妖精王オベロンの異世界生活

悠十

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異世界転生編

第七話 食事

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 さて、岩塩を手に入れたわけだが、これは削るか砕くかするしかない。
 どうしようか、と悩んでいると、それを解決してくれたのは、やはりたくみ達であった。

「王よ、たくみ殿がこれで岩塩を削れ、とのことだ」
「これは、おろし金!」
「鍋とフライパン、菜箸に、おたま……、各種調理器具は調理場に置いておくと言っておったぞ」
「もう、たくみ君達に足を向けて寝られないよ! ありがとう、たくみ君達!」

 最早、たくえもん等と呼びたくなってくる有能さである。

「皿は大きめの木皿じゃの。これに一緒くたに盛るか」
「なんか、インスタ映えのするカフェのランチプレートを思い出すな……」

 まあ、盛れるのは、塩サラダと塩マッシュポテトのみなのだが。

「塩があって、炭水化物が食べられる……。十分だな」

 やはり腹の膨れ具合が違い、しみじみと呟きながら食事を完食した。
 そして、食事の時に感じたのだが、不思議と肉を食べたいと思えなかったのだ。

「ハンバーグとか、焼き肉とか好きだったんだけどな……。何でだろ?」

 首を傾げるオベロンに、ノームが教えてくれる。

「儂等、妖精は獣肉は基本的に食わんな。食えん事も無いが、食べるなら魔物肉じゃの」
「魔物…肉……?」

 不思議そうな顔をするオベロンに、ノームは片眉を上げ、意外そうな顔をした。

「ん? なんじゃ、もしや王は知らんのかの? この世には魔物という世界の濁りが存在しとるんじゃ」
「世界の濁り……」

 ファンタジー世界なので魔物は恐らく居るだろうとは思っていたが、世界の濁りとは何の事だろうか。

「世界の濁りとは、どれだけ健全に世界を運営していようと、そこに生物が存在する限り出てきてしまうものでな。それ自体には本来実体のないものなんじゃが、それでは世界が濁っていくばかりでの。それ故に、むしろ魔物という実体を持たせ、それを殺し、その世界の生物の糧とする事で浄化しておるのじゃ」

 その為に、妖精は獣肉より魔物肉を食べるのだという。

「成る程なぁ。世界の仕組み、ってやつか」
「そういう事じゃの」

 感心したように言うオベロンに、ノームは頷く。
 そうこうしているうちに、日が傾き始め、ノームは空になった皿を抱えて立ち上がった。

「さて、そろそろ陽が沈む。王も今日は疲れたじゃろ。早めに休んだ方が良い」

 そう言われ、確かに自分が疲れている事にオベロンは気付いた。

「そうだな。今日はもう休む事にするよ」

 そう言って、ノームとたくみ達と別れ、家に入る。
 もちろん電灯等という便利な物はないので、光魔法で光るだけの球を作り出し、それを頭上に上げ、自分の後を付いて来るように設定する。
 そして汗を流そうと風呂場に行き、改めてそれを眺める。

「シャワーとか、バスタブの蛇口とか……、これ、どういう仕組みなんだろうなぁ……」

 ファンタジー世界で見るとは思わなかったそれに、オベロンは遠い目をしながら呟く。

「蛇口があって電灯が無いとか、たくみ君達の基準が分からない……」

 服を脱ぎながらそんな事をぼやきつつ、オベロンは温水の出るシャワーの蛇口をひねった。



   ***



――ピヨ!
――ピヨピヨピヨ!

 翌朝、前日と同じくぴよこまみれの起床となったオベロンは、やはり素早く窓に吸い込まれるように退室するぴよこを寝ぼけ眼で見送り、大きく伸びをした。
 朝食には、マッシュポテトと野菜、デザートにころりとテーブルに転がってきたオレンジを食べた。
 樹の家に見守られているオベロンである。
 畑に行けば、そこには既にノームとたくみ達が居た。

「おはよう」
「おお、おはよう。早いのう」
「俺より先に来ていたノームに言われたくないな」

 笑って挨拶するオベロンに、ノームは朗らかに返し、たくみ達はぴょこぴょこ飛び跳ねながら喜びを体で表していた。
 オベロンはたくみ達に甜菜の栽培をねだられ、それを植えて急成長させた。
 たくみ達がそれを嬉々として収穫している横で、オベロンはノームと雑談をしながらのんびりと野菜に水を遣ったりしていた。

「ほー、『ジャグチ』に『スイドウ』か。便利なもんじゃの」
「うん。それに、調理場にはコンロもあってさ。火を使う料理で、火を起こす必要が無い便利な道具なんだ」
「ふーむ、たくみ殿達の技術には脱帽じゃの。それらは恐らく魔道具じゃろうが、とかく技術方面に特化しておる種族なんじゃろうな」

 感心するノームに、オベロンは遠い目をする。

「排水とか、どうしてるのか気になるんだよなぁ……。ある日、汚水が溢れてきました、なんて事になったらシャレにならんし……」
「ふむ。まあ、大丈夫じゃろう。そもそも、妖精は世界を巡る力を活性化させる存在であり、つまり、環境を整える役割を持つ種じゃ。それが大元に在る故に、可笑しなことにはならんと思うぞ」

 どうやら、『妖精』という種である限り、『環境を整える』という事に拘りがあるらしく、大丈夫だろうとノームは太鼓判を押した。
 そして、『妖精王』となったオベロンも、不思議とそれに納得でき、素直に頷いた。

「けど、ここまで便利なものが在って、電灯が無いのが不思議だなぁ……」

 オベロンはきゃっきゃと楽しそうに甜菜を収穫するマッシブ妖精を眺めながらそう呟き、ノームは「デントウ?」と初めて聞く単語に、首を傾げた。
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