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令嬢は踊る
第五十一話 訓練場2
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召喚獣の訓練場には、個々に分かれた程々の広さの個室と、グラウンドがある。
小型、大型問わず、召喚獣の訓練なら広々とした場所で訓練した方が良いのだろうが、他を気にする神経質な召喚獣や、他人に知られたくない召喚獣と契約している生徒が居るため、個室が用意されているのだ。
しかしながら、その個室の利用頻度は多くない。
神経質な召喚獣は元々契約が難しく、学園の生徒程度では契約まで持ち込めない。そして他人に知られたくない召喚獣の場合は、学園のセキュリティを信用できず、他の人目のない所で訓練するのだ。
そんな状態であるため、レナ達がいきなり行っても個室は空いており、そこでの訓練を希望すればすんなりと通った。
「殿下、わざわざ個室で訓練するんですか?」
個室で訓練するほど、ポポに何かあるのだろうか?
レナが不思議に思って尋ねれば、念のためだと言われた。
「それは『呪具』を使用して作った式神ゆえ、普通の使い魔と少し違う。それに、予想外の結果となってそれが生まれた。なれば能力も想像を超えるものとなるだろう。用心に越したことは無い」
それに成るほどと納得し、レナは個室へ向かう先輩の背を追いかける。
後に思い返してみれば、この時チアンは何が起こるのか大体想像していたのだろう。だからこそ、人目のない個室を選んだのだ。
レナはそれに気付いた時、先に言って欲しかったなぁ、と遠い目をした。
***
個室の訓練場は、そこそこの広さがあった。大型の召喚獣でも無ければ、教室一つ分なら十分な広さだろう。
訓練場には丸太が設置してあり、そこに向けて技を放てという事なのだろう。
その丸太をポポがペチペチと叩いており、とてもじゃないが戦闘が出来る使い魔――式神には見えない。
「さて、レナ。式神の戦闘方法だが、あれは呪法ゆえ、魔力の譲渡が必要となる」
「魔力の譲渡?」
それは錬金術の際に物品に魔力を通すのと同じ感じかと尋ねれば、もっと簡単だと言われた。
「レナが……、そうだな、あの丸太を破壊するようポポに命じると、ポポが勝手に魔力を消費する。つまり、ポポがレナの魔力を使って、魔法を放つと思えばいい」
「ああ、成るほど……」
なんとなく理解できたが、そこでデメリットに気付く。
「それって、ポポが使う魔法でどれくらい魔力を消費するか把握しておかないとまずいですよね。ポポが力を行使するたびに私の魔力が消費されるわけですから……」
「そうだな。だからポポに戦闘を任せる前に把握しておかなければならない」
ポポがとる手段によっては、レナの魔力が全部消費されるという可能性すらある。
これは訓練を勧められず、うっかりトラブルに遭遇したらまずい事になっていたのでは、と冷や汗をかく。
レナはチアンに心から感謝し、ポポを呼んだ。
「ポポ、訓練するからこっちへ来て」
パッ、とこちらを振り向き、ポポが素早く戻って来てレナの肩へよじ登る。
それを確認し、チアンが口を開いた。
「まず、ポポが何が出来るにしろ、譲渡する魔力量の基準値を作っておくと良い」
「基準値、ですか?」
例えば一の魔力が自身の持つ魔力量の百分の一、といった具合に設定しておき、譲渡する魔力量の範囲内で出来る事を命じれば良いのだとチアンは言う。
「あ、確かにそうすれば魔力がとられ過ぎるような事は防げますね」
「そういう事だ」
「よ~し、ポポ~、一の魔力はこれ位ね」
指先に魔力を集めて、ポポの前に持って来る。
小さな魔力の塊を淡い光に変えると、ポポはそれの匂いを嗅ぎ、ぱくんと口に含んでしまった。
「えっ、ちょっ、食べちゃった!?」
「ああ、大丈夫だ。契約主の魔力を式神が食べても不調を起こすようなことは無い」
チアンが慌てるレナに落ち着くよう言う。
「そもそもアレは光に変換していたのだから、傷つけようがない」
「あ、そうでした……」
びっくりしちゃって、というレナに、チアンは薄く苦笑する。
「まあ、これで一の魔力がどの程度の量か理解したのではないか?」
「そう……なんでしょうか? ポポ、一の魔力量はどのくらいか覚えた?」
レナの問いに、ポポはうんうんと頷き、覚えたとジェスチャーを返した。
「なかなか優秀だな」
「ふふっ、偉いね、ポポ」
ポポは嬉しそうに笑い、ギャップの激しい鳴き声を上げた。
さて、魔力量が決まれば、次はポポの能力チェックである。
「ポポは何が出来るんでしょう?」
「手始めに一の魔力量で丸太を攻撃させてみろ」
チアンにそう指示され、レナは頷いてポポに向き直る。
「ポポ、一の魔力量であの丸太を攻撃!」
「ボ」
短く鳴いて、ポポは丸太を見る。
そして――
――ザン!
ポポが丸太をひっかくように腕を振り下ろした。
そうしてレナの元へ戻り、言われた通りにやったよ、とばかりに首を傾げる。
ポポを抱き上げ、その丸太に近づいてチアンと共に丸太の状態を確認する。
「ふむ。深くは無いが、鋭利な刃物……いや、四本並んでいる所から見るに、爪で切り裂いたような跡があるな」
「けど、ポポの爪はこんなに鋭くありませんよ?」
そう言って、腕の中のポポの爪を確認する。ポポの爪は小さくて丸っこかった。
「魔法だろう。風の刃といったところだな」
チアンはそう言って、丸太の傷跡を撫でた。
小型、大型問わず、召喚獣の訓練なら広々とした場所で訓練した方が良いのだろうが、他を気にする神経質な召喚獣や、他人に知られたくない召喚獣と契約している生徒が居るため、個室が用意されているのだ。
しかしながら、その個室の利用頻度は多くない。
神経質な召喚獣は元々契約が難しく、学園の生徒程度では契約まで持ち込めない。そして他人に知られたくない召喚獣の場合は、学園のセキュリティを信用できず、他の人目のない所で訓練するのだ。
そんな状態であるため、レナ達がいきなり行っても個室は空いており、そこでの訓練を希望すればすんなりと通った。
「殿下、わざわざ個室で訓練するんですか?」
個室で訓練するほど、ポポに何かあるのだろうか?
レナが不思議に思って尋ねれば、念のためだと言われた。
「それは『呪具』を使用して作った式神ゆえ、普通の使い魔と少し違う。それに、予想外の結果となってそれが生まれた。なれば能力も想像を超えるものとなるだろう。用心に越したことは無い」
それに成るほどと納得し、レナは個室へ向かう先輩の背を追いかける。
後に思い返してみれば、この時チアンは何が起こるのか大体想像していたのだろう。だからこそ、人目のない個室を選んだのだ。
レナはそれに気付いた時、先に言って欲しかったなぁ、と遠い目をした。
***
個室の訓練場は、そこそこの広さがあった。大型の召喚獣でも無ければ、教室一つ分なら十分な広さだろう。
訓練場には丸太が設置してあり、そこに向けて技を放てという事なのだろう。
その丸太をポポがペチペチと叩いており、とてもじゃないが戦闘が出来る使い魔――式神には見えない。
「さて、レナ。式神の戦闘方法だが、あれは呪法ゆえ、魔力の譲渡が必要となる」
「魔力の譲渡?」
それは錬金術の際に物品に魔力を通すのと同じ感じかと尋ねれば、もっと簡単だと言われた。
「レナが……、そうだな、あの丸太を破壊するようポポに命じると、ポポが勝手に魔力を消費する。つまり、ポポがレナの魔力を使って、魔法を放つと思えばいい」
「ああ、成るほど……」
なんとなく理解できたが、そこでデメリットに気付く。
「それって、ポポが使う魔法でどれくらい魔力を消費するか把握しておかないとまずいですよね。ポポが力を行使するたびに私の魔力が消費されるわけですから……」
「そうだな。だからポポに戦闘を任せる前に把握しておかなければならない」
ポポがとる手段によっては、レナの魔力が全部消費されるという可能性すらある。
これは訓練を勧められず、うっかりトラブルに遭遇したらまずい事になっていたのでは、と冷や汗をかく。
レナはチアンに心から感謝し、ポポを呼んだ。
「ポポ、訓練するからこっちへ来て」
パッ、とこちらを振り向き、ポポが素早く戻って来てレナの肩へよじ登る。
それを確認し、チアンが口を開いた。
「まず、ポポが何が出来るにしろ、譲渡する魔力量の基準値を作っておくと良い」
「基準値、ですか?」
例えば一の魔力が自身の持つ魔力量の百分の一、といった具合に設定しておき、譲渡する魔力量の範囲内で出来る事を命じれば良いのだとチアンは言う。
「あ、確かにそうすれば魔力がとられ過ぎるような事は防げますね」
「そういう事だ」
「よ~し、ポポ~、一の魔力はこれ位ね」
指先に魔力を集めて、ポポの前に持って来る。
小さな魔力の塊を淡い光に変えると、ポポはそれの匂いを嗅ぎ、ぱくんと口に含んでしまった。
「えっ、ちょっ、食べちゃった!?」
「ああ、大丈夫だ。契約主の魔力を式神が食べても不調を起こすようなことは無い」
チアンが慌てるレナに落ち着くよう言う。
「そもそもアレは光に変換していたのだから、傷つけようがない」
「あ、そうでした……」
びっくりしちゃって、というレナに、チアンは薄く苦笑する。
「まあ、これで一の魔力がどの程度の量か理解したのではないか?」
「そう……なんでしょうか? ポポ、一の魔力量はどのくらいか覚えた?」
レナの問いに、ポポはうんうんと頷き、覚えたとジェスチャーを返した。
「なかなか優秀だな」
「ふふっ、偉いね、ポポ」
ポポは嬉しそうに笑い、ギャップの激しい鳴き声を上げた。
さて、魔力量が決まれば、次はポポの能力チェックである。
「ポポは何が出来るんでしょう?」
「手始めに一の魔力量で丸太を攻撃させてみろ」
チアンにそう指示され、レナは頷いてポポに向き直る。
「ポポ、一の魔力量であの丸太を攻撃!」
「ボ」
短く鳴いて、ポポは丸太を見る。
そして――
――ザン!
ポポが丸太をひっかくように腕を振り下ろした。
そうしてレナの元へ戻り、言われた通りにやったよ、とばかりに首を傾げる。
ポポを抱き上げ、その丸太に近づいてチアンと共に丸太の状態を確認する。
「ふむ。深くは無いが、鋭利な刃物……いや、四本並んでいる所から見るに、爪で切り裂いたような跡があるな」
「けど、ポポの爪はこんなに鋭くありませんよ?」
そう言って、腕の中のポポの爪を確認する。ポポの爪は小さくて丸っこかった。
「魔法だろう。風の刃といったところだな」
チアンはそう言って、丸太の傷跡を撫でた。
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