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篩編
第二十話 医務室にて
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オベロン達が話し合いをしている丁度その頃、テオとブラムは負傷して意識が戻らないサイラスと共に城へと戻っていた。
サイラスは城へ戻ってからも目を覚まさず、城の医務室で寝かされていた。
ブラムが厳しい顔でサイラスが寝るベッド脇の椅子に座り、サイラスの血色の悪い顔を見つめる。その後ろで、テオも幾分暗い面持ちで、その様子を見守っていた。
そんな二人の前で、医師がサイラスの様子を診察し、神妙な面持ちで口を開いた。
「傷は綺麗に塞がっていましたが、足場が崩れて頭を打ったのと、血を流し過ぎたんでしょう。あまり良くありません。お歳も今年で五十四歳との事ですので、目を覚まされなければ、そのまま――、という事もあります」
医師の言葉に、テオはヒュッ、と息を吞んだ。
「一度でも起きていただければ、こちらのポーションを試せるので、可能性が上がるのですが……」
医師が言うポーションは、妖精王オベロンから貰ったポーションである。医師が言うには、高品質の状態異常を直すポーションらしく、これを飲めれば状態が回復する可能性が上がるらしい。しかし、あくまで可能性が上がるだけで、怪我をする前の様に元気になるのではないのだと言う。何せ、年齢が五十四歳である。現在の男性の平均寿命は六十代前半で、栄養が足りていない身でこの様な大怪我をしたのなら、助かる可能性は低い。ある意味寿命が削られた様なものである。
「……このまま、ここに居ても良いでしょうか?」
「ええ、もちろん。時々患者さんに声を掛けてあげてください。起きる可能性が上がりますので」
ブラムの要望に医師は頷き、その場を去って行った。
ブラムはしばらくサイラスの顔を眺め、徐にポツリと呟くように話し出した。
「サイラスは、我がスミット子爵家に代々仕えてくれている執事の次男でな」
「え、あ、はい」
急に話し出され、テオは少し慌てたものの、それに相槌を返した。
「信仰熱心な男で、若い頃は巡礼の旅に出て、帰って来てからはスミット家に執事としてよく仕えてくれた」
サイラスはブラムより十二歳年上で、ブラムにとっては自分の面倒をよく見てくれるお兄さんの様な存在だったらしい。
「食い扶持が増えるからと誰とも結婚せず、甥や姪を可愛がっていてな……。無事に連れて帰れなければ、どれだけ彼等が悲しむか……」
ブラムの声は震える事無くしっかりしていたが、その声音は沈んでいた。
テオもまた、気軽に大丈夫だ等と言う気になれず、沈んだ声で「早く、目が覚めれば良いですね」と小さく言い、眠るサイラスの顔を眺めた。
そうして、ポツポツとブラムと話していると、医務室のドアが開く音がし、誰かが入ってくる気配がした。
ベッドを仕切るカーテンの向こうから、小さく誰かの話し声がし、次いで驚きの声が上がる。
俄かに騒がしくなったカーテンの向こうの様子に、サイラスを見ていたブラムが顔を上げ、テオも声のする方へ視線を向ける。
「あの、僕、様子を見てきますね」
「ああ、頼む」
テオがその場を離れるためにそう断って、カーテンに手をかけた時だった。テオがカーテンを捲る前に、先程の医師がカーテンの向こうから声を掛けてきたのだ。
「申し訳ありません、ちょっとよろしいでしょうか?」
テオは慌ててブラムの方へ視線を向け、開けても良いかどうか伺うと、ブラムは頷いて許可を出した。
「あ、あの、大丈夫です。どうぞ……」
そっとカーテンを小さく開けて、カーテンの向こうに立っていた医師にそう言えば、医師は頷きながらも少し手を上げて、待てというジェスチャーをして、己の隣に視線を向けた。
そこで、テオはようやくカーテンの向こうに居たのが医師だけでは無いのだと気付き、少しだけカーテンから身を乗り出してみれば、そこには予想外の人物が居た。
「私もお邪魔しても良いだろうか?」
その人物は、低く落ち着いた声で、テオにそう尋ねた。
そこには、水晶の様な鹿の角を持つ妖精王が居たのだ。
テオは少しポカン、とした後、慌てて「少々お待ちください」と断ってからブラムへ振り返り、妖精王が来ている事を告げた。
ブラムは驚いて立ち上がり、テオを下がらせてカーテンを開ける。
「これは、妖精王様。何故こちらに……? ああ、いや、その前に礼を言わねば――」
「スミット様、落ち着いてください」
どうやらブラムは混乱しているらしく、常ならぬ様子で、口から飛び出す言葉には纏まりが無かった。
そんなブラムの様子に優しく声を掛けたのは医師である。ブラムの疲労に気付いており、優しい声音で椅子に座るよう促した。
「妖精王様、スミット様もお疲れの様子ですので、医者としては早々に休んでいただきたいと思っております。出来れば、今日の所は手短にお願いします」
「ああ、分かった」
そう言って頷く妖精王に医師もまた頷き、大きくカーテンを開いてベッドの脇にオベロンを迎え入れる。
「すまないな。使者殿と少し話がしたいのと、彼の様子が気になって押し掛けてしまった」
「いえ……」
妖精王の謝罪に戸惑いながら、ブラムは頷きつつも再び席を立とうとするも、妖精王に座っている様に指示を出され、少しばかり困った面持ちでブラムは再び椅子に座った。
ブラムは恐らく妖精王に立たせたままで、自分が座っている事に落ち着かないのだろう。少しばかり居心地悪そうな面持ちで、妖精王に視線を向けていた。
「そうだな、まず自己紹介をしよう。私は、妖精王オベロンだ。まあ、見ての通り人族ではない」
そう言って、ブラムに視線を向けて、自己紹介を促す。
「私は、トラル皇国の外交官のブラム・スミットと申します。国では子爵の位を頂いています。これは、使用人のテオです」
テオにも水を向けられ、テオは緊張して鯱張ったお辞儀をした。
妖精王はそんなテオに小さく微笑みを浮かべ、告げる。
「君は確か、木霊を庇ってくれた子だね。ありがとう、とても感謝しているよ」
「あ、いえ、そんな……」
わたわたと慌てて挙動不審になるテオに、妖精王は微笑まし気に笑みを深めた。
サイラスは城へ戻ってからも目を覚まさず、城の医務室で寝かされていた。
ブラムが厳しい顔でサイラスが寝るベッド脇の椅子に座り、サイラスの血色の悪い顔を見つめる。その後ろで、テオも幾分暗い面持ちで、その様子を見守っていた。
そんな二人の前で、医師がサイラスの様子を診察し、神妙な面持ちで口を開いた。
「傷は綺麗に塞がっていましたが、足場が崩れて頭を打ったのと、血を流し過ぎたんでしょう。あまり良くありません。お歳も今年で五十四歳との事ですので、目を覚まされなければ、そのまま――、という事もあります」
医師の言葉に、テオはヒュッ、と息を吞んだ。
「一度でも起きていただければ、こちらのポーションを試せるので、可能性が上がるのですが……」
医師が言うポーションは、妖精王オベロンから貰ったポーションである。医師が言うには、高品質の状態異常を直すポーションらしく、これを飲めれば状態が回復する可能性が上がるらしい。しかし、あくまで可能性が上がるだけで、怪我をする前の様に元気になるのではないのだと言う。何せ、年齢が五十四歳である。現在の男性の平均寿命は六十代前半で、栄養が足りていない身でこの様な大怪我をしたのなら、助かる可能性は低い。ある意味寿命が削られた様なものである。
「……このまま、ここに居ても良いでしょうか?」
「ええ、もちろん。時々患者さんに声を掛けてあげてください。起きる可能性が上がりますので」
ブラムの要望に医師は頷き、その場を去って行った。
ブラムはしばらくサイラスの顔を眺め、徐にポツリと呟くように話し出した。
「サイラスは、我がスミット子爵家に代々仕えてくれている執事の次男でな」
「え、あ、はい」
急に話し出され、テオは少し慌てたものの、それに相槌を返した。
「信仰熱心な男で、若い頃は巡礼の旅に出て、帰って来てからはスミット家に執事としてよく仕えてくれた」
サイラスはブラムより十二歳年上で、ブラムにとっては自分の面倒をよく見てくれるお兄さんの様な存在だったらしい。
「食い扶持が増えるからと誰とも結婚せず、甥や姪を可愛がっていてな……。無事に連れて帰れなければ、どれだけ彼等が悲しむか……」
ブラムの声は震える事無くしっかりしていたが、その声音は沈んでいた。
テオもまた、気軽に大丈夫だ等と言う気になれず、沈んだ声で「早く、目が覚めれば良いですね」と小さく言い、眠るサイラスの顔を眺めた。
そうして、ポツポツとブラムと話していると、医務室のドアが開く音がし、誰かが入ってくる気配がした。
ベッドを仕切るカーテンの向こうから、小さく誰かの話し声がし、次いで驚きの声が上がる。
俄かに騒がしくなったカーテンの向こうの様子に、サイラスを見ていたブラムが顔を上げ、テオも声のする方へ視線を向ける。
「あの、僕、様子を見てきますね」
「ああ、頼む」
テオがその場を離れるためにそう断って、カーテンに手をかけた時だった。テオがカーテンを捲る前に、先程の医師がカーテンの向こうから声を掛けてきたのだ。
「申し訳ありません、ちょっとよろしいでしょうか?」
テオは慌ててブラムの方へ視線を向け、開けても良いかどうか伺うと、ブラムは頷いて許可を出した。
「あ、あの、大丈夫です。どうぞ……」
そっとカーテンを小さく開けて、カーテンの向こうに立っていた医師にそう言えば、医師は頷きながらも少し手を上げて、待てというジェスチャーをして、己の隣に視線を向けた。
そこで、テオはようやくカーテンの向こうに居たのが医師だけでは無いのだと気付き、少しだけカーテンから身を乗り出してみれば、そこには予想外の人物が居た。
「私もお邪魔しても良いだろうか?」
その人物は、低く落ち着いた声で、テオにそう尋ねた。
そこには、水晶の様な鹿の角を持つ妖精王が居たのだ。
テオは少しポカン、とした後、慌てて「少々お待ちください」と断ってからブラムへ振り返り、妖精王が来ている事を告げた。
ブラムは驚いて立ち上がり、テオを下がらせてカーテンを開ける。
「これは、妖精王様。何故こちらに……? ああ、いや、その前に礼を言わねば――」
「スミット様、落ち着いてください」
どうやらブラムは混乱しているらしく、常ならぬ様子で、口から飛び出す言葉には纏まりが無かった。
そんなブラムの様子に優しく声を掛けたのは医師である。ブラムの疲労に気付いており、優しい声音で椅子に座るよう促した。
「妖精王様、スミット様もお疲れの様子ですので、医者としては早々に休んでいただきたいと思っております。出来れば、今日の所は手短にお願いします」
「ああ、分かった」
そう言って頷く妖精王に医師もまた頷き、大きくカーテンを開いてベッドの脇にオベロンを迎え入れる。
「すまないな。使者殿と少し話がしたいのと、彼の様子が気になって押し掛けてしまった」
「いえ……」
妖精王の謝罪に戸惑いながら、ブラムは頷きつつも再び席を立とうとするも、妖精王に座っている様に指示を出され、少しばかり困った面持ちでブラムは再び椅子に座った。
ブラムは恐らく妖精王に立たせたままで、自分が座っている事に落ち着かないのだろう。少しばかり居心地悪そうな面持ちで、妖精王に視線を向けていた。
「そうだな、まず自己紹介をしよう。私は、妖精王オベロンだ。まあ、見ての通り人族ではない」
そう言って、ブラムに視線を向けて、自己紹介を促す。
「私は、トラル皇国の外交官のブラム・スミットと申します。国では子爵の位を頂いています。これは、使用人のテオです」
テオにも水を向けられ、テオは緊張して鯱張ったお辞儀をした。
妖精王はそんなテオに小さく微笑みを浮かべ、告げる。
「君は確か、木霊を庇ってくれた子だね。ありがとう、とても感謝しているよ」
「あ、いえ、そんな……」
わたわたと慌てて挙動不審になるテオに、妖精王は微笑まし気に笑みを深めた。
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