25 / 54
ロムルド王国編
第八話 木霊誕生
しおりを挟む
さて。ノームが指定した半刻後、一人の少年の姿をとった土の上級精霊がやってきた。
どうやら熾烈な争いを勝ち抜いたらしく、可視化した姿はボロボロだった。
え、これ大丈夫なの、と心配になったが、ノーム達はしれっとした顔で淡々と上級精霊の相手をしていたので、大丈夫ではあるのだろう。
オベロンはボロボロの上級精霊に向き直り、最終確認を行う。
「それでは、精霊君。最終確認だ。君には、この『生命の樹』に宿る妖精になってもらい、本体をこの島に、分身体――子株を人族の国に置き、人族の国の様子を知る『目』になってもらいたい。そして、妖精が生まれても大丈夫な国になるまでの繋ぎとして、俺の力を流す道になって欲しい。了承してもらえるだろうか?」
上級精霊は嬉しそうに破顔し、何度も頷いた。
オベロンも了承を貰えて安堵し、上級精霊に礼を言った。
「ありがとう。それじゃあ、まずはこの樹を植えてしまおうか」
そう言って、オベロン達は庭へ出た。
どの辺りが良いかとノームや上級精霊と相談し、薔薇園の一角に植える事となった。
「これで、よし!」
『生命の樹』の苗を植え、オベロンはアイテムボックスから『緑の王笏』を取り出す。
王笏の能力で『生命の樹』の情報を取り出し、望み通りに書き換えていく。すると、『生命の樹』がふわりと優しく発光し、溢れた光が蛍火の様に天へと昇って行く。
「何ともまあ、神秘的な仕上がりになったのう」
「俺の力が通りやすくなったのも一因かな」
オベロンとノームがそんな会話をする中、その後ろで土の上級精霊が狂喜乱舞しているのに二人は気付かず、土の上級精霊はたくみ達とシルキーに呆れた視線を貰っていた。
「さて。土の上級精霊君、準備は良いかな?」
土の上級精霊は目を輝かせて、何度も頷いた。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
オベロンの言葉を合図に、土の上級精霊は『生命の樹』に入り込んだ。
その数秒後、『生命の樹』が強く光り、ぐんぐんと大きく育っていく。
光が収まる頃、立派な大樹となった『生命の樹』の前には、幼い少年が佇んでいた。
少年は浅黒い肌に、緑の髪と瞳をもつ可愛らしい子供だった。
「王様。『木霊』と申します。どうか、末永くよろしくお願いします」
にっこりと嬉しそうに笑う木霊に、オベロンも笑顔を返した。
***
さて。木霊が生まれた為、オベロンは恒例の鑑定をしてみる事にした。
『木霊』
木に宿る妖精。
木霊が宿る木は永久に生き続ける。
自身の宿る木の子株に、自身の端末を宿らせる事ができ、視覚、聴覚の共有が可能。
オベロンが希望した能力を有する妖精として生まれてきてくれたようだ。
申し訳なく思いつつも、それを表には出さず、木霊には心からの感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう、木霊。君が在ってこその作戦だから、本当に助かるよ」
木霊は浅黒い肌でも分かるくらいに頬を紅潮させ、嬉しそうに笑った。
「それで、分身体はどうやって作るのかの?」
挿し木か? 種か? と首を傾げるノームに、木霊は身を翻し、自身の宿る『生命の樹』の枝を手刀で切り落とした。
「おおう……」
まさか、手刀で木の枝を切り落とせるとは思わず、オベロンは驚き、思わず変な声が漏れた。
「王様。これを挿し木にして大きくして下さい」
差し出された枝の切り口は、刃物で切り落としたかの如く滑らかだった。
「僕では、挿し木を急成長させるのは無理なので……」
根があるのなら出来るらしいが、挿し木では無理なのだという。
「ふむ。そういう事なら……」
オベロンは挿し木にした枝に力を注ぎ、それを木霊の背丈くらいまで成長させた。
「王様、ありがとうございます」
木霊はそう言うと、成長した若木の細い幹をつまむように持つと、すい、と何かを若木から引きずり出した。
ぎょっとして目を剥くオベロンに、木霊は微笑んで引きずり出したものを手に乗せ、差し出した。
「これが、僕の端末です」
差し出されたそれは、木製の人形のように見えた。ただ、二つの緑色をした小さな円らな瞳が瞬きする事で、それが人形ではない事を知らせた。
「もし、この子が死んでしまう様な事になったら、君に何か害はあるかい?」
「いいえ。これが壊れたとしても、髪の毛が一本抜けるくらいの衝撃しかありませんよ。あくまで、僕が本体で、これは端末ですからね」
にっこり笑って言われた言葉に、この掌のほんのり温かい木製人形は、本当に動く人形なのだと知る。
「けど、端末って、すごく面白いです。視点が違うと、こうも世界が違って見えるんだ……」
多重並列思考が可能になり、何やら常人には理解できない領域で生きる事になった彼は、現状にとても満足しているらしい。端末の木霊と共に、瞳を輝かせて辺りを見回している。
「それで、この若木を人族に渡すのかの?」
ノームの言葉に頷こうとしたオベロンに、木霊が待ったをかけた。
「これ、もっと小さくすることが出来ます」
そう言うと、木霊が若木をつつくと、若木は逆再生するかの如く小さくなり、とうとう種になってしまった。
「なんとまあ……」
目を丸くするオベロン達に微笑み、木霊は端末の胸にその種を仕舞わせた。
「人族に渡す以外にも、こうやって端末に種を持たせて旅立たせ、良い場所を見付けて種を植えさせる事も出来ますよ」
つまり、本格的にオベロンの目になれると言っているのだ。
「うん。じゃあ、その時はよろしく頼むよ」
「はい!」
なかなか侮れない木霊に、オベロンは苦笑を溢したのであった。
どうやら熾烈な争いを勝ち抜いたらしく、可視化した姿はボロボロだった。
え、これ大丈夫なの、と心配になったが、ノーム達はしれっとした顔で淡々と上級精霊の相手をしていたので、大丈夫ではあるのだろう。
オベロンはボロボロの上級精霊に向き直り、最終確認を行う。
「それでは、精霊君。最終確認だ。君には、この『生命の樹』に宿る妖精になってもらい、本体をこの島に、分身体――子株を人族の国に置き、人族の国の様子を知る『目』になってもらいたい。そして、妖精が生まれても大丈夫な国になるまでの繋ぎとして、俺の力を流す道になって欲しい。了承してもらえるだろうか?」
上級精霊は嬉しそうに破顔し、何度も頷いた。
オベロンも了承を貰えて安堵し、上級精霊に礼を言った。
「ありがとう。それじゃあ、まずはこの樹を植えてしまおうか」
そう言って、オベロン達は庭へ出た。
どの辺りが良いかとノームや上級精霊と相談し、薔薇園の一角に植える事となった。
「これで、よし!」
『生命の樹』の苗を植え、オベロンはアイテムボックスから『緑の王笏』を取り出す。
王笏の能力で『生命の樹』の情報を取り出し、望み通りに書き換えていく。すると、『生命の樹』がふわりと優しく発光し、溢れた光が蛍火の様に天へと昇って行く。
「何ともまあ、神秘的な仕上がりになったのう」
「俺の力が通りやすくなったのも一因かな」
オベロンとノームがそんな会話をする中、その後ろで土の上級精霊が狂喜乱舞しているのに二人は気付かず、土の上級精霊はたくみ達とシルキーに呆れた視線を貰っていた。
「さて。土の上級精霊君、準備は良いかな?」
土の上級精霊は目を輝かせて、何度も頷いた。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
オベロンの言葉を合図に、土の上級精霊は『生命の樹』に入り込んだ。
その数秒後、『生命の樹』が強く光り、ぐんぐんと大きく育っていく。
光が収まる頃、立派な大樹となった『生命の樹』の前には、幼い少年が佇んでいた。
少年は浅黒い肌に、緑の髪と瞳をもつ可愛らしい子供だった。
「王様。『木霊』と申します。どうか、末永くよろしくお願いします」
にっこりと嬉しそうに笑う木霊に、オベロンも笑顔を返した。
***
さて。木霊が生まれた為、オベロンは恒例の鑑定をしてみる事にした。
『木霊』
木に宿る妖精。
木霊が宿る木は永久に生き続ける。
自身の宿る木の子株に、自身の端末を宿らせる事ができ、視覚、聴覚の共有が可能。
オベロンが希望した能力を有する妖精として生まれてきてくれたようだ。
申し訳なく思いつつも、それを表には出さず、木霊には心からの感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう、木霊。君が在ってこその作戦だから、本当に助かるよ」
木霊は浅黒い肌でも分かるくらいに頬を紅潮させ、嬉しそうに笑った。
「それで、分身体はどうやって作るのかの?」
挿し木か? 種か? と首を傾げるノームに、木霊は身を翻し、自身の宿る『生命の樹』の枝を手刀で切り落とした。
「おおう……」
まさか、手刀で木の枝を切り落とせるとは思わず、オベロンは驚き、思わず変な声が漏れた。
「王様。これを挿し木にして大きくして下さい」
差し出された枝の切り口は、刃物で切り落としたかの如く滑らかだった。
「僕では、挿し木を急成長させるのは無理なので……」
根があるのなら出来るらしいが、挿し木では無理なのだという。
「ふむ。そういう事なら……」
オベロンは挿し木にした枝に力を注ぎ、それを木霊の背丈くらいまで成長させた。
「王様、ありがとうございます」
木霊はそう言うと、成長した若木の細い幹をつまむように持つと、すい、と何かを若木から引きずり出した。
ぎょっとして目を剥くオベロンに、木霊は微笑んで引きずり出したものを手に乗せ、差し出した。
「これが、僕の端末です」
差し出されたそれは、木製の人形のように見えた。ただ、二つの緑色をした小さな円らな瞳が瞬きする事で、それが人形ではない事を知らせた。
「もし、この子が死んでしまう様な事になったら、君に何か害はあるかい?」
「いいえ。これが壊れたとしても、髪の毛が一本抜けるくらいの衝撃しかありませんよ。あくまで、僕が本体で、これは端末ですからね」
にっこり笑って言われた言葉に、この掌のほんのり温かい木製人形は、本当に動く人形なのだと知る。
「けど、端末って、すごく面白いです。視点が違うと、こうも世界が違って見えるんだ……」
多重並列思考が可能になり、何やら常人には理解できない領域で生きる事になった彼は、現状にとても満足しているらしい。端末の木霊と共に、瞳を輝かせて辺りを見回している。
「それで、この若木を人族に渡すのかの?」
ノームの言葉に頷こうとしたオベロンに、木霊が待ったをかけた。
「これ、もっと小さくすることが出来ます」
そう言うと、木霊が若木をつつくと、若木は逆再生するかの如く小さくなり、とうとう種になってしまった。
「なんとまあ……」
目を丸くするオベロン達に微笑み、木霊は端末の胸にその種を仕舞わせた。
「人族に渡す以外にも、こうやって端末に種を持たせて旅立たせ、良い場所を見付けて種を植えさせる事も出来ますよ」
つまり、本格的にオベロンの目になれると言っているのだ。
「うん。じゃあ、その時はよろしく頼むよ」
「はい!」
なかなか侮れない木霊に、オベロンは苦笑を溢したのであった。
1
お気に入りに追加
852
あなたにおすすめの小説
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎
月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」
数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎!
これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる