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令嬢は踊る
第十七話 放課後1
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「ややこしい事になったよね……」
「そうねぇ……」
授業が終わって、放課後。
レナとエラは部室で植物系の魔物であるグリーンラビットの葉を毟っていた。
グリーンラビットは兎のような姿をしているが、動物ではない。魔物の心臓部である魔核から芯を伸ばし、キャベツのようにそれを中心にして葉を茂らせている動く不思議な植物である。
そんなグリーンラビットが部室に小山のように置かれている。これらは、レナが夏休みの修行の際に狩った魔物の一部だ。
それを錬金術の材料として使うため、葉を毟っているのである。二人の今日の活動はそれで終わりそうだ。
そうやってひたすら葉を毟りながら、雑談に興じる。
「アレから一週間経ったけど、ジュリエッタ様の噂はあんまり聞かないね」
「そうね。男性のファンは増えているみたいだけど、あの美貌ですもの。想定内だわ」
あの『ジュリエッタ公爵令嬢挨拶訪問』から一週間の時が流れた。
あれから女性の友人も少しは出来たらしいが、当たり障りない関係のようだ。ジュリエッタが踏み込もうにも、やんわり交わされる事が多いらしい。
「オーランド様との縁の深め方を間違ったのがいけなかったのよね」
「それって、初手から詰んでるってことじゃない」
バリバリ葉を毟りながら、苦笑する。
「あの時、明らかにチアン殿下に見惚れてたけど、あれ、どういう事だと思う? ただ美しいものに見惚れたのか、一目惚れしたのか……」
「んん~……」
レナの言葉に、エラが可愛らしく唸る。
「そもそも、チアン殿下のあのお顔を見て一目惚れしたとしても、殆どの人間は気後れして隣に立とうなんて思わないと思うのよね……」
「そうよね。自分の容姿に相当な自信があるか、チアン殿下に相当惚れ込んでいるかしないと、委縮して気持ちが萎んでいきそう」
女二人で、う~ん、と唸りながら悩む。
そんなことを話していると、部室のドアが開いた。
「あれ? ネモは居ないのか?」
ドアから顔を出したのは、ヘンリーだった。
「ネモ先輩ならイヴァン先輩を連れて魔物狩りに行きましたよ」
「なんでも、ブルーマウスの花が足りないとかで」
「あー……。あの、でかくて青いネズミ型の魔物の頭に咲いてるアレか」
ブルーマウスとはヘンリーが言った通り、青い毛皮を持つネズミ型の魔物である。駆け出し冒険者でも簡単に狩れる魔物なのだが、錬金術の材料になる頭頂部に咲く花は絶命時に枯れ、採取したとしても足が速いため、適切な処理をしなくてはならない駆け出し冒険者泣かせの錬金術素材である。
「それで、お前達の今日の活動はそれを毟る事になったのか」
「ネモ先輩が、とっておきのファンデーションを作って見せて下さるそうで!」
「そうなんです! それを作るのに必要なんだそうです!」
キラッキラと期待に輝く目で言われ、「ソッカー」とそれに圧されながらヘンリーは温い笑みを浮かべ、適当な椅子にドサッと座る。
「そういえば、お前らはあれからジュリエッタ嬢に接触したか?」
「いいえ、ありません」
「隣国の公爵令嬢とお話する機会は早々ありませんし、オーランド様とよく一緒にいらっしゃるので、近づかないようにしています」
レナは単純に会わなかっただけだが、エラはアメリアの事もあって近づかないようにしていた。
「あの、ヘンリー殿下の方はどうですか? やっぱり、ジュリエッタ様はヘンリー殿下を?」
「あー……」
レナの質問に、ヘンリーは微妙な顔をして唸る。
「それなんだが、妙な事になって来てな……」
「妙な事?」
レナとエラが首を傾げる。
「一度だけ昼食を一緒に摂る羽目になったんだが、その時、チアンと一緒だったんだよ」
「わぁ……」
「なんだか、ややこしい事になりそうですね……」
二人の予想通り、その昼食会はなかなかややこしい事になったそうだ。
「フーリエ公爵家の方針としては、俺を婿に迎え入れたいのは間違いなさそうなんだが、無意識なんだろうな。明らかにジュリエッタ嬢の視線はチアンに向いてるんだよ」
「まあ、チアン殿下のあの美貌なら仕方ないような気も……」
「あの、もしかしてその昼食会の時、オーランド様がご一緒でした?」
居たぞ、と言われ、エラが何とも言えぬ顔をする。
「ジュリエッタ様の視線の内容によっては、オーランド様の反応が怖いですね……」
「まあな。明らかにチアンに視線を奪われているのに、すり寄るのは俺。あれでも公爵家の次男として教育されているから、相手が俺なら国のため、家のために仕方のない事だと自分を慰められるだろうが、チアンはな……」
ヘンリーに言わせれば、オーランドは典型的なヒーロー思考型の人間だ。
隣国の留学先で婚約者に無碍にされる美しい令嬢に恋をし、彼女を救わねばと恋心を燃料に正義感を燃え上がらせた。
しかし、そうして起こした彼の行動は、あちこちに迷惑をかけるものとなった。
彼が国に帰って来てから聞き出された情報によると、ただ単純に時間が無かったらしい。
隣国の王太子がジュリエッタに無実の罪を着せ、婚約破棄を目論んでいると情報を得たのは結構ギリギリになってからだったそうだ。
それが起きてしまえばジュリエッタは行き場を失うかもしれない。もしそうなれば、自分が手を差し伸べなければ、と思ったらしい。
そしてあの無茶な婚約解消を実行し、ジュリエッタの無実の証拠を集め、王太子がいつ婚約破棄を言い渡すかの調査など、それを一月足らずで行なった。元々、学生の身分での留学であったため、使える手駒が少なく、中々のハードスケジュールだったようだ。
そりゃぁ、根回しなんてする暇も駒も無い。しかし、せめて実家に相談しろとオーランドは雷を落された。
絶対に止められると分かっていたから相談しなかったのか、それとも、本当に気が回らなかったのかは彼にしか分からない。
「そうねぇ……」
授業が終わって、放課後。
レナとエラは部室で植物系の魔物であるグリーンラビットの葉を毟っていた。
グリーンラビットは兎のような姿をしているが、動物ではない。魔物の心臓部である魔核から芯を伸ばし、キャベツのようにそれを中心にして葉を茂らせている動く不思議な植物である。
そんなグリーンラビットが部室に小山のように置かれている。これらは、レナが夏休みの修行の際に狩った魔物の一部だ。
それを錬金術の材料として使うため、葉を毟っているのである。二人の今日の活動はそれで終わりそうだ。
そうやってひたすら葉を毟りながら、雑談に興じる。
「アレから一週間経ったけど、ジュリエッタ様の噂はあんまり聞かないね」
「そうね。男性のファンは増えているみたいだけど、あの美貌ですもの。想定内だわ」
あの『ジュリエッタ公爵令嬢挨拶訪問』から一週間の時が流れた。
あれから女性の友人も少しは出来たらしいが、当たり障りない関係のようだ。ジュリエッタが踏み込もうにも、やんわり交わされる事が多いらしい。
「オーランド様との縁の深め方を間違ったのがいけなかったのよね」
「それって、初手から詰んでるってことじゃない」
バリバリ葉を毟りながら、苦笑する。
「あの時、明らかにチアン殿下に見惚れてたけど、あれ、どういう事だと思う? ただ美しいものに見惚れたのか、一目惚れしたのか……」
「んん~……」
レナの言葉に、エラが可愛らしく唸る。
「そもそも、チアン殿下のあのお顔を見て一目惚れしたとしても、殆どの人間は気後れして隣に立とうなんて思わないと思うのよね……」
「そうよね。自分の容姿に相当な自信があるか、チアン殿下に相当惚れ込んでいるかしないと、委縮して気持ちが萎んでいきそう」
女二人で、う~ん、と唸りながら悩む。
そんなことを話していると、部室のドアが開いた。
「あれ? ネモは居ないのか?」
ドアから顔を出したのは、ヘンリーだった。
「ネモ先輩ならイヴァン先輩を連れて魔物狩りに行きましたよ」
「なんでも、ブルーマウスの花が足りないとかで」
「あー……。あの、でかくて青いネズミ型の魔物の頭に咲いてるアレか」
ブルーマウスとはヘンリーが言った通り、青い毛皮を持つネズミ型の魔物である。駆け出し冒険者でも簡単に狩れる魔物なのだが、錬金術の材料になる頭頂部に咲く花は絶命時に枯れ、採取したとしても足が速いため、適切な処理をしなくてはならない駆け出し冒険者泣かせの錬金術素材である。
「それで、お前達の今日の活動はそれを毟る事になったのか」
「ネモ先輩が、とっておきのファンデーションを作って見せて下さるそうで!」
「そうなんです! それを作るのに必要なんだそうです!」
キラッキラと期待に輝く目で言われ、「ソッカー」とそれに圧されながらヘンリーは温い笑みを浮かべ、適当な椅子にドサッと座る。
「そういえば、お前らはあれからジュリエッタ嬢に接触したか?」
「いいえ、ありません」
「隣国の公爵令嬢とお話する機会は早々ありませんし、オーランド様とよく一緒にいらっしゃるので、近づかないようにしています」
レナは単純に会わなかっただけだが、エラはアメリアの事もあって近づかないようにしていた。
「あの、ヘンリー殿下の方はどうですか? やっぱり、ジュリエッタ様はヘンリー殿下を?」
「あー……」
レナの質問に、ヘンリーは微妙な顔をして唸る。
「それなんだが、妙な事になって来てな……」
「妙な事?」
レナとエラが首を傾げる。
「一度だけ昼食を一緒に摂る羽目になったんだが、その時、チアンと一緒だったんだよ」
「わぁ……」
「なんだか、ややこしい事になりそうですね……」
二人の予想通り、その昼食会はなかなかややこしい事になったそうだ。
「フーリエ公爵家の方針としては、俺を婿に迎え入れたいのは間違いなさそうなんだが、無意識なんだろうな。明らかにジュリエッタ嬢の視線はチアンに向いてるんだよ」
「まあ、チアン殿下のあの美貌なら仕方ないような気も……」
「あの、もしかしてその昼食会の時、オーランド様がご一緒でした?」
居たぞ、と言われ、エラが何とも言えぬ顔をする。
「ジュリエッタ様の視線の内容によっては、オーランド様の反応が怖いですね……」
「まあな。明らかにチアンに視線を奪われているのに、すり寄るのは俺。あれでも公爵家の次男として教育されているから、相手が俺なら国のため、家のために仕方のない事だと自分を慰められるだろうが、チアンはな……」
ヘンリーに言わせれば、オーランドは典型的なヒーロー思考型の人間だ。
隣国の留学先で婚約者に無碍にされる美しい令嬢に恋をし、彼女を救わねばと恋心を燃料に正義感を燃え上がらせた。
しかし、そうして起こした彼の行動は、あちこちに迷惑をかけるものとなった。
彼が国に帰って来てから聞き出された情報によると、ただ単純に時間が無かったらしい。
隣国の王太子がジュリエッタに無実の罪を着せ、婚約破棄を目論んでいると情報を得たのは結構ギリギリになってからだったそうだ。
それが起きてしまえばジュリエッタは行き場を失うかもしれない。もしそうなれば、自分が手を差し伸べなければ、と思ったらしい。
そしてあの無茶な婚約解消を実行し、ジュリエッタの無実の証拠を集め、王太子がいつ婚約破棄を言い渡すかの調査など、それを一月足らずで行なった。元々、学生の身分での留学であったため、使える手駒が少なく、中々のハードスケジュールだったようだ。
そりゃぁ、根回しなんてする暇も駒も無い。しかし、せめて実家に相談しろとオーランドは雷を落された。
絶対に止められると分かっていたから相談しなかったのか、それとも、本当に気が回らなかったのかは彼にしか分からない。
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