錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

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令嬢は踊る

第六話 騒動の種3

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 翌日、ヘンリーは朝食を食べると早々に城へ帰った。
 曰く、いい息抜きになった、とのことだ。
 
「あいつ、息抜きついでに公爵令嬢の情報を落としに来たわけね」
「そうみたいですね」

 朝食の食器をマジックバックから取り出した桶に水を入れて軽く洗いながら、レナとネモは雑談に興じる。

「結局、公爵令嬢って、この国にどういうつもりで来たんでしょう? 普通に、お嫁入の可能性は無いんでしょうか?」
「さあ? ちょっと分からないわね。有能って噂だから、この国と隣国の上層部の混乱っぷりは理解しているでしょうけど、そこから大人しくするかは本人の気質次第ですもの」
「気質……」

 申し訳ないと縮こまるような性格なら大人しくしているだろうが、どうにもヘンリーのストレスの溜まり具合を見るに、そんな殊勝な性格はしてなさそうに思える。

「公爵家のクソバカボンボンのお嫁さんになりにきた可能性はゼロではないでしょうけど、ヘンリーが釘を刺しに来たからには、ランタナ王国をお隣の騒動に巻き込みに来た可能性の方が高いでしょうね。この国の後ろ盾を得て、隣国を乗っ取るつもりだったり?」
「それ、うちの国に何か利益でもあるんでしょうか? ヘンリー殿下が嫌がってるからには、不利益が多そうな気がするんですけど」
「まあ、そうなんでしょうね。それにヘンリーは戦争に首を突っ込むより、今やってる産業やら何やらで国を潤したいと思ってる筈よ」

 命が馬鹿みたいに失われる戦争より、そっちの方がよっぽど面白いもの、と言うネモに、レナも深く頷く。
 そんな話をしていると、ソソソ、とチアンが寄って来る。

「隣国の話か?」
「そうよ」

 そう言って、チアンに布巾と洗い終えた皿を渡す。拭け、ということだ。
 チアンはそれを黙って受け取り、粛々と皿を拭く。

「イヴァンは?」
「魔物除けの薬草が少なくなったから、少し摘んで来るそうだ」
「そう」
「それで、隣国の話だが――」

 チアンに視線が集まる。
 
「令嬢に一番狙われているのはヘンリーだと思うのだが、どう思う?」
「あ、ああー……、そうかも……」
「どういうことですか?」

 渋い顔になったネモに、レナが首を傾げる。

「いや、さっき話したじゃない? 隣国の騒動にランタナ王国を巻き込む、っていうのを」
「はい。そうで……すね……」

 そこまで言って、ある可能性に気付く。

「あの、待ってください。もしかして、後ろ盾の取り方って、ヘンリー殿下との婚姻ですか⁉」

 レナの言葉に、先輩二人は重々しく頷く。

「確か、フーリエ公爵家の先代当主夫人は王家からの輿入れだ。そのため、現公爵にも、その子供達にも王位継承権がある。王位を狙うにしろ、発言権を更に強めるにしろ、そこに隣国の王家の血を入れられるなら都合が良い」
「それにアイツは婚約者が居ないしね」

 そして、ヘンリーは金持ちだ。
 本人は権力が無いなどと言うが、実際はそんなことはあり得ない。
 確かに、身分の低い妾妃の子であり、後ろ盾が弱いために重要な政務に関わるのは難しく、職位も定まっていない。しかし、多岐に渡る商売によって、経済界ではかなりの権力有している。
 彼は自らの力で這い上がって来た男なのだ。
 
「ヘンリーと婚姻を結べれば、場合によってはヘンリーが関わる商売をブルノー王国へ誘致できる。これほど利のある男は居まいよ」

 王族なのにやたらとフレンドリーなヘンリーにその血の尊さを忘れることがあるが、彼はそういうものを背負う男である。今まさにそれを思い出し、レナはポカンとした顔で先輩二人の話を聞く。

「私達に注意を促しに来たってことは、外堀から埋められたら面倒だからでしょうね」
「そうだろうな。ヘンリーはもちろん、国としても奴を隣国にやるつもりは無いんだろう」
「それならそうと言って行けばいいのに」
「公爵令嬢になびかないのは奴の中では決定事項だったんだろう。それなら、やるべきは自分の配下や関係者に注意を促すことだろう」
 
 レナは渋い顔をして言う。

「あの……、でもそれって、結局一番気をつけなきゃいけないのは、ヘンリー殿下であることには変わりないですよね?」
「そうね」
「そうだな」

 真顔で頷く先輩達に、レナは口をへの字に曲げる。

「ヘンリー殿下はご令嬢を受け入れるつもりは全くないのは分かりましたけど、私達への心配ばかりで、逆に殿下のことが心配になってきました」
「そうねぇ。油断はしてないんでしょうけど、それを言わずにいるのがちょっとねぇ……」
「自信があるからこその行動だろうが、足元が心配になるな」

 先輩二人は溜息をつき、声を揃えて言った。

「「フラグが立ちそう……」」

 そうやってうっかり立ってしまったその旗がお目見えする日はそう遠くないことを、この時のレナ達は知る由もなかった。

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