錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

文字の大きさ
上 下
58 / 151
令嬢は踊る

第四十話 新生物誕生1

しおりを挟む
 アメリアのお見舞いに言った翌日、レナは部室に居た。
 二つ名持ちの錬金術師との差を色んな意味で知ったレナは、中級疲労回復ポーション作りを作りをお休みし、たまには美容用品以外の物も作ってみようと考えていた。
 まあ、息抜きである。

「何がいいかなぁ……」

 そう言いながら捲るのは、錬金術の教本だ。
 その教本には基本的なものしか載っておらず、それに記載されている物は全て作った事がある。
 ならば、何故それを見ているのか――

「うーん……、ドーズの傷薬か……。これ、マンドレイクの粉と聖水を入れたら、軽度の瘴気浄化作用とか持たせられないかな……?」

 それは、この基本となる品々を改良できないかと思ったからだ。
 別に、これらの改良品が無いわけではない。しかし、別のアプローチから新たな発見が無いわけでは無い。
発見があればラッキーだし、無ければ経験になるだけだ。気分転換でもあるので、レナは軽い気持ちで材料を取り出し、鍋の前に立った。

 

   ***



 ――ボァァァァ……

 不気味な声が、『台所錬金術部』の部室に響く。
 レナは汗をダラダラ流しながら、顔色を悪くして正座していた。
 彼女の前には仁王立ちのネモがおり、その顔は『無』だ。

「レナちゃん……」
「はい……」

 厳かな声が、レナの名を呼ぶ。
 イヴァンはレナを心配そうに見つめ、残りの部員達は鍋をガン見している。

「あれは、何ですか?」
「ドーズの傷薬の改良版……に、なる筈だったモノです……」

 ――ボァァァ……

 レナの後ろで、レナ愛用のホーロー鍋からくぐもった声が上がる。

 ――べちゃり

 鍋の縁に手をかけるのは、紫色の粘液性のナニカ。
 そして、それはゆっくりと鍋の縁から顔を出す。
 心霊写真に写る幽霊の如き顔をしたスライムのようなそれは、物珍しそうに周囲を見渡す。

 ――ボァァァ……

「なんっっっで、ドーズの傷薬から新生物が誕生してるの!?」
「わかりませぇぇぇん!」

 そんな、ちょっとした魔物よりも数倍は悍ましい雰囲気を纏ったそれをバックに、レナは半泣きになって顔を両手で覆った。



   ***



 机の上に件の新生物の入った鍋を置き、それを部員達が取り囲む。
 鍋の中の紫色の粘液生物は、あっくんに物珍しそうにツンツンされ、迷惑そうに顔を顰めている。

「ドーズの根、クラレシアの精製液、プーレの葉、マンドレイクの粉、そして聖水……」

 ネモが読み上げているのは、レナが目の前の新生物を創り出した際に使った材料である。
 それが描いてあるメモ書きを、四年の先輩達は顔を寄せ合って覗き込んでいる。

「嘘でしょ……。何でこの材料でコレが生まれるの……?」
「魔力の関係とか、そういう事は無いのか?」
「あり得ないわよ!」
「しかし、現実にはあり得ているが」

 そうして先輩達はメモ書きから顔を上げ、信じらんねぇ、と言わんばかりの表情で新生物を見る。

「レナ、あの材料以外に何か入れなかった?」
「入れてないですぅぅぅ……」

 イヴァンの質問に、レナは半泣きで首を横に振る。
 そんなレナの様子に、彼は首を傾げる。

「それじゃあ、材料の方に何か混ざってたのかな? その材料、何処で手に入れたの?」
「えっと、ドーズの根とプーレの葉は自分で採って来て、クラレシアの精製液は『ゼメイン薬剤店』で――」
「え、マジか?」

 その薬剤店の名を聞き、ヘンリーが反応した。

「もしかして、『ゼメイン薬剤店』に何かあるんですか?」
「あー……」

 イヴァンの質問に、ヘンリーに視線が集まる。
 ヘンリーはどうしたもんか、と困ったように視線を彷徨わせ、言える所だけな、と言い置いて告げる。

「あそこ、ちょっと前からヤバイんじゃないか、って噂があってな。まあ、調べてる最中だ」
「えっ⁉」
「うっそ、『ゼメイン薬剤店』よ? パレンダ婆さんがそんなヤバイもの売るかしら?」

 レナは驚きの声を上げ、ネモもそれに反論する。
 パレンダ婆さんは御年七十八歳のベテラン薬師である。彼女の店の薬剤は全て品質が良く、『ゼメイン薬剤店』の品は安心して買えると評判だった。
 しかし、ヘンリーは肩を竦めて言う。

「代替わりしたんだよ。パレンダ婆さんは弟子に後を任せたんだが、その弟子が下手をうって店を乗っ取られたんだ」

 その情報に、錬金術師三人は顔を顰めた。

「それ、いつ頃の話ですか?」
「三か月くらい前だな」

 じゃあ、それ以降に買ったものはチェックしないと、とイヴァンが呟く。
 レナも『ゼメイン薬剤店』で買った物を脳内でピックアップしながら、渋い顔をする。

「まあ、何にせよ、その薬液に何か混ざっていたのだろうな」

 ――ボァァァ……

 チアンの冷静な声に重なるように、鍋の中の新生物が鳴く。
 『ゼメイン薬剤店』のことを話す先輩達を横目に、改めて新生物を見て、レナは眉を下げる。

「それにしても、コレはどうすれば……」

 対処の仕方は魔物と一緒で良いのだろうか? 何だか違う生物に思えて仕方がないのだが……
 そう思いながら新生物を見ていると、チアンがふと何か思い立ったように懐から東国風の、小さい猿を模した面を取り出した。
 それは金の縁取りが施されており、ちょっとした装飾品のように見えた。
 
「レナ、これを使ってみると良い」

 それを見て、レナは首を傾げる。

「チアン殿下、これは何ですか?」
「これは式神――、こちらで言う使い魔を作る際に用いる面だ」
「使い魔」

 契約召喚獣は幻獣に対して行う契約魔法の一種だが、使い魔は知能の低い魔物を縛り、使役する魔法だ。

「まあ、一応呪法なのだが、この面が代償変わりになり、支払うものは魔力だけで済む。レナの魔力量なら十分の一程度だろう」
「成るほど」

 無益な殺生をするより、使い魔に出来るのならそうした方が良いのかもしれない。
 本当に使って良いのか尋ねるが、構わないと言われたので素直に礼を言う。
 そうして面を渡され、使い方を説明される。
 レナは小さな猿面を持ち、緊張した面持ちで紫色の新生物の前に立った。

しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。