妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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ロムルド王国編

第二話 土

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 それは、国から出発して、十二日目の事だった。
 魔道具の力を借りて馬並みの速度で走り続けながらも、時折休憩を取らなくては走り続ける事は不可能だ。
 魔物ですら居ない滅びた国で、一行は立ち止まり、弾んだ息を整えつつ水を飲む。
 その時、ふと、アーロンは、ラリーが足元の土を撫で、まじまじとそれを見ているのに気が付いた。

「どうしたんですか、ラリー」
「ん……? ああ、いや、ちょっとな……」

 アーロンは不思議そうに首を傾げつつも、それ以上の追及はしなかった。
 しかし、その夜、野宿の支度の最中に、土を手に取り、魔道具の片眼鏡をかけて凝視している姿を見付け、アーロンは尋ねた。

「ラリー、今日の昼もですが、そんなに土を気にして、一体どうしたんですか?」

 アーロンの言葉に、ラリーは難しい顔をしながら、言う。

「土が、違うんだ」
「は?」

 唐突な言葉に、アーロンは疑問符を飛ばす。

「俺は、国を出てから、ずっと土を見てきた」

 ラリーの真剣な目に、アーロンは居住まいを正した。
 仲間達も二人の様子がいつもと違う事に気付いたのか、手を止めて、ラリーの言葉に耳を傾けた。

「国を出てからは、土の状態が悪くなるばかりだった。しかし、七日目あたりから少しずつ変化が現れた」
「変化?」

 言葉を重ねるアーロンに、ラリーが頷く。

「ああ、変化だ。七日目あたりから、土の状態が良くなってきたんだ。今日の昼に見た土の状態は、ロムルド王国の土と同じくらいの質だった」

 ラリーの言葉に、全員が目を見開く。

「植物が育つには、精霊の力がいる。精霊の力が弱まると、土の質がどんどん悪くなるんだ」

 それは、ラリーが研究し、立てた仮説だった。

「ここは滅んだ国だ。そう言った場所は、精霊の力が弱い。けれど、今、俺達が居る此処は、王国の土より質が良い」

 誰ともなく、息をのんだ。

「島へ近づくたびに、土の質が良くなってるんだ。もしかすると、『緑豊かな生きた島』は幻では無いかもしれない」

 全員の顔が、希望を前に、泣きそうに歪んだ。



   ***



 足元で、名もなき小さな花が風に揺れる。
 震える手でそれに触れ、それが瑞々しい生命力に満ちている事を知る。
 アーロンは立ち上がり、遠く、海の向こうに見える大きな島を見る。
 島は緑に覆われ、生命力に満ちていた。

「土の持つ力が、国のものとは全く違う。はは……、そうか、これが本来の姿か……」
「う、あ、あああぁぁぁ……」

 ラリーの震える声が、ゲイルの堪え切れなかった泣き声に掻き消される。
 国を出て十五日。ぽつぽつと小さな緑が見え始め、ついに、一行の前に、草原が姿を現した。
 一行はそれを見付け、走る足を緩め、止めた。
 何処か呆然とした面持ちで、アーロン達はゆっくりと草原に足を踏み入れた。
 足が草を踏み、青臭い匂いが鼻を突く。
 風に揺れる膝上辺りまで伸びた草が足元をくすぐり、その感触を確かめながら、丘を登る。
 丘の先には、何が有るのか。
 自然と速足になり、駆けあがった。
 そして、彼等は見た。
 辺り一面の緑の野原と、海の向こうの、緑豊かな楽園を。

「幻じゃない……。これが、幻であるものか!」

 全員が、涙を流していた。
 人が、全ての命が渇望したものが、そこに在った。
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