妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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異世界転生編

第八話 灯り

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 さて、衣、食、住のうち、二つはどうにかなった。オベロンとしては米が食べたいところだが、米と麦はノームが作ってくれると約束してくれたので、後日、田んぼと麦畑の耕作を行う予定である。
 服に関しては、アイテムボックスの中に幾つか替えがあったので、しばらくは問題ない。
 それに、生活魔法の中に、身を清潔に保つ為の『浄化』という便利な魔法もあり、それを服にかければ洗濯で服を傷める事も無く、通常より長く着れそうである。まあ、選択してお日様の下に出来れば干したい、というのが本音だが。
 たくみ達のおかげでファンタジー世界とは思えない程、便利な生活をさせてもらっているとは思うが、やはり欲しいのは電灯である。
 恐らく、頼めば素晴らしいランプをたくみ達は作ってくれるだろうが、折角なので自分で作ってみたいのだ。

「とはいっても、電灯なんて、作り方は知らないからなぁ……」

 残念ながら、オベロンは博識な方では無く、商品を享受するだけの消費者である。

「何か、ヒントになりそうなものは無いかな……」

 畑仕事の合間、休憩中に水を飲みながら、オベロンはアイテムボックスを開き、中に入っている物のリストを調べる。
 すると、一つのアイテムを見付けた。

「『魔光灯』か……」

 この『魔光灯』は、ゲーム内の『妖精王オベロン』が関わるイベントで使われるキーアイテムの一つなのだが、アイテムとしては発光する魔石がカンテラの中で宙に浮かび、入っているだけである。
 設定上でしかこのアイテムを知らない為、じっくり見てみれば、どうやらオン・オフ機能があるらしく、スイッチがあった。
 ガラスの戸を開け、魔石を取り出してみるが、魔石自体は只の水晶のように見えた。
 カンテラの中を覗いてみれば、底の方に魔方陣の様なものが刻まれいていた。
 細かな模様に見えるそれを、目を凝らして見てみれば、所々に漢字が使われていることに気が付いた。
 漢字は『光』、『集束』、『点灯』、『消灯』の四つが使われており、後は恐らくこちらの世界の文字なのだろうが、何となくではあるが、不思議と意味は理解できた。ただし、理解できるだけで、不自由なく書けるかと聞かれれば、無理だと返すしかない、

「転生特典、ってやつかな……?」

 女神様が言葉に不自由しない様に『聞く』、『喋る』、『読む』、は出来るようにしてくれたのかもしれない。
 しかし、『書く』となれば話は別だ。単語、文法をしっかり自らの頭で理解して用いらねばならないので、そこは勉強が必要なのだろう。

「結局、勉強しなきゃいけないのか……」

 社会人になっても、学ぶ事は必要だったが、魔法のある世界に異世界転生なんてラノベのような体験をしても、やっぱり勉強からは逃れられないのだ。
 まあ、言葉が分かるだけマシだと思いながら溜息を吐くと、ポン、と肩を叩かれた。
 振り返ってみれば、笑顔で本を差し出すたくみが居た。

「ん? 何だ、くれるのかい?」

 ぐいぐい本を押し付けるたくみに戸惑いながら、オベロンは本を受け取る。
 受け取った本の題名を見てみれば、『エルダーアース共通語学』とあった。

「成る程……」

 つまり、勉強しろ、という事だな、と理解し、たくみに視線を戻せば、そこにはイイ笑顔でサムズアップするたくみが居た。



   ***



 さて、せっかく本を貰ったのだ。それに、ファンタジー世界を満喫するために必要とあれば、勉強するのもやぶさかではない。
 むしろ、魔道具という心躍るワードの作成の為なら、いくらだって勉強できそうである。

「しかし、まさか、俺に勉強させる為に電灯を作らなかった、何て事は無いよな……?」

 ふとよぎった予想を振り払いつつ、夕食を終えたオベロンは一人リビングで、黙々とたくみに渡された本を読んだ。
 たくみには、『エルダーアース共通語学』以外にも、他にあと五冊渡された。その全てが、基礎学で、まだまだ先があるのだと知れた。

「先は長いなぁ……」

 そう呟き、夢中になって本を読むオベロンは気付かなかった。
 夜も更け、寝る時間になっても、深夜になっても、朝日が昇っても本を読み続けるオベロンを、二階に続く階段から、ぴよこ達がじっと見ていた事を。
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