妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第三話 南大陸

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 オベロンは南大陸に行く事にしたが、さて、そこで困った。
 南大陸が何処に在るのか分からないのである。
 それもまあ、仕方のない事ではある。世界地図を見せられて、ここに行けと言われても、空を飛べたとして、目視出来ない場所に在る地にどうやって行けと言うのか。

「精霊に連れて行ってもらったらどうじゃ」

 ノームの言葉にその手があったか、と手を叩き、精霊にお願いする事にした。

「それじゃあ、精霊達。よろしく頼むよ」

 精霊達は喜んでオベロンを運んでくれた。しかし、少々張り切り過ぎて錐揉み運転となってしまい、オベロンは南大陸に着く頃にはすっかり参ってしまっていた。

「精霊共! そこへ並べぇい‼」

 一緒について来たノームは酔いこそしなかったが、軽く目が回ったらしく、激怒して精霊達を叱り飛ばしていた。

「まったく、浮かれおって! そうやって感情に走って王の様子に気付けないから、お前達を王のお傍に置けないんじゃ!」

 どうにも精霊は感情に素直で、今回の様に周りが見えなくなる事があるらしい。オベロンは今回の事で精霊にものを頼むときは、気を付けなければならないと学んだ。

「ノーム、もうその辺で。精霊達も、今度から気を付けてくれ」
「む、そうじゃの。時間が無くなってしまう」

 長々と説教が続きそうな気配を察知し、オベロンはノームを止め、可視化した精霊達は申し訳なさそうにオベロンに謝罪した。
 ノームは気を取り直し、オベロンに向き直る。

「それで、王よ。何処へ行くんじゃ」
「うーん、そうだね。まず、右手の方の気配の方が近いから、そこへ行ってみようか。……と、その前に、服をどうにかしよう。暑い」
「そうじゃのう。南大陸は島とは季節が逆じゃの」

 南大陸はオベロン達が住んでいる島とは逆の季節で、夏だったのだ。
 二人はコートや厚手の服を脱ぎ、オベロンのアイテムボックスの中に入っていた薄手の服に着替えた。
 そうして人心地がついた後、改めて見渡した南大陸の大地は、見事に何もなかった。
 乾いた砂色の大地に風が吹き、ひび割れた大地から砂を攫う。
 移動のために、今度は自分の力で空を飛び、上空から様子を見てみれば、薄く緑が残っている所もあるのだが、ほぼ砂色の乾いた世界だった。

「虫くらいなら居るかもしれんが、人や動物は無理じゃな。これでは魔物しか生きられん」

 ノームも眉を顰め、乾いた大地を見下ろす。

「取り合えず、あの気配が濃い付近まで行ってみよう」

 そう言って、少しばかり寒気がするような気配のする場所へ飛んでいく。
 それの正体はすぐに分かった。それは、とても大きな魔物だったのだ。

「何とまあ、呆れた大きさのバジリスクじゃのう……」

 ノームが言った様に、それは恐ろしく巨大なバジリスクだった。全長は三十メートルはありそうで、その身は呆れる程太い。
 バジリスクはこちらに気付いていないらしく、呑気に寝ている。オベロンは折角なので鑑定をしてみた。


 『バジリスク』
 蛇型の魔物。
 猛毒を持つ蛇の王。その視線には対象物を石化する効果がある。
 イタチと雄鶏が天敵。イタチはその匂いで、雄鶏はその鳴き声によって死に至るダメージを負う。


「イタチか雄鶏を連れて来れば良かった……」

 しかし、居ないものは仕方がない。視線が厄介なので、早々に決着をつけるべきだろう。
 上空からだと丸見えなので、一度地上に降り、遮蔽物の陰へ隠れる。
 バジリスクはこちらに気付いた様子は無く、未だ深く眠っている様だった。

「魔物は力が強くなると気配に疎くなるからのう……」

 そして、力が弱く、小物になる程気配に敏感になるのだという。

「それじゃあ、ちょっとやってみるから、ノームはそこに隠れてて」
「ふむ。大丈夫かの?」
「大丈夫、いける、いける」

 そう言ってアイテムボックスから取り出したのは、大型の密封容器に入った瞬間接着剤である。そして、『見習い錬金術師の腕輪』を取り出し、更に幾つかの材料を取り出した。

「よし。<<コピー錬金>>」

 オベロンの言葉に反応し、腕輪と接着剤、そして材料が淡く光り、材料がみるみるうちに姿を変えていく。
 ゲーム内での錬金術師はイベントアイテムや武器、防具などはコピーできないが、その材料となるアイテムならコピーしたいアイテムを所持していれば、下級アイテムを使って『コピー錬金』が出来るのだ。
 そして、オベロンもまたそのコピー錬金を利用して、瞬間接着剤を新たに六つ作り上げたのだった。
 元となったオリジナルの瞬間接着剤をしまい、新たに作った方の瞬間接着剤を風の魔法で持ち上げた。

「よし、行け!」

それをバジリスクの眼前まで飛ばし、そこで破裂させた。

――シャァァァ!?

 突然の破裂音に驚き、バジリスクは目を覚ましたが、瞬間接着剤により目が開かず、混乱して体を大きくうねらせる。
 それなりに距離を取っていたオベロン達だったが、その様子を見て冷や汗が出た。

「何とまあ……」
「でかい、な……」

 尾で叩けば岩盤を割り、うねらせたその身で大地を削る。
 三十メートル級の大蛇の大暴れは、圧巻だった。
 いつまでも見物している訳にもいかないので、オベロンは『緑の王笏』を取り出し、仕上げにかかる。

「<<森の王が命ずる。目覚めよ、我が兵達よ>>」

 力を籠めた言葉が鍵となり、能力が発動する。
 空気が震え、大地からひょこりと植物の芽吹いた。
 その芽は異常な速さで成長し、どんどん大きくなっていく。

「<<その力を持ちて、我が前の狼藉者を捕らえよ>>」

 それは、『妖精王オベロン』と『緑の王笏』の力であり、オベロンが最初に島を緑化したそれと似たものだった。
 しかし、過去のそれとは明確に違う部分もあった。
 伸び続ける植物達には、明確な攻撃性があったのだ。


「<<―緑の牢獄―>>」

 
――シャァァァァッ!?

 植物はバジリスクに巻き付き、万力の力で締め上げる。
 バジリスクは突然の攻撃に身をひねって逃れようとするが、沢山の植物が次から次へと伸びてきて、その身に巻き付き、埋め尽くす。
 最終的にバジリスクの姿は植物に埋め尽くされて見えなくなり、バジリスクが暴れる度に揺れていた大地もまた、静かになった。
 そして、ポツリ、と白い小さな花が咲いた。
 それを皮切りに、赤、青、黄色、オレンジ、といった様々な色の花が咲き乱れ、花弁が風にさらわれていく。
 それは、とても美しい光景だった。

「なんともまあ……、えげつないのう……」

 そして、とても恐ろしい光景だった。

「あの植物は、バジリスクを養分に花を咲かせているのかのう……?」
「うーん……。多分……」

 オベロンとしても、少し予想外の光景だった。
 ゲーム内では植物が攻撃し、それが終わるとエフェクトと共に消えていくのだが、現実に使うとなると弱肉強食が前面に出て来る光景になるらしい。
 植物が魔物を捕らえ、養分にしてしまっていた。

「しかし、これでは素材が確保できんな。勿体無い」
「あ、そういえばそうだな……」

 バジリスクなどという魔物の素材は貴重なものに違いない。勿体ない事をしてしまった、とオベロンは落ち込んだ。

「まあ、次から気を付ければ良いじゃろう。それに、王にとって先程の術の効果は予定外の結果になってしまったんじゃろう?」
「ああ。まさか、こんな事になるとは思わなかったんだ」
「ふむ。この際、王の持つ術を全て使ってみて、効果を試してみた方が良いかもしれんな」
「あー、確かに、その方が良いかもな……」

 他にも幾つかある『妖精王オベロン』の術を思い出し、苦笑いする。

「よし。そうと決まれば、次じゃな」
「そうだな。今回はちょっと使うとどうなるか分からない物を中心に使ってみよう。丁度、誰にも迷惑を掛けない土地に来ている訳だし」

 そう言って、二人は次の獲物を求めて歩き出したのであった。
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