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令嬢は踊る
第十三話 歓迎会1
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「ハイ! 今年の新入生からの入部はゼロでしたが、二年生のエラ・リースちゃんが入部してくれました! ――と、いうわけで、カンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
『台所錬金術部』の部長であるネモの音頭に乗り、クラブの面々は手に持ったグラスを笑顔で掲げた。
『台所錬金術部』の部室は、古びた研究棟の一室だ。
その部室で、その日は『台所錬金術部』の新入部員のささやかな歓迎パーティーを開いていた。
机の上には様々な菓子が広げられ、各々好きなものに手を伸ばす。
「いやー、昔のレナちゃんみたいにエラちゃんが気を失った時はどうしようかと思ったけど、すぐに慣れてくれて良かったわ」
「あはは……」
ネモの言葉にエラは視線を泳がせ、空笑いを返した。実はまだ慣れてないんだよね……、と実態を知るレナは生温い目でその光景を見守る。
山のように盛ったポップコーンをもりもり食べるあっくんを見ながら、ヘンリーが口を開く。
「ネモ、あっくんのポップコーン消費量ヤバくないか?」
「余裕よ」
「まあ、あっくんはよく食べるからな。けど、チョコは止めておいた方が良いんじゃないか?」
そうして遠ざけられたチョコをあっくんはチラ、と見たが、すぐにポップコーンに視線を戻した。どうやら、ポップコーンの方が好みらしい。
「エラちゃんって美容に興味があるのよね? それなら野菜チップス食べる?」
「野菜チップス?」
そうして目の前に出されたのは、薄くスライスされたニンジン、カボチャ、サツマイモのチップスだった。
「これ、揚げてないからカロリー控えめ。しかも美味しく野菜がとれる。野菜嫌いな子供にもオススメ」
そう言ってパリ、とニンジンの野菜チップスを食べる。
野菜をケーキなどに混ぜ込んだものは見ることはあるが、野菜感をこれほど残したお菓子は見たことが無く、レナとエラは顔を見合わせて、恐る恐るそれに手を伸ばす。
そして、パリ、と口に含み、目を丸くした。
「美味しい……」
「あら、まあ……」
レナが食べたのはカボチャの野菜チップスだったが、それは甘じょっぱい癖になる味だった。
エラは半分食べたサツマイモの野菜チップスを見て、目を瞬かせている。
「ちなみにニンジンの野菜チップスはカレー粉をまぶしてるわ」
「ネモ、ニンジンの野菜チップスをこちらへ」
カレー皇子がすかさず催促する。
それに「予想通りの反応ね」と呆れた顔をしながらニンジンの野菜チップスを別の皿に改めて盛り、チアンへ渡す。
チアンはそれに礼を言って、うっとりとした顔でニンジンの野菜チップスを食べる。
「ちなみに小魚の骨煎餅もあるわ」
そう言って、それをイヴァンの前へ置く。
実は魚が苦手なイヴァンは悲壮な顔をしてネモを見る。しかし、食え、と目で命令され、震える手でそれをつまむ。そして――
「あれ? 結構いける……」
そのままパリパリと骨煎餅を食べ続ける。ちなみに味はこちらもカレー味なのだが、知られれば寄越せとカレー狂いに要求されるのが目に見えていたため、黙々と食べる。
そんな中、そういえば、とヘンリーが呟いた。
「エラ嬢にはクソバカボンボンとジュリエッタ嬢の事を言ってなかったな」
「ク……んん、えっと、どなたですか?」
「そういえば、私達もクソバカボンボンの名前を知らないわよ」
エラはお下品な固有名詞に言葉を詰まらせ、誤魔化したが、ネモはサラッとそれを口にする。
育ちの違いと言うより、性格だな、とチアンが鉄面皮の下で考える。
さて、その指摘に、ヘンリーは言ってなかったか? と首を傾げる。
「クソバカボンボンの名前はオーランド・ランドールだ。ランドール公爵家の次男坊で、三年生だ。頭はそれなりに良い奴なんだが、本人が思ってるほど有能じゃ無いな」
「つまり自信過剰だと」
「まあ、美人に目がくらんで方々に迷惑をかけてるんだから、根本的な所で残念な人なんでしょうね」
ズバッとキツイことを言う四年生トリオに、レナは頬を引きつらせる。しかし、クソバカボンボンの呼び名もなかなかだったので、今更だ。
「ランドール公爵……。あの、それってアメリア・オルセン伯爵令嬢の元婚約者の方ですか?」
その言葉に、エラに視線が集まる。
「ああ、そうだぜ。もしかして、アメリア嬢の事を知ってるのか?」
「はい。前に所属していた手芸部の先輩だったので……」
戸惑い気味に頷く彼女に、ヘンリーが尋ねる。
「アメリア嬢が、今どんな様子か分かるか?」
「オーランド様から婚約解消を願う手紙が届いてから、学園をお休みされて、そのまま夏休みに入ってしまいましたので……。お見舞いのお手紙を出したのですが、いただいたお礼のお手紙では気丈に振る舞っておられましたが……」
目を伏せ、エラは小さく溜息をつく。
「そのアメリア様って、どんな方なの?」
「とても感じの良い、優しい方よ。穏やかで、聞き上手な方なの。あの方を嫌う人は滅多にいないわ」
レナの質問にそう答え、彼女はヘンリーに視線を向けた。
「アメリア様は目立つような方ではありませんが、その実、女性にとても人気のある方なんです。人脈も相当なものをお持ちですわ」
「そりゃぁ、オーランドの馬鹿は大変な令嬢を敵に回したな」
いや、敵に回したのはアメリア嬢のご友人方か、と薄く笑う。
「これは、ジュリエッタ嬢は苦労するかもなぁ……」
そう言うヘンリーの顔は、実に愉しげだった。
「「「「「カンパーイ!」」」」」
『台所錬金術部』の部長であるネモの音頭に乗り、クラブの面々は手に持ったグラスを笑顔で掲げた。
『台所錬金術部』の部室は、古びた研究棟の一室だ。
その部室で、その日は『台所錬金術部』の新入部員のささやかな歓迎パーティーを開いていた。
机の上には様々な菓子が広げられ、各々好きなものに手を伸ばす。
「いやー、昔のレナちゃんみたいにエラちゃんが気を失った時はどうしようかと思ったけど、すぐに慣れてくれて良かったわ」
「あはは……」
ネモの言葉にエラは視線を泳がせ、空笑いを返した。実はまだ慣れてないんだよね……、と実態を知るレナは生温い目でその光景を見守る。
山のように盛ったポップコーンをもりもり食べるあっくんを見ながら、ヘンリーが口を開く。
「ネモ、あっくんのポップコーン消費量ヤバくないか?」
「余裕よ」
「まあ、あっくんはよく食べるからな。けど、チョコは止めておいた方が良いんじゃないか?」
そうして遠ざけられたチョコをあっくんはチラ、と見たが、すぐにポップコーンに視線を戻した。どうやら、ポップコーンの方が好みらしい。
「エラちゃんって美容に興味があるのよね? それなら野菜チップス食べる?」
「野菜チップス?」
そうして目の前に出されたのは、薄くスライスされたニンジン、カボチャ、サツマイモのチップスだった。
「これ、揚げてないからカロリー控えめ。しかも美味しく野菜がとれる。野菜嫌いな子供にもオススメ」
そう言ってパリ、とニンジンの野菜チップスを食べる。
野菜をケーキなどに混ぜ込んだものは見ることはあるが、野菜感をこれほど残したお菓子は見たことが無く、レナとエラは顔を見合わせて、恐る恐るそれに手を伸ばす。
そして、パリ、と口に含み、目を丸くした。
「美味しい……」
「あら、まあ……」
レナが食べたのはカボチャの野菜チップスだったが、それは甘じょっぱい癖になる味だった。
エラは半分食べたサツマイモの野菜チップスを見て、目を瞬かせている。
「ちなみにニンジンの野菜チップスはカレー粉をまぶしてるわ」
「ネモ、ニンジンの野菜チップスをこちらへ」
カレー皇子がすかさず催促する。
それに「予想通りの反応ね」と呆れた顔をしながらニンジンの野菜チップスを別の皿に改めて盛り、チアンへ渡す。
チアンはそれに礼を言って、うっとりとした顔でニンジンの野菜チップスを食べる。
「ちなみに小魚の骨煎餅もあるわ」
そう言って、それをイヴァンの前へ置く。
実は魚が苦手なイヴァンは悲壮な顔をしてネモを見る。しかし、食え、と目で命令され、震える手でそれをつまむ。そして――
「あれ? 結構いける……」
そのままパリパリと骨煎餅を食べ続ける。ちなみに味はこちらもカレー味なのだが、知られれば寄越せとカレー狂いに要求されるのが目に見えていたため、黙々と食べる。
そんな中、そういえば、とヘンリーが呟いた。
「エラ嬢にはクソバカボンボンとジュリエッタ嬢の事を言ってなかったな」
「ク……んん、えっと、どなたですか?」
「そういえば、私達もクソバカボンボンの名前を知らないわよ」
エラはお下品な固有名詞に言葉を詰まらせ、誤魔化したが、ネモはサラッとそれを口にする。
育ちの違いと言うより、性格だな、とチアンが鉄面皮の下で考える。
さて、その指摘に、ヘンリーは言ってなかったか? と首を傾げる。
「クソバカボンボンの名前はオーランド・ランドールだ。ランドール公爵家の次男坊で、三年生だ。頭はそれなりに良い奴なんだが、本人が思ってるほど有能じゃ無いな」
「つまり自信過剰だと」
「まあ、美人に目がくらんで方々に迷惑をかけてるんだから、根本的な所で残念な人なんでしょうね」
ズバッとキツイことを言う四年生トリオに、レナは頬を引きつらせる。しかし、クソバカボンボンの呼び名もなかなかだったので、今更だ。
「ランドール公爵……。あの、それってアメリア・オルセン伯爵令嬢の元婚約者の方ですか?」
その言葉に、エラに視線が集まる。
「ああ、そうだぜ。もしかして、アメリア嬢の事を知ってるのか?」
「はい。前に所属していた手芸部の先輩だったので……」
戸惑い気味に頷く彼女に、ヘンリーが尋ねる。
「アメリア嬢が、今どんな様子か分かるか?」
「オーランド様から婚約解消を願う手紙が届いてから、学園をお休みされて、そのまま夏休みに入ってしまいましたので……。お見舞いのお手紙を出したのですが、いただいたお礼のお手紙では気丈に振る舞っておられましたが……」
目を伏せ、エラは小さく溜息をつく。
「そのアメリア様って、どんな方なの?」
「とても感じの良い、優しい方よ。穏やかで、聞き上手な方なの。あの方を嫌う人は滅多にいないわ」
レナの質問にそう答え、彼女はヘンリーに視線を向けた。
「アメリア様は目立つような方ではありませんが、その実、女性にとても人気のある方なんです。人脈も相当なものをお持ちですわ」
「そりゃぁ、オーランドの馬鹿は大変な令嬢を敵に回したな」
いや、敵に回したのはアメリア嬢のご友人方か、と薄く笑う。
「これは、ジュリエッタ嬢は苦労するかもなぁ……」
そう言うヘンリーの顔は、実に愉しげだった。
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