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芽ぐむ日

第二十三話 エンドウ豆

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 時は五月の後半ごろ。
 アロイスがやって来て、それなりの時が流れたわけだが……
「のわぁぁぁぁぁ!?」
「ひぇぇぇぇぇ!?」
 ――どがしゃーん!
 その日、魔法学園の片隅にある第三研究棟の一室で、悲鳴と破壊音が響いた。
 何事かと第三研究棟を使用する弱小クラブの面々が廊下に顔を出すが、音をさせたのが台所錬金術部だと知ると、なーんだ、とすぐに興味を無くして部室へ引っ込んで行った。
 さて、その台所錬金術部だが、現在、その部室内は植物の蔓で溢れていた。
「レナちゃ~~ん!」
「ごめんなさ~~い!」
 ネモの声に、レナの謝罪が飛ぶ。
 部屋の隅ではエラが目を回しており、蔓の間から飛び出している足はヘンリーのものだ。チアンはちゃっかり机の上に避難して茶を啜っており、イヴァンは先程窓の外に押し流された。部室が一階じゃなかったら危なかっただろう。
ちなみに、イザベラはアロイスの仕事について行ったため不在である。
 さて、このうねうねと伸び続けている植物の蔓だが、実は、なんてことはないただのエンドウ豆の蔓だ。
 最近、レナはスキルの扱いが上手くなってきたため、生物にスキルをつかってみたらどうなるかという実験をしてみることになった。そして、その結果がこれである。
「ぽ、ポポ~!」
「ボ!」
 助けを求めるレナの声に、ポポが任せろ、と鳴き、身を翻す。
 そして――
「ボアァァ……」
 ぱっかり開けた小さな口に、伸び続ける生きのよいエンドウ豆の蔓が鉢ごと吸い込まれて行った。
 エンドウ豆の蔓がすっかりポポの腹に収まった後に残ったのは、荒れ果てた部室だった。
「あいたた……」
「ふむ。なかなかの威力だったな」
 ヘンリーがぶつけた頭をさすり、チアンは飄々とテーブルから降りる。
「いったい、何がどうなって……?」
「こりゃ、とんでもないスキルね」
「きゅあ~」
 目を白黒させながらイヴァンが窓から室内を覗き、ネモが頬を引きつらせながら苦笑いした。あっくんは目をぱちくりさせている。
「え、エラ~!?」
「きゅぅ……」
 そして、この騒動の下手人たるレナは、目を回しているエラを悲鳴を上げながら介抱していた。
 それに部の面々は苦笑し、荒れた室内を片付けるべく動き出した。

 どうにか片付け終わった後、部の面々はお茶を淹れて一息ついていた。
「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした!」
 レナは体を小さく縮こませ、反省しきりといった風情で改めて頭を下げた。
「いや、まあ、軽くぶつけただけだからな。たんこぶにもなってないし、大丈夫だ。気にするな」
「次は気を付ければよい」
 王子二人の許しに、レナは情けない顔をした。
「まあ、生物――といっても植物だけど、それに初めて使ったんだから、仕方がないよ」
「レナ、気にしないで。大丈夫だから」
 イヴァンはそう言って苦笑し、エラはレナを慰めた。
 がっくりと肩を落とすレナに、ネモが尋ねる。
「それで、レナちゃん。確認なんだけど、エンドウ豆の種にスキルを使った時、何を考えていたの?」
「えっ? えっと……」
 尋ねられたそれにレナは目を瞬かせ、思い出そうと視線を泳がせる。
「確か、早く大きくなれ、って考えてました。成長速度を速めようと思って……」
「あー……、なるほど……」
「確かに爆発的にでかく育ったな」
 ネモが遠い目をし、ヘンリーが苦笑する。
「たぶん、条件付けが曖昧だったんだね。魔道具を作る時のように、きっちり条件付けするべきだったんだと思うよ」
「条件付け?」
 イヴァンの言葉に、レナが首を傾げる。
「ほら、魔道具には魔術紋様が刻まれてるでしょう? ああやって沢山の条件付けをして、求める機能を発現させる。スキルもより高度な使い方をするなら、それが必要なんじゃないかな?」
 イヴァンの言葉を聞いて、チアンが「コンピューターのプログラミングみたいなものか」と呟いていたが、レナにはそれが何を意味しているのかは分からなかった。しかし、レナのスキルに何が必要だったのかは理解した。
「そっか……。魔道具を作るみたいに……」
「どうせなら、魔道具を作ってみたらどうかな? ほら、バイゼル領のダンジョン都市で買ったウィンドチャイムなんて丁度いいと思うよ」
 言われ、思い浮かべるのはジャンク品だった壊れたウィンドチャイムだ。
 レナは化粧品作りに夢中になってあまり魔道具系は作ってこなかったが、これは良い機会かもしれない。
「そうですね。せっかくですから、あのウィンドチャイムを修理してみようと思います」
 そう言って微笑み合った――その時だった。
 ――ズダダダダ……!
 廊下を何かが爆走する音がした。そして……
 ――ズバァァァン!
 荒々しく開けられたドアの前に、イザベラが顔をくしゃくしゃに歪めて立っていた。
「イザベラ・バーミンガム、フラれましたわ! 先輩方、慰めて下さいまし!」
 既視感のある光景だった。
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