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令嬢は踊る

第三十四話 魔性の女3

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「結局、婚約を解消をしてまでジュリエッタ様に惚れこんでいる方って、どれくらい居るんでしょうか?」
「そうだね……。ジュリエッタ嬢を選ぶという事は、これまで築き上げて来た物と捨てると同義だから、そこまでではないと思いたいけど……」
「すでに下手な別れ方をした方がオーランド様を含めると五人も居らっしゃいますし……。ジュリエッタ様はパートナーの居る方とは二人きりで長時間ご一緒する事はありませんし、フリーの方もそうです。ですから、殿下がおっしゃったように強引に共いる方――長時間行動を共にされている方は確定と見て良いのではないでしょうか?」

 うーん、と考え込むレナ達三人に、ネモが微妙な顔をして言う。

「なーんか、そのうちラノベの逆ハーレム状態が見られるようになりそうよね」
「そういえば、人気があったな。確か、悪役令嬢モノの花畑ヒロインがそんな感じじゃなかったか?」
「囲まれそうなヒロインは花畑脳じゃ無いし、役どころは虐げられた悪役令嬢だがな」

 そんな会話をしながら、ヘンリーが花畑ヒロインだったらさっさと追い出せのに、と重い溜息をつく。

「問題を起こすなら、ぜひ自国でして欲しかった。何故、うちでするのか」
「あんたの所のクソバカボンボンが招いた所為でしょ」
「そういえば、そのクソバカボンボンは今どうしているのだ? ジュリエッタ嬢もそろそろこの国に慣れてくるころだろうし、後任になりそうな男達が彼女の周りをうろついているのだろう?」

 オーランドの父親であるランドール公爵はジュリエッタの留学を歓迎していらずとも、息子が留学を勧めた手前無碍にも出来ず、オーランドに暫く世話をするように指示をした。
 そのため、オーランドの勝手な行動による処分は先送りにされていた。
 しかし、その処分の先送りも、ジュリエッタが学園に慣れるまでの話だ。そろそろ処分が下されてもおかしくは無い。

「取りあえず、奴の判断次第だな。ジュリエッタ嬢の傍に居たいと馬鹿なことを言い続けるなら家から籍を抜き、放逐。反省してジュリエッタ嬢から離れるなら、家の仕事を手伝いながらほとぼりが冷めるのを待つことになる」

 馬鹿な事をしなければ、最低でも中級文官スタートの華々しい未来があっただろうに、と言うヘンリーに、そこまで優秀な人だったのかとレナは目を丸くする。
 中級文官は、言うなれば文官達のまとめ役候補だ。いわゆるエリートである。
 上級文官がそれぞれの部署を統括するのだが、その責任ある立場を任せられるかどうか精査されるのだ。

「だが、今回の婚約解消の仕方がまるで駄目だったからな。上に立たせるには不安しかない。ほとぼりが冷めたところで、得られる地位は低いだろうな」

 一度の馬鹿な行いが、後々まで尾を引く典型的な例だ。

「けど、問答無用で除籍とかじゃないのね」
「まあな。何だかんだフーリエ公爵家に貸しを作ったし、やった事は婚約解消だからな。反省するならかなりギリギリだが、除籍まではしない」
「でもそれってアメリア嬢――もとい、オルセン伯爵はそれで良しとしているの?」
「まあ、良くは無いな。けど、そこで手を打つべきとは理解してると思うぜ? アメリア嬢の婿が奴と別れて良かったと思えるような、身分も、財産も、才覚も、上等な奴が迎えられれば腹の虫は多少治まるだろう」

 どこかに良い条件の奴いねーかな、とぼやくヘンリーを横目に、レナはエラに尋ねる。

「そういえば、アメリア様はお体の方はまだ良くないの?」
「そうみたい。今度のお休みにお見舞いに行こうかと思ってるんだけど……」

 逆に気を使わせてしまいそうで心配なのよね、と呟くエラの言葉を聞き、不意にチアンがヘンリーに問う。

「ふと思ったんだが、ヘンリーはどうなんだ?」
「うん? 何がだ?」

 ヘンリーがチアンの方を向き、首を傾げる。

「だから、アメリア嬢の相手だ。金があって、職位は定まってないが、王子だ。いくつもの事業に関わっていて、才覚もある。オルセン伯爵家は王家派のランドール公爵家と縁を繋ごうとしたのだから、王族と縁を繋ぐのも問題ないのではないか?」

 その言葉に、ヘンリーのみならず、その場の人間全員がポカンと呆気にとられた。
 一番最初に我に返ったのは、ヘンリーだった。
 すぐさま考える態勢に入り、呟く。

「確かに、その通りだな? 俺にとっても、オルセン伯爵家にとっても都合が良い。それに何より――」

 クワッ、と目を見開き叫ぶ。

「アメリア嬢は、可愛い! タイプだ! マジかよ、イケるか⁉ 俺にもついに春が⁉」

 よっしゃぁぁぁぁ! と両手を振り上げて浮かれ騒ぐヘンリーに、ネモとチアンが生暖かい視線を送り、レナ達は目を丸くする。
 そんなレナ達を見てネモやチアンが語るところによると、この男、王子様のくせにモテないそうなのだ。
 なにせ妾妃の子であり、父である前国王が気まぐれに手を出したメイドに子供が出来た恥かきっ子である。
 妾妃となった母も、権力を前に従わなければならなかっただけで、そんな父である国王の事が実は嫌いだった。そのため、その子供であるヘンリーの事も受け入れられなかったのだ。
 そんな女性だったから、彼女は早々に妾妃の座から退き、とある文官の元へ未練なく嫁いでいった。そしてヘンリーは王宮に一人残され、更には父である王はヘンリーに興味を示さなかった。
 そんな両親であるから、ヘンリーは庇護者に恵まれず、現国王であり、当時王太子であった兄が見かねて世話をするようになったくらいに割と悲惨な身の上だ。
 そんな身分であったため、ヘンリーと繋がりを持とうとする者はおらず、頭角を現し始めた頃には年頃のまともな娘達は既に売り切れ状態だった。
 お陰様でヘンリーに近づいてくる女は、問題アリのろくでもないない女ばかりだ。
 そんな中でようやくまともな女性と縁が出来そうなのだ。これは喜ばずにはいられないだろう。
 そんな自国の王子の浮かれぶりに、レナもまた「よかったですねぇ」と生暖かい視線を送ったのだった。

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