妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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篩編

第二話 思惑

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 国王の質問に答えたのは、ラリーだった。

「妖精王は、どの国にも『生命の樹』を渡すでしょう」

 事も無げにそう言うラリーに、アーロンはぎょっとして目を見張った。

「しかし、ラリー。妖精王は妖精を大切にしているようでした。そう簡単に『生命の樹』を渡すとは思えません」
「まあ、そうだな」

 アーロンの言葉にラリーは簡単に頷き、アーロンは困惑した。
 国王と宰相は目を見合わせ、話を続けろと促した。

「ただ、あの妖精の王様は、人族を試すと言いました。それは、この国だけでは無い筈です。他国にも求められれば通過点はどうであれ、最終的には樹を渡すと思います」

 ラリーは国王の目を真っすぐ見て、言った。

「我々人族は、これから篩に掛けられるのです」

 妖精王は、女神様は人族に失望し、妖精王が女神様の最後の慈悲だ、と言っていたのだ。

「妖精王が女神様からの最後の慈悲なら、これからはどんなに祈りを捧げようと無駄でしょう。我々のこれからの態度が、人族が生きる価値がある種族かどうかを見定められる。その為に、妖精王は我々に『生命の樹』を渡すのです」

 ラリーの説明に、三人は息を飲む。

「陛下、他国の使者や関係者には、慎重に、詳細に、漏らさず妖精の真実を伝えて下さい。絶対に、妖精を蔑ろにするような事をさせないように」

 妖精王は、連帯責任を負わさない、とは言っていなかったのだから。



   ***



 ある日の午後の事である。

「こんにちは、オベロン」

 オベロンの元に、にっこりと微笑む女神様がやってきた。
 
「ぶ、ごっほ――!?」
「あらあらあら、驚かせちゃったわね?」

 ハーブティーを飲んでいたオベロンは、突然の女神様の来訪に咽た。
 女神様は優しくオベロンの背をさすり、オベロンは息を整えようと必死だ。
 他の妖精達は、「はわわ、女神様だ」と言わんばかりに挙動不審になっている。

「す、すみません。失礼しました」
「いいえ、良いのよ。ごめんなさいね、驚かせてしまって」

 取り合えず女神様に席を勧め、シルキーにお茶の準備を頼んだ。
 オベロンはにこにこと優しく微笑む女神様に改めて向き直り、女神様を見て、ふと違和感を感じた。
 内心首を傾げ、そして、気付いた。

「若返ってる……?」

 思わず口から零れた言葉に、オベロンはマズイ、と自分の口を手で塞いだ。

「あらあら、良いのよ? 本当の事ですもの」

 失言をしてしまったと思っているオベロンの内心とは裏腹に、女神様は益々笑顔を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。
 女神様が、本当の事、と言うからには、女神様はオベロンの見立て通りに若返っているのだろう。
 以前よりも肌に張りがあり、老化によって痩せていた体が、少しふっくらしていた。

「この島の豊かさもそうだけど、一国だけとはいえ、その地は豊かになりつつありますからね。世界に直結している私にも影響が出るのよ」

 女神様は目を細め、言う。

「私の姿は元々は若かったの。この世界が豊かだった頃、その姿が最盛期の姿。今の私の老いた姿は世界の末期を表しているのよ」

 皺のある手を少し寂しそうに見る女神様に、オベロンは胸が痛んだ。
 きっと、とても恐ろしかっただろう。長く、永遠に若い姿のままで生きるのが当たり前だっただろうに、世界が衰退していくにつれ、老いていったのだ。神様は、自分も周囲も老いて死ぬことが当たり前の生物とは違う存在なのに。
 オベロンの曇った表情を見て、女神様は気を取り直すようにパチン、と一つ手を叩き、微笑む。

「まあ、この話はここまでにしましょう。今日は、オベロンにちょっと頼みがあって来たの」
「頼み、ですか?」

 首を傾げるオベロンに、女神様は頷く。

「頼みというのは、魔物の事なの」

 女神様の言う事には、魔物が強くなりすぎて、人族が全く居なくなった大陸があるらしい。

「南の方の大陸なんだけど、どうにも魔物の蟲毒状態になってしまったようなの」
「げ……」

 南の大陸では、人族も動物も居なくなった為、魔物同士の喰い合いが起き、最終的に喰った魔物の能力を取り込んで進化する魔物まで現れ、シャレにならない強さを持ち始めたらしい。

「今は南大陸内で暴れているけど、獲物が居なくなれば海を渡ってしまうと思うの。そうすると、いずれはこの島に来てしまうかもしれないわ」

 ソワソワしていた妖精達が、女神様の言葉に固まった。

「大陸一の強さを獲得した魔物を相手するより、今の大陸内有数の力を持つ魔物であるうちに倒してしまった方が良いと思うの。オベロンもそろそろその体に慣れた頃だと思うし、どうかしら?」

 窺う様に小首を傾げる女神様に、オベロンは少々情けなく眉を下げながらも頷いた。

「お気遣いありがとうございます、女神様。魔物を倒してくる事にします」

 いずれ接敵する事になるのなら、是非も無かった。
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