妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第二十一話 医務室にて2

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 テオ達の前に立つ妖精王は、改めて見てみると、何処か神秘的な雰囲気のある美しい男である事が分かった。そして同時に、とてもではないが魔物などには見えなかった。広場の妖精を見た時も思ったが、この人たちを魔物と言った昔の人達は、どう考えても頭がおかしいとしか思えなかった。
 むしろ女神様側に近いのではないか、とテオには思えて仕方なかった。
 キラキラと光を反射する鹿の様な角は王様の王冠よりも綺麗で、立派なものに見え、長い青みがかった深緑の髪は、森を思い起こさせる。まるで宝石の様な緑色の瞳は優し気で、薄い水色の刺繍が施された白い服は聖職者を連想させた。この人が教会に居たら神様と見紛うのではないかとテオは思った。
 本当に、見れば見る程魔物などには思えない。やはり、あの聖女様は頭がおかしかったんだ、とテオは改めて思った。

「それで、本題なんだが、そこの彼がまだ目を覚まさないと聞いてね、少し助力が出来るかもしれないから来たんだ」

 妖精王のその言葉にブラムが目を見開き、妖精王を凝視する。

「その方法なんだが、少々変則的な方法でね。私としては試してみる価値はあると思うんだが、どうする?」

 テオは直ぐにでも頼みたかったが、ブラムはその言葉を聞いて迷った様子を見せた。何故すぐに頼まないのかとテオは不満に思ったが、妖精王は気分を害した様な様子を見せず、むしろブラムの迷いに理解を示すかの様に頷いて見せた。

「まあ、初対面で、妖精王などと言う得体の知れない存在に貴方の大事な人を任せる不安は分かるし、何かしら後で対価を要求される可能性も無きにしも非ずだ。貴方は、自分の立場をよく分かっていらっしゃる」

 テオは妖精王の言葉に驚き、同時に自分の浅い考えを恥じた。ブラムは国から大事な仕事を任せられる様な、優秀な人なのである。テオの様な浅学の未熟者とは違い、その肩にはとても重い責任が掛かっているのだ。

「そうだな、まず、彼に私がしようとしている事を説明しようか」

 そう言って、妖精王はブラムに向き直った。

「こちらの御仁は、まず栄養不足だ。その為、目を覚ます体力が――要は生命力が足りていない。なので、私の魔法で私の生命力を少し分けようかと思う」

 妖精王の説明に、テオとブラムはぎょっといて目を見開いた。

「そ、その様な事が可能なのですか?」

 そんな魔法の存在は、聞いた事が無かった。ブラムの問いに、妖精王は穏やかに頷く。

「可能だよ。ふむ、もしかして、この様な魔法は今まで無かったのかな?」

 そう言って首を傾げた妖精王に、聞いた事が無い、とブラムが答えた。

「成る程。まあ、そうかもしれないね。世界がまだ豊かだった頃は、態々自分の生命力を分け与える必要なんて無かっただろうし、衰退した世界では分け与えられる程生命力を持っていないだろうしね」

 そう言われ、確かにそうだと納得した。世界が豊かだった頃は人々は生命力に溢れた体をしていただろう。どんなに見渡しても太った人など居ない今の世界とは大違いで、生命力を分けてもらう人用など無かったに違いない。

「不安なら、少し試してみるかい?」

 そう尋ねる妖精王に、ブラムが真剣な面持ちでゆっくりと頷いた。

「お願いします」
「ああ、分かった。それでは、手を出してくれるかな?」

 ブラムは言われたとおりに手を差し出し、妖精王はその手を取り、一つ深く深呼吸をする。

「<<――分かちたまへエナジートランスファー――>>」

 一つ呪文を唱え、妖精王が淡く発光したと思ったら、その光が繋がれたブラムの手に吸い込まれていった。
 それは一瞬の事で、妖精王は目を白黒させるブラムの手を離し、尋ねる。

「気分はどうかな? 少しは疲れが取れているのではないかと思うんだが」
「え、ああ、確かに……」

 そう言われ、ブラムは少し不思議そうに己の身体を見下ろした。

「疲れが、少し取れた様な……」

 そう言うブラムに、妖精王が医師を呼び、軽い診察を受けさせた。

「ああ、そうですね。確かに少し顔色が良くなっています」

 そう言って医師は頷きつつも、妖精王の顔を見て、顔をしかめた。

「逆に、妖精王様は少しお疲れの様に見えます。使用した魔法はあまり使わない様に」

 医師の指摘に、妖精王は少し驚いた様子を見せ、苦笑いしながら「気を付けよう」と言った。

「さて、それでだ。この魔法を彼に使いたいのだが、良いだろうか?」

 医師の注意を聞いてしまったブラムは複雑そうな顔をしたが、それでもサイラスを救いたいと願ったのだろう。幾らか悩んだ後、迷いながらも尋ねた。

「対価は何だろうか?」

 それを聞いた妖精王はにっこりと笑い、告げた。

「君たちの国の様子を詳しく知りたい。もちろん、機密情報を話せなどとは言わないよ。ただ、君たちの国に『生命の樹』を渡すのなら、妖精を受けれられる要素があるかどうかを知っておきたいんだ」

 その返答にブラムは驚き、目を見開いた。

「何といっても、あの訳の分からない『聖女様』みたいな者が居たら困るからね。せめて、緑豊かな大地を手に入れる為に妖精だろうと受け入れられる、位の対応が出来るか知りたいんだ」

 たとえ嫌悪感があっても、利があるなら受け入れられる、という大人の対応を求めているのだと妖精王は言った。

「後日、そう言った事をロムルド王国の人族達と相談するから、出来れば君にも参加して欲しいな。他国の様子が知りたいんだ」

 それを聞き、ブラムはそう言う事なら、と言ってオベロンの頼みを了承した。
 そうして妖精王はサイラスに生命力を譲渡し、疲れたからまた後日、と言って帰って行った。妖精王がサイラスに生命力を譲渡している間、医師が眉間に皺を寄せ、ジトッとした目でその様子を見ていたのが印象的だった。
 その後、サイラスの様子を診察した医師に、これならば明日にでも目覚めるだろう、と太鼓判を貰い、テオとブラムは胸をなでおろした。
 そのサイラスが目を覚ましたのは、翌日の早朝の事だった。ブラムは安堵のあまり涙ぐみ、テオはその日一日ずっとにこにこと笑っていた。
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