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芽ぐむ日

第十七話 スキル

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 レナがスキルを取得した翌日、先輩二人がダンジョンから帰還した。
「へぇぇぇ! おめでとう、レナちゃん!」
「ふむ。今日の夕餉は、ちと豪勢に行くか」
 先輩二人は、レナのスキル取得に対して、とても喜んでくれ、夕飯を奢ってくれることになった。なんでも、美味しい食事処があるらしい。
 やってきた食事処は食事がメインで、酒はあまり出さないらしく、店内に酔っぱらいはいなかった。そのため、庶民的ではあるものの、高貴な生まれのチアンやイザベラでも落ち着いて食べられそうな雰囲気だ。
 それぞれが思い思いの品を注文し、それらが間もなく運ばれてきて、舌鼓を打つ。
 皿を積み上げるあっくんと、一皿で満足し、居眠りを始めたポポとの対比に軽く引きながら、レナは改めてスキル取得のお祝いを述べる仲間達に向かって礼を言った。
「それで、レナちゃんは何のスキルを取得したの?」
「あ、『変質』というスキルです」
「『変質』? どのようなスキルだ」
 チアンの言葉に、レナは己のスキルに関し、分かっていることを説明した。
『変質』
 そのスキルは、その名の通り、物質を変質させるスキルである。
 水を炭酸水に。炭酸水をアルコールに。アルコールを水に。けれども水を砂には出来ない。レナの魔力量が多ければ水をダイヤモンドにするなど荒唐無稽な奇跡が起こせたかもしれないが、あくまで、魔力量が許す範囲内の性質変化となるのだ。
「ただ、それもあくまで成功した変化で、失敗すると訳の分からない物が出来るみたいです」
「なるほどね。これは錬金術師には凄く魅力的なスキルだけど、きっちり使いこなせるようにならないと、苦労することになりそうだわ」
「そうだな。全ては使い手の努力次第になりそうだ」
「大丈夫ですよ、レナなら」
「あはは……」
 先輩方の言葉に、レナは空笑いをする。
 ネモとチアンの言う通り、このスキルが活かせるかは、レナの努力次第になるのだ。
 このスキルは、使いこなせれば錬金術師として高みへ昇れる可能性を秘めている。しかし、使いこなせなければ、転落が待つだろう。
「スキルって、うっかり発動することもあると聞いたことがありますけど、レナ先輩はどんな感じですか?」
「うーん、ちょっと言葉にするのは難しんだけど……」
 イザベラの言葉に、レナは少し考え、告げた。
「例えるなら、二つ並んだ蛇口、かな?」
「どういうことですの?」
 首を傾げるイザベラに、レナは苦笑いする。
「蛇口は熱湯と水が出るもので、普通は水を使うし、間違えないけど、うっかりしてると熱湯の蛇口を使いかねない感じ……、かな?」
「んん~、何だか、扱いを間違えると怪我をしそうですわね?」
 イザベラの言う通り、扱いを間違えると痛い目を見そうなのだ。
「錬金術は魔力を使うでしょう? その時、うっかりスキルを発動させてしまったら、色々と大変になるというか、全てが台無しになりかねないというか……」
「あっ、そういう……」
 苦い顔をして言うレナに、イザベラは納得して頷いた。
「そこら辺は特訓するしかないね。まずは、使いたい時にだけ使えるようにしないと」
「はい、頑張ります!」
 イヴァンの言葉に、レナは気合を入れて拳を握った。
 そんなレナを微笑ましげに先輩方は眺め、言葉を零した。
「しかし、いずれは何らかのスキルを取得するとは思っておったが、予想より早かったな」
「まあ、兆候は前からあったものね」
「えっ?」
 チアンとネモの言葉に、レナは驚きの声を上げた。
「あの、スキル取得の兆候って、あるんですか?」
「まあ、分かりにくいけど、あるわよ。レナちゃんのは、分かりやすかったけど」
 ネモは微笑み、丸くなって眠るポポに視線を遣った。
「凄く分かりやすい兆候だったわ。いくら錬金術の材料が不良品だったからって、それが謎の生命誕生の原因になるには、ちょっと無理があるものね」
「あっ……!」
 ポポは元々、ヘドロ状のよく分からない生き物だった。そして、それはレナの錬金術の失敗から生まれたのだ。
 確かに、ポポを生み出した際に使用した材料は、不良品を売りさばく悪質な店だった。しかし、妙な混ぜ物がされていそうだったとはいえ、生命誕生になるような、そんな奇跡が起こりかねない混ぜ物なんて、こすい商売をする店が混ぜるはずが無いのだ。
 なんで気づかなかったんだろう、と顔を手で覆って隠す。己の足りない脳みそが恥ずかしい。
 そんなレナを気遣ったのか、イザベラが話題を変えた。
「そ、そういえば、明日はあの被害者の方に会いに行きますわよね。私、うっかりしていたのですけど、お名前はなんておっしゃるんでしょうか?」
 それに、そういえば聞いてなかったな、とレナは顔を上げ、目が合ったイヴァンも首を傾げてネモとチアンを見た。
「言ってなかったっけ?」
 ネモは首を傾げ、チアンもまたそういえば、と目を瞬かせた。
「ふむ。そういえば、言ってなかったな。あの男の名は、アロイス・クレス。歳は私やヘンリーより少し上だそうだ」
 記憶に残っているボロボロだった熊男は、どうやら意外と若かったようだ。

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