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芽ぐむ日
第七話 ダンジョン都市2
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そうして宿の受付を済ませ、男女で部屋を別れた。
荷物を置き、肩の上に乗っていたポポがベッドの上へ移動する。そこにあっくんもやってきて、小動物同士のじゃれ合いが始まったのに目を細めた。
そうした可愛らしい光景を視界の端に収めながら荷解きをし、それが終わるとレナはリーダーであるネモに視線を向けた。
「ネモ先輩は、チアン殿下とダンジョンアタックをするんですか?」
その視線を受け、ネモは仕方なさそうに肩を竦めた。
「一応、チアンの言うことも尤もなのよ。上層なら、イヴァンが居れば十分対処可能だわ。それに日帰りのアタックのつもりだから、私とチアンが居ると逆に過剰戦力になって、レナちゃんとベラちゃんの訓練に邪魔になりかねないかもしれない」
自分だけなら問題なかったのにとぼやく彼女は、どうやらチアンと下層へ行く方へ心が定まりつつあるらしい。
「一緒に来て下さらないんですの?」
イザベラの不安の滲む言葉に、ネモが苦い顔をする。
「いや、だってね、チアンを単独で行動させるのは、物凄く不安なのよ。もし臨時パーティーでも組んでみなさいよ。十中八九パーティーメンバーはあの顔目当てよ。そうなればダンジョンアタックの途中でパーティー内がギスギスして、下層あたりで深刻な衝突があって、空中分解するわよ」
ありありと想像できてしまうその予想に、レナとイザベラは思わず真顔になった。
つまり、己の精神的安寧のため。そして、他所様に迷惑をかけないためにはネモがチアンと組んでダンジョンアタックするのが一番平和なのだという結論だった。
「まあ、どちらにせよ、最初はちゃんと一緒について行って、イヴァンに任せても大丈夫かどうかチェックするわ。イヴァンにはダンジョンでの過ごし方もきっちり仕込んであるから、大丈夫だと思うけどね」
その言葉に、ネモがきっちり仕込んでいるのなら大丈夫だろうとレナは安堵するが、イザベラは不安そうだ。
この差は、ネモにきっちり仕込まれた経験があるかどうかの違いだろう。レナは昨年の夏休みを思い出し、遠い目をした。
その後、イヴァン達と合流し、改めて予定を立てた。
その結果、ネモが言っていた通りイヴァンに任せても良いかチェックし、大丈夫そうであればネモとチアンは下層目指してダンジョンアタックをし、レナ達はイヴァンをリーダーに、日帰りで上層のダンジョンアタックを繰り返すことになった。
***
翌日は、カラッとした気持ちの良い青空が広がっていた。
「良い天気でも、ダンジョンに潜るから関係ないのですわ……」
イザベラが残念そうに空を見上げて言い、レナはそれに苦笑する。
一行はポツポツ雑談をしながら、町のはずれにあるダンジョンへと向かう。
前を歩くのは、ネモ、イザベラ、チアンの三人だ。
イザベラは先輩二人に挟まれ、ダンジョンでの行動する際の注意事項を確認しているようだ。
そんな後輩の姿を眺めながら、レナは隣を歩くイヴァンに尋ねる。
「イヴァン先輩はこのダンジョンに来たことってありますか?」
「うん、あるよ。師匠にダンジョンでの行動を叩き込まれたのが、ここのダンジョンなんだ」
王都から近いからね、と言われ、納得する。
「バイゼル領のダンジョンは規模としては小規模なんだけど、踏破するのは難しいとされているんだ。何故だか分かる?」
「えっと、確か横に広がらず、縦に深いため、高ランクの魔物が下層に存在しているから、ですよね?」
「正解!」
イヴァンは笑みを浮かべ、レナの言葉を補足する。
ダンジョンというものは、言うなれば成長する地下世界だ。
そして下へ行けば下へ行くほど強い魔物が生息し、また、人間をおびき寄せるエサの如く、貴重なアイテムが、ご丁寧に宝箱に入って存在している。
「今でも下へ成長中で、下層に潜りやすいダンジョンとして有名なんだ。ただ、中堅クラスの冒険者には難しいダンジョンだと言われている」
「そうなんですか?」
「うん。引き際が難しいダンジョンなんだ」
これが横にも広がったダンジョンであれば、自分の体力や持ち物の残量的にやめておこうという気になる。しかし、実力的にギリギリの階層で、体力的にも持ち物的にも余裕があると、もう一つくらい下層に行っても大丈夫じゃないかという心理が働くそうだ。
そうして下へ潜ってみれば、自分の実力ではどうにもならないクラスの魔物と遭遇し、殺されてしまうらしい。
「だから、ここのダンジョンは中堅殺しのダンジョンとも呼ばれているんだ」
「ひえぇぇ……」
青ざめるレナに、イヴァンは慌てた。
「いや、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ! ここは、狭いからこそダンジョン初心者には向いているんだ」
特に上層部分は狭いため、迷わずにすみ、十代前半の子供の冒険者が魔物狩りやダンジョンアタックの練習に使うほどなのだそうだ。
そして、横に広がっていないぶん下層に潜りやすいため、上級冒険者も多くこの町を訪れるらしい。
「どちらにせよ、僕達はダンジョンアタックの練習に来たわけだし、下層どころか中層にも行く予定は無いんだから、大丈夫だよ」
「あ、はい。……そうでした。そうでしたね」
レナの顔のこわばりが解け、イヴァンはほっと息を吐いた。
荷物を置き、肩の上に乗っていたポポがベッドの上へ移動する。そこにあっくんもやってきて、小動物同士のじゃれ合いが始まったのに目を細めた。
そうした可愛らしい光景を視界の端に収めながら荷解きをし、それが終わるとレナはリーダーであるネモに視線を向けた。
「ネモ先輩は、チアン殿下とダンジョンアタックをするんですか?」
その視線を受け、ネモは仕方なさそうに肩を竦めた。
「一応、チアンの言うことも尤もなのよ。上層なら、イヴァンが居れば十分対処可能だわ。それに日帰りのアタックのつもりだから、私とチアンが居ると逆に過剰戦力になって、レナちゃんとベラちゃんの訓練に邪魔になりかねないかもしれない」
自分だけなら問題なかったのにとぼやく彼女は、どうやらチアンと下層へ行く方へ心が定まりつつあるらしい。
「一緒に来て下さらないんですの?」
イザベラの不安の滲む言葉に、ネモが苦い顔をする。
「いや、だってね、チアンを単独で行動させるのは、物凄く不安なのよ。もし臨時パーティーでも組んでみなさいよ。十中八九パーティーメンバーはあの顔目当てよ。そうなればダンジョンアタックの途中でパーティー内がギスギスして、下層あたりで深刻な衝突があって、空中分解するわよ」
ありありと想像できてしまうその予想に、レナとイザベラは思わず真顔になった。
つまり、己の精神的安寧のため。そして、他所様に迷惑をかけないためにはネモがチアンと組んでダンジョンアタックするのが一番平和なのだという結論だった。
「まあ、どちらにせよ、最初はちゃんと一緒について行って、イヴァンに任せても大丈夫かどうかチェックするわ。イヴァンにはダンジョンでの過ごし方もきっちり仕込んであるから、大丈夫だと思うけどね」
その言葉に、ネモがきっちり仕込んでいるのなら大丈夫だろうとレナは安堵するが、イザベラは不安そうだ。
この差は、ネモにきっちり仕込まれた経験があるかどうかの違いだろう。レナは昨年の夏休みを思い出し、遠い目をした。
その後、イヴァン達と合流し、改めて予定を立てた。
その結果、ネモが言っていた通りイヴァンに任せても良いかチェックし、大丈夫そうであればネモとチアンは下層目指してダンジョンアタックをし、レナ達はイヴァンをリーダーに、日帰りで上層のダンジョンアタックを繰り返すことになった。
***
翌日は、カラッとした気持ちの良い青空が広がっていた。
「良い天気でも、ダンジョンに潜るから関係ないのですわ……」
イザベラが残念そうに空を見上げて言い、レナはそれに苦笑する。
一行はポツポツ雑談をしながら、町のはずれにあるダンジョンへと向かう。
前を歩くのは、ネモ、イザベラ、チアンの三人だ。
イザベラは先輩二人に挟まれ、ダンジョンでの行動する際の注意事項を確認しているようだ。
そんな後輩の姿を眺めながら、レナは隣を歩くイヴァンに尋ねる。
「イヴァン先輩はこのダンジョンに来たことってありますか?」
「うん、あるよ。師匠にダンジョンでの行動を叩き込まれたのが、ここのダンジョンなんだ」
王都から近いからね、と言われ、納得する。
「バイゼル領のダンジョンは規模としては小規模なんだけど、踏破するのは難しいとされているんだ。何故だか分かる?」
「えっと、確か横に広がらず、縦に深いため、高ランクの魔物が下層に存在しているから、ですよね?」
「正解!」
イヴァンは笑みを浮かべ、レナの言葉を補足する。
ダンジョンというものは、言うなれば成長する地下世界だ。
そして下へ行けば下へ行くほど強い魔物が生息し、また、人間をおびき寄せるエサの如く、貴重なアイテムが、ご丁寧に宝箱に入って存在している。
「今でも下へ成長中で、下層に潜りやすいダンジョンとして有名なんだ。ただ、中堅クラスの冒険者には難しいダンジョンだと言われている」
「そうなんですか?」
「うん。引き際が難しいダンジョンなんだ」
これが横にも広がったダンジョンであれば、自分の体力や持ち物の残量的にやめておこうという気になる。しかし、実力的にギリギリの階層で、体力的にも持ち物的にも余裕があると、もう一つくらい下層に行っても大丈夫じゃないかという心理が働くそうだ。
そうして下へ潜ってみれば、自分の実力ではどうにもならないクラスの魔物と遭遇し、殺されてしまうらしい。
「だから、ここのダンジョンは中堅殺しのダンジョンとも呼ばれているんだ」
「ひえぇぇ……」
青ざめるレナに、イヴァンは慌てた。
「いや、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ! ここは、狭いからこそダンジョン初心者には向いているんだ」
特に上層部分は狭いため、迷わずにすみ、十代前半の子供の冒険者が魔物狩りやダンジョンアタックの練習に使うほどなのだそうだ。
そして、横に広がっていないぶん下層に潜りやすいため、上級冒険者も多くこの町を訪れるらしい。
「どちらにせよ、僕達はダンジョンアタックの練習に来たわけだし、下層どころか中層にも行く予定は無いんだから、大丈夫だよ」
「あ、はい。……そうでした。そうでしたね」
レナの顔のこわばりが解け、イヴァンはほっと息を吐いた。
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