妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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ロムルド王国編

第八話 木霊誕生

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 さて。ノームが指定した半刻後、一人の少年の姿をとった土の上級精霊がやってきた。
 どうやら熾烈な争いを勝ち抜いたらしく、可視化した姿はボロボロだった。
 え、これ大丈夫なの、と心配になったが、ノーム達はしれっとした顔で淡々と上級精霊の相手をしていたので、大丈夫ではあるのだろう。
 オベロンはボロボロの上級精霊に向き直り、最終確認を行う。

「それでは、精霊君。最終確認だ。君には、この『生命の樹』に宿る妖精になってもらい、本体をこの島に、分身体――子株を人族の国に置き、人族の国の様子を知る『目』になってもらいたい。そして、妖精が生まれても大丈夫な国になるまでの繋ぎとして、俺の力を流す道になって欲しい。了承してもらえるだろうか?」

 上級精霊は嬉しそうに破顔し、何度も頷いた。
 オベロンも了承を貰えて安堵し、上級精霊に礼を言った。

「ありがとう。それじゃあ、まずはこの樹を植えてしまおうか」

 そう言って、オベロン達は庭へ出た。
 どの辺りが良いかとノームや上級精霊と相談し、薔薇園の一角に植える事となった。

「これで、よし!」

 『生命の樹』の苗を植え、オベロンはアイテムボックスから『緑の王笏』を取り出す。
 王笏の能力で『生命の樹』の情報を取り出し、望み通りに書き換えていく。すると、『生命の樹』がふわりと優しく発光し、溢れた光が蛍火の様に天へと昇って行く。

「何ともまあ、神秘的な仕上がりになったのう」
「俺の力が通りやすくなったのも一因かな」

 オベロンとノームがそんな会話をする中、その後ろで土の上級精霊が狂喜乱舞しているのに二人は気付かず、土の上級精霊はたくみ達とシルキーに呆れた視線を貰っていた。

「さて。土の上級精霊君、準備は良いかな?」

 土の上級精霊は目を輝かせて、何度も頷いた。

「それじゃあ、よろしく頼むよ」

 オベロンの言葉を合図に、土の上級精霊は『生命の樹』に入り込んだ。
 その数秒後、『生命の樹』が強く光り、ぐんぐんと大きく育っていく。
 光が収まる頃、立派な大樹となった『生命の樹』の前には、幼い少年が佇んでいた。
 少年は浅黒い肌に、緑の髪と瞳をもつ可愛らしい子供だった。

「王様。『木霊』と申します。どうか、末永くよろしくお願いします」

 にっこりと嬉しそうに笑う木霊に、オベロンも笑顔を返した。



   ***



 さて。木霊が生まれた為、オベロンは恒例の鑑定をしてみる事にした。


 『木霊』
 木に宿る妖精。
 木霊が宿る木は永久に生き続ける。
 自身の宿る木の子株に、自身の端末を宿らせる事ができ、視覚、聴覚の共有が可能。


 オベロンが希望した能力を有する妖精として生まれてきてくれたようだ。
 申し訳なく思いつつも、それを表には出さず、木霊には心からの感謝の言葉を伝えた。

「ありがとう、木霊。君が在ってこその作戦だから、本当に助かるよ」

 木霊は浅黒い肌でも分かるくらいに頬を紅潮させ、嬉しそうに笑った。

「それで、分身体はどうやって作るのかの?」

 挿し木か? 種か? と首を傾げるノームに、木霊は身を翻し、自身の宿る『生命の樹』の枝を手刀で切り落とした。

「おおう……」

 まさか、手刀で木の枝を切り落とせるとは思わず、オベロンは驚き、思わず変な声が漏れた。

「王様。これを挿し木にして大きくして下さい」

 差し出された枝の切り口は、刃物で切り落としたかの如く滑らかだった。

「僕では、挿し木を急成長させるのは無理なので……」

 根があるのなら出来るらしいが、挿し木では無理なのだという。

「ふむ。そういう事なら……」

 オベロンは挿し木にした枝に力を注ぎ、それを木霊の背丈くらいまで成長させた。

「王様、ありがとうございます」

 木霊はそう言うと、成長した若木の細い幹をつまむように持つと、すい、と何かを若木から引きずり出した。
 ぎょっとして目を剥くオベロンに、木霊は微笑んで引きずり出したものを手に乗せ、差し出した。

「これが、僕の端末です」

 差し出されたそれは、木製の人形のように見えた。ただ、二つの緑色をした小さな円らな瞳が瞬きする事で、それが人形ではない事を知らせた。

「もし、この子が死んでしまう様な事になったら、君に何か害はあるかい?」
「いいえ。これが壊れたとしても、髪の毛が一本抜けるくらいの衝撃しかありませんよ。あくまで、僕が本体で、これは端末ですからね」

 にっこり笑って言われた言葉に、この掌のほんのり温かい木製人形は、本当に動く人形なのだと知る。

「けど、端末って、すごく面白いです。視点が違うと、こうも世界が違って見えるんだ……」

 多重並列思考が可能になり、何やら常人には理解できない領域で生きる事になった彼は、現状にとても満足しているらしい。端末の木霊と共に、瞳を輝かせて辺りを見回している。

「それで、この若木を人族に渡すのかの?」

 ノームの言葉に頷こうとしたオベロンに、木霊が待ったをかけた。

「これ、もっと小さくすることが出来ます」

 そう言うと、木霊が若木をつつくと、若木は逆再生するかの如く小さくなり、とうとう種になってしまった。

「なんとまあ……」

 目を丸くするオベロン達に微笑み、木霊は端末の胸にその種を仕舞わせた。

「人族に渡す以外にも、こうやって端末に種を持たせて旅立たせ、良い場所を見付けて種を植えさせる事も出来ますよ」

 つまり、本格的にオベロンの目になれると言っているのだ。

「うん。じゃあ、その時はよろしく頼むよ」
「はい!」

 なかなか侮れない木霊に、オベロンは苦笑を溢したのであった。
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