錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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令嬢は踊る

第十二話 新学期

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 残暑がまだまだ厳しい、九月。
 ランタナ王国の国立魔法学園は新学期を迎えた。
 学園に入学したての一年生達はこれからの日々を前に期待に胸を高鳴らせて頬を染め、先輩達はそれを微笑まし気に見守る。
 そんな中、我らが『台所錬金術部』も部員獲得のために、恒例となっている勧誘活動を始めた。

「その勧誘活動が、これなの……?」
「えっと……、うん。そうなの……」

 半ば呆然とし、ベンチに腰かけているのはエラだ。そして、その隣にはレナが座っている。
 二人の視線の先には、怪しい黒トンガリ覆面を被ったあからさまに怪しい四人がカレーの大鍋をかき混ぜ、むくつけき運動部の男達にカレーをよそっていた。

「はーい、ちゃんと並んでー!」
「あっ! お前、横入りしただろ! ……ああ? してない? お前、嘘つくならチアンに尋問させて性癖を歪ませるぞ!」
「おい」
「ひえぇぇ……」

 黒トンガリ覆面に、黒いローブを着て誰が誰だか分からないようにしているのに、知っている人にはどれが誰か分かりやすい。
 部員全員参加なので、レナももちろん黒ローブを着て、黒トンガリ覆面をさっきまで被っていた。

「あの、でも、カレーは美味しくて毎年これを楽しみにしている人は多いらしいの」

 そう言って、折角だから食べてみないかと誘う。

「……そうね。折角だし、食べてみようかしら」

 しばしの沈黙のあと、エラは達観したかのような顔をして、ベンチから立ち上がった。
 そうして列に並び、黒トンガリ覆面の怪しい先輩達の前に立つ。

「あら、貴女がエラちゃんね。後でゆっくり話しましょうね」
「ああ、リース男爵のところの令嬢か。まあ、悪いようにはしない」
「カレーは美味いぞ」
「アッ、アノ、ソノ、ウン……。ヨロシクネ……」

 先輩方はエラに各々軽く言葉をかけ、カレーをよそう。
 レナは先輩方は手伝いに戻ろうとしたが、そのままエラと話して来いと彼女の分のカレーを渡され、送り出された。
 レナは気遣いに感謝しつつ、先程座っていたベンチに戻り、二人並んでカレーを食べる。

「あら、本当に美味しい……」
「そうでしょ!」

 上品に口元を指先で隠し、驚くエラにレナは笑顔になる。
 本日のカレーは夏野菜ゴロゴロカレーだ。
 ホッカホカの炊き立てご飯の上に素揚げされたナス、ピーマン、カボチャ、シシトウを盛り、その上からポークカレーがかけられ、更には唐揚げがトッピングされている贅沢仕様である。お陰様でカレー信者チアンは今朝から機嫌が良い。

「でも、何でカレーを配るだけなのにそんな格好をしているの?」
「殿下対策らしいの。王子様とお近づきなりたいだけの面倒な人間避けってネモ先輩が言ってたわ」
「ああ……、そういえば殿下があの中に居るのね……」

 そう言って、エラは遠い目をした。
 自国の王子の奇行を前に、ちょっと現実が受け止めきれないようだ。
 彼女は気付いていないが、ランタナ王国の第三王子以外にもカンラ帝国の第十八皇子が居るし、二つ名持ちの錬金術師も居る。ついでに、天才と名高い錬金術師見習いもあわあわしながらカレーを盛っている、
 全員スペックが高い人物であるが故に、正体が知れれば夢が壊れそうな光景である。
 実際、自国の王子に対して夢にヒビが入ったエラは、そこからそっと目を逸らす。

「あの……、『台所錬金術部』に入るの、嫌になっちゃった?」

 恐る恐る尋ねられたそれに、エラはレナに視線を移し、パチリと一つ目を瞬かせ、苦笑した。

「いいえ、そんな事ないわよ」

 そして、そのままクスクスと笑って言う。

「正直、上流階級の人間が所属しているとは思えないクラブだけど、楽しそうじゃない。上下関係も緩そうだし、クラブ活動中は無礼講と見て良いのかしら?」
「あっ、うん。そんな感じ。普通に先輩として敬意を払っていれば問題ないよ」

 クラブ活動は普段は部室で行われている。そのため、そうした事を大して気にしない先輩方は、人目が無ければかなりフランクだ。特に四年生の先輩達などは気軽にお互いをひっぱたくし、暴言を吐く。

「それなら安心ね」

 そう言って、エラは微笑んだ。
 後日、彼女は部室で改めて『台所錬金術部』の面々と自己紹介し合ったのだが、その際、ヘンリーのフランクさに目を丸くし、チアンの美貌に呆然とし、部長のネモが二つ名持ちの錬金術師と知って意識を遠くへ飛ばした。
 そして、目を覚ました時に心配するレナのそばにそっと寄り添いつつオロオロとした空気を醸し出すヘタレイヴァンに生温い笑みを浮かべる。

「濃いわぁ……」

 『台所錬金術部』の面々のキャラクターの濃さに、エラは己の今後がちょっぴり心配になったのだった。
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