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令嬢は踊る
第六十六話 お茶会2
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そうしてポポとあっくん用に改めて紅茶と茶菓子がサーブされ、二匹はテーブルの上で美味しそうにそれらを食べている。
その愛らしい姿に癒されつつも、目の前で貴族達の会話が進む。
「そういえば、オーランド。お前はこれからどうするんだ? やはり、ジュリエッタ嬢と共にブルノー王国へ行くのか?」
ヘンリーの問いに、オーランドが頷く。
「はい、そのつもりです」
「では、後見はフーリエ家が?」
視線がジュリエッタに集まり、彼女は困った様に微笑む。
「いえ、その、申し出はしたのですが……」
「実は、迷っていまして……。少しの間、考えさせていただいているのです」
曰く、除籍された自分が、果たして公爵の手を煩わせてしまって良いのか、という事らしい。
ジュリエッタはその言葉に、自分を助けるために無理をさせてしまったのだから、気にしなくて良いと言うが、彼は曖昧に頷いただけだった。
ジュリエッタが気付いているかは分からないが、きっとオーランドは後見を受けてしまえば、生活の保障と引き換えにジュリエッタとの関係が断たれると思っているのだろう。そして、きっとその推測は正しい。
『台所錬金術部』の面々であれば、皆そう思っているだろうが、誰もそれを表には出さない。
「しかし、貴族――しかも、高位貴族の生まれであるお前が、ただの平民暮らしなど出来ないだろう? 後見をしてくださると言うなら、受けた方が良いのではないか?」
ヘンリーのその言葉に、オーランドはやはり曖昧に頷くだけだった。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。私の未熟さで、殿下にもご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
その言葉に、ヘンリーが一瞬真顔になった。恐らく、当時の混乱や、多忙さを思い出したのだろう。目から感情が欠落し、虚無の如き昏さを湛えていた。
しかしそれも一瞬の事だったので、ジュリエッタやオーランドは気付かなかったようだ。
ヘンリーは早々に体勢を立て直し、頷く。
「罰は既に下った。後は自力で何とかしろ」
その言葉に、オーランドは静かに頭を下げた。
空気が重くなりかけたその時だった。
「きゅっきゃ!」
小動物の愛らしい鳴き声が響いた。――あっくんだ。
あっくんはネモの手をペチペチ叩き、空になったお皿を指さしている。
「あら、もう食べちゃったの?」
ネモの分と、あっくん用に新たに持って来てもらったケーキの皿が、二皿とも綺麗に空になっている。
「まあ、じゃあお代わりを用意しますわね。――あ、でも、そんなに食べさせて大丈夫でしょうか?」
その言葉にネモは手をパタパタと振って、全然平気だと答えた。
「この子、本当に大食漢で。すみません、お気遣いいただいて」
「いいえ、可愛いお客様にご満足いただけたら幸いですわ」
美しく微笑むジュリエッタの横顔を見ながら、あっくんの満足はまだまだ先だと知ったら驚くかなぁ、とレナは少し遠い目をした。
しかし、そうやって意識を遠くに飛ばしていられたのは短い間だけだった。何故なら、ネモと話した後、彼女はこちらに話を振ったのだ。
「そちらの可愛らしいお猿さんは、ケーキのお代わりは大丈夫ですか?」
「えっ⁉ は、はい!」
まさか、こちらに話を振られるとは思わず、レナの声が思わず上ずる。
恥かしくて赤くなるレナに、ジュリエッタが優しく微笑む。
「遠慮なさらなで大丈夫よ? そちらの可愛らしいお客様、ケーキはいかが?」
ポポは自分に言われているのだと気付き、レナを見上げる。
「えっと……、ポポはまだ食べたい?」
レナの問いにポポは頷き、ジュリエッタにケーキのお代わりを頼んだ。
そうして持ってこられたケーキを美味しそうに食べる小動物達のお陰で、暗くなりかけた空気が払拭され、全員が可愛らしい小動物達の様子を見て笑みを浮かべる。
「そう言えば、ネモフィラさんのリスさんは契約召喚獣との事ですが、どんな種族なのですか?」
その質問に、『台所錬金術部』の面々の表情が固まる。
ネモに聞いても、頑なにあっくんはあっくんよ、と言われ、頑としてその種族名を言わなかった。果たして、彼女はどう答えるのか……
事情を知る面々が戦々恐々とした視線を集める中、ネモがにっこり微笑んだ。
「白リスのような種族です」
見たまんまだった。
その返しで大丈夫なのかとジュリエッタの方を見れば、やはり彼女も種族名を教えてもらえると思っていたらしく、微笑みに困惑の感情が滲んでいた。
「ええと……」
「あっくんの種族はどうやら未開の地に生息しているようで、この辺りではさっぱり見かけませんね。性格は無邪気で、かなり賢いです。ただ、契約の際は食費に気を付ける必要があります。――ほら、ケーキがもう空。お代わりを要求されてます」
「あら」
ネモの手をペチペチと小さな手で叩くあっくんの様子に誤魔化され、ジュリエッタの微笑みから困惑が消える。
「この子、本当によく食べるんです。あの、申し訳ありませんけど、もう一ついただけますか?」
「ふふっ。ええ、もちろん」
申し訳なさそうに言うネモに、ジュリエッタは少しおかしそうに笑って、ケーキのお代わりを使用人に申し付けた。
こうして、ネモは見事にあっくんの種族名を誤魔化した。流石は熟練の問題児。問題を誤魔化すのが上手だ。
その愛らしい姿に癒されつつも、目の前で貴族達の会話が進む。
「そういえば、オーランド。お前はこれからどうするんだ? やはり、ジュリエッタ嬢と共にブルノー王国へ行くのか?」
ヘンリーの問いに、オーランドが頷く。
「はい、そのつもりです」
「では、後見はフーリエ家が?」
視線がジュリエッタに集まり、彼女は困った様に微笑む。
「いえ、その、申し出はしたのですが……」
「実は、迷っていまして……。少しの間、考えさせていただいているのです」
曰く、除籍された自分が、果たして公爵の手を煩わせてしまって良いのか、という事らしい。
ジュリエッタはその言葉に、自分を助けるために無理をさせてしまったのだから、気にしなくて良いと言うが、彼は曖昧に頷いただけだった。
ジュリエッタが気付いているかは分からないが、きっとオーランドは後見を受けてしまえば、生活の保障と引き換えにジュリエッタとの関係が断たれると思っているのだろう。そして、きっとその推測は正しい。
『台所錬金術部』の面々であれば、皆そう思っているだろうが、誰もそれを表には出さない。
「しかし、貴族――しかも、高位貴族の生まれであるお前が、ただの平民暮らしなど出来ないだろう? 後見をしてくださると言うなら、受けた方が良いのではないか?」
ヘンリーのその言葉に、オーランドはやはり曖昧に頷くだけだった。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。私の未熟さで、殿下にもご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
その言葉に、ヘンリーが一瞬真顔になった。恐らく、当時の混乱や、多忙さを思い出したのだろう。目から感情が欠落し、虚無の如き昏さを湛えていた。
しかしそれも一瞬の事だったので、ジュリエッタやオーランドは気付かなかったようだ。
ヘンリーは早々に体勢を立て直し、頷く。
「罰は既に下った。後は自力で何とかしろ」
その言葉に、オーランドは静かに頭を下げた。
空気が重くなりかけたその時だった。
「きゅっきゃ!」
小動物の愛らしい鳴き声が響いた。――あっくんだ。
あっくんはネモの手をペチペチ叩き、空になったお皿を指さしている。
「あら、もう食べちゃったの?」
ネモの分と、あっくん用に新たに持って来てもらったケーキの皿が、二皿とも綺麗に空になっている。
「まあ、じゃあお代わりを用意しますわね。――あ、でも、そんなに食べさせて大丈夫でしょうか?」
その言葉にネモは手をパタパタと振って、全然平気だと答えた。
「この子、本当に大食漢で。すみません、お気遣いいただいて」
「いいえ、可愛いお客様にご満足いただけたら幸いですわ」
美しく微笑むジュリエッタの横顔を見ながら、あっくんの満足はまだまだ先だと知ったら驚くかなぁ、とレナは少し遠い目をした。
しかし、そうやって意識を遠くに飛ばしていられたのは短い間だけだった。何故なら、ネモと話した後、彼女はこちらに話を振ったのだ。
「そちらの可愛らしいお猿さんは、ケーキのお代わりは大丈夫ですか?」
「えっ⁉ は、はい!」
まさか、こちらに話を振られるとは思わず、レナの声が思わず上ずる。
恥かしくて赤くなるレナに、ジュリエッタが優しく微笑む。
「遠慮なさらなで大丈夫よ? そちらの可愛らしいお客様、ケーキはいかが?」
ポポは自分に言われているのだと気付き、レナを見上げる。
「えっと……、ポポはまだ食べたい?」
レナの問いにポポは頷き、ジュリエッタにケーキのお代わりを頼んだ。
そうして持ってこられたケーキを美味しそうに食べる小動物達のお陰で、暗くなりかけた空気が払拭され、全員が可愛らしい小動物達の様子を見て笑みを浮かべる。
「そう言えば、ネモフィラさんのリスさんは契約召喚獣との事ですが、どんな種族なのですか?」
その質問に、『台所錬金術部』の面々の表情が固まる。
ネモに聞いても、頑なにあっくんはあっくんよ、と言われ、頑としてその種族名を言わなかった。果たして、彼女はどう答えるのか……
事情を知る面々が戦々恐々とした視線を集める中、ネモがにっこり微笑んだ。
「白リスのような種族です」
見たまんまだった。
その返しで大丈夫なのかとジュリエッタの方を見れば、やはり彼女も種族名を教えてもらえると思っていたらしく、微笑みに困惑の感情が滲んでいた。
「ええと……」
「あっくんの種族はどうやら未開の地に生息しているようで、この辺りではさっぱり見かけませんね。性格は無邪気で、かなり賢いです。ただ、契約の際は食費に気を付ける必要があります。――ほら、ケーキがもう空。お代わりを要求されてます」
「あら」
ネモの手をペチペチと小さな手で叩くあっくんの様子に誤魔化され、ジュリエッタの微笑みから困惑が消える。
「この子、本当によく食べるんです。あの、申し訳ありませんけど、もう一ついただけますか?」
「ふふっ。ええ、もちろん」
申し訳なさそうに言うネモに、ジュリエッタは少しおかしそうに笑って、ケーキのお代わりを使用人に申し付けた。
こうして、ネモは見事にあっくんの種族名を誤魔化した。流石は熟練の問題児。問題を誤魔化すのが上手だ。
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