錬金術師の成り上がり!? 家族と絶縁したら、天才伯爵令息に溺愛されました

悠十

文字の大きさ
上 下
21 / 151
令嬢は踊る

第三話 目覚めドッキリ

しおりを挟む
 パチパチと焚火の火が爆ぜる音が暗い森の中に響く。
 それを囲むのは、『台所錬金術部』の面々だ。ネモは少し離れた場所で簡易的な竈を作り、鍋をかき回している。
ちなみに、イヴァンは起きなかったのでテントに放り込んである。

「結局帰らなかったわね」
「いいだろ、一日くらい」
「私は従者達を置いて先に脱出したからな。彼等が王都に到着するまでここに居るぞ」
「えっ⁉ じゃあ、チアン殿下はランタナ王国まで一人で戻って来たんですか⁉」

 第十八皇子とはいえ、一国の皇子が一人旅をしたという事実にレナは目を丸くする。

「そうだ。気楽な一人旅だった」
「レナちゃん。コイツ、実力は上級冒険者以上のチート野郎だから。多分、従者や護衛の質によっては一人の方が安全なタイプ」
「ヤバイ奴だからな。こいつは敵に回すなよ」
「ええぇ……」

 思わぬ先輩のスペック発覚に、レナは頬を引きつらせる。
 ネモが鍋をかき回しながら言う。

「前回のスタンピードで出て来たホワイトドラゴンを捕まえた呪術、あれはチアンが教えたのよ。つまり、アレをチアンも使えるわけ」
「あの魔窟で生き残ろうと思ったら、まあ、詳しくなるな」
「ヤメロ、他国の皇家の闇なんぞ知りたくない」

 そうやってわちゃわちゃしていると、ネモが「よし、出来た」と鍋をかき回していた手を止める。
 木製の深皿に入れるのは、トマトシチューだ。そしてマジックバックからパンを取り出し、渡していく。

「レナちゃん、悪いんだけど、イヴァンの様子を見てきてくれない? 起こせそうだったら起こしちゃって」
「あ、はい。わかりました」

 頼まれ、レナはテントへ向かう。
 虫よけの薬液に浸したという深緑色のテントは、少し独特のにおいがしたが、不快な匂いではない。外で焚かれている魔物除けのお香の方が匂いが強い。
 テントの中を覗いてみれば、静かな寝息が聞こえた。
 放り込まれたときとは体勢が違っており、寝返りを打ったのだとわかる。どうやら身じろぎもしない深い眠りから多少は意識の浮上があるらい。
 これなら起きるかもしれない、とテントの中に入り、イヴァンの肩を軽く叩く。

「イヴァン先輩、ご飯ですよ~。起きて下さ~い」

 しかしイヴァンは唸るだけで起きない。

「イヴァン先輩! 起きて下さい!」

 肩を強めにゆする。すると、眉間に皺が寄り、手がレナの方に伸びて――

「キャッ⁉」

 強い力で腕を引かれ、そのまま抱き込まれてしまった。
 慌ててもがくも、細身の割にしっかりと筋肉があるその腕からは逃れ慣れない。
 
「イ、イヴァン先輩! 離してください!」
「う~……」

 大きな声でそう言うも、イヴァンはまるでうるさい、とでも言うかのようにますます力を籠めてレナを抱き込む。
 ――ひ、ひえぇぇぇ!?
 イヴァンの筋肉と体温を感じてレナは真っ赤になる。
 混乱するままに上を見上げれば、そこには綺麗な男の顔が――

「にゃ、にゃぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

 イヴァンの秀麗な顔のドアップに、とうとうオーバーヒートしたレナは珍妙な悲鳴を上げ、それに何事かとテントの中を覗きに来た先輩達に救出されるまで、涙目で思考を放棄したのだった。



   ***



「誠に申し訳ございませんでした!」

 土下座して謝まるのは、頭にでかいたんこぶを作ったイヴァンだ。
 その彼の後ろには、仕事人の顔をしたネモが拳を構えて仁王立ちをしている。
 レナが悲鳴を上げた後、テントを覗きに来た先輩達がとった行動は素早かった。
 まずネモが眦吊り上げて「セクハラ撲滅!」と言って拳骨を落とし、それに驚いたイヴァンが飛び起きた隙に、チアンとヘンリーの手によってレナはイヴァンの腕の中から回収された。
 そして目を白黒させるイヴァンに状況を説明し、今に至ったのだ。

「寝床に後輩を引き摺り込むとはやるな、イヴァン」
「よっ! リア充! 爆発しろ!」
「今回は事故みたいだけど、合意のないセクシャルな接触は不能の刑に処すから覚悟しなさい」

 チアンは淡々と、ヘンリーは妬みを籠めて、ネモは冷気をまき散らしてイヴァンの貧弱な精神をつつく。実に濃いキャラをしている。
 「んぐぅ……」と呻くイヴァンに、レナは苦笑いする。

「まあ、寝ぼけてただけですし……。謝ってもらいましたら、もういいですよ」
「うう……、本当にごめんね、レナ……」

 寝起きでボサボサの頭の黒髪をかき回し、イヴァンは情けない顔をする。
 そんなイヴァンの手を引いて焚火の傍まで導き、トマトシチューとパンを渡す。

「凄くお疲れなんですよね? 朝食も昼食も抜いたって聞きましたよ? しっかり食べて下さいね」

 そう言って、今度は自分の分を注ぐべくその場を離れる。
 ネモはその後を追い、残されたイヴァンは肩を落としてトマトシチューを手持ち無沙汰にかき回す。
 そんなイヴァンの傍に、チアンとヘンリーがソロリと寄って来る。

「――それで、どうだった?」
「レナを抱きしめた感想は?」

 男達の質問に、イヴァンは絞り出すように言った。

「――いい匂いがしました!」

 瞬間、スパーンといい音を鳴らしてチアンとヘンリーに頭を叩かれる。
 イヴァンはたんこぶを襲った衝撃に、頭を抱えて悶絶したのだった。
しおりを挟む
感想 453

あなたにおすすめの小説

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。