妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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ロムルド王国編

エピローグ

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 今回のオベロンによる演目を見届けたのは、女神アルテシアである。
 全てを見渡せる一等上等な観客席から、彼女は人と妖精の接触を見届けた。

「あらまあ、オベロンったら、とても上手に人を動かすのねぇ」

 にこにこと微笑みながらも、言っている事は少々えげつない。このままオベロンの掌で転がされてしまえ、と思っているのが透けて見える発言だった。女神の人族への期待値の低さが伺える。
 
「オベロンの思惑のまま人族が走り出したら、世界の復興は早いかもしれないわねぇ……」

 少し困った顔で呟く女神は、虚空に世界地図を映し出す。

「人族の国の数は凄く減ったけど、あの子、とても忙しくなるんじゃないかしら……」

 世界地図には、四十一の国の名前が浮かび上がっていた。



   ***



 季節は秋。作物の収穫の時期である。
 オベロン達も総出で米やら芋やら、ワイン用の葡萄やら、とにかく毎日忙しく働いた。

「しかし、いつの間にワイン用の葡萄畑を作ったんだ……。夏の大麦畑で懲りたと思たんだけど……」
「ほっほっほっ……」

 じとっ、とした目をノームに向けるが、ノームは明後日の方向に視線を向け、オベロンと目を合わせようとしなかった。
 実はこのノームという妖精、どうも種族的に酒好きという特徴があるらしく、オベロンの知らぬ間に広大な大麦畑や葡萄畑を作っていたのである。
 そして、収穫期になってオベロン達に助けを求めに来たのである。
 曰く、手が足りないから手伝ってくれ、との事だった。
 これがまた呆れたことに、大麦畑は小麦畑の三倍の面積があった。
 ノームは育てる時は魔法などを使うので一人で事足りたらしいが、収穫だけは使える魔法も無く、一人では到底無理だと感じたらしい。当たり前である。
 そうして、オベロン達はひいこら言いながら阿呆みたいに広大な大麦畑の収穫を行ったのだ。
 ちなみに、その大麦は現在たくみ達の手によって、エールに姿を変えている最中である。
 そして、今回の葡萄畑だが、この立派な葡萄の木は何処から持ってきたかというと、種から魔法で急成長させたのだという。いつの間にそんな魔法を身に着けたんだ、と感心半分、呆れ半分で大麦畑と同じくらいの規模の葡萄畑を眺める。
 これを今から収穫するのか、とオベロンは溜息を吐いた。夏の悪夢の再演である。

「ノーム……。もうちょっと人手の都合とか、そういうものを考えて作ろうな?」
「ほっほっほっ……」

 ノームはやはりオベロンとは目を合わせようとはしなかった。



   ***



 オベロンが葡萄畑で軽く絶望している頃、ロムルド王国でも秋の作物の収穫を迎えていた。
 秋に収穫される甘い芋が今年はよく太っており、ごろごろと収穫できたため、人々は喜びの悲鳴を上げた。
 果実も良く実り、各家庭にちょっとした贅沢として食卓に上がるのも時間の問題だろう。
 大豆も実が太り始め、多くの収穫が期待された。
 そんな、希望に満ちた報告に、役人達は時折涙ぐみながら書類をさばき、広場に向かって祈りを捧げる事が多くなった。
 さて、祈りを捧げられている事など知らぬ木製人形こと端末の木霊は、今日も今日とて椀に水を汲んでもらい、それを自分が宿る木に掛けていた。
 椀に水を汲んできてくれるのは、近所に住む子供達である。
 広場には木霊と『生命の樹』の警備の為に数名の騎士が常駐しているのだが、子供達はその騎士に毎回許可を貰い、木霊に水の入った椀を差し出すのだ。
 最近の子供達の楽しみは、その椀を妖精に渡す事と、その水を『生命の樹』に掛けた時に起こる現象を特等席で見る事である。
 その現象とは、木霊が『生命の樹』に水をかけると、『生命の樹』が一際大きく発光し、多くの蛍火が空へ上っていくのだ。
 それはとても美しく、神秘的な光景だった。
 そして、水をかけ終わった木霊が子供達に椀を返し、ありがとう、とでも言う様に一礼した。そして、バイバイ、と手を振れば、振り返してくれる姿は子供のみならず、多くの人々の心を擽った。
 
「本当に、何で妖精を魔物だなんて言ってたんだろうな?」
「あんなに可愛いのにねぇ」

 とある夫婦の言葉が、この町の人々の持つ感想である。
 そんな人々の噂は王都から辺境まで瞬く間に広がり、教会では魔物認定の取り下げの会議を連日行っているらしい。
 そして、この秋の収穫の結果を持って、その噂はついに国境を越えようとしていた。
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