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篩編
第十五話 黒薔薇の戒め
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「目を覚ましたら、これを飲ませなさい。それで持ち直さなければ、私にはもうどうする事も出来ない」
そう言って差し出された小瓶を、ブラムが呆然とした面持ちで受け取る。
そして妖精王は次の怪我人の元へ去って行った。
少し浅くはあるが、呼吸の安定したサイラスを見て、ブラムが大きく息を吐き、辺りを見回す。
襲撃者達はセリーナが放った『聖光』の余波を受けて吹き飛ばされ、現在は呻きながら騎士達に捕らえられている。
吹き飛ばされたのは騎士達も同じだが、着ている鎧のお陰だったり、受け身を取ったりと、被害の程は襲撃者よりは軽いものだった。
それでも酷い者は、妖精王により治癒を施される。
アーロンもまた、倒れ、呻いているセリーナの元へと歩いて行く。
「貴女よりも、妖精王の方がよっぽど聖なる方の様に見えますね……」
そう呟くアーロンに、セリーナは荒い息を吐きながら、怒りに満ちた形相でアーロンを睨みつけた。
回復魔法というものは、相応しい行いを積んだ聖者しか使うことが出来ない。精霊魔法でも出来なくはないが、回復魔法に比べれば、その効果は格段に落ちる。
回復魔法と習得する者は、心から人を癒したいと願い、学び続け、その末にスキルが発現するのである。それを習得した者を聖者と呼び、そのスキルを持つ者は教会関係者ではなく、医者である事が多い。故に、回復魔法のスキルを持つ医者は心から尊敬されるのだ。但し、殆どの『聖者』たる医者は、『聖者』と呼ばれるのを嫌がるのは余談である。
「<<星をめぐ――あああああああああ!?」
往生際悪く呪文を紡ごうとしたセリーナが、詠唱途中で悲鳴を上げた。
そして、悲鳴が途切れた頃にはセリーナは白目を剥いて気絶していた。
そのセリーナの尋常ならざる様子に驚き、セリーナの容体を確認するアーロンに、妖精王が近づいて来た。
「ふむ。気絶したか」
「あ、はい。……あの、この者は一体どうしたのでしょうか? 魔法を使おうとしたようなのですが、突然苦しみ出したのです」
腹立たしい女ではあるが、今後の責任問題やら何やらあるので、死なれたら困るのだ。
そんなアーロンの質問に、妖精王はパチリ、と一つ瞬き、答えた。
「ああ、権限を停止したのに魔法を使おうとしたから、痛みが走ったんだろう」
「権限を…停止……?」
妖精王の言っている意味が分からず、首を傾げるアーロンに、妖精王が改めて言い直す。
「権限の停止――つまり、能力の封印だ。魔力の使用を封じ、スキル、魔法の使用も出来なくなっている。まあ、つまり、只人状態だな」
「は?」
さらっと、とんでもない事を言われ、アーロンは思わず呆けた。
「この黒薔薇の冠が封印の証だ。これはルール違反者のペナルティ用の術で……、まあ、つまり罪人用の術だな」
セリーナの頭にある花だけでなく、蔓や葉まで黒い、黒薔薇の冠を指して言われた言葉に、納得する。成る程、この実力だけはある狂人に対し、とても効果的であり、適切な術であるのが分かった。
「それで、この女はこの国の者か?」
「いえ、ジード神皇国の女神教の聖女です」
それを聞き、妖精王が嫌そうな顔をする。
「よりにもよって、女神教の者か」
「はい……」
何だか、アーロンはとても恥ずかしくなった。
セリーナは他国の人間であり、身内では無いのだが、アーロンと同じ人族である事には変わりないのだ。何やら、同じ人族として恥ずかしく思ってしまったのだ。
妖精王は眉間に深い皺を刻み、目頭を揉みながら唸る。
「あー……、全く、どうしてこう……。はあぁぁ……」
深い溜息を吐き、妖精王はアーロンに向き直り、告げた。
「もう、こうなればついでだ。お前の国の王に会わせろ。今後の事について、色々と取り決めを交わすぞ」
「えっ、あ、はい!」
アーロンはその言葉に目を見開き、驚きつつも、これはチャンスだと即座に判断して了承の意を含んだ返事をした。
そして、救援に来た騎士達の内二人を呼んだ。一人は王城へ行って妖精王が王に会いたがっている旨を伝えてもらい、もう一人はセリーナの護送である。
「申し訳ありません、もうしばらくお待ちいただいても良いでしょうか?」
「かまわない。私は木霊の所に居るから、準備が出来たら呼んでくれ」
そう言って妖精王は『生命の樹』が植えてある花壇に腰掛け、近寄って来た木霊の相手をしだした。
その様子を横目に見ながら、同僚の騎士がアーロンの元へ寄ってくる。
「おい、あれが妖精王か?」
「ああ、そうだよ」
同僚の騎士は、アーロンが例の島へ行き、妖精王と対面した事を知っていた。
「透明な鹿の角が生えているだけで、それ以外は人族みたいだな」
「ああ、そうだな」
「……魔物に、見えないな」
「そうだな」
「理性的な会話が出来て、回復呪文まで使えるなんて、魔物である筈が無いよな……」
「………」
「俺、ちょっと人族である事が恥ずかしいよ。何で、妖精を絶滅させるまで狩っちゃったんだろうな? 妖精珠に価値があるからって、明らかに狩って良い相手じゃないじゃないか……」
そう言って苦い顔をする騎士に、アーロンも無言で頷き、溜息を吐いた
そう言って差し出された小瓶を、ブラムが呆然とした面持ちで受け取る。
そして妖精王は次の怪我人の元へ去って行った。
少し浅くはあるが、呼吸の安定したサイラスを見て、ブラムが大きく息を吐き、辺りを見回す。
襲撃者達はセリーナが放った『聖光』の余波を受けて吹き飛ばされ、現在は呻きながら騎士達に捕らえられている。
吹き飛ばされたのは騎士達も同じだが、着ている鎧のお陰だったり、受け身を取ったりと、被害の程は襲撃者よりは軽いものだった。
それでも酷い者は、妖精王により治癒を施される。
アーロンもまた、倒れ、呻いているセリーナの元へと歩いて行く。
「貴女よりも、妖精王の方がよっぽど聖なる方の様に見えますね……」
そう呟くアーロンに、セリーナは荒い息を吐きながら、怒りに満ちた形相でアーロンを睨みつけた。
回復魔法というものは、相応しい行いを積んだ聖者しか使うことが出来ない。精霊魔法でも出来なくはないが、回復魔法に比べれば、その効果は格段に落ちる。
回復魔法と習得する者は、心から人を癒したいと願い、学び続け、その末にスキルが発現するのである。それを習得した者を聖者と呼び、そのスキルを持つ者は教会関係者ではなく、医者である事が多い。故に、回復魔法のスキルを持つ医者は心から尊敬されるのだ。但し、殆どの『聖者』たる医者は、『聖者』と呼ばれるのを嫌がるのは余談である。
「<<星をめぐ――あああああああああ!?」
往生際悪く呪文を紡ごうとしたセリーナが、詠唱途中で悲鳴を上げた。
そして、悲鳴が途切れた頃にはセリーナは白目を剥いて気絶していた。
そのセリーナの尋常ならざる様子に驚き、セリーナの容体を確認するアーロンに、妖精王が近づいて来た。
「ふむ。気絶したか」
「あ、はい。……あの、この者は一体どうしたのでしょうか? 魔法を使おうとしたようなのですが、突然苦しみ出したのです」
腹立たしい女ではあるが、今後の責任問題やら何やらあるので、死なれたら困るのだ。
そんなアーロンの質問に、妖精王はパチリ、と一つ瞬き、答えた。
「ああ、権限を停止したのに魔法を使おうとしたから、痛みが走ったんだろう」
「権限を…停止……?」
妖精王の言っている意味が分からず、首を傾げるアーロンに、妖精王が改めて言い直す。
「権限の停止――つまり、能力の封印だ。魔力の使用を封じ、スキル、魔法の使用も出来なくなっている。まあ、つまり、只人状態だな」
「は?」
さらっと、とんでもない事を言われ、アーロンは思わず呆けた。
「この黒薔薇の冠が封印の証だ。これはルール違反者のペナルティ用の術で……、まあ、つまり罪人用の術だな」
セリーナの頭にある花だけでなく、蔓や葉まで黒い、黒薔薇の冠を指して言われた言葉に、納得する。成る程、この実力だけはある狂人に対し、とても効果的であり、適切な術であるのが分かった。
「それで、この女はこの国の者か?」
「いえ、ジード神皇国の女神教の聖女です」
それを聞き、妖精王が嫌そうな顔をする。
「よりにもよって、女神教の者か」
「はい……」
何だか、アーロンはとても恥ずかしくなった。
セリーナは他国の人間であり、身内では無いのだが、アーロンと同じ人族である事には変わりないのだ。何やら、同じ人族として恥ずかしく思ってしまったのだ。
妖精王は眉間に深い皺を刻み、目頭を揉みながら唸る。
「あー……、全く、どうしてこう……。はあぁぁ……」
深い溜息を吐き、妖精王はアーロンに向き直り、告げた。
「もう、こうなればついでだ。お前の国の王に会わせろ。今後の事について、色々と取り決めを交わすぞ」
「えっ、あ、はい!」
アーロンはその言葉に目を見開き、驚きつつも、これはチャンスだと即座に判断して了承の意を含んだ返事をした。
そして、救援に来た騎士達の内二人を呼んだ。一人は王城へ行って妖精王が王に会いたがっている旨を伝えてもらい、もう一人はセリーナの護送である。
「申し訳ありません、もうしばらくお待ちいただいても良いでしょうか?」
「かまわない。私は木霊の所に居るから、準備が出来たら呼んでくれ」
そう言って妖精王は『生命の樹』が植えてある花壇に腰掛け、近寄って来た木霊の相手をしだした。
その様子を横目に見ながら、同僚の騎士がアーロンの元へ寄ってくる。
「おい、あれが妖精王か?」
「ああ、そうだよ」
同僚の騎士は、アーロンが例の島へ行き、妖精王と対面した事を知っていた。
「透明な鹿の角が生えているだけで、それ以外は人族みたいだな」
「ああ、そうだな」
「……魔物に、見えないな」
「そうだな」
「理性的な会話が出来て、回復呪文まで使えるなんて、魔物である筈が無いよな……」
「………」
「俺、ちょっと人族である事が恥ずかしいよ。何で、妖精を絶滅させるまで狩っちゃったんだろうな? 妖精珠に価値があるからって、明らかに狩って良い相手じゃないじゃないか……」
そう言って苦い顔をする騎士に、アーロンも無言で頷き、溜息を吐いた
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