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ロムルド王国編
第九話 キャスト選出
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さて。これで必要なものは揃った。後必要なのは、台本であるのだが……。
「まあ、大まかな筋書きを用意しての、即興劇になるな」
「それは、そうじゃのう」
実際は舞台でも何でもないのだ。相手方は国を救うため、真剣になってやって来るだろう。
「言っては何だが、人族のこの追い詰められた状況は、妖精に対する意識改革には都合が良い。罪悪感を煽って、そこに付け込もう」
「言い方が悪いのう……」
どこぞの悪役かと言わんばかりの言い草に、ノームから呆れた視線を貰ってしまった。
オベロンはその視線から逃れんとばかりに、視線を明後日の方向に向けつつ、言う。
「それで、だ。ここに来る人族の実力が分からないし、妖精は俺以外居ないと思わせたい。だから、ノーム達は留守番な」
「なっ!?」
「王様‼」
オベロンの指示に、ノーム達は非難の声を上げた。
「そんな危険な事、させられん!」
「相手は人族ですよ!? 王様に何かあったら、どうするんですか!」
人族の信用の低さが伺える発言だった。
「大丈夫だ。この島にはいたる所に青薔薇がある。あれらがこの島に侵入した人族を捕らえてから接触するから」
「しかし……」
渋るノーム達に、オベロンは提案する。
「それじゃあ、精霊に力を借りようかな」
「む?」
「あ、その手がありましたね」
落ち着きを取り戻したノーム達に、オベロンは言う。
「それじゃあ、人族と接触するときに側に居てくれる精霊は――」
オベロンがそこまで言うと、ノーム達がさっ、と耳を塞いだ。
つい最近見た様子に、精霊が大騒ぎしているのだと察したオベロンは、虚空に向かって言う。
「それじゃあ、念の為に火、水、風、土の上級精霊が一人ずつ側に居てくれ。それと、島に来た人族には力を貸さないように頼むぞ」
どうやら上級精霊のみと指定したため、大部分の精霊が意気消沈したらしく、ノーム達はやれやれ、と言わんばかりの顔で耳を塞ぐのをやめた。
「上級精霊、誰が王の側に控えるかさっさと選んで来い! なるべく強くて頭の良い奴を選ぶんじゃぞ! 明日の朝、王に紹介するからの!」
ノームが精霊が居るのだろう場所に向かってそう言い、オベロンに向き直った。
「上級精霊が居るのなら大丈夫じゃろうが、くれぐれも無茶はせんでくれ」
「分かったよ」
オベロンは頷き、ノーム達と人族を迎えるための大まかな作戦の詳細を詰めた。
そして、ついに当日を迎えたのである。
***
「来たようじゃの」
ノームが虚空を見上げ、言う。
どうやら、精霊から報せが入ったようだ。
ノームは精霊が居るのだろう場所に、うんうん頷いて、顔をしかめた。
「ノーム、どうしたんだ?」
「……妖精珠を持っている者が居ったそうだ」
その報告に、オベロンも苦い顔をした。
「……王よ、頼みがある」
「何だ?」
ノームは、静かに沈んだ目で、オベロンに言う。
「どうか、死んでしまった同胞を世界へ還して欲しい」
「……どういう事だ?」
聞けば、何でも死んでしまった妖精の妖精珠には、精霊の死体とも言うべきエネルギーの塊が閉じ込められており、それを解放する事で世界に溶け、遠い未来で精霊として再び生を受けられるかもしれないのだという。
「転生に近いのかもしれんが、結局は死んだ故人とは別人じゃ。しかし、それでも己を殺した者の手にあるよりは、余程救いがある」
オベロンは頷き、その願いを引き受けた。
「しかし、どうやって解放すれば良いのか分からないんだが……」
「そうじゃのう……。いや、恐らく分かると思うぞ。我等の王であられるからの」
何故か確信をもって言われた言葉に、オベロンは首を傾げる。
「そうか?」
「そういうもんじゃ」
そういう物らしい。
まあ、分からなければ持ち帰り、悩めば良いのだ。問題は無いだろう。
そう納得し、オベロンは侵入した人族達の元へ向かった。
「まあ、大まかな筋書きを用意しての、即興劇になるな」
「それは、そうじゃのう」
実際は舞台でも何でもないのだ。相手方は国を救うため、真剣になってやって来るだろう。
「言っては何だが、人族のこの追い詰められた状況は、妖精に対する意識改革には都合が良い。罪悪感を煽って、そこに付け込もう」
「言い方が悪いのう……」
どこぞの悪役かと言わんばかりの言い草に、ノームから呆れた視線を貰ってしまった。
オベロンはその視線から逃れんとばかりに、視線を明後日の方向に向けつつ、言う。
「それで、だ。ここに来る人族の実力が分からないし、妖精は俺以外居ないと思わせたい。だから、ノーム達は留守番な」
「なっ!?」
「王様‼」
オベロンの指示に、ノーム達は非難の声を上げた。
「そんな危険な事、させられん!」
「相手は人族ですよ!? 王様に何かあったら、どうするんですか!」
人族の信用の低さが伺える発言だった。
「大丈夫だ。この島にはいたる所に青薔薇がある。あれらがこの島に侵入した人族を捕らえてから接触するから」
「しかし……」
渋るノーム達に、オベロンは提案する。
「それじゃあ、精霊に力を借りようかな」
「む?」
「あ、その手がありましたね」
落ち着きを取り戻したノーム達に、オベロンは言う。
「それじゃあ、人族と接触するときに側に居てくれる精霊は――」
オベロンがそこまで言うと、ノーム達がさっ、と耳を塞いだ。
つい最近見た様子に、精霊が大騒ぎしているのだと察したオベロンは、虚空に向かって言う。
「それじゃあ、念の為に火、水、風、土の上級精霊が一人ずつ側に居てくれ。それと、島に来た人族には力を貸さないように頼むぞ」
どうやら上級精霊のみと指定したため、大部分の精霊が意気消沈したらしく、ノーム達はやれやれ、と言わんばかりの顔で耳を塞ぐのをやめた。
「上級精霊、誰が王の側に控えるかさっさと選んで来い! なるべく強くて頭の良い奴を選ぶんじゃぞ! 明日の朝、王に紹介するからの!」
ノームが精霊が居るのだろう場所に向かってそう言い、オベロンに向き直った。
「上級精霊が居るのなら大丈夫じゃろうが、くれぐれも無茶はせんでくれ」
「分かったよ」
オベロンは頷き、ノーム達と人族を迎えるための大まかな作戦の詳細を詰めた。
そして、ついに当日を迎えたのである。
***
「来たようじゃの」
ノームが虚空を見上げ、言う。
どうやら、精霊から報せが入ったようだ。
ノームは精霊が居るのだろう場所に、うんうん頷いて、顔をしかめた。
「ノーム、どうしたんだ?」
「……妖精珠を持っている者が居ったそうだ」
その報告に、オベロンも苦い顔をした。
「……王よ、頼みがある」
「何だ?」
ノームは、静かに沈んだ目で、オベロンに言う。
「どうか、死んでしまった同胞を世界へ還して欲しい」
「……どういう事だ?」
聞けば、何でも死んでしまった妖精の妖精珠には、精霊の死体とも言うべきエネルギーの塊が閉じ込められており、それを解放する事で世界に溶け、遠い未来で精霊として再び生を受けられるかもしれないのだという。
「転生に近いのかもしれんが、結局は死んだ故人とは別人じゃ。しかし、それでも己を殺した者の手にあるよりは、余程救いがある」
オベロンは頷き、その願いを引き受けた。
「しかし、どうやって解放すれば良いのか分からないんだが……」
「そうじゃのう……。いや、恐らく分かると思うぞ。我等の王であられるからの」
何故か確信をもって言われた言葉に、オベロンは首を傾げる。
「そうか?」
「そういうもんじゃ」
そういう物らしい。
まあ、分からなければ持ち帰り、悩めば良いのだ。問題は無いだろう。
そう納得し、オベロンは侵入した人族達の元へ向かった。
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