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令嬢は踊る
第二十三話 美容用品2
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「ああ、もう! ほら、気にしないの! 値段はアレだけど、お金で買えないなんて事は無いから! 特許を取って、製造法は公開してあるのよ。作ろうと思えば誰だって作れるから!」
「いや、誰でも作れねぇよ。腕の良い錬金術師がコツを掴むまでどれだけ苦労すると思ってんだ。あの適量だらけのレシピなんざ、物好き以外は手を出さんぞ」
狼狽えるレナ達にネモがそう声を掛けるが、ヘンリーの言葉で台無しになる。
お前はもう喋るな! とネモが怒りの張り手を食らわせ、ヘンリーがダウンする。
流石は熟練の問題児。王子相手でも容赦がない。
蛮勇の王子に、カンラ帝国の皇子が黙祷をささげる。
そうやってわちゃわちゃしている内に、レナとエラはどうにか落ち着きを取り戻す。
ネモが淹れた紅茶を飲んでホッと一息つき、作業が終わって乳鉢などを片付ける先輩達の様子を見つめる。
そして、レナはふと思い出す。
「そういえば、ヘンリー殿下はネモ先輩に護衛依頼をしたんですか?」
「したぞ。それから、チアンに囮依頼もした」
「囮として働けと言うなら、最初からそう言えばいいのだ」
「いや、提案した私が言うのもなんだけど、他国の皇子相手に普通はそんな依頼は出さないわよ」
「私は気にしないが?」
かすり傷一つ負わない自信がある、と言って飄々とするチアンに、ネモとヘンリーが、チートバグ男め……、と声を揃えて呻く。
「それで、私がチアンの周りをうろついたらジュリエッタ嬢は動くの?」
「さあな。まあ、王妃教育まで進んでる令嬢が自分の欲の為に動くなんて事はそうは無いだろう。とにかく、オーランドがこれ以上やらかさなければそれで良い」
「まあ、依頼主のアンタがそう言うなら私は別にそれで良いんだけど……」
「何だよ」
言い淀むネモを、ヘンリーが不審そうに見る。
「美人で、男心を掴むのが上手で、隣国の公爵家の娘で、婚約者だった男に冤罪吹っ掛けられるなんていう可哀そうな過去付き」
ピッ、と人差し指を立て、彼女は言う。
「地雷女の気配がするわ」
***
九月の終わり。
残暑も和らぎ、着るものに迷う時期だ。
レナは翌日の休養日に、イヴァンと共にクラブの買い出しに行く約束をしていた。
さて、何を着ていくべきか。
養子入りし、一学年の学期が終わってからレナは寮を出て、自宅通学をしていた。そのため、選べる服の選択肢が多い。
暑いかもしれないし、曇ると冷えるかもしれないし、とか思いながら、クローゼットの中身を漁る。
「やっぱり、七分袖よね。一応、カーディガンを持って行こうかしら……」
お金持ちの家なので、ウォークインクローゼットがあるのだが、慣れないレナはそちらにお高い洋服を仕舞い、小さなクローゼットに元から持っている服を入れている。
しかしながら、イヴァンとの買い物である。素直な本音は、もっと可愛い服であの人の隣を歩きたい、である。
そうなると、レナの視線は自然とウォークインクローゼットに向く。お高いだけあって、可愛い服が多いのだ。
しかし、それで良いのか、という葛藤が胸に起こる。これは、養子に来た娘としての遠慮だろう。
「うう……、でも、可愛い服が着たい……」
「着ればいいじゃない」
突然後ろからそう言われ、レナは悲鳴を上げて飛びずさる。
「きゃわぁぁぁぁ!?」
「あらあら、驚かせちゃった?」
ノックはしたのよ~、と言うのは、レナの養母であるエセルだ。
「何度もノックをして呼んだのだけど、返事が無いから入ってきちゃった。ごめんなさいね?」
「い、いいえ、こちらこそ、すみません。気付かなくて……」
バクバクと跳ねる胸を押さえ、レナはエセルを見る。
「あの、それで、何の御用でしょうか?」
「ほら、前に見せてもらったファンデーションとかの事でちょっと聞きたい事があったの」
ネモから貰ったファンデーションと美白美容ポーションだが、レナはそれをすぐにエセルに見せ、その日は二人で大いに盛り上がった。
そして、ファンデーションを仲良く半分こし、美白美容ポーションはそのままエセルにプレゼントした。それにエセルは大喜びし、彼女から熱烈に抱きしめられたのは記憶に新しい。
「実はあの美白美容ポーション、すっごく効果があったの。ファンデーションも買えそうなら欲しいのだけど、無理そうなら美白美容ポーションだけでも頼みたくて……」
難しいかしら? と小首を傾げる養母に、レナはう~ん、と唸る。
「製作者の方は知ってるので、依頼は出来ると思うんですけど……」
「あら! じゃあ、お願いしても良いかしら?」
それに頷きつつ、ファンデーションと美白美容ポーションの値段を躊躇いがちに言えば、大丈夫、それぞれ三ダースはお願いしたいわ! と弾む声で言われた。
サンドフォード家の財力に、改めて慄く。
「いや、誰でも作れねぇよ。腕の良い錬金術師がコツを掴むまでどれだけ苦労すると思ってんだ。あの適量だらけのレシピなんざ、物好き以外は手を出さんぞ」
狼狽えるレナ達にネモがそう声を掛けるが、ヘンリーの言葉で台無しになる。
お前はもう喋るな! とネモが怒りの張り手を食らわせ、ヘンリーがダウンする。
流石は熟練の問題児。王子相手でも容赦がない。
蛮勇の王子に、カンラ帝国の皇子が黙祷をささげる。
そうやってわちゃわちゃしている内に、レナとエラはどうにか落ち着きを取り戻す。
ネモが淹れた紅茶を飲んでホッと一息つき、作業が終わって乳鉢などを片付ける先輩達の様子を見つめる。
そして、レナはふと思い出す。
「そういえば、ヘンリー殿下はネモ先輩に護衛依頼をしたんですか?」
「したぞ。それから、チアンに囮依頼もした」
「囮として働けと言うなら、最初からそう言えばいいのだ」
「いや、提案した私が言うのもなんだけど、他国の皇子相手に普通はそんな依頼は出さないわよ」
「私は気にしないが?」
かすり傷一つ負わない自信がある、と言って飄々とするチアンに、ネモとヘンリーが、チートバグ男め……、と声を揃えて呻く。
「それで、私がチアンの周りをうろついたらジュリエッタ嬢は動くの?」
「さあな。まあ、王妃教育まで進んでる令嬢が自分の欲の為に動くなんて事はそうは無いだろう。とにかく、オーランドがこれ以上やらかさなければそれで良い」
「まあ、依頼主のアンタがそう言うなら私は別にそれで良いんだけど……」
「何だよ」
言い淀むネモを、ヘンリーが不審そうに見る。
「美人で、男心を掴むのが上手で、隣国の公爵家の娘で、婚約者だった男に冤罪吹っ掛けられるなんていう可哀そうな過去付き」
ピッ、と人差し指を立て、彼女は言う。
「地雷女の気配がするわ」
***
九月の終わり。
残暑も和らぎ、着るものに迷う時期だ。
レナは翌日の休養日に、イヴァンと共にクラブの買い出しに行く約束をしていた。
さて、何を着ていくべきか。
養子入りし、一学年の学期が終わってからレナは寮を出て、自宅通学をしていた。そのため、選べる服の選択肢が多い。
暑いかもしれないし、曇ると冷えるかもしれないし、とか思いながら、クローゼットの中身を漁る。
「やっぱり、七分袖よね。一応、カーディガンを持って行こうかしら……」
お金持ちの家なので、ウォークインクローゼットがあるのだが、慣れないレナはそちらにお高い洋服を仕舞い、小さなクローゼットに元から持っている服を入れている。
しかしながら、イヴァンとの買い物である。素直な本音は、もっと可愛い服であの人の隣を歩きたい、である。
そうなると、レナの視線は自然とウォークインクローゼットに向く。お高いだけあって、可愛い服が多いのだ。
しかし、それで良いのか、という葛藤が胸に起こる。これは、養子に来た娘としての遠慮だろう。
「うう……、でも、可愛い服が着たい……」
「着ればいいじゃない」
突然後ろからそう言われ、レナは悲鳴を上げて飛びずさる。
「きゃわぁぁぁぁ!?」
「あらあら、驚かせちゃった?」
ノックはしたのよ~、と言うのは、レナの養母であるエセルだ。
「何度もノックをして呼んだのだけど、返事が無いから入ってきちゃった。ごめんなさいね?」
「い、いいえ、こちらこそ、すみません。気付かなくて……」
バクバクと跳ねる胸を押さえ、レナはエセルを見る。
「あの、それで、何の御用でしょうか?」
「ほら、前に見せてもらったファンデーションとかの事でちょっと聞きたい事があったの」
ネモから貰ったファンデーションと美白美容ポーションだが、レナはそれをすぐにエセルに見せ、その日は二人で大いに盛り上がった。
そして、ファンデーションを仲良く半分こし、美白美容ポーションはそのままエセルにプレゼントした。それにエセルは大喜びし、彼女から熱烈に抱きしめられたのは記憶に新しい。
「実はあの美白美容ポーション、すっごく効果があったの。ファンデーションも買えそうなら欲しいのだけど、無理そうなら美白美容ポーションだけでも頼みたくて……」
難しいかしら? と小首を傾げる養母に、レナはう~ん、と唸る。
「製作者の方は知ってるので、依頼は出来ると思うんですけど……」
「あら! じゃあ、お願いしても良いかしら?」
それに頷きつつ、ファンデーションと美白美容ポーションの値段を躊躇いがちに言えば、大丈夫、それぞれ三ダースはお願いしたいわ! と弾む声で言われた。
サンドフォード家の財力に、改めて慄く。
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