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令嬢は踊る
第二十話 錬金術2
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「これは入れる分量は適量だけど、入れる順番は決まってるの」
そう言って、ネモは瓶を並べ替える。
そして、竈に火を入れて大きな木べらで錬金釜の中をゆっくりとかき混ぜる。
「まずは過熱。少しずつ魔力を浸透させる。……あ、先に行っとくけど、この木べらは特注のもので、中にオリハルコンの芯があるの。これがあると魔力通りが良くて、繊細な魔力操作が楽になるわ」
錬金釜を使って煮るのもそれが理由、と付け加える。
「あの、ネモ先輩。やっぱり、錬金釜を使うと品物の出来は違ってきますか?」
「そりゃぁね。普段作ってるポーション類程度の物なら鍋で十分だけど、繊細な魔力操作が必要なら断然、錬金釜を使うべきね。ただし、錬金釜頼りになるようじゃ、二流止まりよ。絶対に失敗できない物を作る時や、今回のように適量だらけで、作る物の様子を見ながら最高の物を作る時くらいしか私は使わないわ」
「そうなんですか……」
一流の錬金術師の言葉に、レナは深く感じ入る。
錬金釜は、錬金術師にとって共に育って行く相棒であると言われている。
それは、この目の前に在る錬金釜に、緻密に刻まれている魔術紋様が理由だ。錬金釜は、使い手である錬金術師の手によってカスタマイズされて行くのである。
元は、職人の手によって作られた錬金術師用の釜だ。その質は職人の腕によってそれなりに違いはあるだろうが、材質は変わらず、どの錬金術師も錬金釜に関しては妥協しないので、大抵は腕の良い職人に頼むために出来上がりにそう大きな違いは無い。
そんな錬金釜に、錬金術師は自分の使いやすいように魔術紋様を刻んでいく。それによって熱の浸透率や、魔力濃度の浸透率、それの回り方、抜け方、その他にも細々としたものが変わっていく。
レナも養子入りした時にお祝いと称して比較的小さめの錬金釜をネモから貰い、それで練習し、十分に経験を積んでから大釜の方へ魔術紋様を刻むように言われた。
サンドフォード家のレナの研究室には大きな錬金釜があるが、一度使って爆発させた事がある。
幸い部屋が吹き飛ぶような爆発ではなく、煤だらけになるだけで済んだが、レナは深く反省した。今はネモの言いつけ通りに小さい釜を使って調合し、自分に向いている魔術紋様を探している。
さて、そんな錬金釜を持ち出した熟練の錬金術師が作るファンデーションとは、いったいどんなものになるのか。自然と期待が高まった。
釜の中身が沸騰したところで、ネモは大化け貝の螺鈿の粉末を取り出す。
「これを、薬さじで少しずつ加える」
本当に僅かな量が釜の中へサラサラと落ちた。
変化は、劇的だった。
ドロリとした緑色のそれが、一気に黄土色へと変化したのだ。
ぎょっと目を剥く一同を尻目に、ネモは薬さじの半分程度の量を少しずつ加える。そして、黄土色が綺麗な黄色になったところでその手を止め、木べらでよくかき混ぜる。
「次はマンドレイクの精製液」
スポイトでまず三滴加えられ、混ぜ、更に三滴。そうして、青臭い匂いが消え、色が黄味がかった乳白色となる。
「次の工程の前に、火を止めるわ」
そう言って、薪を全て隣の竈へ移動させる。
「次はかなり大きな反応になるから、ちょっと下がって」
「はい」
レナ達は素直に頷き、一歩下がる。
そんなレナ達を確認し、ネモはブルーマウスの花の精製液を取る。そして、それをスポイトで一滴――
――ボッ!
「わっ⁉」
「きゃっ⁉」
大きな音を立て、大きく水蒸気が上がった。
レナとエラは驚き、小さく悲鳴を上げる。育ちの違いが分かる悲鳴だった。
そして、八度それを繰り返し、後はただひたすら錬金釜をかき混ぜる。
「後の反応は静かだから、近づいて良いわよ」
そう言われ、大釜を力いっぱい全身を使ってかき混ぜるネモに近づく。
錬金釜の中身は水分がほとんど飛んでおり、今もなお水蒸気の煙が上がっていた。
「えっ、白い……」
錬金釜の中に在る物は、真っ白だった。
まだ少し粘り気のあるそれに、最後の材料を入れる。
「最後は、真珠をすり潰した粉」
そう言って、今度は先程より大きめの薬さじでその粉末を入れていく。入った粉末の量は、二杯だった。
ネモはそれを入れた後、大急ぎでかき混ぜる。
すると、錬金釜の中のものはどんどん水分が抜けていき、とうとう最後には完全な粉の状態になった。
「――よしっ! 後は念のために乳鉢ですり潰すだけね!」
その言葉に、わっと拍手を送る。
そう言って、ネモは瓶を並べ替える。
そして、竈に火を入れて大きな木べらで錬金釜の中をゆっくりとかき混ぜる。
「まずは過熱。少しずつ魔力を浸透させる。……あ、先に行っとくけど、この木べらは特注のもので、中にオリハルコンの芯があるの。これがあると魔力通りが良くて、繊細な魔力操作が楽になるわ」
錬金釜を使って煮るのもそれが理由、と付け加える。
「あの、ネモ先輩。やっぱり、錬金釜を使うと品物の出来は違ってきますか?」
「そりゃぁね。普段作ってるポーション類程度の物なら鍋で十分だけど、繊細な魔力操作が必要なら断然、錬金釜を使うべきね。ただし、錬金釜頼りになるようじゃ、二流止まりよ。絶対に失敗できない物を作る時や、今回のように適量だらけで、作る物の様子を見ながら最高の物を作る時くらいしか私は使わないわ」
「そうなんですか……」
一流の錬金術師の言葉に、レナは深く感じ入る。
錬金釜は、錬金術師にとって共に育って行く相棒であると言われている。
それは、この目の前に在る錬金釜に、緻密に刻まれている魔術紋様が理由だ。錬金釜は、使い手である錬金術師の手によってカスタマイズされて行くのである。
元は、職人の手によって作られた錬金術師用の釜だ。その質は職人の腕によってそれなりに違いはあるだろうが、材質は変わらず、どの錬金術師も錬金釜に関しては妥協しないので、大抵は腕の良い職人に頼むために出来上がりにそう大きな違いは無い。
そんな錬金釜に、錬金術師は自分の使いやすいように魔術紋様を刻んでいく。それによって熱の浸透率や、魔力濃度の浸透率、それの回り方、抜け方、その他にも細々としたものが変わっていく。
レナも養子入りした時にお祝いと称して比較的小さめの錬金釜をネモから貰い、それで練習し、十分に経験を積んでから大釜の方へ魔術紋様を刻むように言われた。
サンドフォード家のレナの研究室には大きな錬金釜があるが、一度使って爆発させた事がある。
幸い部屋が吹き飛ぶような爆発ではなく、煤だらけになるだけで済んだが、レナは深く反省した。今はネモの言いつけ通りに小さい釜を使って調合し、自分に向いている魔術紋様を探している。
さて、そんな錬金釜を持ち出した熟練の錬金術師が作るファンデーションとは、いったいどんなものになるのか。自然と期待が高まった。
釜の中身が沸騰したところで、ネモは大化け貝の螺鈿の粉末を取り出す。
「これを、薬さじで少しずつ加える」
本当に僅かな量が釜の中へサラサラと落ちた。
変化は、劇的だった。
ドロリとした緑色のそれが、一気に黄土色へと変化したのだ。
ぎょっと目を剥く一同を尻目に、ネモは薬さじの半分程度の量を少しずつ加える。そして、黄土色が綺麗な黄色になったところでその手を止め、木べらでよくかき混ぜる。
「次はマンドレイクの精製液」
スポイトでまず三滴加えられ、混ぜ、更に三滴。そうして、青臭い匂いが消え、色が黄味がかった乳白色となる。
「次の工程の前に、火を止めるわ」
そう言って、薪を全て隣の竈へ移動させる。
「次はかなり大きな反応になるから、ちょっと下がって」
「はい」
レナ達は素直に頷き、一歩下がる。
そんなレナ達を確認し、ネモはブルーマウスの花の精製液を取る。そして、それをスポイトで一滴――
――ボッ!
「わっ⁉」
「きゃっ⁉」
大きな音を立て、大きく水蒸気が上がった。
レナとエラは驚き、小さく悲鳴を上げる。育ちの違いが分かる悲鳴だった。
そして、八度それを繰り返し、後はただひたすら錬金釜をかき混ぜる。
「後の反応は静かだから、近づいて良いわよ」
そう言われ、大釜を力いっぱい全身を使ってかき混ぜるネモに近づく。
錬金釜の中身は水分がほとんど飛んでおり、今もなお水蒸気の煙が上がっていた。
「えっ、白い……」
錬金釜の中に在る物は、真っ白だった。
まだ少し粘り気のあるそれに、最後の材料を入れる。
「最後は、真珠をすり潰した粉」
そう言って、今度は先程より大きめの薬さじでその粉末を入れていく。入った粉末の量は、二杯だった。
ネモはそれを入れた後、大急ぎでかき混ぜる。
すると、錬金釜の中のものはどんどん水分が抜けていき、とうとう最後には完全な粉の状態になった。
「――よしっ! 後は念のために乳鉢ですり潰すだけね!」
その言葉に、わっと拍手を送る。
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