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令嬢は踊る
第十話 エラ・リース男爵令嬢2
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折角だからレナの部屋でお茶をすることになり、二人はレナの部屋向かった。
レナの部屋の調度品は、少女らしい柔らかさと可愛らしさがあった。プリザーブドフラワーが飾られた小さな花籠や、華美ではない、けれど品のある小物が飾ってある。
「わぁ。素敵なお部屋ね」
「ええ、そうでしょう? これ、全てお母様が用意してくださったの。初めてこの部屋に案内されたとき、お嬢様の部屋だ、って言っちゃった」
うふふ、と微笑み合い、席に着く。
チリン、とベルを鳴らして使用人を呼び、お茶の用意を頼んだ。
このベルを鳴らすというのもなかなか慣れなかったな、と思いながら、エラに向き直る。
「ところで、エラは美容用品に興味はある?」
「もの凄くあります」
真顔なうえに敬語で肯定された。
エラはびっくりして固まるレナに、真剣な顔をして言う。
「実は、今回のお話をいただいた時に、貴女が錬金術師を目指していて、美容用品を作ろうと――いえ、既に商品化間近のものを作っていると聞いていたの。正直、これで興味を持つなと言うのは貴族の女には無理な話よ。だから、ちょっとその美容用品のお話を聞けるかもしれないと思って、下心ありでお友達の打診をお受けしたの」
ズバッ、と真っ正直に己の下心を明かすエラに、レナは目を瞠り――嬉しそうに破顔した。
「やっぱり! そうじゃないか、ってクラブの先輩と話していたの!」
エラは下心ありで近づいたことでガッカリされると思っていたのだが、真逆の反応を返され目を白黒させた。
「それでね、その先輩がエラさえ良ければ一緒に化粧品とか、美容用品とか作ってみたらどうか、って言ってて――」
「ちょ、ちょっと待って、先輩? ――いえ、ごめんなさい。本当に、ちょっと待ってもらっても良いかしら?」
勢い込んで話すレナに、エラはストップをかける。
エラとしては、悲しむか、嫌な顔をされると思ったのだ。だって、下心ありのオトモダチなんて、歪んでいる。
エラは、レナのことを『幸運な子』だと思っていた。
錬金術の才能ありきで引き取られたとはいえ、それを活かせる環境を手に入れられたのだ。これを幸運と言わずして、何と言うのか。
そして、彼女の研究分野は美容に関して。
エラは、それにとても興味があった。彼女のオトモダチになればおこぼれが貰えるかもしれない。そんな、卑しい下心を持つくらいに……
エラの家は貧乏ではないが、裕福ではない。しかし、平民から見ればそれなりの家でも、貴族から見れば圧倒的な格下に見えるだろう懐具合だった。
だから、彼女は自分を磨くのにお金をかけられない。だから、所作を磨いたのだ。
どうすれば優雅に見えるか。
品の良い貴婦人の仕草は。
指先まで、美しく見せるには。
研究して、真似て、鏡の前で何度でも繰り返した。
そうして、今の自分を手に入れたのだ。
そんな時に、今回の話だ。チャンスだと思った。これで、自分の外見を磨けると――
「美容用品なんて、良いものは高くてとてもじゃないけど手に入らない。だから、サンプルでもなんでも、貰えるかもって、思って……。けど、貴女、とても感じが良いのだもの。下心ありでオトモダチになりに来たのが急に恥ずかしくなったの」
それは貴族では珍しくないオトモダチ事情だが、それに当てはめるには勿体ないと思ったのだ。
「だから……、ごめんなさい。私、ちゃんと謝って、そういう下心なしに、お友達になりたい」
しかし、その下心を見透かされていた。
「しかも、それを迎合されて、ちょっとどうしていいか分からないわ」
苦笑してそう言えば、レナはニコッ、と笑みを浮かべる。
「エラって、とても良い人なのね。下心、って言うなら、そもそも淑女教育のお手伝いをお願いするつもりで声を掛けた私の方こそ責められるべきでしょ」
「えっ⁉ そんなことはないわよ、それありきで了承したんですもの!」
予想外のことを言われて目を丸くするエラに、レナの顔にますます笑みが広がる。
「じゃあ、どっちもどっちだった、ってことで手打ちにしましょうよ。切っ掛けはそうだったかもしれないけど、大事なのはこれからでしょう?」
「……ええ、そうね!」
レナの言葉に、エラは華やかに笑んで頷いた。
レナの部屋の調度品は、少女らしい柔らかさと可愛らしさがあった。プリザーブドフラワーが飾られた小さな花籠や、華美ではない、けれど品のある小物が飾ってある。
「わぁ。素敵なお部屋ね」
「ええ、そうでしょう? これ、全てお母様が用意してくださったの。初めてこの部屋に案内されたとき、お嬢様の部屋だ、って言っちゃった」
うふふ、と微笑み合い、席に着く。
チリン、とベルを鳴らして使用人を呼び、お茶の用意を頼んだ。
このベルを鳴らすというのもなかなか慣れなかったな、と思いながら、エラに向き直る。
「ところで、エラは美容用品に興味はある?」
「もの凄くあります」
真顔なうえに敬語で肯定された。
エラはびっくりして固まるレナに、真剣な顔をして言う。
「実は、今回のお話をいただいた時に、貴女が錬金術師を目指していて、美容用品を作ろうと――いえ、既に商品化間近のものを作っていると聞いていたの。正直、これで興味を持つなと言うのは貴族の女には無理な話よ。だから、ちょっとその美容用品のお話を聞けるかもしれないと思って、下心ありでお友達の打診をお受けしたの」
ズバッ、と真っ正直に己の下心を明かすエラに、レナは目を瞠り――嬉しそうに破顔した。
「やっぱり! そうじゃないか、ってクラブの先輩と話していたの!」
エラは下心ありで近づいたことでガッカリされると思っていたのだが、真逆の反応を返され目を白黒させた。
「それでね、その先輩がエラさえ良ければ一緒に化粧品とか、美容用品とか作ってみたらどうか、って言ってて――」
「ちょ、ちょっと待って、先輩? ――いえ、ごめんなさい。本当に、ちょっと待ってもらっても良いかしら?」
勢い込んで話すレナに、エラはストップをかける。
エラとしては、悲しむか、嫌な顔をされると思ったのだ。だって、下心ありのオトモダチなんて、歪んでいる。
エラは、レナのことを『幸運な子』だと思っていた。
錬金術の才能ありきで引き取られたとはいえ、それを活かせる環境を手に入れられたのだ。これを幸運と言わずして、何と言うのか。
そして、彼女の研究分野は美容に関して。
エラは、それにとても興味があった。彼女のオトモダチになればおこぼれが貰えるかもしれない。そんな、卑しい下心を持つくらいに……
エラの家は貧乏ではないが、裕福ではない。しかし、平民から見ればそれなりの家でも、貴族から見れば圧倒的な格下に見えるだろう懐具合だった。
だから、彼女は自分を磨くのにお金をかけられない。だから、所作を磨いたのだ。
どうすれば優雅に見えるか。
品の良い貴婦人の仕草は。
指先まで、美しく見せるには。
研究して、真似て、鏡の前で何度でも繰り返した。
そうして、今の自分を手に入れたのだ。
そんな時に、今回の話だ。チャンスだと思った。これで、自分の外見を磨けると――
「美容用品なんて、良いものは高くてとてもじゃないけど手に入らない。だから、サンプルでもなんでも、貰えるかもって、思って……。けど、貴女、とても感じが良いのだもの。下心ありでオトモダチになりに来たのが急に恥ずかしくなったの」
それは貴族では珍しくないオトモダチ事情だが、それに当てはめるには勿体ないと思ったのだ。
「だから……、ごめんなさい。私、ちゃんと謝って、そういう下心なしに、お友達になりたい」
しかし、その下心を見透かされていた。
「しかも、それを迎合されて、ちょっとどうしていいか分からないわ」
苦笑してそう言えば、レナはニコッ、と笑みを浮かべる。
「エラって、とても良い人なのね。下心、って言うなら、そもそも淑女教育のお手伝いをお願いするつもりで声を掛けた私の方こそ責められるべきでしょ」
「えっ⁉ そんなことはないわよ、それありきで了承したんですもの!」
予想外のことを言われて目を丸くするエラに、レナの顔にますます笑みが広がる。
「じゃあ、どっちもどっちだった、ってことで手打ちにしましょうよ。切っ掛けはそうだったかもしれないけど、大事なのはこれからでしょう?」
「……ええ、そうね!」
レナの言葉に、エラは華やかに笑んで頷いた。
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