錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

文字の大きさ
上 下
65 / 151
令嬢は踊る

第四十七話 薬草畑

しおりを挟む
 あれから色々と話し合ったが、結局はこちらから何かできる訳でもないので、様子を見るにとどめる事になった。
 そもそも、ジュリエッタが国に帰る可能性が高い。レナはサンドフォード家の娘であり、余程の馬鹿でもない限り、サンドフォード家に喧嘩を売る可能性は低いと見たのだ。
 まあ、気を付けるに越したことは無いので、人気の少ない場所には近づかず、もし何らかのトラブルがあったなら、ジュリエッタに敵意を向けられて理由を話してしまえと指示された。
 そこからチアンに敵意を向けられたらどうするのかと慌てたが、飄々とした顔でどうとでもなる、と言い切られた。チートバグ野郎の名は伊達では無いのだろう。
 だからまあ、レナがすべきは言われた通りに人気のない所には近づかず、あまり一人にならないように気を付けた。
 そして、遠くからジュリエッタ達の視線を感じても気づかないふりをし、目が合えば愛想よく微笑んで会釈し、決して近づかない。
 元々関わり合いの無い人達である。何かしらの感情を含む視線はジュリエッタのものだけで、彼女の周りに侍る男達からは何もない。むしろ、チアンの方に意識が向けられているようだった。
 そうした事があって、自意識過剰だったかと胸をなでおろしていた、ある日の事である。
 レナは油断していたのだ。彼女達からはレナに対して何のアクションも無かったから。
 だから、一人で、ある人物と鉢合わせしてしまったのだ。

 その日、レナは学園の薬草畑に来ていた。
 薬草畑は学園の端、敷地からはずれた場所にあり、生徒が薬草を観察できるように開放されている。
 開放されてはいても採取する事は許されていないが、実物を見れるというのは貴重な機会だ。実際に町の外などで薬草採取をする生徒は、ここで実物を見て採取に向かう者が多い。
 レナもまた間違えやすいと言われている薬草を実際に見てみようと、薬草畑に来た。

「これがメレン草。本当に、ミントそっくり」

 メレン草は錬金術で使われる弱い毒性のある薬草だ。外見はミントとそっくりなのだが、うぶ毛が無く、ミントの葉よりもつやつやとした光沢がある。
 正式名称はメレン草なのだが、一般的にはミントモドキ、などと呼ばれている。
 
「これが魔力を通すと毒性が無くなって、甘味料になるんだから不思議だよね……」

 更に言うならカロリーゼロの甘味料となるので、ダイエット中の女性の強い味方になる。ただし、砂糖特有のコクは無いので、物足りないとも言われている。
 このメレン草は繫殖力が強い多年草であり、需要がある薬草なので、駆け出し冒険者などは冬の間はこの薬草を採取して糊口をしのぐ者も居る。
 ただ、稀にミントと思って採取して摂取してしまい、メレン草の毒に当たって腹を壊す事故が年に数件は報告されている。
 そして、その事故に行き当たったのが幼馴染のエドガーだった。
 酷い下痢で苦しんだ例を身近に知っていたため、レナは念のために薬草の確認をしに来たのだ。
 そうしてメレン草をよくよく観察し、ミントとの違いをチェックして立ち上がる。他の薬草もチェックして行こうかと歩き出した、その時だった。

「あっ」

 思わず、小さな声が漏れた。
 常人では聞こえない筈のそれは、エルフの耳には聞こえたらしく、長い笹耳を持つ美しいその人がこちらを見た。
 思わず緊張に身を固くし、多少ぎこちなくなったが会釈をする。
 彼はこちらに興味が無いようで、特に何の反応も返さずにさっさと歩き去ってしまった。
 レナはバクバクと音を立てる胸に震える手を置き、歩き出す。
 一刻も早く、この場を去りたかった。
 自然と早足になり、早々に薬草畑から出る。
 そして、後ろを振り返ってあの美しい白金の髪を持つエルフの姿が見えない事を確認し、大きく息を吐く。

「何で、ハイエルフがこんな所に……」

 レナが見たのは、『招き屋』に来ていたあのハイエルフだった。
 学園は一般には開放されていないが、一部の薬草畑を除き、比較的育てやすく、貴重でもない薬草を育てているスペースは警備が薄い。校舎は貴人が通う学園でもあるため、警備は厚いのだが、広大なただの畑に割けるほど人手は多くないのだ。
 そのため、薬草畑と校舎の間は壁を隔てており、門には行き来する者をチェックする警備員が常駐している。
 そうした体制であるためか、薬草畑の警備体制は外部の人間も伝手があれば入れたりする程度だ。それに、そもそもこの畑に貴人が来ないので、今までこの警備態勢で問題になった事は無い。
 だから、あのハイエルフも薬草畑に入れたのだろう。
 しかし、排他的な上位種族が、彼等が見下す種族が通う学園に何の用があるというのか……
 
「イヴァン先輩に報告しよう……」

 レナはそう呟き、部室へと駆け出した。



   ***



 長い笹耳を持つ美貌のハイエルフは、薬草畑を歩く。先程すれ違った他種族の雌など既に頭にない。
 そして、しばらく歩き、目的の場所で鳶色の髪の青年を見つける。

「オーランド・ランドール」

 その美声で鳶色の髪の青年――オーランド・ランドールの名を呼ぶと、彼は身を隠していた木陰から姿を現し、恭しく一礼した。

「エリアス様、ご足労いただき申し訳ありません」

 オーランドの言葉にハイエルフの男――エリアスは不愉快そうに眉間に皺をよせ、フン、と鼻を鳴らす。

「仕方があるまい。校外だとお前への監視がきつくなる。そうすると、私の目的が果たせないのだからな」

 そう言って、エリアスはマジックバックから幾つかの袋を取り出し、オーランドに渡す。

「これで、例の物は作れるのだな?」
「はい、もちろんでございます。既に錬金術師とは話をつけております」

 オーランドは渡された物を恭しく受け取り、持っていたマジックバックへ仕舞う。
 
「ふむ。名を堕としたとはいえ、いくらかの人脈は有効のようだな。約束の物を用意したなら、私もお前との約束を守ろう」
「ありがたく存じます」

 そう言って、オーランドは目を細めて薄く笑んだ。

しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。