25 / 151
令嬢は踊る
第七話 破裂玉
しおりを挟む
さて。
王子襲来という予定外のハプニングがあったが、レナ達がやることは変わらない。
イヴァンが戻ってきた後、レナ達はキャンプ地にチアンとあっくんを残して森へ入った。
「ネモ先輩。今日は何をするんですか?」
「今日は錬金術で作った魔道具での魔物の狩り方を教えるわ」
そう言ってネモが取り出したのは、子供の握り拳大のカプセルだった。とある異世界からの転生者なら、ガチャのカプセルみたいだと言うだろう。
「これは錬金術で作る攻撃用の初級魔道具よ」
手渡され、レナはそれを目の前に持って来て透かし見る。
カプセルは半透明で、中には薄い緑色の液体が入っているのが見えた。
「カプセルは錬金術で作った樹脂で、使用期限は三年。使用後は土に還る自然に優しい仕様になってるわ。使い方は簡単。魔力を通して、すぐに魔物に投げるだけ。魔力を通すと酸素に反応してカプセルに五秒くらいで穴が開いて、中の液体と反応して破裂――いえ、一応爆発する仕組みになってるの」
「そうなんですか。ばくは――爆発⁉」
「そう、爆発するの。つまり、これは爆弾よ」
ひえぇ、と震えるレナに、彼女は容赦なく告げる。
「なにを驚いてるのよ。スタンピードの時に攻撃用の魔道具は色々見たし、実際使ったでしょう?」
「うぅ……、そうですけど……」
確かにそうだが、それはそれ、これはこれ、である。
ストレートに爆弾と言われると、何故か身構えてしまうのだ。これは、爆弾というものに対するイメージのせいだろう。
「レナ、大丈夫だよ。これ、威力が弱いタイプだから」
「はい……」
優しくイヴァンに言われるも、レナが浮かべる微笑みは引き攣っている。
そんなレナを見て、仕方なないわね、とネモが肩を竦める。
「単純で作りやすく、コスパがかかってないぶん、スタンピードで使ったものや火薬を使ったものよりも断然、威力は弱いわ。だから魔物をこれ一つでは倒せない。コレは魔物を怯ませるために使うのよ」
「そうなんですか……」
手の中でトプリと液体が揺れるカプセルを見つめる。
「まあ、すぐに魔物に使え、なんて言わないわよ。まずは爆発までのタイミングを知るために、無機物相手に使ってみましょう。さ、岩石地帯に行くわよ」
「は、はい……」
さっさと歩き出したネモの後を慌てて追い、レナとイヴァンは歩き出した。
***
十分ほど歩くと、唐突に木々が無くなり、硬い岩肌がむき出しになった開けた場所が現れた。
その硬い地質故に草木が生えるのが難しいらしく、地面には小さな雑草がチラホラ生えているだけだ。
遠目に見えるのは切り立った岩壁で、確かにここなら訓練がしやすそうである。
「さて、ここで良いわね。じゃあ、レナちゃん。カプセルに魔力を通すわけだけど、やり方は分かるわよね?」
「はい!」
それじゃあ、あそこに投げてみて、と大きな岩を指され、レナは頷く。
魔道具に魔力を通すというのは、多少コツはあるが、慣れてしまえば簡単な作業だ。
まず、魔力を放出し、土に水をしみこませるかの如く魔道具に魔力を注ぐのだ。ただし、魔力を通す際はきちんと意識して通さなければ、魔力は魔道具に注がれない。ただ放出すればいいというものではないのだ。これを苦手としている者もおり、そういう者は攻撃用魔道具を使わず、それこそ火薬を使った爆弾を用いることもある。
また、この魔力を通すという技能は錬金術師には必須技能である。繊細な魔力操作を行って物を創り上げるので、これが出来なければ話にならない。
そうしたことから、一人前の錬金術師を目指すレナには魔道具に魔力を通すのは朝飯前だ。
レナは魔道具に魔力を通す。
すると、カプセルから感じる感触が微かに変った。
レナは頭の中でカウントしながら、岩へ向かって魔道具を放る。
カウントが五になったその時、魔道具がパァン、と大きな音を立てて破裂した。
魔道具は岩に当たったが、岩は割れも削がれもしていない。しかし、確かに衝撃はあったらしく、魔道具が破裂した所を中心にいくつかの放射線状の筋が入っていた。
「なるほど。爆発するというより、破裂するんですね」
「そうよ。爆発は爆発なんだけど、威力的に破裂程度なのよ。だから商品名は『破裂玉』っていうの。――ま、昔はそれなりに需要があったんだけど、今はあんまり作られてないわね。後で作り方を教えてあげるから、作ってみると良いわ。それと著作権は期限切れしてるから、好きに作ってくれて大丈夫よ」
言われ、もしやとレナはイヴァンに視線を遣る。すると、彼はレナの視線の意味を正確に読み取り、頷いた。
「これは師匠が考案した魔道具だよ」
「やっぱり!」
素直に凄いな、と思うと同時に、著作権が切れる年月を生きてるネモに、いったいこの人は何歳なんだろうと考える。
そんな考えが顔に出てたのか、ネモの浮かべる微笑みに凄みが加わったので、レナは視線をさっとそらした。
女に年齢の話は禁句である。
王子襲来という予定外のハプニングがあったが、レナ達がやることは変わらない。
イヴァンが戻ってきた後、レナ達はキャンプ地にチアンとあっくんを残して森へ入った。
「ネモ先輩。今日は何をするんですか?」
「今日は錬金術で作った魔道具での魔物の狩り方を教えるわ」
そう言ってネモが取り出したのは、子供の握り拳大のカプセルだった。とある異世界からの転生者なら、ガチャのカプセルみたいだと言うだろう。
「これは錬金術で作る攻撃用の初級魔道具よ」
手渡され、レナはそれを目の前に持って来て透かし見る。
カプセルは半透明で、中には薄い緑色の液体が入っているのが見えた。
「カプセルは錬金術で作った樹脂で、使用期限は三年。使用後は土に還る自然に優しい仕様になってるわ。使い方は簡単。魔力を通して、すぐに魔物に投げるだけ。魔力を通すと酸素に反応してカプセルに五秒くらいで穴が開いて、中の液体と反応して破裂――いえ、一応爆発する仕組みになってるの」
「そうなんですか。ばくは――爆発⁉」
「そう、爆発するの。つまり、これは爆弾よ」
ひえぇ、と震えるレナに、彼女は容赦なく告げる。
「なにを驚いてるのよ。スタンピードの時に攻撃用の魔道具は色々見たし、実際使ったでしょう?」
「うぅ……、そうですけど……」
確かにそうだが、それはそれ、これはこれ、である。
ストレートに爆弾と言われると、何故か身構えてしまうのだ。これは、爆弾というものに対するイメージのせいだろう。
「レナ、大丈夫だよ。これ、威力が弱いタイプだから」
「はい……」
優しくイヴァンに言われるも、レナが浮かべる微笑みは引き攣っている。
そんなレナを見て、仕方なないわね、とネモが肩を竦める。
「単純で作りやすく、コスパがかかってないぶん、スタンピードで使ったものや火薬を使ったものよりも断然、威力は弱いわ。だから魔物をこれ一つでは倒せない。コレは魔物を怯ませるために使うのよ」
「そうなんですか……」
手の中でトプリと液体が揺れるカプセルを見つめる。
「まあ、すぐに魔物に使え、なんて言わないわよ。まずは爆発までのタイミングを知るために、無機物相手に使ってみましょう。さ、岩石地帯に行くわよ」
「は、はい……」
さっさと歩き出したネモの後を慌てて追い、レナとイヴァンは歩き出した。
***
十分ほど歩くと、唐突に木々が無くなり、硬い岩肌がむき出しになった開けた場所が現れた。
その硬い地質故に草木が生えるのが難しいらしく、地面には小さな雑草がチラホラ生えているだけだ。
遠目に見えるのは切り立った岩壁で、確かにここなら訓練がしやすそうである。
「さて、ここで良いわね。じゃあ、レナちゃん。カプセルに魔力を通すわけだけど、やり方は分かるわよね?」
「はい!」
それじゃあ、あそこに投げてみて、と大きな岩を指され、レナは頷く。
魔道具に魔力を通すというのは、多少コツはあるが、慣れてしまえば簡単な作業だ。
まず、魔力を放出し、土に水をしみこませるかの如く魔道具に魔力を注ぐのだ。ただし、魔力を通す際はきちんと意識して通さなければ、魔力は魔道具に注がれない。ただ放出すればいいというものではないのだ。これを苦手としている者もおり、そういう者は攻撃用魔道具を使わず、それこそ火薬を使った爆弾を用いることもある。
また、この魔力を通すという技能は錬金術師には必須技能である。繊細な魔力操作を行って物を創り上げるので、これが出来なければ話にならない。
そうしたことから、一人前の錬金術師を目指すレナには魔道具に魔力を通すのは朝飯前だ。
レナは魔道具に魔力を通す。
すると、カプセルから感じる感触が微かに変った。
レナは頭の中でカウントしながら、岩へ向かって魔道具を放る。
カウントが五になったその時、魔道具がパァン、と大きな音を立てて破裂した。
魔道具は岩に当たったが、岩は割れも削がれもしていない。しかし、確かに衝撃はあったらしく、魔道具が破裂した所を中心にいくつかの放射線状の筋が入っていた。
「なるほど。爆発するというより、破裂するんですね」
「そうよ。爆発は爆発なんだけど、威力的に破裂程度なのよ。だから商品名は『破裂玉』っていうの。――ま、昔はそれなりに需要があったんだけど、今はあんまり作られてないわね。後で作り方を教えてあげるから、作ってみると良いわ。それと著作権は期限切れしてるから、好きに作ってくれて大丈夫よ」
言われ、もしやとレナはイヴァンに視線を遣る。すると、彼はレナの視線の意味を正確に読み取り、頷いた。
「これは師匠が考案した魔道具だよ」
「やっぱり!」
素直に凄いな、と思うと同時に、著作権が切れる年月を生きてるネモに、いったいこの人は何歳なんだろうと考える。
そんな考えが顔に出てたのか、ネモの浮かべる微笑みに凄みが加わったので、レナは視線をさっとそらした。
女に年齢の話は禁句である。
36
お気に入りに追加
4,386
あなたにおすすめの小説
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。


婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。