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令嬢は踊る
第四十五話 婚約3
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あの部室でのやり取りから三日後、ついにアメリアが復学した。
彼女はヘンリーにエスコートされ、学内のカフェで彼と共にお茶を楽しんでいるようだ。
ヘンリーは柔らかく微笑み、アメリアは淡く頬を染めて幸せそうに微笑んでいた。
「チッ、やっぱり上手くやりやがったわ」
「恥ずかしい過去の告げ口程度でアレがしくじるはずが無かったな」
「あれ絶対、見せびらかしてるわ。普通、王族ならあんな丸見えの場所に案内されないもの」
「だから警備が分厚いのか。王家の影だかヘンリーの私兵だかは分からんが、見えない所でガッチガチに守られてるぞ」
「そこまでして自慢したいわけ? 腹が立つわね」
「婚約祝いに置き場に困る置物を贈ってやろう」
「良いわね、それ。『招き屋』に置いてある招き猫ばりに大きい物を贈りましょうよ」
「そうしよう」
そんなカフェの中の様子を、偶然通りかかったヘンリーの悪友二人はそれを遠目に見つつ、おのれリア充と妬みつつ婚約祝いの相談をしている。
その隣で、これまた偶然鉢合わせしたイヴァンとレナが良かったですねぇ、と純粋に祝福している。先輩連中とはえらい違いである。
そうこうしている内にヘンリーもこちらに気付いたらしく、こちらににっこりと笑顔を向けて、ヒラヒラと手を振った。心なしかドヤ顔に見えるのは気のせいだろうか?
ネモとチアンの目が据わったことから、気のせいではなさそうだ。
悪友三人の間に見えない火花が散る横で、こちらに気付いたアメリアがレナに幸せそうに微笑んで小さく手を振った。こちらも、えらい違いである。
そんな新たなカップルと温度差のあるやり取りをしていると、レナの視界の端に、煌びやかな一団が視界の端に入った。
あ、これは不味いかな、と思い、イヴァンの袖を引いて注意を促す。
「イヴァン先輩、あそこにジュリエッタ様が居ます」
「え? ……あ、ホントだ」
ヘンリー達は気付いていないが、彼等の死角にジュリエッタとオーランド、そして見知らぬ四人の男達がおり、どうやら彼等はこちらに気付いていないようだ。
これは気付かれないうちに退散した方が良いかと思い、デート中のヘンリーとどうやってか視線だけで喧嘩している先輩二人に声を掛ける。
「ネモ先輩、チアン殿下」
「うん? どうかした?」
「何だ」
「あの、あそこにジュリエッタ様が居て……」
えっ、と二人は声を漏らし、レナが指し示した方へ視線を向ける。
そして、丁度その時運悪くジュリエッタ達がこちらに気付いた。
ジュリエッタはチアンを見て淡く頬を染めたが、彼の隣にいるレナと目が合ったと思えば、その顔を強張らせた。
意外な反応であった。
レナは彼女に向かって会釈しつつ、困惑する。
自分は吹けば飛ぶ程度の木っ端娘だ。だから、隣国のお姫様が自分相手に何故そんな顔をするのかが分からない。
ジュリエッタがそれに反応を返す前に、レナの肩に手が置かれた。
「行くぞ」
それは、チアンの手だった。
チアンの言葉に頷き、視線をジュリエッタに戻せば、何故か彼女はショックを受けたような顔をしていた。
益々訳が分からなくて、内心首を傾げていると、ネモの呟きが聞こえた。
「あちゃ~、レナちゃんの方へ行っちゃったか」
どうやら、ジュリエッタの様子の意味が分かったらしいネモに視線を向ければ、彼女はそれを受けて「後でね」と言って、チアンと共に踵を返した。
レナは何だか不安になり、イヴァンを見上げる。
すると、彼はレナを安心させるように微笑んで、背に優しく手を添えた。
「まずは、ここから離れよう。大丈夫だよ、皆がついているから」
「はい」
優しく促され、レナは頷いてジュリエッタに背を向けて歩き出す。
肩の上で小猿が不思議そうに首を傾げ、レナの頬にすり寄った。
彼女はヘンリーにエスコートされ、学内のカフェで彼と共にお茶を楽しんでいるようだ。
ヘンリーは柔らかく微笑み、アメリアは淡く頬を染めて幸せそうに微笑んでいた。
「チッ、やっぱり上手くやりやがったわ」
「恥ずかしい過去の告げ口程度でアレがしくじるはずが無かったな」
「あれ絶対、見せびらかしてるわ。普通、王族ならあんな丸見えの場所に案内されないもの」
「だから警備が分厚いのか。王家の影だかヘンリーの私兵だかは分からんが、見えない所でガッチガチに守られてるぞ」
「そこまでして自慢したいわけ? 腹が立つわね」
「婚約祝いに置き場に困る置物を贈ってやろう」
「良いわね、それ。『招き屋』に置いてある招き猫ばりに大きい物を贈りましょうよ」
「そうしよう」
そんなカフェの中の様子を、偶然通りかかったヘンリーの悪友二人はそれを遠目に見つつ、おのれリア充と妬みつつ婚約祝いの相談をしている。
その隣で、これまた偶然鉢合わせしたイヴァンとレナが良かったですねぇ、と純粋に祝福している。先輩連中とはえらい違いである。
そうこうしている内にヘンリーもこちらに気付いたらしく、こちらににっこりと笑顔を向けて、ヒラヒラと手を振った。心なしかドヤ顔に見えるのは気のせいだろうか?
ネモとチアンの目が据わったことから、気のせいではなさそうだ。
悪友三人の間に見えない火花が散る横で、こちらに気付いたアメリアがレナに幸せそうに微笑んで小さく手を振った。こちらも、えらい違いである。
そんな新たなカップルと温度差のあるやり取りをしていると、レナの視界の端に、煌びやかな一団が視界の端に入った。
あ、これは不味いかな、と思い、イヴァンの袖を引いて注意を促す。
「イヴァン先輩、あそこにジュリエッタ様が居ます」
「え? ……あ、ホントだ」
ヘンリー達は気付いていないが、彼等の死角にジュリエッタとオーランド、そして見知らぬ四人の男達がおり、どうやら彼等はこちらに気付いていないようだ。
これは気付かれないうちに退散した方が良いかと思い、デート中のヘンリーとどうやってか視線だけで喧嘩している先輩二人に声を掛ける。
「ネモ先輩、チアン殿下」
「うん? どうかした?」
「何だ」
「あの、あそこにジュリエッタ様が居て……」
えっ、と二人は声を漏らし、レナが指し示した方へ視線を向ける。
そして、丁度その時運悪くジュリエッタ達がこちらに気付いた。
ジュリエッタはチアンを見て淡く頬を染めたが、彼の隣にいるレナと目が合ったと思えば、その顔を強張らせた。
意外な反応であった。
レナは彼女に向かって会釈しつつ、困惑する。
自分は吹けば飛ぶ程度の木っ端娘だ。だから、隣国のお姫様が自分相手に何故そんな顔をするのかが分からない。
ジュリエッタがそれに反応を返す前に、レナの肩に手が置かれた。
「行くぞ」
それは、チアンの手だった。
チアンの言葉に頷き、視線をジュリエッタに戻せば、何故か彼女はショックを受けたような顔をしていた。
益々訳が分からなくて、内心首を傾げていると、ネモの呟きが聞こえた。
「あちゃ~、レナちゃんの方へ行っちゃったか」
どうやら、ジュリエッタの様子の意味が分かったらしいネモに視線を向ければ、彼女はそれを受けて「後でね」と言って、チアンと共に踵を返した。
レナは何だか不安になり、イヴァンを見上げる。
すると、彼はレナを安心させるように微笑んで、背に優しく手を添えた。
「まずは、ここから離れよう。大丈夫だよ、皆がついているから」
「はい」
優しく促され、レナは頷いてジュリエッタに背を向けて歩き出す。
肩の上で小猿が不思議そうに首を傾げ、レナの頬にすり寄った。
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