妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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異世界転生編

エピローグ

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 世界は、大きくうねる。
 生きとし生けるものの前には、既に滅びが見えている。
 眩く輝く黄金も、見るものを狂わす程の宝石も、ただ美しいだけの物が価値を無くしつつあるこの世界。ならば、何が価値を持つのか。

「とても素敵な島ね、オベロン」

 緑豊かな島を空中に映し出して微笑むのは、美しい老婦人だ。
 老婦人――女神アルテシアは、映像を切り替え、オベロンを映し出す。
 オベロンは、薔薇の剪定作業をしていた。

「まあ、なんて美しい庭なのかしら。行ってみたいわ!」

 しばらくニコニコしながらそれを眺めていたが、やがて満足したのか、再び映像を切り替えた。
 切り替えた先は、人族の国だ。
 そこには、七人の人族が王の前に跪き、何かしらの命を受けていた。

「予想より、随分と早く気が付いたのね……」

 そう呟く女神の声は冷ややかで、その瞳は温度を感じさせないものだった。

「どうしましょう……。対策はしていたみたいだけど、心配だわ……」

 小首を傾げ、しばらく考え込んでいると、突然パッと顔を上げ、笑顔になる。

「そうだわ。教えてあげれば良いのよ。やだわ、何で気付かなかったのかしら」

 良い事を思いついたと言わんばかりに、ニコニコと微笑む女神は、空中に映し出された映像を、すい、と手を横に振って掻き消した。

「久しぶりに会うのね。やだ、何を着て行こうかしら……」

 少しばかり浮かれた様子で、女神は衣裳部屋へと姿を消した。



   ***



 王の前に跪くのは、国で最も優れた騎士や魔導士、そして、高名な冒険者である。
 彼等は覚悟を決めて、玉座に座る王を見つめる。

「皆、良く来てくれた。皆も、もう聞いていると思うが、先日、魔導師が渡り鳥の目を借り、緑豊かな、生きた島を発見した」

 王に痛い程強い視線が集まる。

「隣国は滅び、魔物ですら逃げ出す乾いた国だ。俄かには信じ難い。しかし、多くの魔導士が見たと言った」

 王は、まだ三十代であるにもかかわらず、その肌には張りは無く、かつては黄金に輝いていた髪は、その殆どが白い。

「隣国に関し、我が国は毎年、渡り鳥の目を借り、観測をしてきた。件の島は、昨年は渇き、荒れ果て、何も無い死の島だった。しかし、昨日の観測で、緑豊かな島となっているのを観測したのだ」

 王の瞳が、強い渇望を湛え、燃える。

「もしかすると、魔物が見せる幻かもしれぬ。魔導士の渇きが見せた、願望の幻かもしれぬ。しかし、もし、それが現実のものであるならば、この国を、世界を救う何かがあるのかもしれぬ」

 死にかけの命が、最後の炎を燃やそうとしていた。

「諸君らには辛い旅路となるだろう。しかし、諸君らは我等の最後の希望だ。どうか、どうか……、我等に希望を持ち帰ってくれ……」

 懇願だった。
 それは、全ての命からの、懇願であった。
 その懇願を受け、跪いた七名は心臓に拳を当て、深々と頭を下げ、言う。

「必ずや……!」

 こうして、人類最後の希望は旅立ったのである。
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