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芽ぐむ日

第十二話 武器屋1

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 翌日、先輩二人は冒険者ギルドへ向かい、その足で治療院によるそうだ。
 レナ達は階層を一つ下げてのダンジョンアタックの予定だったが、どうにも身が入らず、イヴァンの判断で早々に引き上げることになった。
「すみません……」
「申し訳ありませんわ……」
 肩を落として謝罪するレナ達に、イヴァンは苦笑いした。
「まあ、事が事だから気になるとは思うけど、魔物が居る場所で気を散らすのは良くないよ。上層といえど、万が一が無いわけじゃないからね」
 当然の苦言に、レナとイザベラはがっくりと項垂れた。
 しかし、イヴァンがお説教はここまで、と手を打ち、提案する。
「せっかく時間があるから、ちょっと武器屋に行ってみようと思うんだ。イザベラの武器で、何かむいているのがあるかもしれない」
 その言葉に、イザベラがぱっと表情を明るくする。
 そうして一行は武器屋へと向かったのだった。

「流石、ダンジョン都市の武器屋……」
 レナの呟きに、イヴァンが微笑む。
「王都の武器屋もなかなかのものだけど、ダンジョン都市だとまた一風違うよね」
 レナ達が入った武器屋はとにかく種類が豊富で、雑然と置かれた武器の数も多かった。王都の武器屋はディスプレイされている武器はもっと整理されており、店員と相談して、あいそうな武器を店の人間が奥から持って来るという方法を取っていた。
 しかし、この武器屋は違う。
 樽の中にたたき売り同然の値段が張りつけられた剣が何本も差されており、その近くに立てかけられた半額の赤い値札が付けられた両刃のバトルアックスは、片方の刃に大きな刃こぼれがある。
「これは、ゴミではありませんの?」
 不思議そうなイザベラの言葉に、レナは苦笑いした。
 よく見てみれば、たたき売りされている武器は大きな刃こぼれや、歪みが生じているよだ。安くて当然だろう。
「これはもう、いっそ素材として活用したいな」
 イヴァンが手に持っているのは、歪んで妙なカーブがついたレイピアだ。しかし、柄に魔石が埋め込んであり、刃に曇りもない。これで歪んでいなければそれなりの値がつくだろう品だ。
「安い……。これは良いな……」
 イヴァンの目が、頼れる先輩から、錬金術師の目になる。
「あ、あっちの剣の素材は……」
 そうぶつぶつと呟き、ふらふらと歩いて行ってしまった。
 レナとイザベラは顔を見合わせ、苦笑する。
「お店の人と相談しよっか」
「はい。そうしますわ」
 そうして、レナ達はイヴァンを放っておき、カウンターへ向かった。
 カウンターには恰幅の良い中年女性がおり、徒弟らしき少年と何か話していた。そして、彼女はこちらに気付いたらしく、話を切り上げてレナ達へ向き直った。
「いらっしゃい! 何をお求めだい?」
 気風の良さそうな女性に、イザベラは少し緊張気味に前に出た。
「あの、武器が欲しいのですが、どういう物が良いのか分からなくて、相談に乗っていただきたいのです」
 それに女性はなるほどね、と頷いた。
「マーク、ちょっと奥からあの人を呼んできとくれよ」
「分かりました、おかみさん」
 マークと呼ばれた少年は素直に頷き、店の奥へと姿を消した。そして、程なくして、筋骨隆々の、いかにも鍛冶職人めいた風貌のドワーフの親父さんが現れた。
「おまえさん、初心者のお客さんなんだ。あう武器が分からないから、相談に乗って欲しいらしいよ」
「ふむ」 
 ドワーフの親父さんはイザベラをじろじろと見て、頷く。
「貴族のお嬢さんか。なら、接近戦は苦手と見たが、どうだ?」
「は、はい! 苦手ですわ! ……あの、できれば中、長距離で扱いやすい武器は無いでしょうか?」
 それに彼は頷き、店の奥に一旦引っ込み、手に幾つかの武器を抱えて戻って来た。
「中、長距離で、初心者向きなら、この辺りだな。ボウガン、槍、薙刀、長柄の斧。本当は銃もあるんだが、あれは簡単だからこそ、初心者に持たせるのは怖い。集団戦で誤射があったら、目も当てられん」
 そのことから、ボウガンもまた素人に持たせるのは少々怖い。的できっちり練習してから使うよう言われた。
「一応、長柄の斧も持って来たが、あんた、腕力が無さそうだからなぁ」
「私も、ちょっとそれを振り回せる自信がありませんわ」
 長柄の斧は、確かに重そうだった。
レナのハンマーもそれなりの重量だが、レナはイザベラより腕力があるため、どうにかなっている。
「ボウガンは気になりますけど、今回は止めておきますわ。練習時間が今は取れませんもの」
「そうか」
 そうして、親父さんはボウガンと斧を脇へ寄せた――その時、ふと店内を見て、これもあったな、とディスプレイしてあったそれを持って来た。
「こいつは使うにはクセがあるが、持ち運びがしやすいし、手足のように使えるようになれば、色々と便利な武器だ。ただ、こいつもいくらか練習が必要だな」
 そう言って、イザベラの前に置いたのは、長い編み上げ鞭だった。
 まさか、それがイザベラの才能の開花に繋がるとは、この時、誰も思ってもみなかった。
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