妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第十六話 溜め息

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 オベロンは疲れていた。もうヤダー、と言って大の字になって寝てしまいたかった。
 人族が慌ただしく動いているのを眺めながら、オベロンは溜息を吐く。
 今回の騒動を知ったのは、女神様の『神様講座』を受けている時の事だった。
 あの『幻獣名付け事件』から、女神様から『神』について知っておいた方が良いだろう、と言われ、定期的に勉強会が開かれる事になったのである。それは有難かったし、女神様と会えるのも嬉しかったので全く構わないのだが、今回の事件は本当にタイミングが良くて、悪かった。
 事の起こりは、女神様の『神様講座』の最中に木霊が慌てて飛び込んで来た事だった。

「大変です、王様!」
「うわっ!? どうしたんだ、木霊」

 あまりに焦った様子の木霊に、オベロンは目を丸くした。
 何だ、何事だ、と他の妖精達や、女神様が見守る中、木霊が叫んだ。

「人族の国に渡した『生命の樹』が、僕の分体が襲われています!」
「な、なんだって!?」

 オベロンは慌てて席から立ちあがり、木霊へどういう事か事情の説明を求めた。そうして説明された所によると、二十人程の人々を引き連れた人族が妖精を魔物だと言って襲撃し、現在騎士達がそれと戦っているのだと言う。
 はっきり言って、木霊としてはそのまま分体が殺され、『生命の樹』が切られようと構わないが、王たるオベロンがそれを望んでいないのを知っていたので、慌てて報せに来たのである。

「有るかもしれないと思ってたが、展開が早すぎる! 申し訳ありません、女神様。ちょっと行ってまいります!」

 そう言って慌てて外に出て行こうとするオベロンを引き留めたのは、女神様だった。

「お待ちなさい、オベロン」
「えっ、あ、はい」

 不思議と従わねば、と思わせる声音に、オベロンの足が止まった。

「ここからその『生命の樹』まで、どうやって移動するつもり?」
「えっと、風の精霊に手伝ってもらおうかと……」

 穏やかに微笑む女神様に、オベロンは尻すぼみに答えた。

「それでは間に合わないんじゃないかしら?」
「それは……、そうかもしれませんが……」

 そうして、悔しそうに目を伏せるオベロンに、女神様が笑みを深くして告げる。

「私が送ってあげましょうか?」
「えっ」

 今回の危機に――ある意味では人族に手を貸す行為に、女神様が手を貸すと言い、オベロンは驚いて女神様を凝視した。

「ほら、幻獣に関する事や、南大陸の中心部の緑化、その前の魔物狩りのご褒美とかを上げないといけないと思ってたのよ」

 にこにこ笑う女神様からは、人族への気遣いや、慈悲らしきものは感じられず、純粋にオベロンが困ってるから手を貸そう、位の想いしか感じられなかった。
 それを少しだけ残念に思いながら、オベロンは女神様に現場へ送ってもらう様頼んだのである。
 シルキーが慌てて持ってきた上着を羽織り、女神様が尋ねてくる。

「それじゃあ、準備は良いかしら?」
「はい。よろしくお願いします」

 そうして、オベロンはこの『生命の樹』が生えている広場の上空へ転移したのである。
 そこからは、いきなり凶悪な魔法の洗礼を受けそうになり、慌てて自身と『生命の樹』周辺に防御膜を張り、攻撃魔法を放ってきた狂人と戦ったのである。
 そして、その狂人は実に都合の悪い事に、女神教の聖女だと言う。これはもう、最悪だった。女神様がこの有様を見ていたら……否、きっと知っているだろう。本当に最悪である。
 その狂った聖女はそれなりに優秀な人間の様で、それ故に厄介だった。その為、GMの一人である『妖精王オベロン』が使える権限一つ、悪質なプレイヤーに対し与えられるログインIDの停止ペナルティーを魔法化したものを使い、聖女の魔力、魔法、スキルを封印した。
 その後は怪我人の治療だ。流石に『生命の樹』と木霊の分体を守って戦っていた騎士達の怪我を放置するのは気が引けたのだ。騎士達は普段から鍛えているだけあって回復魔法で直ぐに元気になったが、執事の様な老人はどうなるか分からなかった。少しばかり心配である。
 そうして慌ただしくオベロンは怪我人を治癒して回り、こうなればついでだとばかりに王との面談を申し入れ、現在その返事待ちである。

「やれやれ、本当にまいった……」

 オベロンの呟きに、オベロンの膝に座る木霊の分体がコトリ、と首を傾げる。

「ただでさえ女神様の人族への評価は下がりっぱなしなのに、今回の事でまた下がったとしたら……。ああ、本当に参った……」

 オベロンとしても、妖精を殺し尽くした人族に思う所が無いわけではないが、滅んで欲しいとは思わないのだ。彼等に妖精の事をきちんと理解してもらって、共存できるのが一番だと思っていた。

「もし評価が下がらないとしても、期待してなかったからちっとも下がらなかった、なんて事になりそうだ……」

 そうだったら嫌だなぁ、とオベロンは溜息を吐くが、それを別次元から覗き見ていた女神様が「あら、正解」等と言っている事は、もちろん知る由もない。

「もう二度とこんな事が起きない様、やっぱり、人族側の視点が必要なんだよな……。ああ、もう、憂鬱だ……」

 疲れた様に項垂れるオベロンに、木霊の分体がオベロンを励ますようにぺちぺちと腕を叩いていた。
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