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芽ぐむ日

第二十六話 ウィンドチャイム

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 翌日、イザベラが部室に顔を出した。
 どうやらネモによって半ば強制的に部活へ参加させられたらしく、不貞腐れながら薬草をすり潰していた。
「ほら、自分から錬金術を学びたい、ってわざわざ仮入部したんだから、不貞腐れないの」
「ですけど、アメリア様を使うのは卑怯だと思いますの!」
 ネモにデコピンされ、イザベラはぷくーっと頬を膨らませる。
 どうやら、アメリアから部活に参加するように言われたらしい。憧れ、慕う先輩にそう言われてしまえば参加するしかないのだろう。
「だって、ベラちゃんが捕まらないんだもの。チアンは誘われたらホイホイついて行くし」
「イザベラはなかなかの腕前になってきたからな。小遣い稼ぎに組むには丁度良い」
 チアンはしれっとした顔でそう言い、茶を啜る。
 そんなやり取りを聞きながら、レナは手元の『魔術紋様全集』という辞書を捲る。
 これは、ウィンドチャイムに刻まれた魔術紋様を調べるべく図書館から借りて来たものだ。
「む~……」
 レナは眉間に皺を刻みながら、それを睨み付けるように読む。
 そんなレナの様子を見て、イヴァンがそっと尋ねる。
「あの、レナ、大丈夫?」
「うう~……」
 その問いに、レナは眉間の皺を解き、情けない顔をして唸った。
 そんな二人の前に、紅茶のカップが置かれる。
「どうしたんだ、面白い顔をして」
「面白い顔……」
 まあ飲めと紅茶を勧めるのは、ヘンリーだ。
 恐縮しつつそれを受けとるも、ヘンリーに面白い顔と言われ、レナはとうとう突っ伏した。
 そんなレナの様子にイヴァンは慌てるが、ヘンリーに視線でレナの様子を尋ねられ、困った顔をした。
「魔道具の魔術紋様の欠けた部分のつなぎ方で詰まってるみたいで……」
「何で分かるんですか!?」
 がばっと勢いよく顔を上げ、イヴァンを見上げれば、彼は「僕も初めの頃は同じところで詰まったよ」と苦笑していた。
「レナ、こういう魔道具の修理だけど、無理に全く同じように修理しようとはしなくても良いんだよ?」
「えっ?」
 イヴァンの意外な言葉に、レナは目を丸くする。
「魔道具なんてものは、結局、期待する効果を発揮してくれれば良いんだ。特に、私物であり、学術的価値のないものの修理なら気にする必要はない。まずは今現在分かっている魔術紋様から、その魔道具がどういう魔道具なのかを考えるんだ」
「どういう魔道具……」
 レナは、改めてウィンドチャイムを見る。
 ウィンドチャイムの問題点は、鐘となる部分――真鍮の筒に刻まれた魔術紋様が経年により傷が入り、潰れ、かすれてしまったことと、魔力切れを起こしてひび割れた魔石だろう。
 魔術紋様で分かっているのは、『循環』と『幻影』のみ。
 ここから推測できることは多くないが、複雑なつくりの魔道具ではないので、それなりに推測がたてられる。
「これ、もしかして魔力を循環させて幻を作り出す魔道具でしょうか?」
「可能性は高いよ」
 イヴァンは正解、と言わんばかりの微笑みを浮かべながら、ウィンドチャイムの蝶の形をした風受けの部分を指さして言う。
「恐らく、蝶の幻を作り出すんじゃないかな。風を受けてウィンドチャイムが鳴ると、ひらひらと蝶の幻影が舞う。きっと綺麗だろうね。万人に好まれそうな魔道具だ」
 なるほど、とレナは頷く。
「そうすると、必要になって来る魔術紋様は……」
 心当たりの魔術紋様を書き出し、魔術紋様全集を捲る。
 集中しだしたレナにイヴァンは満足げな微笑みを浮かべ、そっとその場を離れ、ヘンリーもその後に続く。
「つまり、魔道具の修理ってのは、答えを先に見つけてから始めた方が早いんだな」
「そうなりますね。まあ、これはあのウィンドチャイムみたいに分かりやすいものだから、といのもありますが……」
 これがただの球体だったり、立方体の魔道具だったらさっぱり分からない。
 ただ、効果の分からない魔道具の修理などは早々頼まれたりはしないのだが、もしそんなことになれば、バラして、隅々まで観察し、調べつくすしかない。
「まあ、確かにデザイン的にも観賞用と分かりやすいものだったしな」
「そうですね」
 頷くイヴァンに、ヘンリーがニヤリと笑う。
「それにしても、万人に――特に女性に好まれそうな魔道具だな。うん、売れそうだ」
「殿下……」
 商売の新たなタネを見つけて鼻歌を歌い出したランタナ王国経済界の魔王に、イヴァンは何とも言えぬ顔をしたのだった
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