妖精王オベロンの異世界生活

悠十

文字の大きさ
上 下
20 / 54
ロムルド王国編

第三話 上陸

しおりを挟む
 アーロン達一行は、海岸沿いの岩場を歩きながら、遠目に見える砂浜を目指す。
 ナットが摘み取った雑草の葉を大事そうに布に包みながら、尋ねる。

「なあ、結構島まで距離があるみたいだけど、どうするんだ? 持ってきた船って、そこまでデカくなかっただろ?」
「大丈夫よ。私が水の精霊に頼んで、船を動かしてもらうから」
「私の風魔法もあるしね」

 アリアとナタリーの言葉に、「それなら、大丈夫だな」と、ナットは笑顔を浮かべた。
 砂浜に着いた一行は、マジックバックから、分解された船を取り出す。

「馬鹿、ザック、そのボルトはこっちだ」
「あ、どうりで合わないと思った」

 四苦八苦しながら、全員で力を合わせて船を組み立て、どうにか七人全員が乗れる小さな帆船が完成した。

「これ、沈まないかしら……?」
「一応、魔道具らしいから、それは大丈夫じゃない?」

 ナタリーとアリアの言葉通り、完成した船は、どこか頼りない姿をしていた。

「ま、大丈夫だろ! ほら、アーロンさん。号令、号令!」
「あ、ああ……」

 少し微妙な顔をしていたアーロンに、ザックが笑顔で次の指示を催促した。

「船を海に浮かべるぞ!」

 アーロンの号令に従い、全員が船に取り付き、水辺へと動かす。
 船は無事に水に浮かび、波に揺れている。

「よし、ナットから乗ってくれ。その後に、アリア、ナタリーが乗れ。ナット、手を貸してやってくれ」
「了解!」

 ナットは笑顔で了承し、身軽な動作で船に乗ると、アリアに向けて手を差し出した。

「じゃあ、捕まってくれ」
「う、うん」

 アリアはナットの手を借りて船に引き上げてもらい、ナタリーもその後に続いた。
 その後、ラリー、ザック、ゲイルと続き、最後にアーロンが乗船する。

「お、凄いな。沈まないぞ」
「島と陸地との中間地点で沈んだりして」
「おい、怖い事を言うなよ」

 男達が冗談を言い合うなか、ナタリーは帆に向けて風魔法を使う準備をし、アリアもまた杖を構えた。

「おい、そろそろ行くぞ。 ……よし、ナタリー、アリア、やってくれ」

 アーロンの声に、二人は頷いた。

「<風よ、踊れ―風の舞ウィンド・ダンス―>」
「お願い、水の精霊。力を貸して」

 ナタリーの起こした風の魔法が帆を膨らませ、アリアの杖の先に取り付けられた妖精珠が虹色に輝く。
 帆を膨らませた船がゆっくりと動き出し、水の精霊がそれを後押しする。
 問題なく船は島へと向かって進む。
 途中、小さな魔物が海から顔を出したが、船に追いつくことが出来ず、水の中へ消えた。

「そろそろ島へ着くぞ!」

 ザックの声に、一同の緊張感が高まる。
 船がゆっくりと砂浜へ近づき、ゲイルが降りて船首に括られたロープを持ち、船を曳いて行く。
 船が砂浜に乗り上げると、一人ずつ船から降りた。
 杭を打ち、それをロープで船と繋ぎ、船が流されない様に固定する。

「よし、これで大丈夫だろう。アーロン、次はどうする?」
「そうだな、装備のチェックをしてから、周辺を少し調査しよう。本格的な調査は明日からだ」

 各々、了承の返事を返し、装備を確認する。
 仲間達の表情は明るかった。



   ***



 装備の確認を終え、アーロン達は砂浜を歩き、若木が目立つ林へと出た。
 未だ若く、細い木々だからか、林というには薄く感じ、その向こうにある草原の姿が見えた。
所々に生える低木には花が咲き、ひらり、と蝶が飛ぶ。
 木の上から鳥がこちらを見下ろし、目が合えば、直ぐに飛び去ってしまった。

「綺麗な所ね……」
「ああ。そうだな……」

 ナタリーの言葉に、アーロンは頷いた。
 瑞々しい命が、当たり前の様にそこにあった。
 一行は林を抜け、草原に辿り着く。
 草原の草は大きく伸び、アーロンの腰元まであった。

「あの丘に生える木まで行ってみよう」

 アーロンの言葉に、一行は頷き、ナットとザックを先頭に丘を登る。
 そんな時だった。

「わぁ、珍しい。青い薔薇だわ」

 アリアが、それを見付けたのは。
 一行が足を止め、それを見た、その瞬間――青い薔薇が突如蔓を伸ばし、襲い掛かって来たのだ。

「なっ!?」
「散開!」
「気を付けろ! 只の薔薇じゃえ!」

 突然の事態に、呆気にとられていた一同だったが、アーロンの指示に我に返り、薔薇から離れんと飛びずさる。
 しかし、薔薇は止まることなくアーロン達を捕まえようと蔓を伸ばし続ける。
 蔓をどれだけ切り払おうとも、それは際限なく再生し、伸び続ける。埒が明かないと、アーロンはナタリーに指示を出した。

「ナタリー! 魔法を!」
「<炎よ、狂い舞え―爆炎舞エクスプロージョン・ダンス―>!」

――ド…ゴォォォォン‼
 
 炎が爆ぜ、薔薇を中心に、辺りを吹き飛ばした。
 草が吹き飛ばされ、地面が剥き出しになる。
 もうもうと煙を上げる中、薔薇がどうなったか確かめるため、目を凝らす。
 果たして、薔薇は、健在だった。
 半分ほどは吹き飛ばされてはいたが、根に近づくほど瑞々しい色をしている。

「なっ!?」

 植物系の魔物であれば、ひとたまりもない威力のある魔法だった。それを受けて、尚無事であった事実に、全員が驚く。
 それでも、どうにかしなくてはいけない。せめて、無事に撤退できるようにしなくてはならない。
 するすると何事も無かったかのように、再び蔓を伸ばし始めた薔薇に、全員の注目が集まっている、その時だった。

「アリア!」

 最初に気付いたのは、ナットだった。
 ナットがアリアを突き飛ばし、何事かと目を向けた先にあったのは、青薔薇の蔓だった。

「一体だけじゃなかったのか!」

 驚き、辺りを見回せば、草原の草の間から、するすると薔薇の蔓が這い出てくる。
 気付けば、アーロン達は囲まれていた。
 どうすれば、と背筋に冷たいものを感じながら打開策を探してみるも、薔薇の根が何処にあるか分からず、数も多すぎた。
 そして、最初の犠牲者が出た。

「きゃぁぁぁぁ!?」

 ナタリーだった。
 あっという間に足に蔓を巻きつけられ、吊り上げられたのだ。

「ナタリー‼」
「アーロ――」

 蔓は瞬時にナタリーに巻き付き、口にも巻き付くことで声を奪った。
 次に捕まったのは、ラリーだった。

「!?」

 悲鳴を上げる間もなく巻き付かれ、吊り上げられた。
 そして、ザック、ナット、と蔓に捕まり、残ったのは、アリア、ゲイル、アーロンの三名だけである。
 
「お願い、炎の精霊、力を貸して!」

 アリアは妖精珠に魔力を込めるが、精霊魔法が発動する様子は無かった。

「どうして……」

 愕然とするアリアを背後に庇いながら、アーロンは蔓を切り払う。

「アリア! 精霊は!?」
「だめ、駄目なの! 誰も力を貸してくれない!」

 焦り、絶望に涙が零れる。
 アリアは何度も精霊に助けを求めるが、精霊は誰一人としてアリアに手を貸さなかった。
 そうこうしているうちに、蔓がアリアの足を絡めとり、瞬時に巻き付き、吊り上げられた。
 アリアの持ってた杖が、カラン、音を立てて地面に落ちる。

「アリア!」

 他と変わらず口まで巻き付かれ、悲鳴も上げられずにボロボロと涙を溢す。
 残るは、アーロンとゲイルのみになってしまった。

「どうするよ、アーロン……」
「……」

 引きつった声に、アーロンは何も返せなかった。
 青薔薇の蔓は増え続け、最早壁と言っていい程の厚みを持ち、二人を取り囲んでいたのだ。
 そして、程なくして、彼等もまた、捕らえられてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎

月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」 数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎! これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...