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異世界転生編
第三話 森の中
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オベロンは空からの観察を終えた後、手ごろな森の中へ降り立った。
オベロンが森の王でもあるからか、何やら森から歓迎を受けているような気がするのだが、気のせいだろうか?
「ん……? おお……」
気の所為じゃ無かった。
ふわりと微かな花の香りがしたと思ったら、辺りの木々や草が一斉につぼみを付け、花を咲かせたのだ。
「ありがとう。けど、無理しないようにな? さっき成長したばかりなんだから」
さわりと草木が揺れ、返された返事に満足したオベロンは一つ頷き、手ごろな木を探して森の中を歩く。
そして見つけたのが、ひしめき合う若木である。
そこには若木が密集して生えており、このままだと共倒れか、一番生命力が強い木が残るだろう有様だった。
「ん~、これは、ある意味好都か?」
そう呟くと、オベロンは『緑の王笏』に力を籠め、大地を突いた。
すると、途端に密集する若木が揺れ、それぞれが絡み合いながら成長し始める。
その成長の仕方は、とてもおかしなものだった。木々が、まるで家の様な形を作りながら成長していくのだ。そして、それは若木だけでなく周囲の木々も巻き込んで、さらに大きな巨樹へと成長していく。そして、成長し終わる頃には、立派な樹木の家が出来ていた。
オベロンはわくわくしながら幾重にも弦が垂れただけの、ドアの無い玄関から家に入り、部屋を見渡した。内部は広々として、奥に階段が見える事からどうやら二階があるあらしい。床もちゃんと平衡で、木の板の様につるりとした光沢をもっていた。流石に生木の家なので火を使う様なキッチンは無いが、それは後で外に作れば良いのである。
二階に上がれば、そこは寝室のつもりなのか、人一人が寝れるくらいの、寝台らしきスペースがあった。窓にはやはり戸や窓ガラスなど無く、こちらも弦が垂れているだけである。いつか、ドアと窓ガラスを設置したい。
二階を見て満足したオベロンは一階に降り、再び外に出る。家の裏手に回り、王笏でトンと地面を突けば、生えていた植物達がザワザワと、と音を立てて場を譲り、樹木の家の周りは広範囲で只の原っぱになった。そして、もう一度王笏で地面を突けば、丁度十畳くらいの範囲のむき出しの地面がが現れた。
「ありがとう。さて、キッチンを作る訳だが……」
場を譲ってくれた植物に礼を言い、オベロンは再びアイテムボックスの中身を確かめる。
「お、あった」
取り出したのは、『見習い錬金術師の腕輪』である。これは、ゲームの中で『妖精王オベロン』がプレイヤーに初期イベントで渡す腕輪である。
この腕輪は、職業が錬金術師でなくても、ある一定の簡単な錬金術であれば使うことが出来るようになる特殊な腕輪なのだ。
「さて、これを使うことが出来るか……」
腕輪を装着し、地面に手を置き、魔力を流す。
すると、魔方陣が浮かび上がり、パチパチと火花が散る中、地面の土が蠢いて形を作っていく。作る物はレンガだ。キッチンでは火を使う為、火の周りでは木は使いたくない。
そうして、出来上がったレンガを見て、小首を傾げる。
「んー……。何か、ほんの少しだけど、疲れるな?」
それなりに魔力が持って行かれ、僅かではあるが疲労を感じた。やはり、不自然な事象を起こした結果なのかもしれない。樹木の家を作った時もそれなりに魔力を使ったが、疲労は感じなかった。恐らく、植物達が積極的に手を貸してくれたため、疲労を感じなかったのだろう。ようは、適正の問題だ。
「俺は植物との相性が良くて、錬金の才能は凡人なんだろうな。あー、これは、今日中には無理そうだな……」
ぼやきながらレンガを作り続け、気付けば日が暮れようとしていた。
「腹減った……」
肩を落としてそう呟くと、背後の樹木の家がザワリと揺れた気がした。
甘い香りがふと鼻先をくすぐり、なんとなしに振り返れば、そこには林檎があった。
「……は?」
思わず目を丸くし、辺りを見回せば、そこには大きな変化を遂げた木の家があった。
「え……。なにこれ……」
樹木の家は、多種多様な花々が咲き乱れ、多くの果実が実っていた。
林檎、オレンジ、ブルーベリー、ラズベリー、無花果、柘榴、葡萄などが、季節を無視してたわわに実っている。あまりにも様変わりした自宅に、オベロンは呆然とした。
そして、まるで差し出されるかのように目の前にある林檎に視線を戻し、それに手を触れれば、それは抵抗なく、ポトリと手の中に落ちてきた。それは、まるで植物が、召し上がれ、とでも言ってるかのようだった。
「あ、もしかして、俺が腹減った、って言ったからか?」
オベロンの言葉に、家を形作る木々が、ザワリ、と葉を揺らす。
「そっか。ありがとうな。有り難くいただくよ」
嬉しそうに笑顔を浮かべるオベロンに、樹木の家はまるで喜ぶかのように花びらの雨を降らせた。
オベロンが森の王でもあるからか、何やら森から歓迎を受けているような気がするのだが、気のせいだろうか?
「ん……? おお……」
気の所為じゃ無かった。
ふわりと微かな花の香りがしたと思ったら、辺りの木々や草が一斉につぼみを付け、花を咲かせたのだ。
「ありがとう。けど、無理しないようにな? さっき成長したばかりなんだから」
さわりと草木が揺れ、返された返事に満足したオベロンは一つ頷き、手ごろな木を探して森の中を歩く。
そして見つけたのが、ひしめき合う若木である。
そこには若木が密集して生えており、このままだと共倒れか、一番生命力が強い木が残るだろう有様だった。
「ん~、これは、ある意味好都か?」
そう呟くと、オベロンは『緑の王笏』に力を籠め、大地を突いた。
すると、途端に密集する若木が揺れ、それぞれが絡み合いながら成長し始める。
その成長の仕方は、とてもおかしなものだった。木々が、まるで家の様な形を作りながら成長していくのだ。そして、それは若木だけでなく周囲の木々も巻き込んで、さらに大きな巨樹へと成長していく。そして、成長し終わる頃には、立派な樹木の家が出来ていた。
オベロンはわくわくしながら幾重にも弦が垂れただけの、ドアの無い玄関から家に入り、部屋を見渡した。内部は広々として、奥に階段が見える事からどうやら二階があるあらしい。床もちゃんと平衡で、木の板の様につるりとした光沢をもっていた。流石に生木の家なので火を使う様なキッチンは無いが、それは後で外に作れば良いのである。
二階に上がれば、そこは寝室のつもりなのか、人一人が寝れるくらいの、寝台らしきスペースがあった。窓にはやはり戸や窓ガラスなど無く、こちらも弦が垂れているだけである。いつか、ドアと窓ガラスを設置したい。
二階を見て満足したオベロンは一階に降り、再び外に出る。家の裏手に回り、王笏でトンと地面を突けば、生えていた植物達がザワザワと、と音を立てて場を譲り、樹木の家の周りは広範囲で只の原っぱになった。そして、もう一度王笏で地面を突けば、丁度十畳くらいの範囲のむき出しの地面がが現れた。
「ありがとう。さて、キッチンを作る訳だが……」
場を譲ってくれた植物に礼を言い、オベロンは再びアイテムボックスの中身を確かめる。
「お、あった」
取り出したのは、『見習い錬金術師の腕輪』である。これは、ゲームの中で『妖精王オベロン』がプレイヤーに初期イベントで渡す腕輪である。
この腕輪は、職業が錬金術師でなくても、ある一定の簡単な錬金術であれば使うことが出来るようになる特殊な腕輪なのだ。
「さて、これを使うことが出来るか……」
腕輪を装着し、地面に手を置き、魔力を流す。
すると、魔方陣が浮かび上がり、パチパチと火花が散る中、地面の土が蠢いて形を作っていく。作る物はレンガだ。キッチンでは火を使う為、火の周りでは木は使いたくない。
そうして、出来上がったレンガを見て、小首を傾げる。
「んー……。何か、ほんの少しだけど、疲れるな?」
それなりに魔力が持って行かれ、僅かではあるが疲労を感じた。やはり、不自然な事象を起こした結果なのかもしれない。樹木の家を作った時もそれなりに魔力を使ったが、疲労は感じなかった。恐らく、植物達が積極的に手を貸してくれたため、疲労を感じなかったのだろう。ようは、適正の問題だ。
「俺は植物との相性が良くて、錬金の才能は凡人なんだろうな。あー、これは、今日中には無理そうだな……」
ぼやきながらレンガを作り続け、気付けば日が暮れようとしていた。
「腹減った……」
肩を落としてそう呟くと、背後の樹木の家がザワリと揺れた気がした。
甘い香りがふと鼻先をくすぐり、なんとなしに振り返れば、そこには林檎があった。
「……は?」
思わず目を丸くし、辺りを見回せば、そこには大きな変化を遂げた木の家があった。
「え……。なにこれ……」
樹木の家は、多種多様な花々が咲き乱れ、多くの果実が実っていた。
林檎、オレンジ、ブルーベリー、ラズベリー、無花果、柘榴、葡萄などが、季節を無視してたわわに実っている。あまりにも様変わりした自宅に、オベロンは呆然とした。
そして、まるで差し出されるかのように目の前にある林檎に視線を戻し、それに手を触れれば、それは抵抗なく、ポトリと手の中に落ちてきた。それは、まるで植物が、召し上がれ、とでも言ってるかのようだった。
「あ、もしかして、俺が腹減った、って言ったからか?」
オベロンの言葉に、家を形作る木々が、ザワリ、と葉を揺らす。
「そっか。ありがとうな。有り難くいただくよ」
嬉しそうに笑顔を浮かべるオベロンに、樹木の家はまるで喜ぶかのように花びらの雨を降らせた。
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