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芽ぐむ日

第五話 素材採取2

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 そんな女同士のじゃれ合いを、微笑ましそうな顔をしたイヴァンにやんわり止められ、薬草の採取を促される。
 二人はじゃれ合いをすぐに終え、軽く謝罪して薬草を摘むべく身をかがめる。
 この薬草は丸い葉が特徴的だ。
 それを摘みながら、レナは口を開く。
「この薬草――バゼ草はこの辺りではポーション系の薬によく使われる薬草よ。ポーションに使う薬草は、基本的にその土地で手に入りやすい薬草で組み立てられているの」
 薬草を摘みながらのイヴァンの説明に、イザベラが頷く。
「はい、知ってます。だから各地でポーションのレシピが少しずつ違うんですよね?」
 基本的な知識をちゃんと覚えているイザベラに、レナは微笑む。
「そうよ。常備薬的な薬はそういう研究が進んでいて、なるべく手に入りやすい工夫がされているの。だから、滅多にない病の薬だとかだと、この辺りには無い材料が必要だったりするわ」
「まあ、そういうものですよね。需要がないと、研究するのも難しいですもの」
 需要と供給は釣り合わなければならないと言うイザベラに、レナも頷く。
「このバゼ草が生える地域は恵まれているのよ。このバゼ草は冬でもこうして採取が出来るけど、他の地域では冬の採取は難しいもの」
「そうなのですね。けど、冬に採取できない場合はどうしてるのでしょうか?」
「その場合は干しても効果のある薬草を夏場の間に採取しておくの。その干したものを、冬場の調合に使うのよ。だから、夏と冬ではポーションのレシピが違う地域があるから、他の地域で調合を行う場合は気を付けてね」
「はい、分かりました」
 そんなことを話しながらの採取作業は、三人がかりのため早々に終わった。
 根こそぎ採るようなことはせず、問題なく生きていける程度の葉を残したそれを見下ろす。
 そこに、イヴァンが声を掛けてきた。
「植物によっては違うんだけど、このバゼ草は踏まれれば生きようとする力が働いて、葉を多く茂らせる習性があるんだ。だから、このバゼ草は採取が終わったら、少し踏んでから帰るんだよ」
「えっ、そうなんですの?」
 イヴァンの知識にイザベラが感心したように頷き、恐る恐るバゼ草の上に足を乗せる。
「踏んじゃった……」
 良いのかな、と言わんばかりの声に、レナとイヴァンは思わず噴き出した。
「もう! 笑わなくったっていいじゃないですか!」
 口をとがらせて怒るその姿は、子供っぽくて可愛らしい。
 どうにも彼女は外見と中身のギャップが激しい。外見は年の割に色っぽいのに、中身は多分にあどけなさを残している。
 可愛い子だなぁ、と思いながらレナは大いに笑ったのだった。

   ***

 三月に入って、ついにレナの作った美容品が大々的に発売された。
 一度完成させたが、そこから商会の研究者と更に突き詰めていき、パッケージだ何だとあれこれあり、ようやくの発売だ。実に感慨深いものだった。
 それの幾つかはネモのレシピの改良品だが、実は一つだけレナのオリジナルレシピがある。それは、ボディークリームだ。
 自分で言うのもなんだが、なかなか良い出来で、価格も平民が手に取れるお値段だ。レナはその発売日に店を覗きに行ったが、店先で店員に勧められ、テスターを手に取り、それを塗った客が目の色を変えてそれを購入したのを見た。
 それを皮切りに、ボディークリームは飛ぶように売れていった。
 レナは幸せな気分でそれを養父母に報告し、その晩は家族でささやかなお祝いをした。 
 ちなみに、ネモのレシピの改良品に関しては、彼女のレシピが元となっているため、それらの売り上げの数パーセントがネモの懐へ入るようなっており、それを聞いたネモはもろ手を上げて喜んでいた。
 レナは店先でそれらが飛ぶように売れているのを横目に見ながら、足取り軽く学園へ向かう。
 春休み目前のこの時期は、休講になる講義が多い。そのため、レナは時間に余裕をもって学園までの道を歩いた。
 道の隅には雪の塊が残るものの、道の雪は溶け、街路樹には小さな木の芽がついている。
 レナがとっている講義で、今日あるのは一つだけ。あとの時間はクラブ活動にあてられる。
 そのクラブ活動の時間で、レナ達は春休みの計画を話し合うことになっていた。

   ***

 この世界には、ダンジョンと呼ばれる魔力が濃くたまり、魔物が沸き出るように出現する場所があった。
 ダンジョンにはダンジョンコアと呼ばれる心臓部があり、ダンジョンこそが巨大な魔物なのだという人間もいる。
 そんなダンジョンが、ランタナ王国にも複数存在し、王都から南東に下ったバイゼル領にもダンジョンが存在していた。
「それで、せっかくだからダンジョンアタックをしてみようかと思うのよ」
 そう言い出したのは、ネモだった。
「わざわざダンジョンへ行くのか?」
 少しばかり驚いた様子で、ヘンリーが尋ねた。
「ほら、この辺の魔物に関してはイヴァンは詰め込みが終わってるし、レナちゃんもそれなりに大丈夫でしょう? せっかくの長期休暇だし、ダンジョンの仕組みを知るのも良いかと思って」
 森とダンジョンでは、過ごし方が違う。なにせ、ダンジョンはある意味、巨大な魔物の腹の中なのだ。何もない空間から、突如ポコリと魔物が産み落とされることがある。常に気を張り続けなければならず、気力の消耗が激しいのはダンジョンの方が上だ。
「レナちゃんは、ダンジョンアタックはまだしたことが無いのよね?」
「はい、まだです」
 レナは未熟な錬金術師見習いであり、冒険者としてもランクが低い。そして、何より学生である為、行動範囲は狭かった。そのため、レナの活動範囲は王都付近の草原や森だ。
「それから、ベラちゃんの訓練にもいいと思うのよ。ダンジョンの上層部分ならイヴァン達の付き添いがあれば安心だし」
「えっ、私もですの!?」
 まさか貴族令嬢であるイザベラも参加させようとしているとは思わず、彼女は驚きの声を上げた。
 それにネモが当たり前だ、と言い放つ。
「錬金術師を目指すんでしょう? 錬金術師を目指していないエラちゃんはともかく、ベラちゃんはそうじゃないんだから、当然、魔物の狩り方も覚えてもらうわよ。別に大物を無理して狩れとは言わないわ。けどね、いずれは冒険者ギルドの定めるC級の魔物くらいは素材を痛めず、的確に狩れるようになってもらうわよ」
 自分に教えを乞うたからには、それ位は出来るようになってもらうと言われ、イザベラは青褪めた。
「さて、そうと決まれば計画を立てましょうね!」
 そう言って張り切って必要な物を書き出すネモを前に、イザベラは涙目でレナ達に視線で助けを求めた。
 しかし、ネモに教えを乞うたのが運の尽きだ。大人しく鍛えられるしか道はない。
 レナは後輩の視線から逃れるべく、お茶のお代わりを持って来ると言って、そそくさと席を立ったのだった。

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