさかの破壊力に目を剥くレナたちに、リンジーは歪んだ笑みを浮かべて自慢げに首元を晒す。
「どう、凄いでしょ? これ、普段の三倍の力が出せる魔道具なの。これなら、アンタがどれだけ悪運が強かろうと、殺せるわ」
 リンジーや男二人の首には、金属製のチョーカーが嵌っていた。そのチョーカーは金属部分に魔術紋様が刻まれており、中心部には煌々と不気味な輝きを放つ赤い魔石が嵌っている。
 そんな緊迫感のなか、イザベラが耐えかねたように声を上げた。
「いったい、なんなんですの!? さっきから、わけのわからないことを言って! 逆恨みじゃありませんの!」
 そんなイザベラを、リンジーは興味のカケラもない目で見る。
「なに? 部外者は黙っていて欲しいんだけど。……あ、でも、今は当事者ね」
 リンジーはアロイスに視線を戻し、嘲笑うかのように言う。
「アンタのせいで、無関係なこの子たちも死ぬんだから」
 その言葉に、アロイスの表情が動いた。
 どこか焦ったかのような顔で、レナの方を見る。それは、誰がアロイスの心に住んでいるのか、よく分かる反応だった。
 それに、リンジーはストンと表情をなくし、次いで、般若の如く顔を歪めた。
「は? アンタ、もう心変わりしたの? この、裏切り者!」
 お前だけは言う資格のない言葉だと、この場の誰もが思った。
 そして、リンジーが叫ぶ。
「もういいわ! アンタたち、やっちゃって!」
「ハハッ! 待ってたぜ!」
「殺してやるよ!」
 二人が剣を片手に飛び出して来た。
 一人はアロイスの方へ、もう一人はレナの方へ向かってきた。
 男の動きは早く、レナでは到底目で追い切れない。ポポが肩の上で動く気配がしたが、果たして間に合うか――
迫る男に思わず身をすくませるも、その刃がレナに届くことは無かった。
 ――ギィン……!
 なぜなら、その刃はイヴァンによっていなされたからだ。
 イヴァンは男が体勢を立て直す前に蹴り飛ばし、懐から取り出した魔法陣の浮いた水晶を取り出すと、それを足元で勢いよく割った。
 ヴン、と鈍い音が聞こえたと思ったら、周囲に幾つもの魔法陣の浮かびあがり、半球状の結界を作り出して広がる。
 それはレナたちを飲み込み、アロイスの元仲間たちを結界の外へと弾き飛ばした。
「なによ、これ!?」
「くそっ、硬くて割れねぇ!」
 結界の外ではガンガンと音を立てて結界を割ろうと剣が振り下ろされるが、結界はびくともしない。
 それに一先ず安堵の息を吐き、レナはイヴァンへ向き直る。
「イヴァン先輩、ありがとうございました」
「ううん、レナが無事で良かった」
 淡く微笑むイヴァンに、レナも微笑み返す。
 そんな二人に、イザベラとアロイスが近づいてきた。
「イヴァン先輩、これはいったい……?」
「ああ、これは結界の魔道具だよ。こちらに殺意を向ける敵性個体を結界外へ弾き出して、攻撃を通さない物なんだ」
 ただし、効果は十分程度しか持たないと告げられ、レナたちは苦い顔をする。
「どうしましょう……?」
 不安そうなレナの言葉に、イヴァンが目を伏せて考える仕草を見せた。
「……多分、大丈夫だと思う」
 伏せていた目を上げ、彼は告げた。
「恐らく、十分も経たないうちに彼らは自滅する」
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