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令嬢は踊る
第二十五話 当日
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イヴァン・ウッドは、現在、恋をしている。
相手は一つ年下のレナ・サンドフォードである。
レナはこの国の女性の平均身長より背が低く、横に並ぶと彼女の頭はイヴァンの肩くらいまでしかない。
そして、彼女は勤勉で努力家。彼女はよくネモに教えを請い、それを実践している。彼女に先輩、先輩、と慕われ、ピヨピヨと雛鳥のように後ろをついて行くさまが羨ましく、思わず嫉妬した事は数知れず。
その度に面白そうに、ニヤ~、と笑われるのだが、それでも懲りずにそんな感情を抱いてしまうのだから、恋とは厄介だ。
そして、そのレナだが、彼女もイヴァンの事をそれなりに好いてくれているのではないかと、彼は仄かな期待を抱いている。
だって、レナは自分と二人で出かける時、格好も、浮かべる表情も、とっても可愛いのだ。
レナが普段学園で着ている服は、機能性重視で少し素っ気ないものだ。
年頃の娘らしくお洒落にもそれなりに気を使っているが、他の令嬢と比べると、地味と言える。
イヴァンが見たところ、レナは別にお洒落が嫌いなわけでは無いようだ。しかし、自分があからさまにお洒落するのが気恥かしいと思っているようだった。
休日の際に外出するとなれば、それは学園へ行く日常から外れるからか、特別感を感じてお洒落するのに抵抗は少なくなるようで、彼女はそれなりに可愛らしい恰好をする。
しかし、それに輪をかけるようにして可愛い恰好をするのは、イヴァンと二人で出かける時だ。
いつも可愛いけど、いつもより可愛いな、と思ったのは、二人で出かけるようになって、何度目かでの事だった。
何が違うんだろう、とチラチラ見ていて、気付いた。
爪が、ピカピカだった。
レナは錬金術師となるべく手を使い、汚れる作業をするので、爪は短く、磨かず、マニキュアだって塗らない。それをする時間があれば、錬金術の勉強に費やすのだ。
そんなレナの頑張り屋で、小さく可愛い手の爪が、ピカピカだった。
これは、つまり、自分と会うために磨いて来てくれたのだ。
イヴァンはそれに気付いた時、一気に顔に血が上り、言いようのない胸の高鳴りを覚えた。
きっと、いつもより可愛い彼女は、イヴァンが気付けない部分でいつもよりお洒落をしてきているのだろう。
残念ながらイヴァンはそれにすぐ気付けるような気の利く男ではないので、それがどれか分からない。
だけど、それが何処か見つけようと探すし、そうやってお洒落してきてくれる彼女が可愛くて、嬉しくてたまらない。
今日もまた、待ち合わせ場所にいつもより可愛いレナがやって来る。
「すみません、イヴァン先輩。お待たせしましたか?」
「ううん、全然待ってないよ」
いつもより可愛くしている所は何処だろうな、とピカピカの爪をしたレナを見つめる。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
にこっ、と彼女が微笑むと、ポン、とイヴァンの胸に軽やかに花が咲く。
可愛いなぁ、幸せだなぁ、と噛みしめて、イヴァンはそっと彼女の隣に並ぶ。
買い出しなんて名目を使わず、いつか必ず『デート』に誘うのだと、イヴァンはひっそり誓い、丸まりそうな背中を伸ばす。
そうして、イヴァンとレナは『買い出しデート』へ行くべく、歩き出した。
***
ランタナ王国の王都の端には、職人街と呼ばれる区画がある。
そこには、職人達が経営する店が軒を連ねている。
職人街の始まりは、鍛冶屋の出す騒音や、火を使う職である事を鑑みて、安全面から町の端に店を構えさせた事からだと言われている。
そこから実験で稀に釜を爆発させる錬金術師や、強い匂いをさせる数多の薬草を使う薬師、稀に呪いの品が持ち込まれる道具屋、町の景観を損なうと追い出された色物素材屋などがそこに流れ着き、いつの間にかその区画は膨れ上がり、職人街と呼ばれるようになった。
そんな職人街の区画は、雑然とし、入り組んだ造りとなっている。これは計画性が無く、町の端に付け加えるように店が建って行ったせいだ。
そんな、迷路のような職人街をレナとイヴァンは歩く。
職人街の道はそれなりに幅があるはずなのに、人が通れる道は狭い。それもこれも、店先に荷物や商品を積んで、道幅を狭くしているせいだ。
そんな細い道なものだから、人通りは自然と密となる。連れだって出掛け、その連れと逸れるなど珍しくなく、逸れた者同士が予め決めていた店で苦笑いしながら落ち合う姿はよくある光景だ。
そんな職人街だから、逸れないようにとレナとイヴァンは手を繋いで歩く。
この、手を繋いで歩く、というのは最近では恒例となっている。これが恒例と言えるほどに慣れるまでは、イヴァンが挙動不審気味になりながら、顔を真っ赤にさせて逸れるといけないから手を繋ごう、と手を差し出す姿に、レナは毎回、どうしようもなく胸がキュンと鳴る。
そうして、今もまた、レナの手はイヴァンの大きな手に繋がれている。
相手は一つ年下のレナ・サンドフォードである。
レナはこの国の女性の平均身長より背が低く、横に並ぶと彼女の頭はイヴァンの肩くらいまでしかない。
そして、彼女は勤勉で努力家。彼女はよくネモに教えを請い、それを実践している。彼女に先輩、先輩、と慕われ、ピヨピヨと雛鳥のように後ろをついて行くさまが羨ましく、思わず嫉妬した事は数知れず。
その度に面白そうに、ニヤ~、と笑われるのだが、それでも懲りずにそんな感情を抱いてしまうのだから、恋とは厄介だ。
そして、そのレナだが、彼女もイヴァンの事をそれなりに好いてくれているのではないかと、彼は仄かな期待を抱いている。
だって、レナは自分と二人で出かける時、格好も、浮かべる表情も、とっても可愛いのだ。
レナが普段学園で着ている服は、機能性重視で少し素っ気ないものだ。
年頃の娘らしくお洒落にもそれなりに気を使っているが、他の令嬢と比べると、地味と言える。
イヴァンが見たところ、レナは別にお洒落が嫌いなわけでは無いようだ。しかし、自分があからさまにお洒落するのが気恥かしいと思っているようだった。
休日の際に外出するとなれば、それは学園へ行く日常から外れるからか、特別感を感じてお洒落するのに抵抗は少なくなるようで、彼女はそれなりに可愛らしい恰好をする。
しかし、それに輪をかけるようにして可愛い恰好をするのは、イヴァンと二人で出かける時だ。
いつも可愛いけど、いつもより可愛いな、と思ったのは、二人で出かけるようになって、何度目かでの事だった。
何が違うんだろう、とチラチラ見ていて、気付いた。
爪が、ピカピカだった。
レナは錬金術師となるべく手を使い、汚れる作業をするので、爪は短く、磨かず、マニキュアだって塗らない。それをする時間があれば、錬金術の勉強に費やすのだ。
そんなレナの頑張り屋で、小さく可愛い手の爪が、ピカピカだった。
これは、つまり、自分と会うために磨いて来てくれたのだ。
イヴァンはそれに気付いた時、一気に顔に血が上り、言いようのない胸の高鳴りを覚えた。
きっと、いつもより可愛い彼女は、イヴァンが気付けない部分でいつもよりお洒落をしてきているのだろう。
残念ながらイヴァンはそれにすぐ気付けるような気の利く男ではないので、それがどれか分からない。
だけど、それが何処か見つけようと探すし、そうやってお洒落してきてくれる彼女が可愛くて、嬉しくてたまらない。
今日もまた、待ち合わせ場所にいつもより可愛いレナがやって来る。
「すみません、イヴァン先輩。お待たせしましたか?」
「ううん、全然待ってないよ」
いつもより可愛くしている所は何処だろうな、とピカピカの爪をしたレナを見つめる。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
にこっ、と彼女が微笑むと、ポン、とイヴァンの胸に軽やかに花が咲く。
可愛いなぁ、幸せだなぁ、と噛みしめて、イヴァンはそっと彼女の隣に並ぶ。
買い出しなんて名目を使わず、いつか必ず『デート』に誘うのだと、イヴァンはひっそり誓い、丸まりそうな背中を伸ばす。
そうして、イヴァンとレナは『買い出しデート』へ行くべく、歩き出した。
***
ランタナ王国の王都の端には、職人街と呼ばれる区画がある。
そこには、職人達が経営する店が軒を連ねている。
職人街の始まりは、鍛冶屋の出す騒音や、火を使う職である事を鑑みて、安全面から町の端に店を構えさせた事からだと言われている。
そこから実験で稀に釜を爆発させる錬金術師や、強い匂いをさせる数多の薬草を使う薬師、稀に呪いの品が持ち込まれる道具屋、町の景観を損なうと追い出された色物素材屋などがそこに流れ着き、いつの間にかその区画は膨れ上がり、職人街と呼ばれるようになった。
そんな職人街の区画は、雑然とし、入り組んだ造りとなっている。これは計画性が無く、町の端に付け加えるように店が建って行ったせいだ。
そんな、迷路のような職人街をレナとイヴァンは歩く。
職人街の道はそれなりに幅があるはずなのに、人が通れる道は狭い。それもこれも、店先に荷物や商品を積んで、道幅を狭くしているせいだ。
そんな細い道なものだから、人通りは自然と密となる。連れだって出掛け、その連れと逸れるなど珍しくなく、逸れた者同士が予め決めていた店で苦笑いしながら落ち合う姿はよくある光景だ。
そんな職人街だから、逸れないようにとレナとイヴァンは手を繋いで歩く。
この、手を繋いで歩く、というのは最近では恒例となっている。これが恒例と言えるほどに慣れるまでは、イヴァンが挙動不審気味になりながら、顔を真っ赤にさせて逸れるといけないから手を繋ごう、と手を差し出す姿に、レナは毎回、どうしようもなく胸がキュンと鳴る。
そうして、今もまた、レナの手はイヴァンの大きな手に繋がれている。
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