妖精王オベロンの異世界生活

悠十

文字の大きさ
上 下
29 / 54
篩編

プロローグ

しおりを挟む
 季節は秋の終わり。
 動物達は冬支度に忙しく、夏の終わりに連れて来た狼の番は随分健康的になり、冬毛に生え変わってモコモコしていた。

「……狼って、こんなに懐くもんなの?」
「王だからのう」

 森の様子を見に行ったら、狼が寄って来て足に纏わりつかれたのだ。
 オベロンが狼を撫でれば、盛大に尾を振られる。

「来年は狼の番をもう一組と、狐の番辺りを増やしてみるか?」
「そうじゃの、草食獣の増え具合も見て、考えてみるかの」

 場合によっては、熊も増やそう、と言われ、少しドキドキした。
 熊など前世に出会いたくない野生動物上位ランクの獣である。しかし、この世界では魔法もあり、魔物というもっと恐ろしいモノが居るので、熊等は程々に恐ろしい獣、という認識である。何とも、異世界らしいギャップであった。
 オベロンに撫でられて満足したらしい狼の番は、別れの挨拶のつもりなのか、一鳴きして、尾を振りながらご機嫌で去って行った。

「そろそろ雪が降るかもしれんな」
「寒くなったからなぁ……」

 オベロン達の着ている服も、暖かな冬服である。この服は、たくみ達とシルキーの手によっていつの間にか作られており、サイズもぴったりだった。
 オベロンの服は全体的に白を基調とした寒色系で、雪が降ったら保護色の所為で紛れてしまいそうだ。
 ノームは主にダークブラウン系の服装で、コートは厚く、頑丈そうな印象を受けた。

「……ん? あれ?」

 ふと、オベロンは視界の端にちらついた者に気付き、空を見上げた。

「雪だ……」
「おや……」

 ノームと二人して空を見上げ、振ってくる小さな雪を見つめる。

「初雪じゃのう。この辺りは一度雪が降れば、あっという間に冬じゃ。十日後には雪が積もっているかもしれんぞ」
「え、そうなのか」

 そんな事を話しながら、オベロン達は森の中へ消えて行った。



   ***



「あ、雪だ……」

 その言葉に、道行く人が空を見上げる。
 ロムルド王国は何十年かぶりの豊作により、人々の顔は例年よりも明るい。
 それもこれも広場ですっかりお馴染みになった小さな妖精のお陰である。
 その妖精は、自分が宿る木の側でお昼寝中だ。
 そんな妖精を眺めながら、木の側を囲むのは子供達である。

「あったかい……」
「この木、じんわりあったかい……」

 子供達はうっとりと目を細め、溜息を吐いた。
 柔らかな光を纏う『生命の樹』の周りは、なぜかじんわりと暖かかった。

「お前等、そろそろ木から離れろ。子供は走り回って暖を取れ」
「えー!」
「こどもだからって、テキトーなこと言って!」
「おーぼーだ!」

 ブーブー文句を言う子供達を、屈強な体つきをした騎士は適当に相手して散らした後、同僚の騎士に話しかけた。

「おい、アーロン。そろそろ交代の時間だ」
「ん? ああ、もうそんな時間か」

 騎士が話しかけたのは、例の島へ調査に行ったアーロンだった。
 アーロンは交代の騎士の姿を認め、同僚に礼を言い、騎士の詰め所へ向かう。

「あ、アーロン、良い所に!」
「あ、ラリー」

 詰所の前でばったり出会ったのは、ラリーだった。

「何か用ですか?」
「陛下が君をお呼びなんだよ。俺達に聞きたい事があるらしい」

 何だろう、と首を傾げつつ、アーロンとラリーは国王の元へと向かった。



   ***



 通された国王の執務室には、国王と宰相が待っていた。
 国王は一つの書類の山を指し、言った。

「この書類の山全部が他国からの問い合わせの親書だ」

 そう言って国王が指さしたそれは、ロムルド王国の分厚いと評判の歴史書位の厚さがあった。

「どの国も滅びに怯えており、我が国の豊作の噂を聞きつけて探りに来たのだ」

 それを聞き、アーロンとラリーはまじまじと親書の山を見つめた。

「我が国の豊作の秘密を知るのにどの国も必死だ。遠方の国など、貴重な魔道具を使って何度も親書をよこして来た。まあ、実際は秘密でも何でもないんだがな」
「秘密にしようにも、広場に堂々と居ますからねぇ」

 その場にいた全員が、思わず苦笑する。

「親書を携えてやって来た使者殿も居る。その使者殿達は、あの木をどうやったら手に入れられるか知りたいらしい。私としては下手な事を言って誤解を与えたくない。その為、正直に入手先を言ってしまいたいのだが、それについて君たちに聞きたい事がある」

 その言葉を聞き、アーロンとラリーはなぜ自分達が呼ばれたのか理解した。

「あの木を、妖精を使わして下さった妖精王は、他国に慈悲を与えて下さるだろうか?」

 妖精と人間、その道が、再び交わろうとしていた。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎

月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」 数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎! これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...